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しばらくして洗い終えた彼女が湯船に入ってくる音がする。
僕は丁度いいタイミングだと思い、出ようとするが、肩を掴まれる
「…出ようと思ったんだけど?」
「あんたのことだから自分は我慢して、私に譲ろうとしてるんでしょ?」
「…………ソンナコトナイヨ」
「いいからもう少しゆっくりしていきなさい」
「…はい」
彼女もまた頑固なので、こうと決めたら折れることはない。僕がおとなしく言うことを聞くしかないのだ。
立ち上がった僕は、再度湯船に浸かりなおすと、僕の背中に彼女が寄りかかってくる。
「…どうしたの?」
「これで目隠しはずせるでしょ」
僕はなるほどと思いつつ、タオルをはずす。
「ただしてこっちに振り向いたら…………………殺すわよ」
振り向いたら人生最後の日になりそうだな…と僕はそう思いながらもこの状況をどこか懐かしく感じる。だからといって、それでお互いの緊張が解けるわけでもなく、時間だけが流れる。そしてお互いにその空気に耐え切れず、同時に喋りだす。
「お先にどうぞ」
「…先にそっちからでいいわよ」
ここで不毛な争いをしても仕方がないので、僕から話すことにする。
「えーっと…昔もよく一緒にお風呂入ってたよねーって…」
「…バッカみたい、子供のころの話でしょ」
呆れられてしまった。
「ほ、ほら、家が近所で親同士の仲もよかったから、よく一緒に遊んでたじゃない」
「そうね、帰りはいつも泥だらけになって…」
「で、親に怒られて、2人で入ってたよね」
「そうだね…」
再びの沈黙、調子に乗って昔の話をしたのが良くなかったかな?
「あのさ…」
「うん?」
「………こっちに来てからもう一週間以上になるよね」
「うーんと…そうだね」
「本当に帰れるのかなって…」
「それは…」
「帰れる」そう答えたかったけど…、気休めにしかならない言葉。僕は…。
「…けどね。最近は戻れなくてもいいかなーって思えるようになったの」
「…なんで?」
「それはね、シエラさんに、サラちゃん、それにルインさんとカインさん、ほかにもたくさんの人とこっちの世界で出会えた」
「…そうだね」
皆と出会ったこの一週間、良くも悪くも忙しかったと言える。
「だからこっちの世界を離れるのももったいないなーって」
「…そう思えるのは、君が成長した証拠だと思うよ」
「ありがと。でもなんか馬鹿にされてる気がするんですけど?」
彼女の表情は見えないけど、ムッとした口調になったのはなんとなくわかる。
「馬鹿にしてないよ。成長したんだなって思っただけだよ」
「それ!なんか自分は先に成長してますーって感じがする!」
「…そ、ソンナコトナイヨ」
「…良い度胸してるじゃない」
彼女は突然、僕の脇をくすぐってくる。
「ちょ、やめ…!」
僕の制止の声も聞かず、一心不乱にくすぐってくる。
当然ながら、僕も嫌なのと、彼女の胸が背中に当たるので、暴れて離れようとするが、彼女の猛攻を防げるわけがなく、
僕がひとしきり笑い、謝ったところで、ようやく彼女はやめてくれる。
「これに懲りたら、二度と子ども扱いしないでよね」
「はい…」
僕が悪いのか謎だけど、了承しておかないと後が怖い。
そんなことよりも、思った以上に長風呂になってしまった。そろそろ上がろう。
「先に出るね」
「えぇ、わかったわ」
僕は湯船からでて、腰に巻いていたタオルを外し、タオルから水を絞り出しながら、出口に向かう。
しかし、僕が出口の扉を開ける前に、ひとりでに開いてしまう。
「あら…ご主人様。もうお出になられるのですか?」
「ろ…ろろろ、ローザさん!?ななな、なんで!?し、しかも、そそその格好!?」
「なんでと申されましても…ご主人様が遅いので心配で…。それにお風呂場では正装だと思いますが…?」
「わ、分かる!分かるけども!せめて隠してくれぇ!」
もう…なんていうか、丸出しだ。何もかもが。
そして僕には刺激が強すぎる映像だったらしく、意識が途切れてしまった。
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