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僕はもらった饅頭の1つをローザさんに渡し、もう1つに齧り付く。

僕の元居た世界にあった肉まんにに近いそれは、とてつもなく旨い。

この一言に尽きる。肉や野菜等、使われている素材の全てが元居た世界には存在しない物ばかりを使用している為か、元の世界で味わえないような味に仕上がっている。

そんなことを考えながら食べ終わる、ふとローザさんを見ると饅頭に一切手をつけていない。


「食べないの?」


「いえ…その…」


「…食べながら歩くのは行儀が悪い?」


「いえ、郷に入っては郷に従えといいます。この場では歩きながら食べるのは問題ないと思います…」


「ならどうしたの?」


「その…こういうのは初めてなもので…」


照れながらそう答える。

妙なところで箱入りっぽい彼女。そこが可愛く見えるのは気のせいじゃないはず。


「な、なにか?」


「いえ、なにも」


「しかし、このままというのもあれですね」


ローザさんは饅頭に齧り付く。

するとおもったより美味しかったのか綻んだ顔で「おいしい…」とつぶやいた。


「口に合ったようでよかった」


彼女は笑顔で頷いてくれる。そんな彼女に僕も思わず僕も笑顔になる。

そんな幸せも束の間、ローザさんを見て、余所見をしていた僕は人にぶつかってしまう。そして衝撃で相手の持っている飲み物が吹っ飛んで、僕にかかってしまう。


「冷たっ…」


「ご主人様!?」


すぐさまローザさんが僕を拭いてくれる。

僕はされるがままの状態でかかった液体の匂いを嗅ぐ。

この匂いは…


「うおぉぉぉぉい!俺様のグランドプラバゾートがぁぁぁぁ!」


おいおい、昼間からプラバ酒かよ。

(プラバ酒とはこの世界では有名な種類のお酒)


「おい、てめぇ!兄貴にぶつかっただけでなく、酒を落とさせるとはいい度胸してるじゃなねぇか!」


「なっ!貴方達…!」


僕はローザさんを制止する。


「そんなつもりはなかったんだ。申し訳ない」


そう言いながら僕は頭を下げる。


「ご主人様…」


「けっ、そんなやすっちい謝罪で許すと思ってんのかよ!」


どうやらこんな謝罪では許されないらしい。


「そうだな…、どうしても許してほしいというのであれば、その女をこっちに寄越せ」


2人組は下卑た声で笑う。


「悪いけど、それはできない」


「あぁん!てめぇ逆らうのか!?」


「逆らうさ。この人は僕の大切な人だ。はいそうですかと渡すことなんて出来ない」


「てめぇ!」


「それに僕も悪かったけど、君たちはもっと悪いことをしているじゃないか」


「なんだとぉ!」


「この通りでは、昼間の飲酒は禁止されているはずだが?」


「そ、それは!」


「いや、ちがうか。どうやってその酒を手に入れたんだって聞いた方が正しいね」


「うっ…」


「そ、そいつらは無理やりに酒を持っていったんだ!」


遠くのほうから誰かが教えてくれる。


「なるほどね、やっぱり盗んでたのか」


「だったら何だってんだよ!」


「窃盗は重い罪だ、牢獄行きは免れないぞ」


「そんなのここから逃げれば問題ねぇだろうが!」


そう言うと彼らは僕に殴りかかってくる。おそらくは僕を倒して強行突破して逃げるつもりだろう。手段としては間違ってない。しかしその考えは甘い。

拳は僕に当たる寸前で止まる。


「なっ…」


「すまない。言うのが遅れたけど、僕に手を出さないで、すぐに逃げた方がよかったよ。僕のメイドは、僕に手を出そうとする奴には容赦しないんだ」


「ひっ…」


ローザさんの殺気に気圧されて逃げ出そうとするが時すでに遅し、本気になったローザさんから逃げ切れるわけもなく、二人とも簀巻きにされる。


「いかがいたしますか、ご主人様」


「ほっといていいよ。そのうち見回りの兵隊が来て連行するはずだから」


「承知いたしました」


僕はそんなことよりもこのべたつく体を何とかしたい思いでいっぱいだった。

そんなわけでローザさんとのデート(?)は途中で切り上げて、城に戻った。

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