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警告をされた日から一週間後、何も起きない。それどころか。
「暇だ…」
ステラ達を雇ってから、帰る方法も特にすることも無く、一週間が過ぎてしまう。
王として僕がやることはしょせん書類整理と判子を押す作業。
しかしあの鳥め、よくないことが起こるって言ったのに何も起きないじゃないか。
まぁ何も起きないことは良いことだけどさ。
扉がノックされる、誰だろうか。
「失礼いたします、ご主人様」
ローザさんだった。あ、ローザさんはステラのお母さんです。
「どうしたの」
「あら、起きてらしたのですね。折角起こしに参りましたのに…」
「…ローザさんに起こされたくないから起きてるんだよ。それに仕事もあるし」
あれからローザさんは、僕のメイドとして働いている。
しかしからかうのは止めてほしい。意外と意地悪な人だったようだ。
「お母さん!今日こそは私が起こすんだからね!」
そう言いながらステラが入ってくる。
「もう起きてるよ…」
「だそうよ?」
「そんなー…」
ステラは残念そうに肩を下げる。やはり親子か。
それを見かねた僕はため息をはきながら。
「ステラ、お茶を入れてくれないか?」
「は、はい!お待ち下さい、ご主人様!」
そう言うとステラは急いで出ていく。
「ねぇ」
「何でしょうか、ご主人様」
「僕のことそう呼べって言ったっけ?」
「いいえ」
「だよね…」
「ご不満ですか?」
「うーん…不満はないけど、なんか慣れなくて」
「慣れて頂かなくては、ご主人様は私達の飼主様なのですから…」
「飼主って…別にそんなつもりじゃ…むぐ」
言い切る前に口を指で塞がれる。
「ご主人様は飼主様ですよ…。行き場のない私達を拾ってくださいました。
ですからご主人様さえお望みであれば私たちは…」
そう言いながらローザは僕の太ももの内側を撫でまわす。
「ローザさん!?」
「何でも致しますわ…」
これ以上は諸々の事情的な意味でいけない!そう思った瞬間、ローザさんは止めて、すぐに元の体勢に戻る。それとほぼ同時くらいにステラが戻ってきた。
「た、ただいま戻りました、ご主人様」
「お、おかえり。さ、早速だけど淹れてもらおうかな」
「お任せ下さい!」
不意に舌打ちが聞こえた気がするけど、気にしないでおこう。
あ、シエラに頼んでおいたことはもう終わったかな。
(シエラ、今大丈夫?)
(何でしょうか、マスター)
(この前頼んでたことはもう終わった?)
(はい、その件はもう終わっております)
(じゃあ、もう隣町は…)
(はい、現在は観光町として人気が出ております)
(そっか、良かったよ)
(以上でしょうか?)
(そうだね、聞きたかったのはそのことだけだね)
(そう…ですか…)
なんだ、なんかやけに残念そうに聞こえるな。
(なんかあったのか?)
(何でもありません)
その一言を境にいくら呼びかけても反応がない。まぁ良いか。
僕はステラに淹れてもらったお茶を飲みながら、二人と談笑をする。
しかし平和な時を乱すものは何時だって急にあらわれる。
二人と談笑をしている最中、扉が勢いよく開かれる。
「王様、緊急事態です!」
「なんだ、何が起きた?」
「それが…ギルドの連中が王を出せと!出さなければ人質の命はないとまで!」
「分かった、出よう」
「しかし、どんな罠があるか分からぬのです!」
「罠があろうと出るしかないでしょう。それじゃ二人とも行ってくる」
「はい、お気をつけ下さい」
僕は椅子から立ち、門に向かう。
「お母さん…」
「大丈夫よ、お母さんもちょっと行ってくるわね」
ローザも何処かへ行ってしまう。
「大丈夫かな…」
門に辿り着くまでの間にシエラに呼びかける。
(シエラ、緊急事態だ)
(はい、こちらにも聞こえていましたので準備は行っております)
(流石だ、時間は稼ぐけど期待はしないでほしい)
(分かりました。くれぐれも無茶はしないでください)
(分かってる)
門の前に到着する。僕は閉じている衛兵に開けるように言う。
門が開く、外には何十かの人が集まっている。
「お待たせしてしまったようで申し訳ない。ところで交渉を持ちかけてきたのはどなたかな?」
「俺だ」
一際大きな男性が前に出てくる。
「どうも、僕が王です」
「…バラッツォだ」
お互いに自己紹介を終えると、なにか言ってくると思っていた僕は身構える。しかし一向に話す気配がない。そこに小柄な男性がバラッツォさんに近づいて耳打ちする。
「わかった…。お前は王に…相応しくない。今すぐ……俺と交代しろ」
「…」
僕は小柄な男性を見る。すると苦笑いをして、バラッツォさんにメモを渡すとそそくさと下がる。
「お前のせいで…困る人…沢山いる。お前が…お、王に…なってから?困る人減らない。ぜ…んぶ?…お前のせいだ」
「うーん…」
僕はどうしたものか…、むしろこっちが困らされているわけだが…。…とりあえず質問攻めしよう。
「具体的には誰が困っているのかな?」
「いろんな人…?」
「それは分かった。じゃあ誰がどう困ってるか言えるかい?」
「……………………この前、商人おばあさんが品物が売れなくて困ってた」
「ほほー、他には?」
「…もう知らない」
ネタ切れ早いな…。再びそそくさと近寄ってくるが、今度は逃がさない。
僕は小柄な男性を持ち上げる。
「て、てめぇ!離せ、ミンチにすんぞ!」
「やかましい、バラッツォさんを利用しているやつがなにを言うか」
「知るか!利用できるもんは利用する。それがギルド『ハゲタカ』の流儀なんだよ!」
「利用しきれてないけどな」
「そ、それはこれから!」
「その人を…離せ…」
「待って、この人とお話しがしたいんだ。すぐ逃げちゃうからこうしてないとね」
「………分かった」
「ありがとう」
「てめぇ、バラッツォ!助けやがれ!」
「その人…悪い人じゃない…。それに話がしたいだけと言った」
「くそが!離しやがれ!」
「ダメだ。というかお前、人のこと悪い人扱いしやがったのか」
「はっ!なにが悪い!実際にお前は悪いやつさ。隣町を崩壊させた張本人様よぉ!」
その一言で場が静まり返る。
しかしその静寂は僕が笑い始めたことで崩壊する。
「何がおかしい!」
「おかしいに決まってる、今の隣町の現状を知らないんだな」
「知っている!人っこ一人いない、寂れた町になっているだろうよ!」
「…逆だよ。今は観光地として賑わってる。花と緑の美しい町として」
「な、う、嘘だ!」
「嘘じゃないさ、信じられないなら行ってくればいい。それでも文句があれば、また城に来ればいい」
僕は小柄な男性を離す。
「…ち、覚えてろよ!野郎ども撤収だ。それからバラッツォ、てめぇはクビだ」
「わかった…」
それだけ言うとバラッツォを残して、ギルドの人間は去っていく。
まったく、困ったもんだ。まぁ原因が僕だから文句は言えないけどさ。
「さて、バラッツォさんはこれからどうするの?」
「また…新しい仕事を探す…。妹のためにも…」
「そっか。…いいところ知ってるけど、ついてくる?」
「…いい…ところ?」
僕はバラッツォさんを連れて、騎士団に向かう。
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