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「報告は以上となります」
「ありがとう、もう下がって大丈夫だよ」
「はっ!」
カインは部屋から出ていく。ようやくひと段落ついた、流石に疲れた。
「もう寝たいな…昨日寝れてないし…」
そう考えていると扉がノックされる。
「開いてるから入っていいよ」
扉を開いて入ってきたのは、ステラだった。お盆を持っており、上には茶器が乗せられている。
「どうしたの?もう休んでいると思ったのに」
「えっと…今日はお世話になりっぱなしだったので、そのお礼をと思いまして…」
「なるほど。でも気にしなくていいって言ったのに」
「いえ、これは私の我儘ですので…」
そう言いながら彼女は手際よくお茶の準備をする。その途中経過で香ってくる匂いは、とてもいい匂いだ。
「慣れてるね、なにかやってた?」
「えぇと…趣味なんです。お茶が好きで毎日入れているうちに…」
「手際が良くなっていったのか」
ステラは頷く。
「その…家族にはよく淹れているのですが…それ以外の人は…」
「…僕が初めて?」
ステラは再び頷く。
「お恥ずかしながら…」
「…僕でよかったの?」
「貴方だから良いと思ったのです。命を救っていただいた御方だからこそ…」
ステラはそれだけ言うと照れたのかお茶を入れることに集中し始める。
そこで黙られると僕も恥ずかしくなるんですが…。
しばらくして出来たお茶を僕に渡してくれる。見た目は紅茶に近い。
しかし香りはなにかしらのハーブみたいな感じで、ハーブティーってやつかな。
ステラがこちらをじっと見てるし、取りあえず飲んでみるか。
ティーカップを持って一口啜る。口に含んだ瞬間、全身に爽やかな香りが広がる。味も苦味などはなく、丁度いい甘みを感じる。
「これ美味しいよ。こんなの飲んだことない」
「よかった、お口に合ったみたいで」
僕はお茶を飲み切る。ステラは空になった器におかわりを注いでくれる。
「ありがとう。でもこのお茶不思議な味だね。香りはなんかのハーブみたいなのに」
「ハーブ…?」
…ハーブってこっちの世界じゃ伝わらないのか。
「香草とか薬草って言えばいい?」
「あ、はい。そうですね。特別な葉を使っています。今回入れたのは疲れている人のためのお茶です」
「疲れている人のためのお茶?」
「はい。クチツオと呼ばれる木の葉を使用しているのですが、こちらの葉はお茶にして飲むと疲れていない人は無味無臭なんですが、疲れている人には疲れている分だけ甘みと爽やかな香りを感じるそうなんです」
「へー」
思わず感心してしまう。
彼女が博識なこともそうだが、僕が疲れていることも気付いているとは。
全く…どっかの誰かさん達とは大違いだ。
「どうしました?」
「いや、少し考え事を…ね」
「そうでしたか、あ、それとこちらを」
「これは…焼き菓子?」
「はい、先ほど厨房に立ち寄ったときに、サラちゃんがこれを貴方にって渡されましたので」
「そうなんだ。ありがとう、届けてくれて」
「いえ、ついででしたから」
僕は元の世界でも見たことがない、不思議な形をした焼き菓子を一口食べる。
外はサクサクだが中はしっとりしていて、いい具合の焼き加減だったのが分かる。やっぱりあの子は腕前は天才だなどと考えていた僕は、そこでようやくステラが立ちっぱなしなことに気が付く。
僕は近くにあった椅子を移動させてステラに座るようにジェスチャーをする。
「いえ、私は…」
「僕だけじゃ食べきれないからさ。一緒に食べてよ」
「じゃぁお言葉に甘えて…」
ステラは椅子に座る。
「そう言えばさ、なんでステラはこっちに来ようと思ったの?」
「おばあちゃんに会いに来たからですけど…」
「そうだけどさ、あそこを通るのは勇気がいるじゃない?」
「そうですね。でも私が通ろうと思った時は普通だったんですよ。でも途中で…」
「獣に襲われたと」
頷くステラの肩は震えている、よほど怖かったのであろう。
僕はそっとステラの頭を撫でる。
「今回は助かったけど、次はないかもしれない。…だからもう無茶はしちゃいけないよ」
「…はい」
泣きそうなステラをそっと抱き寄せる。ステラも僕をぎゅっと抱きしめて泣き始める。
「気が済むまで泣いていいよ」
わんわんと泣いているステラを見ていると置いてきてしまった妹が気になる。
あいつも泣き虫だったからな…。今頃は泣いているのだろうか。
傍に僕が居なくて泣きやめているだろうか。早く帰ってやらないと。
しばらく泣いた後、落ち着いたステラは泣き止む。
「すみません…」
「気にしないでいいよ。あんな体験した後は誰だって怖くて泣いちゃうさ」
「でも…」
ステラが喋る前に扉が開く。
「なんか泣き声聞こえたけど、だいじょ…うぶ?」
泣き声を聞きつけた幼馴染が入った瞬間に固まる。
理由は簡単だ。僕とステラは今抱き合っている。これが何を意味するのか。
そう…僕の死だ。
「あ、こ、これは…そう!無理やりじゃないんだ!」
「そう、合意の上で…ねぇ?」
まずい、本気で殺される!
「ちちち、違うんです!そうじゃなくて!」
「いいのよ。悪いのはどうせこいつなんだから。あんたはいっぺん死んだ方がいいみたいね?」
「話を聞け!これはさっきまで今日の事を思い出して泣いていただけなんだ!」
先ほどまでどす黒いオーラに包まれていた幼馴染が元に戻る。
「その話は本当?」
ステラは力強くうなずく。ありがとう、これで僕の命は保たれたよ。
「なんだ、それならそうと言いなさいよ」
事態を理解した幼馴染はソファーに座る。
「話す前に君が勘違いしたんだろう」
「あーあー、聞こえないー」
全くこいつは…。何とか生き長らえた僕はお茶を飲む。
「なに飲んでるの?」
「あぁ、さっきステラさんに入れてもらったんだ」
「えー、ずるーい!私にも淹れてー!」
「そうしたいのはやまやまなんですが…」
ステラが用意した茶葉で幼馴染が満足できるかどうか分からないのだろう。
どうしようか考えていると、扉が開く。
「今いいか?」
サラが部屋に入ってくる。
「あれ、急にどうしたの?」
「いや、さっき差し入れ渡したけど…私も参加しようかと思って…。邪魔だったか?」
「いや、そんなことないよ」
「あ、茶葉とお湯なら持って来たよ。まさか先客がもう一人居たのは予想外だったけど」
サラはちらっと幼馴染をみる。
「なにか?」
「いや、別に…」
なにか険悪な雰囲気だな…。2人は気が合わないのかな?
「と、とりあえずありがとうございます。今入れますね」
ステラはお茶の準備をし始める。僕達が準備が終わるのを待っていると、扉がノックされる。
「マスター、ご相談したいことが…」
シエラが入ってきて、幼馴染が入ってきたときと同様に固まってしまう。
「お邪魔でしたか…、また明日お伺いいたします」
「待った待った!気を利かせて戻ろうとしなくていいから!」
シエラは渋々といった様子で入ってくる。
「それにしても皆さんお揃いでお茶会ですか」
少し嫌味ったらしく言う。
「いつの間にかね。別にお茶会をするつもりはなかったんだけどさ」
「そうですか」
部屋に入ってきたシエラがソファーに腰掛けたタイミングで、お茶の用意が出来たステラは皆にお茶を配られる。僕は配られたお茶を飲む。
こ、これは…!
「お、美味しい…」
「なんだこれ、こんな美味しいお茶があるなんて…」
シエラは驚きすぎて声も出ないようだ。
「さっきのもよかったけど、これも美味しいよ」
「あ、ありがとうございます」
そしてお茶とお菓子があるため、小さなお茶会が始まる。
もう寝るつもりだったのに騒がしくなってしまった。まったく困ったものだ。
どうしようか考えているとステラがこちらにこっそりと寄ってくる。
「すみません、騒がしくなってしまったようで…」
「ステラは悪くないよ。むしろ遠慮しないで入ってきたのは彼女達だから」
「でもお疲れでしたよね…?もうお休みになられたほうが…」
「んー、大丈夫だよ」
「それなら良いのですけど…」
そこで会話が途切れる。僕もステラも楽しそうにしている彼女達を眺める。
先ほどまで険悪だったサラと幼馴染もいつの間にか仲良くなっている。
これもステラの入れてくれたお茶の効果だろうか…。
目の前が霞み始める。あ、ダメだこれは…。もう…意識が…。ねむ…
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