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自分の部屋に戻り、椅子に座る。
「あれ、王様ってこんな暇で良いのかな」
疑問に思ったことを口に出す。まぁ確かに王が忙しい国はそれはそれで危ないとは思うけど。
「しかしやることがないと暇でしょうがない…」
しかしここに居てもやることなんてあるわけがない。
「そうだ、外に行こう」
城下に出れば何かしらやることもできるだろう。そうと決まれば早速行こう。僕は城下町に向かうことにした。
……………
すんなりと城下町に着いた僕はこの後どうするのか、全く考えていなかった。取りあえず困ってる人を片っ端から助けていこうか。迷惑にならない範囲で。
「うーん…」
周囲を見渡すと早速困っている人を発見する。おばあちゃんが重たい荷物を持って辛そうに歩いている。
「おばあちゃん、大丈夫?」
僕はそう言って近づく。
「あら、心配してくれるのねぇ…。でも大丈夫よ」
「でも辛そうだったから、手伝うよ」
「ありがとうね、じゃぁお願いね」
僕は荷物を持ってあげる。おばあちゃんと共に歩く。
「偉い子だね、お名前は?」
…王だといったら驚いてしまうだろう。
「えーっと…ユウです」
「そう、いい名前ね。私の孫もあなたと同じ位の年頃なのよ。でも最近はあまり会いに来れなくてねぇ」
「なんで?」
「孫はね、隣町に住んで居るのだけれど。最近、街道沿いの森から獣が現れるようになってね。それで危ないからって」
「なるほど…」
街道沿いの森か…後で様子見してこよう。
「誰か何とかしてくれないかねぇ…。あぁ、もう目的地だねぇ」
目的地までたどり着くと、おばあちゃんは後は大丈夫だと言って、お礼に食べ物をくれた。おばあちゃんとはそこで別れた。
「これ美味しいな…」
もらった肉を乾燥させたような食べ物を食べながら歩き回っていると、小さな女の子が泣いている。
「どうしたの?」
聞いてみると女の子は泣きじゃくりながら木を指さす。そこには一匹の猫が怖くて木から降りられないようだ。
「なるほど、任せて」
女の子は頷く。僕は木に登り、猫に近づく。猫は警戒しているのか僕に威嚇する。僕は手に持っている先ほどの食べ物を猫に近づける。気になった猫はそれを咥えて、食べ始める。僕は猫が食べ物に夢中になっている隙に猫を抱きかかえて、木から飛び降りる。
「ミーア!」
女の子とその母親らしき人が近づいてくる。僕は猫を降ろす。女の子は降ろした猫に夢中なようだ。
「すみません、娘とミーアがお世話になったみたいで…」
「気にしないでください、勝手にやったことですので」
「でも…、そうだ。お礼にこちらをどうぞ」
飴玉を袋で渡される。
「私のおすすめのお店で買った美味しい飴です。ぜひお召し上がりください」
「あ、ありがとうございます」
すると視線を感じる。視線の方を見ると女の子が見てる。ふむ、なるほど。
「はい、一個上げるね」
「え、いいの!?」
「うん、いいよ」
「わーい、ありがとー!」
女の子は嬉しそうに受け取るとすぐに食べる。そしてすごく幸せそうな顔をする。そんなに美味しいのか、これ。
「度々申し訳ありません…」
「いえ、気になさらないでください。では僕はこれで」
「はい、またどこかで」
「ばいばーい、おにいちゃーん!」
僕は親子に手を振って別れる。うーん、それにしてもお礼にこんなに渡されてもなぁ…。しかし受け取らないとそれはそれで失礼だろうし。僕はそう考えながらもらった飴玉を食べる。うまい、なんだか不思議な味だ。甘いんだけど、しつこくないと言うか…。
「なんだとぉ!もっぺん言ってみやがれ!」
「あぁ、何度だって言ってやる。あんたが作る飯は最悪だ。こんなまずいもん作れるなんてな」
「て、てめぇ!」
おいおい、喧嘩か?取りあえず見に行くか。
「文句あんのかよ、おっさん」
「てめぇ!ミンチにしてやる!」
店主さんは頭に血が上りきって顔が真っ赤だ。対する相手はフードを被って体を覆い尽くすマントをしているため、性別が判断できない。まぁ分析してる暇があるなら、止めろって話ですよね。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」
「何だてめぇ!関係ないやつは引っ込んでろ!」
「まぁまぁ、そう言わずに。貴方もそう言うからには腕に自信あるのかな?」
「ふん、それがどうした」
「なら話は早い。文句があるならお互いに料理でケリをつければいい」
「なるほど、それであいつを叩きのめせばいいのか」
「なんだとぉ!てめぇなんかに負けるわけねぇだろ!その勝負買ってやらぁ!」
「では審判はこいつにやってもらうことにしようか」
僕が指さされる。
「えぇ!?なんで!」
「おう、構わないぜ!そいつはてめぇの仲間ってわけでもねぇしな!」
「よし、じゃあさっそく勝負だ。料理は何でもいいからこいつを満足させた方の勝ちだ。いいな?」
「いいぜ!じゃあ勝負開始だ!」
2人は調理し始める。…僕の意思は一切無視ですか、そうですか。謎の人はフードとマントを取る。正体は…女の子だった。男っぽい口調なのに女の子だったのか。
……………
テーブルの上に並べられる料理。一方は店主さんの、もう一方は女の子が作った料理だ。
「じゃあまずは店主さんのから」
店主さんが作ったのは普通の肉野菜炒め。一口食べる。味が濃いが、悪くはない。むしろ白い飯に丁度合うように味付けがされている。体力仕事の忙しい男のための料理と言ったところか。これはこれで悪くない。
「じゃあ次はえーっと…さすらいの人のを」
…彼女が作ったのは、パエリアっぽい何か。僕の世界でもこんなもの見たことがない。一口食べる。食べた瞬間、口に広がる不思議な香り。おかしい先ほどまでこんな香りは…。その香りは一噛みする度に広がってくる。
「ふっふっふ、面白いだろう?噛むたびに刺激的な香りがする。その香りは人の食欲を刺激する。噛むたびに次の一口を食べたくなる料理…ってな」
確かに手が止まらない。こいつはとんでもない料理だ。僕は一皿を食べきる。
「ふぅ…。しかしどうしてこんな香りが?食べる前はしなかったのに」
「それはこれさ」
黒い種みたいなものを見せられる。
「これは?」
「西の国で栽培される花の種だ。こいつは火で炙ると中身が固まっていく性質持っていてな」
彼女が指で種をつぶすと白い球が出てくる。
「この身をすりつぶして料理にかける。するとかけた時点では香らないが、振りかけられたものを噛むたびに香りが出てくるって言う不思議なものなんだ」
なるほど、少々辛みがあったのも香辛料ならではのものだったのか。というか、不思議な香辛料だな…。
「さ、種明かしも終わったし、判定してもらおうか」
「うーん…」
どちらも確かにおいしい。そしてどちらも工夫が施されている。でも…
「引き分けかな」
「はぁ!?」「なんだとぉ!」
「まぁまぁ、僕の意見も聞いてよ。確かにどちらもよかった。けどいろいろ考えてみたんだ。店主さんのは確かにおいしいけど味が濃い。これじゃ小さい子供とか、女性には流行りづらいんじゃないかな」
「ぐっ…、確かに…」
「さすらいの人のは、食べて楽しめる料理だった。けどそれを毎日、毎回食べたいかな?そのうち驚きも薄れちゃうよ」
「…確かに…」
「だからは僕は引き分けにしたんだ。でも決してどちらもまずくはなかった。でも2人とも足りないところがあるんじゃない?」
2人とも納得いかない顔をしている。
「…でも確かに食べないで、判断するのはよくなかったな。すまなかった」
女の子は頭を下げる。
「…俺も悪かったな。ついカーッとなっちまってよ」
頭をポリポリ掻いて、照れくさそうに店主も謝る。ふぅ、一件落着かな。僕はその場を後にする。
………………
例の森に向かって歩いていると先ほどの女の子から声をかけられる。
「待ってくれ!」
「あれ、さっきのさすらいの人」
「あぁ、言ってなかったか。あたしの名前はサラだ」
そう言ってサラは僕の隣を歩く。
「さっきはなんで嘘ついたんだ?」
「…なんのことかな?」
僕はとぼける。
「…あくまでも答えないと」
「なんのことか分からないな~」
「いいだろう、なら私が言ってやる。私の料理を食した後になぜ店主の料理を食べなかった?」
うっ…ばれてる。
「いや、おなかいっぱいだったから…」
「食欲を増進させるって言ったよな?と言うことは店主の料理も美味しかったら食べたくなるはずなんだ」
「ぐぬぬ…」
「だからお前が食わなかったということは…」
僕は彼女の口を指で止める。
「あの時はああした方が良かったんだよ。あれ以上に怒らせたらなにをするか分からない」
「しかし…」
「それに君の料理に文句があったのも確かだよ。あんな手を使わなくても美味しい料理を作ってほしかったなって」
「…それは」
サラは俯いてしまう。そのまましばらく歩いていると、サラは顔を急に上げる。
「決めた。お前が納得する料理を作るまで、お前の専属料理人をする」
「はぁ!?」
「お前の家は?」
「いやいや、なに言ってんの!」
「いいから言え」
言わないと殺すって顔してますね…。僕はため息をついて、城を指さす。
「僕はあそこに住んでる。この国の王様なんだよ」
「…え、嘘だろ?」
「今はお忍びなの、ほら」
僕は王家の紋章を見せる。
「本物だ…」
「それでも専属になるの?」
「…一度決めたことは曲げない」
「分かった」
僕は紙に文字を書き記す。書き終えた紙をサラに渡す。
「なんだ…この文字は?」
「やっぱり文字文化は違うのか。まぁそれを僕の守護騎士に渡してよ」
「うーん…分かった」
サラは紙に書かれた文字を見ながら城に向かっていく。
「さて、今度こそ森に行きますか」
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