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どうやらあっちは一段落ついたようね。
「どうした、また余所見をしているぞ」
「えぇ、だって貴方が弱いから退屈だもの」
「小娘、死んでから謝っても遅いぞ」
ルイン団長は構えを変える。
「あら、本気みたいね。じゃあこちらも本気で行こうかな」
そう言いながら目を手で覆う。
「何をしようとももう遅い!」
ルイン団長が構えた状態で突っ込んでくる。だけど幼馴染みはそれを避けようとしない。このままでは剣が幼馴染に届いてしまう。僕はやられると思った瞬間目を瞑ってしまう。しかし一向に刺される音がしない、気になった僕は目を開けると、幼馴染みがルイン団長の背後に立っていて、先に仕掛けたルイン団長は膝をついている光景が見える。
「き、貴様…いったい何を…」
「別に?貴方が卑怯なことをしたから、私も卑怯なことをしただけよ」
「ぐっ…」
ルイン団長は起き上がろうとするが出来ない。あの一瞬で一体何が起こったのか、目を瞑っていた僕には全くわからない。傍にいるシエラも呆然としている。
「シエラ、一体何があった?」
僕の声に反応して、我に返ったシエラは話し始める。
「そ、それが私にもさっぱりで…。確かに剣が彼女に刺さりそうなところまでは見ていたのですが、次の瞬間には今の状態になっていて、何が起きたのか全く分かりませんでした…」
シエラにも分からないとは、後で本人に話を聞いてみよう。
僕は戦いの終わりを感じたので、二人に近づく、彼女に怪我がないことを確認できるとホッとする。剣を収めた幼馴染がこちらに近づいてくる。至近距離に立って、何を考えたのか、僕の頬を引っ張る。
「いひゃいいひゃい!」
僕は咄嗟に頬から彼女の手を離す。
「何してるんだよ、痛いだろ!」
「いや、その…本物なのかなって、思って…つい…」
「ついって…でも確かに心配かけて僕が悪いね。…ごめん」
謝った途端に幼馴染は泣きはじめる。
「え、ど、どうしたの?」
泣きじゃくる幼馴染、慌てる僕。そこにシエラが来て、幼馴染を抱きしめる。それから少しづつだが平静を取り戻し始めた幼馴染が喋り始める。
「あんたが…いなくなったら…私は…独りぼっちになっちゃうんだよ…?」
…そうだった、あちらの世界から来たのは僕たちだけ。つまり僕が死んだら、彼女一人を残してしまうことになる。
「ごめん…」
「今回は無事だったから許す…でも次はないからね」
その声には微かに怒気を感じる。二度と軽率な行為はしないことを誓おう。
「さてと…」
僕たちは団長の方を見る。団長は適わないことを悟ったのか座り込んで両手を上げる。
「勝負はこちらの勝利だね」
「それで構わない。君たちの聞きたいことにも答えよう」
「ならなぜ王を殺した?」
「そうしろと言われたからだ」
「誰に、まさか王に?」
団長は首を横に振る。
「違う、しかし誰かもわからぬ。何しろ闇夜で姿を見ることが出来なかったからな」
「そうなのか。じゃあ次は王を殺して貴方に何の得があるのか」
「…王を殺せば、私を王にすると言われたからだ」
「それで、王になりたいから殺したと」
団長は頷いた。
「しかし、殺した後に君が現れた。そして…」
「僕を殺せと言われたと」
一瞬驚いた顔をして、団長は頷いた。
「その通りだ。しかしそれも失敗した今、私はもう用済みかもしれんな」
その瞬間、先ほどまで静かだった人々から怒号があがる。殺せ!殺せ!と。僕は本当にこの人を殺していいのだろうか。確かに僕は死にかけたけど…。だからといって殺すのはな。それなら
「よし、決めた!」
王となる青年の声で場が鎮まる。
「貴方を殺さない」
「な!なにを言っている。そんなことをすれば民は…」
「だって貴方みたいな優秀な人を殺すわけには行かないでしょ」
「しかし…」
教会の扉が大きな音をたてて開かれる。
「親父!」
息子らしき人物と嫁さんが現れる。…ルイン団長の息子と嫁かな。そうは見えない容姿だけど…
「カイン…、それにアンナも…。なぜ…」
「親父が俺を急に長期休暇にするなんて、おかしいって思うに決まってるだろ」
「私もそう思いました。怒られてもいいのでカインと共に押し掛けたのです」
「家族思いのいい息子さんと嫁さんですね。あなたはこの人たちのためにも死ぬわけにはいかないんじゃないですか?」
「しかし…私は大罪を犯したのだぞ…」
「それはこれから償えば良いじゃないですか。楽に死ぬよりも辛い中を生きて償ってください。それがあなたの大罪を許してくれるはずです」
「…分かりました。私は誓いましょう。この国のために新たな王と共に尽力を尽くすと」
「はい、力を貸してくださいね」
「はっ!」
これで一つの山は解決できたのだろう。まだ不安もあるが、それはこれから取り除いていけばいい。いまはひと段落…と行く前に。僕は民に向かい話し始める。
「皆さん、改めて僕がこの国の新しい王です。えっと…皆が今のやりとりに不満があるのは分かります。確かに傍に置いていたらまた裏切るんじゃないかと思う方も当然いると思います。ですがここで彼を失うよりも、生きていてくれた方がこの国に貢献できると判断しました」
先ほどまでの民たちの怒りは何処かに行ってしまったのか、王の演説に夢中になっている。
「僕は…僕はこの国を前王が居た頃よりも良くすると、前王と約束しました。それで皆さんにお願いがあります。不満や提案がある方は僕に直接相談してください。相談されたことをすぐに叶えることは難しいかもしれません。ですが皆さんと……いや、この国に住むみんなで相談しあい、考えればよい案が浮かぶはずです!どうか僕に皆さんの力を貸してください!…よろしくお願いします!」
青年が頭を下げる。場が静まり返る。やはりこんな若造の提案に乗ってくれる訳ないか、そう思ったが…。
「良いんじゃねぇの。甘っちょろい考えだが、この国を良くしようって気合は伝わってきたぜ」
そう言いながら一人の男性が拍手をすると、徐々に賛同して拍手をしてくれる人が増えていく。そしてここにいる全ての人が賛同してくれている。
「ありがとう…ございます」
僕はもう一度深く頭を下げた。前王が愛した民、前王を愛した民、僕はこの人たちの為、自分の為にこの国を良くしていこう。そうして僕の就任式は終わりを告げた。団長を唆した謎の人物、民達の不安、課題はたくさんあるけど、少しずつ解決していこうと思う。
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