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前王の式は粛々と行われた。この国では人が死んだら天に昇れるように一人一人が花を添えて、死人の前で祈るらしい。これを式という。それが終わったらそのまま墓に埋めて式は終わる。
式に参列してくれた人はそれはもう様々だった。王の死を悲しむ者、王の死に憤りを感じる者、暴言を吐く者など、様々な思いを感じながら、それでもみんな王の式に参列してくれている。それほど前王は偉大だったのだと思える。国民に愛される王…か…。
「僕もそんな王になれるかな…」
「なれる…じゃなくてなるんでしょ?」
「…そうだね」
最後の人が祈りをささげ終わると、鐘がなる。鐘を鳴らす予定はなかったはずだが?そう思った瞬間、強い風が会場に流れたので、思わず腕で目を隠す。
『頼んだぞ…若き王よ…』
「今の…!」
前王の声が聞こえなくなると風がやむ。
「…最後のエールか」
会場を見渡すといきなり起きた強風に人々はざわついているが、何事もなかったかのように騎士たちが王の棺を運び出すと静まり返る。僕は王の棺が運び出されるまで、じっと見つめ続けた。
王の棺が運び出されてから、しばらくしてシエラが近づいてくる。そして小声で時間だと告げられる。僕は椅子を立ち、王の棺が置かれていた壇上に立つ。横には彼女が居る。きっと…大丈夫だろう。
「皆様、今日は王の葬儀にご参加頂き、有り難く思います。きっと王も喜んでいるでしょう」
観衆の目が僕に向けられているのが分かる。とてつもないプレッシャーを感じるが、そんなものに負けられない。
「ご紹介が遅れましたが、私は前王から新たにこの国の王を任された者です」
会場がざわつく。分かってはいたがやはり疑われているな。普通に考えれば僕が王になるなどお門違いであるからな。
「信じることができない方もいると思います。ですがこちらご覧ください」
僕は手の甲を皆に向ける。王家の紋章だ、なぜ王家の紋章を…、あぁ…新たな王よ、など様々な反応が見える。
「王家の紋章は何よりの証拠になると前王に言われました。ご理解いただけましたでしょうか」
会場が静まり返る。なんとかなったと思った矢先に一人の民が文句を言った。
「嘘だ!それは前王から奪ったんだろう!前王を殺して、そして王家の紋章を奪ったんだ!」
再び会場がざわつき始める。誰か知らんが余計なことを…
「それに関してはそこにいるルイン団長と、そちらのフードを被った女性がが僕が王家の紋章を受け取った瞬間を目撃されていますよ」
皆、一様にルイン団長を見る。
「いや、私はその場にいなかったので見ていないな」
僕は思わず、ルイン団長を見る。今なんて言った?まさか…嘘をついたのか?
「私は言ったんその場を離れており、戻ったときには既に王は息を引き取られておられた」
その瞬間、数々に暴言が僕に飛んでくる。王殺し、外道、処刑しろ、そんな内容の言葉を浴びせられる。そしてついには石が飛んでくる。咄嗟のことに僕は反応できなかったので、目を瞑った。しかし石は一向に当たらない。目を開けるとそこには幼馴染が居た。石は彼女によって何処かに弾かれたようだ。
「言ったでしょ、私が守るって」
本当に心強い…、彼女が居て本当によかった。僕は泣きそうな顔を振り払って、彼女と共に戦うと決めた。
「ルイン団長、あなたはそう言いますが、あなたが嘘を付いていない証拠はあるのですか」
「えぇ、彼が通路で私を見たと言っております」
ルイン団長は騎士団員を指さす。
「そうですか、しかし身内の証言など証拠にはなりませんよ。身内はすぐに嘘をつきますからね」
「ぬ…」
「どうですか、こちらもそちらも嘘をついているかどうかが分からないなら、剣で決着をつけるというのは」
「なるほど、よいでしょう」
よし、うまいこと乗ってくれたな。
「では、こちらは騎士団長である私自ら出ましょう。そちらは?」
「こちらは彼女が戦います」
幼馴染は理解してくれたのか、自ら前に出てくれる。
「ほう、王自ら戦うわけでもなく、しかも女に戦わせるとは…、とんだ腑抜け…」
団長が言い切る前に、幼馴染は剣を騎士団長の鼻先に向ける。
「私を甘く見ない方がいいよ。痛い目にあいたくなかったらね」
団長は驚いた顔をするがすぐに真面目な顔に戻る。
「ふむ、それなりには楽しめそうだね」
「ルールはどちらかが倒れるまででいい?」
「結構、さぁ始めましょうか」
言い終わった瞬間に壮絶な打ち合いが始まる。両者の力は同等に見える。この勝負どちらに軍配が上がるか分からない。っとそんなことに見とれている場合ではなかった。僕はシエラに近づく。
「シエラ…」
無言で立ち尽くすシエラ。フードを深くかぶっているため表情を見ることはできない。
「どうして二人とも嘘をついた?責めるつもりはない、ただ正直に答えてほしい」
それでも無言を貫くシエラ。よほど話せないことなのか、でも昨日は毒を盛ってないって言っていたのに何故今になって…。
「質問を変えるね、君が王を殺したの?」
シエラは首を横に振った。
「…じゃあ、君は…」
その瞬間何かが放たれる音が聞こえる。俺はとっさにシエラをかばう。僕は体に何かが刺さる感覚を受けて、脇腹に痛みを感じる。
「ぐっ…ぁっ…」
「王!」
シエラの声に幼馴染も振り向いてしまう。
「余所見をしている場合かね?」
重い一撃をなんとか受けきって、鍔迫り合いに持ち込む。
「くっ、卑怯だぞ!」
「…勝てばいいのだ」
いったん距離を取るが、あいつが気になって戦えない…
「ばか…」
「…!」
これは…あいつの声。
「僕は気にしないで…良いから…勝って」
「でも!」
「いいね…、これは命令だよ…。こっちは気にしないで…集中してくれ…」
「分かったわよ、その代わり…無理しないでよね…」
「うん…」
幼馴染は再び戦いに集中する。
(なんだ…先ほどまでと闘気が…)
「くっ…」
痛みが止まらない…身体から力も抜けていく気がする…
「何故ですか。なぜ私を…」
「…なぜって…何で…だろうね…。なんか…体が勝手に動いてた…」
「私は…私は貴方を裏切ったのに…!」
「そうだね…。でも…裏切ったヒトの方が…心は痛いと…思うんだよね…。僕はね…辛いところなんて…見たくないんだ…。たとえ僕が…犠牲になったとしても…」
「貴方は…」
あぁ、死ぬのか…こんな早くに…これじゃ前王に怒られちゃうよ…。いやそれ以前に彼女に怒られるか…
「……王。私は…私が貴方を死なせはしません!」
シエラは失礼しますと言いながら、彼に口づけをする。ある程度たってから口を離す。
「な…にを…」
「貴方を私のマスターにしました」
そう言いながら僕に刺さった矢を引き抜く。一瞬物凄い痛みを感じ、気絶しそうになるが堪える。しかし直ぐに痛みを感じなくなる。というか気分がいい。
「こ、これは…一体」
「矢を引き抜くと同時に治癒魔法をかけました。治癒魔法は本来はここまでの即効性はありません」
「それならどうやって?」
「私が貴方をマスターとして契約し、貴方に力を分け与える形で普段よりも強い力を行使できるようになっている為、効果が上がっているのです」
「そっか…、そういうことか」
ん?契約?
「今契約っていった?」
「はい、そうお答えしましたが…?」
「…契約ってとても大切なことじゃないの?」
「そうですね。一生の中でとても大切なことですね」
「そんなに!?」
やばい、絶体絶命の状況下だからってそんな大切なことを簡単に…
「マスター…私は簡単には決めていませんよ」
僕の考えていることを察したシエラは、僕の顔を両手で触る。
「私は貴方を裏切った。なのにもかかわらずマスターは私を護って下さいました」
「そ、それは体が勝手に動いただけだし…それに、裏切ったのにも理由があったんでしょ?」
「ふふ…、普通は裏切り者を助けたりはしませんよ。やはりマスターは優しい人ですね。そんなマスターだから私は契約したんですよ」
「う~ん、まぁ納得してくれているならいいけど」
なるべく彼女の期待を裏切らないように頑張ろう。僕はそっと心に誓った。
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