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異世界に来てからの初めての夜、僕はなかなか寝付けないでいた。外は闇に包まれてしまっている、時刻は…わからない、多分19時くらいだと思う。こうしてみると時計って便利だったんだなとしみじみと思う。そんなことを考えていると扉をノックしている音が聞こえる。こんな遅くに誰だろう。


「誰?」


少し間を置いてから


「あたしだけど…」


どうやら幼馴染が来たみたいだ。恐らくは僕と同じ気分なのだろう。こちらから出向く手間が省けた。


「開いてるから入って大丈夫だよ」


扉が開いて入ってきたのは、なんと幼馴染ではなかった!僕の人生はここで終わってしまうのか!






なんてことはなく、普通に入ってきた幼馴染はそそくさと僕のベッドの端に座る。

そのままの状態でしばらくの間、2人して沈黙してしまう。どれくらいの間黙っていたのか分からないが、先に沈黙を破ったのは僕だった。


「一緒に寝る?」


そう言うと彼女は頷いて、布団の中に入ってくる。流石に向かい合うのは恥ずかしいので、僕は反対を向いた。

布団の中に入ってからも彼女は終始無言で、何やら僕の様子を見ているように思える。


「ねぇ」


ようやく語りかけてくれる。


「なに?」


僕は淡々とそう答えた。


「なんで…平気なの…?」


「平気そうに見える?」


「とても…落ち着いているように見える…」


これでも結構精神的にはきてるんだけど…でも彼女に比べたら落ち着いてるんだろう。


「どうして…どうして平常心を保っていられるの?あたしは…こんなにも…」


声がかすれている気がする、泣いているのだろうか。でも当然といえば当然だろう。この世界に知り合いなんていないのだから、心細くもなる。僕だってそうだ。でも…


「僕だって平気じゃないよ」


「ぇ…」


「僕だって不安さ。でも平気でいられる理由がある」


「それは…?」


「君が居るから」


また沈黙が生まれる。僕は沈黙に耐えられず、ふざけてみる。


「少し臭すぎた?」


すると彼女は少しだけ笑いながら


「ばっかじゃないの」


そう言ってくれた。


「でも本当のことだよ。君が居るから、不安でもなんとかなると思ってる。1人だったら今頃は孤独に押しつぶされるんじゃないかな」


「うん…」


少しだけ間が空いて、彼女がし喋り始める。


「あたしさ…もうお父さんにのお母さんにも会えないんだなって…考えちゃって…、それで…」


そこで言葉が途切れるとすすり泣き始める。僕は体勢を変えて、彼女に向かい合う。そしてそっと頭を撫でる。


「確かにしばらくは会えないかもしれない。でも僕は永遠に会えないとは思っていない」


「どうして…そんなの嘘だよ…もう会えるはずないんだから…!」


「向こうからこっちに来れるなら、こっちから向こうに帰る方法もあるはずなんだ」


彼女はハッとする。そう、可能性はある。絶対とは言い切れないが帰る方法はあるはずなんだから。


「でも見つからなかったら…?」


「それでも探すさ。それこそ僕の命が尽き果てるまでね。だからそんな悲しい顔しないで」


「…ばか…」


彼女はうずくまってしまう。これは彼女が考えてる時のしぐさだ。ろくでもないことじゃなければいいんだけど。


「決めた」


「なにを?」


「あたし…ううん、私はあなたを守る盾になる」


「えぇ…」


「なによ、なんか文句あるの?」


「さすがに女の子に守られるのって…」


「それじゃあ、あんたは私に勝てるの?」


「…勝てません」


小さな頃から、僕は彼女に喧嘩で勝ったことがない。身長は勝ったけど…


「なんか失礼なこと考えてるでしょ?」


「いや、別に…」


「とにかく、私はあなたを守るから、そう騎士のようにね」


「僕直属の騎士ってことね…わかった。どうせ止めても聞かないだろうし」


「もちろん!」


そう言いながら彼女は僕の腕に引っ付いてくる。


「ちょ、ちょっと!」


彼女の柔肌と、その…胸が腕に押し付けられる。


「今日位は良いでしょ」


なんと我がままな守護騎士なのか。それでも僕と共に進むことを決意してくれたんだ。彼女の言う通り、今日位はいいか。僕たちはそれから眠るまでの間、話し続けた。これからの事も、これまでの事も。




翌朝、鳥の囀りで僕は目が覚めた。気持ちのいい朝だ。やけに体が痛い。上体を起こそうとするが何かが腕に引っかかっている。取り除こうとしたときに何やら柔らかいものを掴んでしまう。


「んっ…」


おまけでつやっぽい声も聞こえてきた。少しづつ覚醒してきた脳は僕が何を掴んでいるのか、隣に誰が居るのかを思い出してくる。そう掴んでいるのは彼女の胸だった。体が痛いのは、寝る前の体勢から少しも動いていないからだった。

そして最悪の事態は起こる。


「んんっ…」


彼女が目を覚ます。それは僕にとっては死を意味する。とっさの判断で手を離すがそれがよくなかった。


「あ…んっ…」


とっさに離した衝撃が彼女を刺激してしまう。終わった、何もかも…


「…」


しかし彼女は起きる様子もなく、むしろ掴んでいる手を折れんばかりの力で抱きしめられる。余りの激痛に僕は情けなく痛い痛いと叫んでしまう。


「…ヒトの胸を揉んでおきながら…のうのうと出来ると…?」


「ひっ…」


特別な力がなくても、彼女の体から怒気のオーラが出ていることがよくわかる。


「いや、違うんだ、わざとじゃなくて、事故!腕を解こうとしただけなんだ!」


「それでも触ったよ…ね?」


「それは本当に悪いと思ってる!」


「…」


彼女は腕の力を緩めてくれる。助かったのか?


「次は…ないからね?」


「はい…」


あれ、僕って王様だったよね?なんか自信なくなってきた…。


「あの、お二人ともよろしいでしょうか?」


シエラの声がする。


「申し訳ございません、ノックをしても反応がなく。叫び声が聞こえたので、つい開けてしまいました。もしかしてお邪魔でしたか…?」


なにか壮絶な勘違いをされていそうだ。


「い、いやいや、別に問題ないよ。それで何か用かな」


僕はごまかすために話題を切り替える。


「あ、そうでした。本日正午より、前王の葬式、および新王の着任式を行います」


「あぁ」


そう言えば今日からだった。夢であって欲しかったけど。


「それで、これから王には着替えて頂きます。お連れの方はいかがいたしますか?」


「わかった。彼女は…」


僕は幼馴染にの方を向く。彼女は私も付いていくと言わんばかりの顔をしている。


「彼女も連れていく。彼女は僕直属の騎士だからね」


「そうでしたか、畏まりました。ではお連れ様のお着替えも用意いたします」


そう言うと彼女は部屋から出ていってしまう。


「ありがと」


シエラが部屋から出ていったタイミングでお礼を言われる。


「いいよ、お礼なんて。むしろこっちが護衛をお願いしようと思ってたから」


「そうでした」


再びシエラが現れる。


「朝食のご用意が出来ておりますので、食堂にお越しくださいね」


それだけ言うと再びどこかに行ってしまう。


「確かにおなか空いてきたね」


「食堂、行ってみよっか」



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