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「ここは…」
気が付いた僕は…まだ闇の中にいる。しかし周りを見渡しても幼馴染の姿はない。
「彼女でしたら無事でございます」
また突如として声が聞こえてくる。
「あんたは一体…」
「わたしはこの世界の案内人でございます。そしておめでとうございます。あなた様はこの世界の王となることが決まりました」
「は?」
王?僕が?バカな、あり得ない。こんな極めて普通な男子高校生が王になるだなんて、冗談にしても笑えない。
「どう否定されましても事実でございます。貴方様がこれから異世界の王となるのです」
どうやら本当のことらしい。
「まぁ元の世界より楽しそうだからいいか」
「おや、乗り気ですね、大抵の人は元の世界に帰してくれと駄々をこねるのですが」
「言えば帰らしてくれるのか?」
「いえ、元の世界に戻すことはできないので、死んでもらいます。今までで50人ほど殺しましたね」
物騒なことを淡々と答える。なんて恐ろしいやつなんだ。
「ところで、先ほどの言葉が返答として受け取ってもよろしいですか?」
「あぁ、構わない。それより彼女は…」
「承りました。その彼女の処遇を貴方さまと決めたいのですが、よろしいですか?」
「処遇? というかさっき定員は二名って聞いた気がするよ?」
「えぇ、本来彼女はここに来ては良い存在ではありませんが、なにやらあなた様との繋がりが強かったため、連れてきました。しかし、連れてきてしまった以上、彼女も何らかの役割を得なくてはいけません」
「得ない場合は…」
僕は試しに聞いてみた。
「勿論殺します」
思ってた通りのくそみたいな答えを即答される。
「さぁいかがいたしますか。お望みであれば、記憶を消して村娘にでも何でもして差し上げますよ」
僕の考えは決まっていた。むしろこれ以外は考えていなかった。
「彼女は僕の従者にする。記憶もそのままでいい」
「はぁ…」
拍子抜けしたのか、間抜けな返事で返された。
「まぁ、それもあなたの選択したこと。いいでしょう」
隣に何か落ちる音がした。それは幼馴染の彼女だった。
「大丈夫?」
「いったいなー、もう…」
どうやら問題なさそうだ。いつもの彼女がそこにいて、僕はほっとした。
「あたし…生きてるんだよね」
「うん」
「そっか…ありがと」
「なんでお礼?」
「あんたが助けてくれたんでしょ?」
どうやら事の巻末を知っているようだった。
「ごめん」
僕は思わず謝った。そしたら彼女は僕の頭をはたいた。
「痛い…」
「バカじゃないの?自分のせいで巻き込まれたとか思わないで。あたしがあんたを巻き込んだのよ」
彼女はそういった。
「でも…」
「次、ネガティブな発言したら、目玉くりぬいて、舌引っこ抜くからね」
僕の言葉を遮り、恐ろしい発言をされた僕は、ただ頷くことしかできなかった。
「よろしいですか?」
待ちきれなかったのか、声の主が声をかけてくる。
「いいわよ」
僕の代わりになぜか彼女が答える。
「では、あなたは王となります。そして彼女はあなたの従者。これから最初に前王に会っていただきます。とはいえ死に際ですから、すぐに死にますけどね」
笑えないブラックジョークだ。
「それから先はあなた達自身で考えて行動してください」
もう放任ですか。なんとも言えない気持ちになる。
「では、いずれまた。御用があるときに…」
そう言うとあたりがまぶしい光に包まれる。僕たちは目を瞑り、ただただ光がやむのを待つ。それからしばらくして、声が聞こえる。
「王、新たな王となる者が来ました」
どうやら着いたようだ。目を開けると床にふせっている人とその傍らには騎士の鎧を着た人が膝まづいている。
僕は王に近づく。王の顔はすでに衰弱しきっていた。
「おぉ、そなたが新たな王か…。まだ若いのにすまない…」
「いえ、大丈夫です」
なにが大丈夫なんだろうか。自分で言っててわからない。
「強いな、そなたは…。私はもうこの世を去ってしまう…この国を…世界をお願い出来るだろうか…」
「…はい、任せてください」
「おお…ありがとう…。そなたのような若い者が…国を任されるのは荷が重いと思うが、彼女に頼ってもらって構わない…」
王が指さす先には、フードを深くかぶってローブを着た女性が立っている。
「分かりました、…あなたが悔しがるような国にして見せます。だから安心してください」
何故か僕はそう言った。いや、安心させるために言ったのだと思う。そしてその言葉が嬉しかったのか王は口をほころばせ、涙を流す。
「本当にありがとう…。最後に手を…貸してくれないか…?」
僕はそっと手を差し伸べて、その上に王の手をのせる。すると暖かい光が僕と前王の手を包み込み、消える。
「これでそなたが新たな王だ。今渡した紋章が王家の証だ」
前王の手を降ろし、掌にはなにもなく、手の甲を確認すると何やら不思議なマークが刻まれていた。
「それを見せれば大半の者が王だと、分かる。ただ…」
何故か前王が言い淀んだ。
「どうせ命を狙われる可能性も増えるんでしょう?」
前王は驚いた顔をする。しかし冷静に考えれば当たり前だ。これがあれば顔パス出来るってことだからな。そりゃ狙われますって話ですよ。
「本当にすまない…だがもう…」
そこで前王が咳き込む。どうやら…限界みたいだな。
「もう…私は限界なのだ…」
「はい…」
「しかし、最後にそなたに…会えてよかった。良くできた人柄…で安心できる」
「はい…」
「この国…を…せ…かい…を…たの…む…………」
前王は…深い眠りについたようだ。なぜだろう、別に深い関わりがあるわけでもないのに、少ししか会話していないのに、涙が出てくる。そんな心境を知ってか知らずか騎士が近づいてくる。
「ありがとう、新たな王よ。そしてこれからよろしく頼む」
「はい、えっと…あなたは?」
「騎士団長のルイン・マクダハールと申します。さっそくで申し訳ありませんが、私は前王の式の準備を行います。これからの事は先に彼女とお話しください」
そう言うとルインは部屋を出ていってしまう。式か…多分前王に任されてたんだろうな。僕は気を取り直して壁に背を預けて立っている彼女に話しかける。
「あの…これからの事で話したいんですけど…」
「…そうですね、ここではなんですから奥の部屋に行きましょうか」
僕たちは奥の部屋に移動する。ま、丁度聞きたいことあったから助かるね。
部屋についた僕たちは、机を挟んで彼女1人と、僕と幼馴染で座った。
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