WayBackStory
天風春雷
始の章
1ページ目
「退屈だな…」
僕は空を仰ぎながらため息をはきながら呟く。
平凡な家族に生まれ、ごく普通な生活を送り、極めて普通の学校に通っている僕は極めて普通の学生だ。普通に体調を崩したりするし、無遅刻無欠席を目指す訳でもなく、ただただつまらない人生を送っている。他人と違うところなんてまるでない。強いてあげるなら…
「またこんなところで寝てる!」
幼馴染がいることだろう。だからといって何が変わるわけでもない。僕にとってはそれでもごく普通だと思える。だってそうだろう?この世界には僕と同じ境遇の人間がいるはずなんだ。確証はないけど…、けど僕は少なくともそう考えている。
「ちょっと!聞いてるの!?」
そう言いながら彼女は屋上のベンチで寝ている僕に近づいてくる。ちょっと怒りっぽい彼女はよくある幼馴染であると言えるだろう。
「聞いてるよ…。それより僕は眠いんだけど」
あくびをかみ殺しながらそう答える。
「あ、そう。聞いてるならさっさと返事してよね」
「君が僕に用があるときって大抵面倒事に巻き込みたいときだよね。それを素直に受け入れる気がないからスルーしたんだけど」
「それでも聞いたら返事するし、断らないでしょ?」
ぐうの音もでない。実際に今まで断れた試しがない。返事をしてしまった…いや、彼女が来た時点で僕に断る選択肢がない。…腐れ縁ということにしておくことを僕はそっと決めた。
「それでね、ちょっと試したいことがあるのよ」
「今度は何をする気なのかな?」
「異世界にいける方法って言うのをネットで見つけたの」
異世界にいける方法?
「なにそれ、馬鹿じゃないの?」
「む、あんたなら信じると思ったのに」
「その言葉は安易に僕を馬鹿だということを言ってることになるけど…ってそこで頷くな!」
「あはは、ごめんごめん」
「まったく…まぁ、信じるというか、気にはなるね」
「でしょ?これが見つけた掲示板なんだけどさ」
666掲示板…オカルトサイトか、信憑性がガクッと下がったな。やり方は…
まずこの陣みたいなのを紙に書く。その陣の四方に水の入ったコップを置く。陣の中央に手をかざして、「開け、異国の門」と唱える。
「なんかすごく単純だけど…」
「単純だからすぐ出来そうでしょ?」
あぁ、彼女も単純な性格してるの忘れてた。すぐ人の言うこと信じたりするし。
「アーソウダネ。で実際にこれをやろうって言うんでしょ?」
「なんか今一瞬すっごい棒読みだったね」
「キノセイダヨ」
ジト目でこちらを睨んでるが、気にしないことにしよう。
「実はもう準備はできてるんだよね。友達2人も待ってるから行こう?」
「早いな、いやこれだけ簡単なら当たりま…」
言い切る前に手をとられて、連れて行かれる。強制参加は久しぶりだな。ここ最近は許可を得てからだったのに。
それにしても先ほどの書き込みはどのような人物が行ったのだろうか。そしてレスには成功しないという書き込みしかなかった…。いや、逆に考えれば成功しないほうが正しいはずだ。あんな幼稚な手順で異世界に行けるわけがないんだから。でも…万が一いけてしまったら?その人は書き込みをすることが出来ないんだから、成功しましたなんて書けるわけがない。だから失敗したというレスしかないのではないのだろうか…。しかし…
「それー」
体が宙を舞い、僕は床に叩きつけられる。
「痛いな、なにすんだよ!」
「着いたのに、考え事をして聞かなかったのはあなたですー」
「それは!…悪かった」
これは怒れない全体的に僕が悪い。
「やっと揃ったわね」
「それじゃー始める?」
同じクラスの委員長と…モブ子か。
「そうだね、始めよっか」
どうやら順番に儀式?を行うようだ。委員長、モブ子、幼馴染、僕の順番らしい。
最初に委員長が呪文「開け、異国の門」を唱えるが、何も起きない。やはりデマだったのだろう。それからモブ子、幼馴染も呪文を唱えるが、何も起きなかった。
半ば諦めムードで僕の番がやってくる。幼馴染からヤジが飛んでくるが、僕は気にしないで、陣に手をかざし、それっぽく呪文を唱える。
僕の演技に魅了されたのか、圧倒されたのか教室が静まりかえる。しかし景色は変わらず、何も起きない。
「結局なにも起きないねー」
「やっぱりデマだったぽいね」
みんなで残念だったねと笑いあっていると、突如として教室が暗闇に包まれる。
突然の出来事に僕を含めた全員が唖然としてしまう。しばらくしてから状況を理解すると女子三人はその場にへたり込んでしまう。僕は周りを見渡すが、先ほどまでと完全景色が違う。放課後でもまだ日がさしていたはずの教室の面影なんてない、完全な闇。
「おめでとうございます。あなた方の中から2人を異世界に招待することになりました」
状況分析をしていると、暗闇から突然声が聞こえてくる。その声の主は淡々と喋りかけてくる。
「今回選ばれたのは、あなた達です」
僕と幼馴染にどこからかスポットライトが当てられる。
「それではご案内いたします」
どうやら拒否権はないようだ、すぐに僕と幼馴染の体が闇に包まれる。この感覚は気持ち悪い。
そして彼らが完全に見えなくなると、委員長とモブ子は見慣れた教室に戻ってくることができる。そこに異変を感じた先生がやってきたことに安心した二人は泣き始める。
その日、掲示板に成功したと書き込みと内容が一つ追加された。
『異世界への門が開かれた。新たな物語が今始まる』
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