第2話 ケンちゃんと小さな拳銃



 ケンちゃんは九才。友達はいない。


 いつもの森の公園で、誰もいない場所まで歩き、ひとりぼっちで虫探し。


 いつもと少し違ったのは、小さな拳銃が落ちていた。ケンちゃんはそれを拾って、大急ぎで家に帰る。


「今日は早いのね」


 ママの言葉に返事もしないで、自分の部屋に閉じこもる。小さな拳銃をランドセルに隠して、嬉しそうに笑ってる。


「何かあったの?」


 夜ご飯、ママの言葉に首を横に振って、ドキドキしながらその日は終わる。 


 朝起きたケンちゃんは、すぐにランドセルを開ける。キラリと光る小さな拳銃を眺めて、嬉しくなった。


「健一、早く起きなさい」


 ママの声に驚いて、慌ててランドセルに戻す。


 ケンちゃんは、小さな拳銃を学校に持って行く。ドキドキ、ドキドキ、止まらない。


 いつものようにケンちゃんは、同級生に殴られる。いろんな悪口を言われる。恐がりだから、泣いてばかり。


 帰り道でもケンちゃんは、悪い奴らに捕まった。いつもの森の公園に、いつもの誰もいない場所まで、今日は無理矢理、連れて行かれる。


 ごめんなさい、と謝った。


「うるせえな」


 ケンちゃんの足に痛みが走る。何で怒ってるのか訊いてみた。


「うるせえな」


 ケンちゃんのお腹に痛みが走る。何で殴るのか訊いてみた。


「うるせえな」


 ケンちゃんの鼻に痛みが走る。止めるようにお願いした。


「うるせえな」


 ケンちゃんの頭に痛みが走る。どうしたらいいのか訊いてみた。


「うるせえな」


 ケンちゃんの服は、あっという間にはぎ取られる。返してと泣いてみる。


「うるせえな」


 体中に痛みが走る。いつもはこのまま泣いている。だけど、今日のケンちゃんは少し違う。だって小さな拳銃を持っている。


 悪い奴らが服を投げつけ、笑いながら帰ってく。ケンちゃんを、いつものようにひとりぼっちにして。


 服も着ずに、急いでランドセルから小さな拳銃を取り出した。テレビでやってるヒーローのように、父さんが大好きな、大人の映画に出てくる正義の味方のマネをして、小さな拳銃を構える。狙いを定めて、引き金を引いた。

 

 悪い奴らの怯えた顔に、ケンちゃんは嬉しそうに笑う。一人、一人と倒れていく。ごめなさいと謝ったって、許さない。


 また一人、また一人と倒れてく。最後の一人に引き金を引いて、ケンちゃんは、テレビに出てくるヒーローのマネをして、格好良くポーズを決めた。


 服を着て、スキップ混じりに家に帰る。


「今日も早いのね」


 ママに飛びつき、満面の笑みを浮かべる。


「聞いてママ、今日僕はヒーローになったんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る