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あ。でも手加減はしてくださいね……。あんまりやると後始末が怖いんで……。
そう小声で告げると部下は肩を回しながら「言われなくてもだッつのォオ!」とずんずん前に進んで行き乱雑に上着も脱ぎ捨てる。
それを見送る私に、血相変えて慌て出すのはヴァルヴァロイ様。
「いいい、いいんですかハナヤマダさん‼︎ 相手は勇者で結構ガチめなパーティですよ⁉︎ あんなにウエイトの違うデイリグチさん一人であの数は流石に……!」
「おやおや、返り討ちに合うと?」
「いくらヤンチャしてそうなデイリグチさんでも勝敗目に見えてるじゃないですか‼︎」
「ご心配はいりませんよ」
私でも、あんな部下を送り出すのに自信がなければ今直ぐに止めています。
ですが大丈夫です。この場を収めるだけの自信があるからこそ、私はここに立って奴の背中を見ているのですから。
「そう。なにを隠しましょう奴は元この世界の住人……その実態は、伝説の四英雄、『超勇者アーサー』に仕えた、至高の一振り。奇跡と勝利を約束する伝説の聖剣――エクスカリバーなのですから……‼︎」
「エ」
「エクスカリバーです」
「……エクスカリバー……って、あの」
「あのエクスカリバーです」
「あの、彼が」
「はい、あのリーゼントがです」
二度見、三度見、四度見した後、デイリグチに聞こえないよう控えめな声で私に耳打ちをするヴァルヴァロイ様。
「すいません。あの、意味がよくわからないんですけど、エクスカリバーって見たことないですが、分類上は武器ですよね。あの……彼、ヒトですよね……どう見ても」
「おやおや、ご存知ありませんでしたか? レジェンドクラスの武器はだいたい
「エエェエッ! そうだったんですか!?」
なのであのように、人型も保てるのです。
まあ、課金してもほぼ手に入らないトリプルSランクの代物ですし、あまり知られてない上にあの外見じゃ、そりゃ驚かれるのも無理ありませんよね。
「えええ……いや、あの……、ええ……知らなかったです、というかエクスカリバーって……エクスカリバーって……あんな…………あんなっ」
仰りたいお気持ちはよくわかりますよ。
それって言ったら、聖剣の代表例みたいなものですものね。
確かに黄金の剣の特徴よろしく頭はマッキンキンですが。あの育ちの悪そうな顔に、汚い口調、チンピラと同レベルの教養のなさ。
伝説の聖剣ですよコイツと言ったって、すぐに信じられる方の方が凄いですもの。
「もうちょっとこう、正統派で騎士風のイメージがあったんですが」
「ええ……昔はそんな感じの容姿だったのですが」
まさにエクスカリバーの黄金期と呼べる時代でした。その時は。
ただちょっと前所有者の使い方が荒かったようで性格的に影響を受けたらしく……。
「私に引き渡された時には……もう既にあのような仕上がりに……」
「残念すぎますね……」
あのように、パラリラパラリラ、ブゥンブゥンブゥン――という感じの下品な効果音が聞こえてきそうなのではありますが。
ああ見えて属性は『聖』を司り。
奴が聖剣であることは神が与えたもうた変わらぬ事実なのです。
「全然見えないでしょうけどね」
「ええちょっと」
「――オイ! そこの会話全部聞こえてんだけどォ……⁉︎」
振り返って喚くデイリグチにハンドシグナルで「さっさとやれ」の合図を送る私。
「まあですが……奴一人でもこの程度の軍勢相手なら問題は無いでしょう」
むしろ、あちらが瀕死状態で済めばいいのですがね。
「それほど、なんですか、デイリグチさん」
「ええ、なにせ伝説と謳われた勇者のエモノでしたからね。鍛錬度は並のレジェンドウェポンの比でありません。その辺の上級勇者100人じゃ――話にもならないですよ」
そんなこともつゆ知らず。
勇者の軍勢はメンチ切りするデイリグチを余裕の表情で見下しにかかる。
「おい見ろ! 眼鏡の次はヒヨコが出てきたぞ!」
「てめーたった一人で俺ら相手にできると思ってんの? ブハハ! どんだけだよ!」
ええ、ええ、好き勝手馬鹿にできるのもそこまでですよ。何故なら数十秒後にあなた方には――、
「一人残らず棺桶となって教会送りになって頂きますから……」
「ハナヤマダさん顔怖いです!」
自らの私利私欲で村の方を苦しめ、そして転職屋の看板を汚した罪は重いですよ……。
「デイリグチ、どんな手を使っても構いません! 死なない程度にボコボコにしなさい! いえ、この世に生まれ出たことを後悔させなさい!」
「あーたさっきセーブしろって言ったろうが⁉︎……ま、いいけどよ……オメーらみてぇな半端モンが好き勝手やってくれっと、勇者の評判がガタ落ちするんだわ……だから一発で、沈めてやんよォオオ‼︎」
ボキリと慣らした左腕を引いて構えるデイリグチ。
「聖剣の鉄拳でなァッ――!」
なんですかそのダサいネーミングセンス。
ああいやもうなんでもいいです、片付けて下さいそれでいいですもう!
臨戦態勢に入ったデイリグチの体が白く輝き黄金の粒子が立ち昇る。
これこそエクスカリバーの必殺奥義の溜めモーション。
残念ながらこの時点で勝利は確定、この全属性貫通のフィールド広範囲攻撃では勇者たちに逃げる場所も猶予もないでしょう。
「おいなんだ、あいつ……なにを――」
……さあ存分にお喰らいなさい!
「必ッ殺──!超ゴールデン激おこファイナルリアリティーぷんぷんドリ――っううぼおおおおおおぉおおおおおおげええええええええええ」
は――、
「デイリグチさん⁉︎」
無駄に長くて理解不能な奥義名称を唱えたデイリグチの口から。
奥義でなく黄金色に輝く汚れたナイアガラの滝が出て――って。
「デイリグチ! あなたなにやってんですかぁあああ────‼︎」
「おいアイツ吐きやがった……!」
「ゲ■吐きやがった……■ロ!」
飛び交う女性の悲鳴と規制音。
別の意味で騒然とする周囲。
顔面から倒れて痙攣するデイリグチ。
「すまん゙…………力んだらさっきの酔いが……うっぷ、っうぶ、うぼああああああああああああああっ――」
この……。
「おばか──‼︎ 公衆の面前でなに晒してくれてるんですかあなた! なんとなくこうなるって察してたけどやっぱりですよこの駄剣ッ……‼︎ フランスパン頭‼︎」
あなた勝利を約束する聖剣じゃなかったんですか……!!
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