第5話 強すぎる装備は後々外したくなってくる

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「おい。いい加減用意できたかあ? 先月と先々月の報酬金。未払いは困るんだよねえ……、これじゃあタダ働きになっちゃうじゃん、俺らさァ」

「ですから……この前も申したように、そんな莫大な報酬金はこの村からはどうしたって出せないのですよ、勇者様。今支払っているものでも村の者達の血税で賄われているのですぞ、これ以上は……とても」

「はああああああ? おいおいおいおい、村長さんよ、それじゃあんまりじゃないですかねぇ? 俺らは好意でこの村を魔物の被害から守ってやってるのに報酬が出せないだあ? 俺らのおかげで毎日平穏に暮らせてるっていうのによォ? それなのになんの感謝もお返しも無しかよ? そいつはとんだ無礼者どもの集まりだ、世の中にはギブアンドテイク! っていう言葉があるの知ってるかい? なあ? ソンチョウサンよお?」


 重たげな金属の音を鳴らし。

 ギルドリーダーであろう、一人が村長様に口汚く罵りながら詰め寄っていく。


 高貴というよりはどうにもあつかましく見える、全身金色の鎧に身を包み、ドラゴンの鱗の鞘に挿した大剣を背負う長身の青年勇者。

 うちの部下もそうですが、装備がそれならば、顔もそれ、口調も相まって、もうチンピラか借金取りに見えてしまいます。


 誉れ高い勇者の名が泣きますねえ。


「なにを言いまするか。感謝ならば村の者達みながしております……! で、ですが……報酬金に、宿代、食事代までも負担されてしまえば……このままでは住民の資金や食糧が行き届かなくなり、みなが飢え死にしてしまいます……。助けて頂いている身でありながら、無礼は重々承知です、しかしここは老いぼれと女子供しかいない小村にございます。ですから勇者様ッ、どうかなにとぞ、なにとぞ我らにご慈悲を――!」


 縋るような顔で言い、村長様が深々と頭を垂れる。

 しかし、金色勇者とその百数名の取り巻き達はそれを滑稽であると嘲笑う。


「ハッ、話にならねぇなあ。慈悲が欲しけりゃ、先々月と先月、今月の報酬金をきっちり耳揃えて支払えや。できないんだろう? だったら仕方ねえ、そういう恩知らずな奴らはちゃんと後悔しなきゃいけねえよなあ、今すぐ上級魔法でこの村に隕石降らすか、魔物を誘き寄せるか――なあジイさんどっちがいいよォ?」


 取り巻きたちの嗤い声。

 村人達の顔が蒼白に染まる。


「そっ、それだけはご勘弁を……我々はただっ!」

「なぁー勇者の有り難みがわかんねぇ奴ぁ俺嫌いだよ? こっちは正義のために働いてんだよ、ジャスティスだよ! 悪者扱いしねえでほしいなァ。弱い奴らを守りたいから、あーして魔物を狩ってやってんじゃんよ、なのになんなのその態度は? 調子乗るのも大概にしろやほんっと、報酬金さえ払ってくれればさぁ、こんなめんどうなことにはならないんだって、ちったあ頭使えよォ」


 ねっとりとして、それでいて神経を逆撫でさせる。話には聞いていましたが改めて見てみますと本当にゴミ屑以外の何者でもない。


「チッ…………腐れ勇者どもが」


 カンに触ったのは舌打ちをしたデイリグチだけではなかったようで。

 その傲慢な集団に、ヴァルヴァロイ様の表情も曇る。


「なんなんですか彼らは。何故あのように村の人達を」

「ええ、実はあれが今この村を苦しめている元凶なのですよ」


 始まりは半年前ほど。

 このはじまりの大地のすぐ裏に、上級者向けの試練の山が聳えているのですが。

 その山からは時折凶暴な魔物の群れが村に降りてくることもあるそうなんですよ。

 そうなりますと、家畜や農作物は食われ、村にも甚大な被害が出て、長らくこの村の方々は困っておられたそうなのです。


 しかしそんな折に、大所帯ギルド『正義ジャスティス・ソード』がレベル上げとレアな鉱石を目当てにこの地にやってきて、魔物の群れを狩り始めたのです。


 ちょうどその時に、偶然村の子供を魔物から救ったとかで、イニーツィオの方々は大変感謝されたそうです。


 しかし、このことがきっかけで、性根の悪い彼らは都合の良い活動拠点を手に入れたと思ったのでしょう。いいえ、むしろそれが当初の狙いだったのか。初めは物腰柔らかく、ですが徐々に魔物討伐の見返りを村の方たちに求め始め、挙句の果てには脅しつつ多額の報酬金を搾り取り、それだけでは飽き足らず、宿代や食事代を踏み倒し、勇者であることを盾に、村の人たちを苦しめているのです。


 最初は良い人にみせかけて、あとから豹変して威圧で相手を支配する。

 よくある話です。


「なんて奴らですか……まるで悪■商法、闇金■社だ……」

「ええ、ほんとそうですね」

「それって犯罪じゃないんですか」

「彼らが盗賊団であるならば、王都から騎士団を招集して取り締まってもらえるのですが……」


 これが勇者となると……、なかなかそうはいかないのです。

 一国を滅ぼす、国王を暗殺だとかいう大規模的なものでない限り。

 この世界は圧倒的に勇者に対しての規制が甘いのですよ。


 現に、多額の報酬金を要求しても、『正義ジャスティス・ソード』が働くことによって魔物が討伐されているので、村の方にも少なからず利益が出ているとされて。


 真剣にはかけ合ってくれないでしょう。


「そんな……」


 勇者の名を笠に着て、最も位の低い者たちから必要以上の金品を騙し取る等の卑劣な行為。

 悲しいですが、こういった事案は年々増えているのです。


 近頃ではそんな不真面目外道な輩を差し押さえるべくシステムの見直しが考案されているようですが、なかなかうまくはいかないようで。


「それじゃあ、利用されてる人々は不満が溜まる一方じゃないですか」

「ええ……ですが、法で取り締まりにくいというだけで、絶対的に護られているというわけではないのです。つまり誰かがバトルで勇者を倒しても咎められることはないということになります」


 所詮この世は力がものをいう世界。

 嫌になるほどわかりやすく出来ています。


「ていうことは、まさかこの村の急募職って……」

「ヴァルヴァロイ様のお察しのとおり、彼らを村から追い払う、腕の立つ用心棒です。ご覧のとおり、この村の殆どの男性は王都にて出稼ぎに行っておりまして、残っておられるのは女性や子供、体の不自由な方やお年を召された方のみです」


 村の方たちではどうしたって彼らを相手にすることはできません。

 なので、こちらの仲介を通して、用心棒となって下さる方を募集していたのですが。


「『正義ジャスティス・ソード』と言えば、王都や隣国にまで名が通っております大規模ギルド。そんな猛者たちを進んで相手にしたいという者はそうそう現れず、それでも数ヶ月前、名のある剣士の方が勇敢にも申し出てくださいまして……」

「……え、それでその人は、今……」

「全治八ヶ月の重症で、現在も王都の病院にて入院しております」


 初めの一回は、五十人相手に見事勝利されたのですが、その情報を聞きつけ各地からメンバーが集い、そこから一気に形勢逆転……。

 聞いた話ですが、最後は悲惨極まりなかったようですよ……。動けなくなった剣士の方に一斉攻撃と上級魔法のキルラッシュ……生きていたのが奇跡のようなものでした。


「そっ……そんなことが……」


 ヴァルヴァロイ様はそこで顔を青くされながら、恐怖と困惑に身を震わす村の方たちの方を見ました。


「――っあああ~、もう拉致あかねえわ。おい、お前ら、酒と食糧、あと羊毛、あれ王都の貴族に高く売れるからァ、ありったけ荷馬車に積んどけ」


 気だるそうに言う金色勇者に促され、数人の大柄な甲冑姿の勇者が村の中に強引に踏み込んでいく。


「待ってくだされ! いくら勇者様でもそれは……っ!」

「そうよ……そんなの強盗と一緒だわ!」

「やめておくれ、これ以上持って行かれたら、子供達の食べるものもなくなってしまうよう」


 侵入してくる彼らに村の方々は跪いてそれを阻止しようとするも、


「あんだよぉ、弱っちい村人ABCがなに生意気言っちゃってんの? 所詮お前ら俺たちの引き立て役! モブなんだよモブゥ! 背景同然なの! だから大人しくそこで指加えてりゃいいんだよォまったく」


 足元に縋って止めさせようとする村長様に、遂に金色勇者が苛立ちを募らせ剣を抜き、御老体を蹴飛ばすという無礼極まりない非道な行動に走る。


 次々に上がる悲鳴。子供の泣き声――。


「ちょ……ハナちゅあん! いいのかよ、あれ――!」


 ええ流石に……マズイですね。

 目に余る――。


 こちらが割って入ろうとしたその時。

 先に勇者と村長様の前に立ち塞がったのは。


「いい加減にするのは貴方達の方よ……! もうこの村に近づかないで‼︎」


 追い棒を携えた、アイシャさん。


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