第4話 民家のベッドで回復しまくる勇者たち
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さて、調教のお時間です。
「無駄な時間を割くわけにはいかないので手短に済ませますが、まず、あなた、何故、今、自分が、“こんなことに”なっているか、それは理解できているのですか?」
貴重な時間を頂いた三秒後、近づく無礼者にバックドロップ、からのコブラツイスト、からのキャメルクラッチで固めた状態で私はそいつ、改め出来の悪い部下に問いただす。
「あ、っ、あがっ、あががががが、っが、んがががが!がが!」
「ちゃんと喋りなさい」
「ぬぐ、ごごっ、うぐ、しい……ぐぇ、ハナちゅあん!ギブ!ギブ!ギブ!!」
ばしんばしんと床を叩いたって、ゴングなんて鳴りはしませんよ。
「はい、もう一度言います。何故こんなことになっているのでしょうか」
「うぐ、っ、しっ、しまる!……の……ノック、を、しなかったから……デス」
「だめですね、マイナス130点です」
「うぶぶぶぶ!ドアを壊したから!!」
「ほう、マイナス110点ですね」
「ぬぅう……う!大声を出して仕事を邪魔をした、から、デス」
やれやれ、落第ですね。
「いいですか、正座させるのも面倒なのでこのままでお聞きなさい。あなたはまず、走ってはならないこの館の廊下を走りました、この時点でマイナス50点です、それだけでなくあなたは扉の前でお辞儀もせず、許可もなくこの神聖な場に侵入し、なおかつお客様の前に無礼を晒し、それだけでは飽き足らず、ドアと壁の破片をお客様のお飲物に混入させ、そしてさらには今の今までお客様に一つのお詫びもない!!私が日頃あれほど礼儀礼節の極意を叩きこんでやっているというのに!このおバカが!!」
「イッ……だだだだだだだだだ!わ、わわわ、わかった!俺が悪かったッつーの!謝る!あやまるから!んががががががが!まじ死ぬ!締まる!吐くから!ギブギブギブギブ!たしけて!」
「敬語もなっていませんし、さらなるお仕置きが必要なようで、ちゃんと語尾に『です』をつけなさい」
「DEATH……ッ!!」
「まったく、バカに効く大魔法があればこんな苦労は――」
なんて肩を竦めていたら。
「うお、ええええええええ!?ちょ、なにやってるんですかハナヤマダさん!?」
「ああ、お客様。いけませんよ、耳を塞いで後ろを向いていて下さいって申し上げたではないですか」
こんな無様な姿見せるわけにはいかないと思ってそうお願い申し上げたのに。
ヴァルヴァロイ様にあられもない格好を見られてしまい。今の私の心境は、昔話の機織り鶴のようなものだったかもしれません。
とはいえ、折っているのは部下の体なのですけれど。
バリッバリに決まっているプロレス技なのですけれど。
「いや!見るなって言われても無理ですから!そ、その人は……!?」
「ええ、紹介が遅れて誠に申し訳ございません、こちら部下の『デイリグチ』と言います、なにぶん未熟者かつ曲がり者ゆえ、先程はお客様に大変なご無礼を致しましたこと心からお詫びさせて頂きます」
「は、はあ、デイリグチさん…………」
普段は私の助手、まあ基本的に外回りを任せているのですけれど。見ての通り頭が悪いので手を焼くことはしばしばなんてものではなくて、人手が足りていないとはいえ、なんでこんな目に見えてわかるようなロクデナシを引き入れてしまったのか。
それが最近の私の悩みでもあるのですけれど。
とはいえいつまでも、お客様の前でキャメルクラッチを披露しているわけにもゆかず、私は固められすぎて全身くたくたになってしまった部下をそこで解放し、身なりを整え再び業務モードにスイッチを切り替えます。お客様を放っておくなんてあってはならないことですからね。
「だ、大丈夫なんですか、デイリグチさん……なんか、屍みたいになってませんか……」
「大丈夫です。そのうちもとに戻りますから」
「というか、ハナヤマダさんけっこうアクティブなことしますね……」
「この職は専らデスクワークと思われがちですが、それだけでは務まらない面もありますゆえ。体術の方も護身程度に少々嗜んでおります」
「護身程度……、少々……ですか、今ので」
※よい子の皆様は軽い気持ちで関節技をお友達には使用なさらないでくださいね。友情だけでなく、大事なところも折れる可能性が御座いますので。
予備の眼鏡をセットして、ご迷惑をお掛けしたお詫びにと新しいティーセットを用意しようとしたところ、床に転がっていた部下、デイリグチが体を生まれたてのスライムみたいにうねらせながら、私の足に縋ってきて。
「や、ちょっと待ってくれハナちゅあん、俺のハナシ聞いてくれ、マジ大変なんだって、馬路なんだって」
いや、ちょっとあなた空気読んでくださいよ。今接客中ですよ。
「だあああ!このままじゃヤバいって、
「は!?」
「一揆ってあの!?一揆!?」
物騒なワードに思わずお客様まで身を乗り出されて。ちょ、待って下さい、どういうことですか。
「この前の案件だよ、イニーツィオ村の奴らがもうやべーくらい激おこでよォお!例の件なんとかしねーと村人総出でここ攻め落とすって!!」
なんですって。
「これはやべえだろ!べえだろマジで!」
まくし立てる金髪リーゼントスーツの投下した爆弾に、私の表情も思わず凍る。
確かに。
その件については、放っておいてはならないクラスの案件。
「ついに爆発しましたか」
「いんや、正確に言うと爆発寸前だなァ、限りなくピリピリしてやがる、明らかカウントダウン入ってもう何ターンももたねえぐれえさァ」
「あ、あの……さっきから、村一揆とか、爆発とか……、なにかあったんですか?」
「ああ、いえ。失礼致しましたお客様、次から次へと物騒なことを申してしまいまして。ちょっとしたトラブルで御座いますのでお気になさらず」
まあ、一揆に爆発って言ったらちょっとしたとは思えません……よねえ。
目を丸くされるのも仕方がありません。
「この館はお客様にお仕事を紹介するだけでなく、各地から集まった役職の募集情報をお預かりし、それを訪れたお客様にお薦めする仲介サービスも行っているのですよ。少し前に、とある村から役職急募のお手伝いを任されていたのですが、色々と訳あり物件な為に人が集まらなくてですね……、これでも結構宣伝に力を入れさせて頂いたつもりですが、希望者が一向に現れず、先方の不満ばかりが募る一方でして」
手を替え品を替え、村の方には納得して頂いていたのですが。
「流石にそろそろ我慢の限界ってとこだろォ」
「まあ……気持ちは充分わかりますがね」
理由が理由ですし。
攻め込まれるのはちょっと困っちゃいますが。
「なんでまた、そんなことに」
「その村の方々にはどうしても必要なんですよ、ある職をまっとうしていただける方が」
「まーでも、あの募集要項じゃ集まんねぇーだろ。三食付きに、住み込みOK。家賃タダでも時給が850ガルだからなッ、そんでおまけがついてくると……。割に合わねえわ!かっはは!」
お客様の前で下品な笑い声をあげるなんて言語道断ではありますが。デイリグチの言う通り、少し縛りのきつい内容には薦めてみてもどなたも食いつかなかったのが現実でしたね。
時給はともかく、その『おまけ』とやらが厄介なんですよね。
「どーするよ、村の方」
「どうするもなにも、放ってはおけませんから、早いうちに手は打った方がよさそうですね」
「それはいいけどよ、でも人が来ねえのは仕方ねェだろ、あれじゃあよ」
「それをなんとか鎮めるのが外回り担当のあなたの役目ではないですか?もしや、またおかしなことを口走ったんじゃ……」
「ぎ、く」
「ちょっと……なにやらかしたんですかこのグズ!」
お客様を気にしつつヒソヒソと会話する私たちに。
遠慮がちに逞しい腕が挙げられる。
「あのう……取り込み中非常に申し訳ないんですが……もしよかったら、その急募内容、僕ちょっと見てもいいですか?」
「え」
「エエエッ!?」
ヴァルヴァロイ様、今、なんと?
「いや、ちょっと、そこまで言われちゃう仕事って、どんなのかなあと思って……だめ、ですか?」
いやいやいやいや!
「だめなものですか!興味をお持ちして下さるなら是非も御座いません!あ……なんでしたら、いっそ現場に赴いてみるのはいかがでしょうか!書面を見るより実際に見て頂いた方が印象持てますし!」
「そんなことできるんですか?」
「もちろんですよ!どのお仕事もお客様さえご希望に添って見学、現場研修、チュートリアル等も行えるシステムですので!」
そうとなったら善は急げ。
外界のゲートを開かなくては。
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