第二話 ギブ&テイク!

 リオンと名乗った男に連れられ、ポポンは商店街の方まで来ていた。

 しかしそこは、数刻前の喧騒とはかけ離れた状態だった。


「皆どこへ行ったんですか?」


「おそらく、城だろう。あそこなら最も安全に対処ができる」


 リオンは城の方をみていた。

 いや、睨んでいると言った方が正しいかもしれない。


「おい、お前……名前は?」


「ポポンです」


「ポポン、お前なんで逃げなかった」


 至極当然な疑問だろう。

 ポポンはとても荒くれものに立ち向かえるような体つきはしていないし、武器ももっていない。

 ハッキリ言って、あの場にいること自体、危険極まりない行動だった。

 それでも、ポポンは知りたかった。

 だから、逃げずに向かっていった。


「……無謀と勇気は違うもんだ」


 ポポンが何も言えずに黙りこくっていると、リオンは吐き捨てるようにそう言った。

 しかしその口調には責めるような感じはなく、むしろ諭すようだった。


「オレは今からあいつらの親玉を探す。お前は安全な城に行ってじっとしてろ」


 リオンの言うことに間違いはない。

 実際打撲の痛みもまだ抜けてはいないし、とてもじゃないが奴らに対抗するような力もない。

 それでも、リオンの言ったことにポポンは逆らった。

 ここで逃げてしまったら、何もわからないまま終わってしまうのではないか、とポポンは感じた。

 何より、このリオンという男。

 この男についていけば、何かわかるのではないか、自分の知りえなかった事を知ることができるのではないかという予感めいたものがポポンを踏ん張らせたのだ。


「いや、手伝いますよリオンさん」


 ポポンの言葉にリオンは目を丸くした。


「お前に何ができる? おとなしくしてろ」


「僕が偵察に行って、その親玉を探してきます」


 今度は驚いた様子はなく、こちらを見定めるような鋭い目でリオンはポポンを見た。


「無理だ。見つけたところでもしお前が捕まったらどうする? オレはお前を助けてやれねぇかもしれないぞ」


「大丈夫です。僕に考えがあります」


 ポポンが落ち着き払った様子で言い切ると、リオンは一つため息をつき訊ねた。


「なんでそうまでしてオレを手伝おうとする?」


「……助けてくれたじゃないですか。だから手伝いたいんです。だめですか?」


 リオンはばつが悪そうに頭を掻いた。


「そういうつもりで助けたわけじゃねぇんだが……」


「で、手伝ってもいいんですか、だめなんですか」


 ポポンが詰め寄るとリオンは降参だとばかりに両手をあげた。


「わかった、いいぜ手伝っても。だけど大丈夫なんだろうな」


「はい、任せてください」



****



 悪党達の親玉を見つけること、そしてなおかつポポンが安全であること。

 この二つがポポンがリオンを手伝うための条件だった。

 そしてポポンにはその二つを同時に達成するための秘策があった。

 その秘策とは。


「僕が空から見つけるんです」


「飛ぶって言ったって、お前どう見てもキヌタ族だろ? リト族じゃあるまいしどうやって空から見つけるっていうんだ」


 リト族とは有翼種族のことだ。

 彼らでなければ普通は空を飛ぶことは不可能だ。

 だが今のポポンにはそれができる。


飛行上着フライングジャケットがあります」


「フラ……なんだって?」


「空を飛べる服です。魔力を消費して反重力場を作り出すんです。そして肩部にあるこの翼型の固形エネルギー出力装置で——」


「ああああ、いい、わかったもういい。とにかくそのとかいうのでお前は空を飛べるんだな?」


 カラッと揚がっていそうな服になってしまったがそういうことだ。


「でも一つ問題があるんです」


「なんだよ問題って」


「飛ぶための魔力がここまでの旅で尽きてしまっているんです」


 さっき悪党達に襲われた時も飛行上着フライングジャケットでの脱出を試みたのだがうんともすんとも言わなかった。

 明らかに燃料切れを起こしていた。


「じゃあ一体どうするってんだ」


「魔力を補給できる店があるはずです、僕もこの取材が終わったら行こうと思ってましたから」


「じゃあそこに行けば、ってなるほど、そういうことか」


 ただ燃料が切れただけなら問題ではない、補給すれば良い。

 問題なのは、そこに悪党達がいた場合だ。

 ポポン一人では太刀打ちできずに返り討ちに遭うだろう。


「つまり、オレに魔力の補給を手伝えってことか?」


「はい、手伝うって言ってるのに手伝わせるなんて、すいません」


 落ち込むポポンだったが、逆にリオンは楽しそうに笑っていた。


「お互い様だな。そこで親玉と遭遇すれば手間も省ける。どっちみち通る道だし別に構わねえよ」


「そういってもらえると助かります」


「それに、ポポン。お前がいい方法があるって提案してくれたんだ。いい方法があるならそれを使わない手はないだろ。オレの師匠もそう言ってた」


 言うや否やリオンはキレイな橙色に光る珠を取り出した。


「それは?」


「これか? これはオレの剣、ライオソードだ」


どう見ても珠にしか見えないが……

しかし次の瞬間瞬きをする間に珠は先程見た大剣へと形を変えていた。


「さあいくぞポポン、行動開始だ!」



****



 魔力を補給するための道具アイテムが置いてあるのは魔道具店だ。

 魔道具店は魔力が関わる商品を取り扱う店でその品揃えもさまざま。

 魔力を扱うスタッフや、魔法についての知識を学べる魔導書。

 中でも一番人気なのは、今ポポンが必要としている魔水晶。

 この魔水晶は、トヒ族が発見、改良したもので、魔法の知識や魔力を持たない者でも簡単に魔力を用途に合わせて使えるようにしたものだ。

 簡単に言ってしまえばインスタント魔法ともいえる代物。

 誰でも容易に魔法の恩恵を受けれるとあって、その売れ行きは目を見張るものがある。

 そして悪巧みをする輩たちもそれに目をつけるのは必然だった。

 ポポンの想像通り、魔道具店には先程の薄汚い衣装を着た悪党達が盗みを働いているところだった。


「なるほど、ああやって金を稼げばいいんだなあ」


「……リオンさん今までどうやって生活してきたんですか」


 とにかく盗みだけはさせないようにしなければと思うポポンだった。


「さて、じゃあオレがあいつら片付けてくるからその隙にお前のお目当ての物をとってこいよ」


「うん、わかった」


 そしてリオンは悪党達の方へと飛び出していった。


「よし、僕も行こう」


 ポポンもあとを追い、見つからないようにコソコソと店へと近づいていく。

 暫くすると怒声が聞こえてくる。

 どうやらリオンが悪党達に見つかったようだ。

 ばれないようにポポンは顔をすこしだけだし様子を窺うと、そこではリオンが一人で何人もの相手を簡単になぎ倒していた。

 ある程度片付いたところでポポンも店内へと飛び込む。

 目的の品、魔水晶はすぐに見つかった。

 魔力補給に十分な量を手に取り、申し訳程度にお金を置いて店を出る。

 さすがに無料で貰っていこうなどという図々しい真似はポポンにはできない。

 リオンは店をでて、外からの増援が来ないか見張ってくれていた。

 と思い油断していると、店の奥から数人の残党が現れポポンを囲んだ。


「んだ!? なにがあった?」


「とにかくやっちまえ!」


 外に出ていて中への警戒を怠っていたリオンは反応が間に合わない。


「ポポン! 逃げろ!」


 ポポンは周りを囲まれている、逃げ場はない……

 いや、一つだけある。

 持っていた魔水晶から飛行上着フライングジャケットに魔力を補給する。

 翼が、開く。


「こいつ、飛んだゾ!」


 宙へと飛んだポポンはその場を脱する。

 そして入れ替わりでリオンが残党の前へと現れる。


「お前らもしばらく寝てな!」


 リオンのライオソードが残党達を斬り飛ばす。

 いや、叩き飛ばしている。


「ポポン! お前本当に飛べるんだな」


 ポポンを見上げてリオンは感動した面持ちでそういった。

 これで用意は整った。

 後は親玉を見つけて、なんでこんなことをしたのかを問い詰めるだけだ。

 ポポンは決意を胸に、空へと上がっていった。

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