決戦のとき


 レーダーに映った飛行物体はまっすぐこちらに向かっていた。


「ヒヒ司令、まさかこの基地を攻撃する気では!?」

チンパンジーのオペレーターが不安そうにつぶやく。

難攻不落のこの基地に、近づけるわけがないではないか。

愚か者。

「ミサイルで迎撃しろ」

俺はめんどくさい、と思いながらも指示を出す。

対空ミサイルの発射装置はいたるところに隠してある。

巧妙にカモフラージュされているが。

数えきれないほどのミサイルが、飛行物体に一斉に発射される。


 ところが……

「敵のアンチミサイル=ミサイルです!」

こちらの発射したミサイルは、敵が対抗して発射したミサイルがピンポイントで命中し、ことごとく撃墜されてしまった。


「メーザー砲準備!」

前線に配備されていた対空メーザー砲が一斉に地下からせり上がってくる。

まるで雨後のタケノコのようだ。

「発射!!」

メーザービームが敵に集中、しかし、

「敵、全く効いていません」

ばかな! 信じられん……。


「司令、我々に迎撃に行かせてください!」

ゴリラの仕官どもがいきり立っている。

「無駄だ、さがっていろ!!」

一括して引き下がらせる。

こいつらバカか? 

相手はマッハ5だぞ? 

有人飛行機で追いつける速さではない。脳筋どもが!


 こうなったら、奥の手だ。

「できるだけ時間をかせげ! その間に要塞砲の準備だ!」

空中機雷にミサイルの雨あられ、しかし敵はやすやすと突破し、

全く足止めにならない。


「ヒヒ司令、敵はわが基地の絶対防衛ラインを越えようとして

います!」

オペレーターが俺に向かって叫ぶ。

……言われんでも、わかっているわ!

「司令、 要塞砲エネルギー充填120%、準備完了です」

よーし、なめたマネをしやがって、叩きつぶしてやる!

「陽電子ビーム砲、発射だ!!」

下等動物め、

無敵の反物質=陽電子=砲で跡形もなく吹き飛ぶがいい!

「了解!」

地下から巨大な粒子加速器が現われ、陽電子ビームを発射する。

これで終わりのハズだった……ところが。


 陽電子ビームは敵の飛行物体に着弾前にあらぬ方向にねじ曲げられ、地面に巨大な穴を開けけただけだった。

「敵は電磁シールドを使用している模様! 全く攻撃が効いてい

ません!」

下等動物が、電磁シールドだと!? 

そんな事がありえるハズが……。

俺が思わず司令席にへたり込むと、追い討ちをかけるようにオペレータ席のチンパンジーが叫んだ。

「敵の空中戦艦、基地上空に到達。」

画面に敵の巨大な飛行物体が映し出された。

対空砲火やロケット弾を浴びるように受けながらも、全く意に介していない。


 まずい、敵が弾性波振動弾(注:地震兵器)でも使用しようものなら、地下300mのこの司令室もひとたまりもない……。

絶望しかけていたところに、

「敵の空中戦艦から多数の円柱状の物体が投下されています」


 円柱状の物体は長さ2m、幅1m、相当の重量らしく落ちると基地の上層部の天井を突き破って進入、手と足が生えて動き回る……戦闘ロボットだ。

 円柱状のロボットからさらに多数の昆虫型ロボットが射出される。

神経毒系の毒針を持っており、刺されたら即死のようだ。

同時にロボット地雷も射出。

大きさはピンポン玉程度だが、勝手に動き回る。

踏むともちろん、ドカン、だ。

その上、敵は生物兵器も投入した。

人間大のアメーバ状の生物だ。

致命的な病原菌を撒き散らしながら、どんな生物でも溶かしてしまう。


 こちらの兵も必死で抵抗しているが基地の上層部はすでに、壊滅のようだ。

しかし……

「敵の望みは白兵戦のようだな」

俺はニヤリと笑う。

バカなヤツラだ。

さっき基地ごと俺を抹殺すればよかったのに。

俺は基地の館内放送を通して、命令する。

「全同胞の諸君。

敵は下等動物の分際で我々に白兵戦を挑んできた! 

サル族の誇りにかけ一歩も引いてはならん!

最後の一兵になるとも、戦いぬけ!!」


「後は任せるぞ」

敬礼するゴリラの仕官を後に俺は司令室を小走りに出る。そこへオランウータンの参謀が近寄ってきた。

「ヒヒ司令、まさか部下を残して、お一人でお逃げになる気では? どうか、私も……ヒッ!ガハッ」

鬱陶しいので、撃ち殺す。

どうせ、俺が脱出した後は、この基地にしかけた核爆弾で敵もろとも木っ端微塵にするつもりだ。

少々、死期が早まっただけ。

むしろ、俺に処刑されるのを光栄に思うがいい。


 脱出用の高速艇に向かう為、廊下を急いでいると手前の十字路の右側から、バリバリッという音とともに悲鳴があがり真っ二つになった兵士が吹っ飛んできた。

「これは、一体……焼け焦げている?」

すると、煙が充満する通路の右側から大きな影が現われ、行く手に立ちふさがった。見ればハサミをビームカッターに改造した、巨大なサワガニである。

「ヒヒめ! 貴様、 

 よくも、父を殺してくれたな!覚悟しろっ!!」

俺を見つけて感極まったのか、泣き喚いてハサミを振り回す。

「フン、下等動物が! だまされる方が悪いのよ!!」

俺はニヤリと笑うと、ビームソードを抜いて相手に切りかかった。



(了)



※お気づきと思いますが、「サルカニ合戦」です。



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