小学四年生の舞は父を喪い、母親と二人暮らし。でも今の生活も悪くない。毎日宝探し(おやつをしまった引き出しの鍵をお母さんが隠し、それを探す)ができるし、近所に住む従兄の優一兄ちゃんがよく遊びに来るし。優一兄ちゃん曰く「絵本の世界」の毎日。
だけど最近、それは次第に綻んでいく。鍵が置かれていた場所の問題。お化粧に力を入れてきれいになっていくお母さん。そして、教室で同級生から言われた言葉。起きた事件。担任教師の理不尽な反応。
小さい女の子から、少女になりゆく時間。そこで生じる精神的な肉体的な、あるいは周囲との間に発生する、軋み。安定した心地よい期間は永遠ではなくて、環境はこちらの願いとはお構いなしに変化していく。
そこで終わればただのスケッチのようなものだが、この作品はそこでもう少し先へ踏み出してくれる。舞はしっかりと支えられ、終盤の展開は痛快だ。そしてラスト、優一の言葉が冒頭と気持ちよく対応する。
きちんとした構成の短編。読後感も温かくておすすめです。