第104話(2)
♢♦♦♦
んん! ん~!
ふっふー! ふふんん!!
むぉ! んむんんー!!
まるで芋虫みたいにはいずり回ってる、マヘルナの王族達。それを見る俺も趣味が悪いと言われそうだが。第三王女リーレイ以外はここに王族が揃っていることになる。ただ、この芋虫状態の連中と対話をするのは骨が折れそうだ。牢屋の中にあったオルクスが設置したポータルの赤い
地下牢の番を外に出して俺とギースだけじっと待っていたが、オルクスの仕事は正確だ。整備士達も情報を持った人間は全員始末したのだろう。さすが、だな。子供にさせるようなことではないと思うが、中身は俺と似たような中年の生まれ変わりなのだ。しかもゲームデザイナーなんて、夢のある仕事をしてた奴だ。頭の回転も早いし応用が利く。味方にして本当に正解だった。
女神様からの信頼もあるようだし、悪い人間ではないと思っていたが……。俺の考えを変える切っ掛けを作ってくれ、国の発展にも貢献してくれている。もしも俺が愚かにも、あいつの敵対側であったならば、目の前に転がっている芋虫のようになっていたのは俺だったかもしれないな。くわばらくわばら……、ん? この言い回しは少し変か。
さておき、見たくもない鑑賞もそろそろ飽きて来たな。
「門番、夜勤の近衛を連れてこい。今から込み入った仕事がある。何も聞かずお前は何も知らない。何も見なかった。いいな? 夜勤の近衛を連れてくるのがお前の仕事だ。分かったらいけ!」
「はっ!」
門番は外で待機させていた。オルクスの従者がいて警戒することもなかったしな。番人は二人いるが一人が直立不動で、片方がその場を逃げるように近衛のいる場所目掛けて走り去って行った。流石に国のトップと頭脳を二人きりにしていなくなることはなかった。まあ、当たり前だが。ふう……、長い夜になりそうだ。
♢♦
あれから場を整えてさほど時間もたっていない。信のおける近衛が滅多に使わない堅牢な広い地下牢で整列している。どこにいるかわからないが、オルクスの従者もいるはずだ。下手な姿だ見せられんな、気張っていくしかあるまい。
「ご無沙汰している。マヘルナのリーバッハ国王殿」
「その声は……」
「流石に分からんか? ユピクスのフォルトス・レイノルズだ。最後に会ったのは10代前後だったかな?」
「レイノルズだと!? 馬鹿な!? ユピクスが我が国に――」
「能書きはよいのだリーバッハ殿よ。わしの言いたいことはそれほど多くない。そなたのところの王族は、全てユピクスの城の牢屋におるよ。手荒な真似などしておらんし、誰も負傷したり死んではおらん。
頭を冷やしてよく聞け? そなたの国はユピクスに敗北したのだ。現にデマンク砦にいた第三王女のリーレイ王女と補佐の将軍を捕虜にして、デマンク砦は占拠した」
「そんな嘘が通じると――、あがっ!」
俺はリーバッハの頬を力任せに圧迫させ、言葉を止めさせた。
「能書きはよいといったろう? もう格式ばった形式はやめよう。お前のところの第一王女か第二王女どちらかをこちらの第一王太子と結婚させ、そなたには隠居してもらう。ん、意味が分からぬか?
属国よ。それがそなた等に残された最後の道だ。嫌なら死ぬしかあるまいが。さて、返答を聞こう」
「目隠しを解いてくれ、そんな話をこんな状況で呑めると思うか?」
声に焦りはあるがさほど愚鈍ではないか。王としての威厳というよりは、虚勢を張っている感じはするがな。闇雲に声をあげないだけマシだろう。経緯の混沌に頭を働かせようとしている。周囲を一瞥して確認が済んだのだろう、ギースが俺に頭をゆっくり下げて見せた。
「ふむ、よいだろう」
俺がリーバッハの目から魔道具をはがしてやる。するとこいつは、視界が次第に定まって来たのか目を瞑って頭を振り始めた。そんなことをしても無駄。視力が回復するまでそれなりに時間がかかると思うがね。
近衛にリーバッハを預け、俺は用意されている簡素な椅子に座って時間の経過を待った。ちなみに、近衛以外にも近くに宮廷魔術師のアンジェリカ・アンスパッハ及び、アーサ・アーチボルドが控えている。必要護衛でもあり、この後に重要な人員でもある。
「ば、かな。そこにいるのは、王太后! それに王妃! 子供達もいるのか!?」
「第三王女リーレイ殿や将軍、その他の捕虜は別の牢屋におるがな。それで状況を理解したか? 前もって誤認を解いておくが、ここはユピクス国にある地下牢だ」
「……………」
「魔術による幻影ではないぞ」
実は幻影ではないが魔術が使われている……。いや、嘘じゃないぞ? 宮廷魔術師の二人に指示して、少し離れた場所にいる本物の人物投影しているだけだ。
「………信じられん」
「めんどくさい奴だ、本物かどうかなど見ればわかろう。まだ疑うなら声を聞かせてやろうか」
そう言って俺は近衛に命じて、捕虜になっているデマンクの王族数人の口につけている魔道具を外させた。
「ケハッ! ハァァ、ハア。いったいどうなっておる?」
「何が起きたの!? なんで何も見えないの!?」
「何なんだ一体、何故身動きできない? 拘束されているのか!!」
「私を抑えているのは誰です? 気安く触れるな、私を誰だと思っているの!! 陛下、陛下はどうされたのですか!?」
「賊に捕らわれたの!? 皆いるの? 怖い、怖いわ!」
拘束具が付いているので身動きができないし近衛が押さえつけているが、状況が呑み込めない状態で焦っている声が数上がった。
「バカなっ! 皆、本当に本物だというのか……」
一方状況を否応なく飲み込ませられたリーバッハの奴は狼狽しているな。無理もないことだな。俺が同じ立場なら同じような姿をさらしているだろう。だが同情などしない。ここは畳み掛けるところだからな!
「さあ、返答は? 5つ数える、返答を言わねば端の者から切り伏せる。ひとぉーつ、ふたーぁつ」
こういう時は、相手に猶予を与えず攻め落とす。語気を強めて相手を委縮させるように振舞う。
「ま、待て、いや待ってくれ! 外交を、一先ず外交を!」
「先に休戦協定を破っておいてよく言う! みぃーっつぅ」
「リーレイが、リーレイいたからなのだ! 全てはあの娘の力がいけなかったのだ! 特別な力があると、それにすがりたくなる気持ちは湧いてこよう。それが外交を歪めたのだ! だからやり直しを! お願いす、致す!」
「娘の所為にして逃げるか、この卑怯者の愚王め! よぉーっつぅ」
よりにもよって娘の所為にするか。オルクスから聞いていたが、側室意外とは家族仲は良いらしい。じゃあ、なんで側室とったんよ? いや、まぁ俺も人のことは言えんか。外交や国内事情でせっつかれたか、当初は愛していたとか、所謂国の闇の部分だな。
「わ、わかった! わかったから!」
「何が分かったのだ? いつーつぅ! さあ、宣言通りに端の者の首を――」
「結婚でも隠居でも何でもする! させるっ! だから、どうか! どうか、家族の命ばかりはお助けを!」
その愛情のいくつかでも、側室やあの娘に向けることはできんのかね。ふう……、しんど。毎度こんなことしてたら、俺の胃にいくつも穴が開くな。とりあえず、この茶番的な話を終わらせねばならん。
「……さて、話はついた。ギース宰相、書面を持て」
「はい、フォルトス陛下」
外面的にはどうか知らんが、内心俺に悪役って似合わねぇーなと思う。これでも前まではへっぴり腰の腑抜けなどと呼ばれていた身なのだがな。まあ、そんな事よりもマヘルナの王族を含め、それ以外を黙らせる材料は揃った。汚い真似をした割りに得るものは……。あると言えばあるのか。俺の風評はどうなるんだろうな。
今更気にするべくもないが、耳障りな連中はさっさと抑えて、あわよくば始末しておくのが良いだろう。その辺りはギースと話を詰めていくべきだが、手が回りそうにないかもしれん。暗部にももう少し予算を回すか?
ちなみにだが、リーバッハの奴が愚鈍で判断を下せなかった場合、投影されていたマヘルナの王族達の首をはねる、幻術を使用してもらう予定であった。適当に殴打させて呻かせてやれば声だけは本物だ。声に合わせて幻術では首ちょんぱしてるところが映されるはずだった。まあ、必要はなかったがな。
とりあえず、目算で明日中にしないとならん事が多すぎて頭ではまとまらん。優先順位を付け、配下にリストをこしらえておいてもらうしかあるまい。マヘルナの宰相以下頭脳労働者は死に物狂いで働かされるだろう。俺にじゃなく、バインクにだが。あいつが学業を卒業した年齢で、まともに育っていてよかったというのもあるが、バインクの性格から捕虜の王女の中から嫁を選べなどと言われて嫌な顔をする。そう言うイメージがわかないのは、育て方を間違えたからだろうか。
ウルタルの場合、顔では苦笑しながら心中穏やかではいられなかったかもしれん。バインクも国王になる器であるのは間違いない、と思う。ただ、形式上ウルタルが王位継承一位なので、俺の引退後に一騒動あるかもしれんと危惧していたが。バインクもマヘルナで国王として立場を固めれば、これといって憂いはなくなるというものだ。
と、現実逃避も程々にせんとな。今はそう言うことよりも他に山ほどするべきことがあるのだ。明日の朝にヒーと言わせてやるからなオルクスよ。今はぐっすり寝ているが良い。
♦ ♦
ヒォェエー! なんじゃこりゃ!? 朝起きて早々に見せられた連絡と書類。どういう交渉したらこんな大盤振る舞いな契約が……、これって一種の脅しか? いや、そもそも外交を突っぱねていた理由を粗方無くしてやったんだ。後は人同士の戦争か抗争で領土を削るのかと思ったら。国ごと行くのか。そりゃそうか、王族を全部拉致したのだからこういう結果になっても不思議じゃないか。だが、バインク殿下が捕虜の姫殿下の第一か第二のどちらかと結婚するんだから、なんとも言えない心境だ。
こういう結婚ってなんていうんだろう。政略結婚で落ち着く物なのかな? 日本の戦国時代のようだ。いや、それにしたって、僕がやる事多すぎじゃね? 僕この国の役職、何貰ったよ? いや何にも貰ってないはずだ。砦の加勢に行ってこいって言われたから、学業を棚上げしてまでやったって言うのに。なんだ? 今が冬休みだからか? 今の内にこき使ってやるとで思ってるのか? そうだろう? ええ?
あー、今凄くケーキとか甘いもの食べたい。何この書類の量。えっと、とりあえず僕の役職何なのか答えて! 王城の中にある一室を執務室代わりに軟禁状態ってどういうこっちゃねん! 書類の内容もなんじゃこりゃ。うちの商店を貴方様の領地へ? うちの領地に村しかねーよ! 国により良い屋敷を? 間に合ってんよ! 職場に人が足りていません? 人事に言えよ! 仕事が増えすぎて首が回りません? 今の僕も同じだよ!
何なんだこの書類は、阿保か! あー、宛名、宛名どうなってる? 宰相補佐……、はあ!? ふざけてんのか? いつ決まったよその人事? 昨日か? 昨日の深夜か? ああん? 誰だ、こんなふざけた書類持ってくんな! これ、一々目を通すの? 今日中に? はあ!? はああ? 今日何日だよ? 12月20日だよ。休み後10日しかねぇ! 宰相補佐ってなんやねん! とりあえず、飛竜とペガサスの乗りて以外全員集めろ!
♦
なんか、暗部から仕事手伝ってって依頼が来たよ。うちの忍びやくノ一達が連れてかれてしまった。他の職も、なんだかんだと理由を付けて手伝いに出払ってしまった。残ってるのは執事やメイド隊の面々。
兎に角積み上げられた書類に目を通す! ノートPCを開いて、仕分けフォルダに仕事を振り分けながら書類作成しつつ、僕の仕事に必要なスキル並列思考、思考加速、特殊視程、危険察知、アポーツ、闇魔術の影の手、
だっれだバッカみたいに書類をうちによこした奴。後でぶん殴ってやる。本当に困ってるって内容の書類がそれに紛れ込まないように、神経をすり減らしながら、能力をフル稼働する。
それと、書類を精査して、阿保と馬鹿の書類には名前を記憶させて、次に送ってきたら降格する旨を手紙に添えて、従者にある程度たまったら、城にペガサスと飛竜で運搬してもらう。忙しそうにしているのは基本僕だけだが、従者はこういった判断には向かないし、そう言う作業はメイド達の方が得意なんだ。単純作業なら従者達は誰でも起用だけどね。用が無い従者には自由にしてもらっている。くそっ、かれこれ6時間は朝から同じ作業の繰り返しだ。
それに時折来るようになった、面会の挨拶。やめろ、今の僕に作業を止めさせるなら代わりにやってもらうぞ? 面会内容が真っ当なものであれば仕方ないが、今日は都合が悪いと名前を控えて後日に回す。
もしかしてでなくても、城じゃいつも同じような事が起きてたりすることはないよな? いや、ちょっと気になる。飛竜とペガサスの乗り手に作業しながら聞いてみたところ。
「城内は慌ただしく人が行き来していました」
「聞いたところでは宰相様は面会を拒否されているとか、国王陛下は昨夜遅くまで仕事をして、現在は王妃と殿下が仕事を補佐されているそうです」
「今回の人事の件について、宰相様、国王陛下、王妃様、三名から手紙をお預かりしております」
僕は5時間ぶりにソファーの背もたれに腰かけて、手紙をゆっくり読むべく飲み物を頼んだ。ついでに何かお腹に入れておきたい。まったく、なんで僕がこんな目に。
フォルトス国王陛下からは。
「属国にしたら、マヘルナ国の負債がドンと来た。ユピクスで補うつもりはないが、処理しなくてはならぬことが山ほどできたのは言うまでもない。向こうは問題だらけで対応に追われている。そちらにしわ寄せがいくだろうが助けると思って頑張ってくれ。学院が始まる前には開放するつもりだ。健闘を祈る」
アダレード王妃様から。
「陛下が貴方の偉業を高く評価すると共に、貴方への仕事の割り当てが増えた事、かなり気にしてるみたい。許してあげて欲しいわ。それと、マヘルナのことなんだけど、問題が大きすぎてギース宰相が直接指揮を執るみたい。バインクや他の面々を連れてマヘルナに行くらしいわ。ギース宰相が忙しすぎて倒れちゃったら不味いので、ユピクスの雑務が4、5割方貴方へ仕事が行くでしょう。こっちも大変なのよ。助けると思って手伝ってちょうだい。見返りは後で検討します」
最後にギース宰相様から。
「急な人事で申し訳ない。褒賞や報酬、見返りは必ず後で検討する。今だけは、しばし耐えてほしい。現在こちらでは、マヘルナで抱えている問題について把握に努めている最中で、とても自国の事に回せる手がない。馬鹿と阿保の書類は適当に処理し、本当に必要な書類にだけ目を通し、私まで裁可を書類と同封で送ってほしい。毎度ながら無茶を頼むが、助けると思って勤め上げてほしい」
助けると思ってって、これ断り辛い一文は共通認識かっての! ああ、やってやんよ! 後でふんだくれるだけふんだくってやる! ていうかね、なんか前世の仕事のデジャブ感が半端ないんだ。全然違うんだけど、ゲームのアップデートやバグ修正、メンテナンスや要望の精査。
ヘルウェンでベルセリさんと仕事した時も思ったけど。変な役職や仕事につかされる僕って、お決まりのライフスタイルじゃないんだぞ。
過去の仕事現場の修羅場が今ここに。いや、なんでこうなったんだろう感しか頭に浮かばない。諦めの境地に似たような何か……、悟りが開けそうだ。さっきまでの変な募りが薄れていく。はあ、やらないと始まらないし、とりあえずやるだけやるかねぇ。
「ふう! 休憩も終わりだ、仕事に戻る。夕食までは止めないでくれ!」
落ち着いたら僕、自分の領内視察に行く。……これ絶対休み中動けないフラグだよなぁ。トホホ、まとまった休みが欲しいよ切実に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます