第99話

 フィナトリーに新たに派遣されて来た巡察使、ドミニク・オンコン殿の助けも借り、領の資料を引っ掻き回して正常にする作業が難航しながらも、漸く目途が立った。最初はどうなる事かと思ったが、夏の長期休みを残して学院に帰ることができる。


「やりましたな、ヴァダム伯爵。これで何とか、領地の衰退を未然に防ぐことができそうです」


「いや、来てくださって助かりました。僕だけではこうもトントン拍子には行かなかったでしょう。感謝します、オンコン殿。ベテラン巡察使のわざをこの目でしっかり見せて頂きました。」


「なに、巡察使の仕事の一貫です。最初は私とて聞いていた話で、これより酷かったらどうしようかと背中に冷や水を流して来てみれば、貴方が迅速に行動しているではないか。これなら何とかできると確信しました。没収した資金と前代官の借金を換算して、またこちらに届けようと思いますが?」


「実は陛下と約束がありまして、ヘルウェンにおもむかなければなりません。契約の期日が迫っているのです。事を荒立てない為にも僕も、一度ユピクスに戻ります。書類は巡察使側から提出して頂いて、国からの返済や資金は後に頂くことにしますので」


 なるほど、そう言った巡察使の彼と一緒にユピクス本国へ戻る事となった。こちらは彼の連れてきた補佐役達が後を引き継いでくれるので問題ないだろう。それに従者達もいるからね。



 ♦



 一刻程で本国に帰ってきた僕等一行。まずは謁見の間で国王陛下に報告をし、国王直々に謝罪と必要に応じた資金と別に報奨金を頂いた。まあ、貰えるものは貰うんだけれど、貰い過ぎじゃないかと思っている。だが。報酬としてもらった領地が、実は不正で衰退ギリギリの領地だったなんて、報酬に出した国の顔に泥を塗った様なものだ。それは勿論王族にもかかる泥である。それを、すまないの言葉一つで済ますこともできないのだろう。


 とりあえずその話は一旦けりがついたので、話を進めようと促すと、陛下は巡察使を下げて宰相様と王妃様を呼んだ。


 今日は偉い人に会うばかりの日だな。等と思っていると、飛竜の速度で目的地にいかほどかと言う話になり、約2時間もあれば余裕が持てるという事を告げると、今から準備をするということになった。おいおい、大丈夫かと思っていると、準備が進められている間に、飛竜一頭にはヘルウェンに先触れを出し、有無を言わせず迅速に契約にある事に当たるという。


 と言うわけで早速、飛竜を飛ばして現地に直行である! いや、奥の手を誰にも見られたくないからという事らしいのだが、2時間の空の旅を楽しむというよりは、陛下は時間に迫られてるから急げ急げと言わんばかりである。



 漸く現地についたところには印が建てられた岩山が一つ。


「これがそうらしい。じゃあ、早速やるぞ。オルクスは一面をサイレントで覆ってくれ。それとアダレードの変換に魔力を頼む」


「何に変換しようかしらね?」


「何でもいいさ」


「良ければ木に変えてください。不足がちですから」


「じゃあ、やるぞ。スキル、一閃光剣いっせんこうけん!!」


「オルクス君、魔力ちょうだい」


「はい、どうぞ!」


「来た! キタキタキター! スキル変換『木』よ!」


「……うわぉ……速いですね。一発変換じゃないですか」


「オルクス君の魔力があってこそよ」


「腕輪の魔力半分持ってかれましたからね……」


「欲しかったら回収しとけ。まだこの辺は人がいないらしいからな。開拓もこれからだろ」


「それは嬉しい。ではお言葉に甘えて……」



 ♦



 山一つを木に変換した王妃は、僕の魔力でスキルを使ったので疲れ一つないらしい。僕はたくさんある木々を、従者と共に急いで回収し、そこで適当に雑談をしていると上空から一頭の飛竜がこちらに向かって降下してくるのが分かった。


 ある程度の高さから、飛竜の背から飛び降りてきた人物がいる。


「よお、要求より遅かったじゃないか。遅延の影響はそいつか?」


 そう言っておりてきたのはモイラアデス国王、上空を旋回して降りてきている飛竜にはヴァレン宰相様が乗っているらしい。


「噂は届いているだろう。不徳の致すところ、誠に恥ずかしい話だ」


「まあ、約束は守ってくれたようで感謝するが。どれどれ……、おお、これは」


「見事に真っ平な船着き場の土台ですな。確かに確認いたしました。この場で書類をお渡しいたしましょう。どうぞ」


 それを確認してヴァレン宰相様からギース宰相様へ、契約書が渡された。


「待たずして受け取れるのは有難いですな」


 ここからどうやって船着き場を作ればいいのか、そちらから知恵を貸してもらいたいのだが? そう言ってくるモイラアデス国王、ヴァレン宰相様はどうでしょうとギース宰相様に尋ねている。働き手の給金さえ持ってくだされば問題ないかと、そう返すギース宰相様。



 あ、僕は前より思っていたことを思い出した。


「そういえば、前から思ってたのですが、言水球げんすいきゅうの中継地点を設置してはいかがですか?」 ※(43話)


「中継地点とな?」


「ほう?」


 僕はヘルウェンとユピクスのやり取りが簡単になればもっと、何でも活発に行えると思ったわけだが。


「要人の話し合いなど手紙で何回も往復しなければならないのを、今のように直接やり取りするには、言水球げんすいきゅうを中継してやり取りした方が時間を魔力で補うだけですから、問題ないのでは?」


「確かにな。それは良い考えだ」


「ただ言水球げんすいきゅうの受信距離を計算しなくてはならんな」


「それは僕がやりましょう。言水球げんすいきゅうがいくつ必要でどの距離で設置すれば良いのか。管理体制はどうすればいいのか。その辺りは追々詰めていけばよいかと」


「お主、また自分の仕事を増やしてないか?」


 フォルトス国王からそんな突っ込みを受けた。


「大まかな作業ですから、それほど時間もかからないと思います。管理は領主か代官に任命すればよろしいと思うのですが」


「今のユピクスでは、信用のおける領地を経由してもらいたいところだが」


「それはヘルウェンとて同じこと、だが中継が成れば!」


「連絡がとりやすくなり、何かと都合が良いのは明白!」


「異議なし!!」


 宰相様二人は盛り上がっている。そりゃ国同士のやり取りを担うのだから、手紙よりも直接対峙した方が互いの意図が読みやすい。これはちゃんと成功させなければならないな。


「しっかり、最後までやって見せますので、それまでは飛竜便を使ってください。それよりも、各国の首脳が護衛もつけず雁首揃がんくびそろえていてはダメでしょう。お早く飛竜に乗ってください。現場は写真で両国に送りますので」


「そうだないつまでも国を開けるわけにもいかんか、では行くぞ。さらば、モイラアデス殿」


「おう、そちらもよろしくな。フォルトス殿よ」



 国王が対峙する場面など初めて見ることだ。凄く軽いやり取りをされていたが、それだけ両国の中が良い方向に向いているという事だと思う。さて、僕は現地に残り、写真を撮ってから、ヘルウェン経由でユピクスに帰還することにする。写真を繋ぎ合わせて言水球げんすいきゅうの中継地を決めなければならないからね。やっつけ仕事みたいだけど、大まかな場所を決めてしまえば建設は容易にできるだろう。僕の計算では来年中頃よりも前に出来上がるんじゃないかと思うんだけど。


 それよりも木を大量に収穫できた大きくプラスだ。両国の国王が互いに手の内を見せるような発言はしなかったし。きっと両国でいい関係でいられるはずだと願いたい。そうなる様に僕も動かないといけないな。


 それはそうと木々を大量に手に入れたのだ、船を作るのに役立ててもらおう、少し大掛かりな船を作って持って丈夫で長持ちなのにシフトチェンジしてもらおう。さっき作った船着き場の土台。あそこに二隻でいいからうちの漁船用のドックを二つ貰う予定だ。契約でしっかり貰うって決めてある。これは奴隷をまた購入しないといけないな。それも頼れて信用できる者等を。難しいが人手を探すしかない。ヴァーガーに文を出そうか。


 それでは飛竜でひとっ飛びしてもらおうかな。



 ♦ ♦



 9月の2日、休みが明けるまで残り8日、厳密には7日である。僕が今追われていること……。夏休みの宿題である。馬鹿々々しいと思うだろうが、今更である。やってる暇がなかったのだ。勘弁してほしい。まあ、基本は教科書を押さえての基礎問題ばかりだから、そこまで慌てることもない。のだが、何かやり残した感があって嫌なのだこう言うのが。


 前世の時の宿題ってどのタイミングでやってただろう。確か僕の場合は親が厳しかったから夏休みの序盤で終わらせていたような気がする。だがしかし、今の僕の親は基本放任主義でいらっしゃる。なので今の僕の姿を見たらなんていうだろうか。


 はあ、何となく情けない感じだ。だが、もうちょいで終わりだ。自由研究なんて魔術の構築でいいだろう。空間収納を魔術で出来る奴。あれの記述が見つかったのだ。まぁ、ちょっとめんどくさくはあるがやろうと思えばやれないことはないという程度の難易度である。


 これをヘイリー王女に見せたら、彼女のやる気に火がついてしまった。おーい、君は宿題とかないのか? 彼女もう16歳で卒業まで後2年なのだそうだ。うらやましい限りだが、さすがにやってないことはないか。ふー、終わったぞ。


 それからさらに2日たった頃、僕に朝から念話で、だずげで~と、彼女が宿題をやってないと暴露してきた。おいー、何やってんだ王女……。


 魔術にのめり込んでいたところを、魔術師筆頭が告げて来たそうだ。さすが王女、今更夏休みの宿題とか騒いでる子等とは違いますね、と。それで、彼女は気づいてしまった。自分が仕事にかまけて宿題をそっちのけにしていたことを。僕と一緒で気づくのが遅いだけである。


 計算と読み書きをとりあえず手伝うことにして、彼女にケーキのお土産を差し入れする。こんなところ、兄妹達に見つかったらなんて言われるか。という事で自宅で宿題を片っ端から片づけて行っているところである。


 勘弁願いたい……、宿題が終わったのは3日後の昼頃である。宿題は、出たら初めに片づけてから動こう。僕はそう心に決めるのだった。


 結局休みが後3日しかなくなってしまったじゃないか……。いや、することはしたので後は調整くらいだけだけども、ヴァーガーのところに直接行くかね……。ヘイリー王女へ声を掛けると、疲れたように布団から手を振られた。どこの寝起きの悪い主婦だよ。と思いながら出かけることにする。


 そしてやってきました、ヴァーガーの店。僕が来るときって他の客が見当たらないんだけど、今日に限って言えば僕の前に先客がいたようだ。


「おや、オルクス様。ご来店ありがとうございます」


「勝手に見て回るし、先客を優先して良いよ」


「ありがとうございます。と言っても、あちらの方は特にこれと言って決めていないようで。オルクス様は、何か目的がおありですか」


「ああ、船乗りを探してる。男女関係なく漁業ができる者なら構わないのだが、いるかな?」


「それは良いタイミングで。良い奴隷が入っております。個室でご覧になられますか?」


「それがいいかな……。ヴァーガー、僕は何故あっちの客に睨まれているのだろう? 今日は非番だから急がなくていい。ヴァーガーは、あっちの客の相手もしてあげてくれ」


「はあ、ではまた後程」


 僕はこの店で定席となっている、地下にある部屋におもむく、そして連れてこられる奴隷を品定めしていく。ちなみに彼等が奴隷に落ちた理由は、漁業ができる程の船が何者かにより沈められて、その借金や返済に困ったからだとか。それって凄くデジャブというか、フィナトリーの事を思い出すのだが。


「船の仕事、主に最新鋭の船での漁業に興味はないかな?」


「俺等をおちょくってるのか? 俺等はそれができないから奴隷落ちしたんだぞ」


「僕の名はオルクス・ルオ・ヴァダム。これでも伯爵なんだ。船の乗組員を探してる。それもとびっきり経験が高くて、最新鋭の船を乗りこなしてくれる船員を。自信がないならそう言ってくれ。最悪フィナトリーの船乗りを連れて行く予定なんだ。」


「お、俺等をなめんなよ。俺等は嵌められたんだ。フィナトリーの船乗りなんかよりも、荒波に飲まれてきた俺等に、扱えねえ船なんてねえ!」


「そうだ、船乗りなめんなよ? だが、お嬢がいねえんじゃしまらねえなぁ」


「そのお嬢って言うのは?」


「俺等の頭でさあ。別嬪だからな。他の買い手に買われたって聞いてる。お嬢は海の流れを見るのがすげえ上手いなんだ」


「あれは天性の勘ってやつだぜ。お嬢がいれば百人力、いやそれ以上なんだがなぁ……」


「そのお嬢って言うのがいればいいわけか。探してみる努力はしよう。船の操舵はそれで問題ないなら、欲しい人材だ。ヴァーガーに確認してみるか。それでそのお嬢っているのは名前は?」


「お嬢は、ラライカって12の女でさあ」


「12? 随分若い――」


「おらー! 店主! 店主はどこだ!?」


 えらい怒鳴り声が聞こえて来た。ヴァーガーが慌てたように対応に当たる声がする。とにかく僕は、目の前の船乗りたちの購入を決定して、ヴァーガーにラライカという女の子の居場所、できれば買い取りたいことを言わなければならない。そう思って、地下の部屋から、買い上げる奴隷達と上の階へ戻ると、怒鳴り声がダイレクトに聞こえて来た。


「ここで買った奴隷が一向にゆうことを聞かん。どういう教育をしている!」


「ここでは最低限、奴隷の身分になったものへの教育は施しておりますが。奴隷は何を拒んだのでしょうか」


「女を買ったのだから用途は決まっているだろ。雌犬に仕上げてやろうとしたのに一向に靡かんし、終いには俺の大事な、大事な息子を怪我させたんだぞ?」


「けっ、お粗末な息子だったよ。噛み千切ってやろうかと思ったね」


「なにを!? 貴様!」


「そ、それで、お客様はどうされたいのですか? 前に払い下げは、原価の4分の1と申しました。それでいいなら、払い下げ儲けましょう。ですがそれがまかり通らないならば、こちらは、1フォーンだって負けるつもりはありませんぞ?」


「なに!? そんな馬鹿な話が。俺は貴族だぞ? こんな店、即刻潰してくれる!」


「それは困る」


「なんだと?」


「ここは僕が贔屓にしてる店なんだ。そんな身勝手なことでつぶされる道理はない。払い下げるならさっさとやって他の店に行けばいい」


「小僧。貴族である俺に歯向かうか?」


「歯向かう。道理を曲げて好き勝手されるのは困るんだよ。分かったら消えてくれないか?」


「小僧!! 貴様の親は貴族かもしれんが、お前自身は――」


「僕はこれでも貴族だよ。それも爵位は伯爵だ。爵位を笠に着る気はないが、貴方の爵位をここで明らかにされよ。どちらに道理があるのかすぐに証明されるだろう。僕の名は、オルクス・ルオ・ヴァダム、伯爵位を持つれっきとした貴族だ。こちらは名のったぞ?」


「ぐっ、こちらは、カッズカン、カーシュン・カッズガン……」


「子爵です」


 ヴァーガーが耳打ちしてきた、ナイスだ。


「ほう? で、その子爵殿が、僕の贔屓にしてる店を潰すと? どういうことか分かっているんだろうな?」


「くそっ! 店主、金を寄こせ! 4分の1だろうと構わん!」


「店主、子爵に半額払ってやれ。僕は喧嘩しに来たわけじゃないんだ。事を大事にしない為に仲裁に来ただけだ。子爵も半額なら文句は言わないだろう?」


「そ、それは……」


「その分は僕が払う。お互いに損得は最小限にしようじゃないか? どうかな?」


「伯爵の善意に甘えよう。私も頭に血が上っていたらしい。奴隷一人の事で迷惑を掛けた」


「ならこれで、手打ちだ。子爵ももう少し世間体を気にされた方が良い。民衆の言葉などたかが噂、そう高を括るのは良いが、実際の影響力は計り知れない。もう少し視野を広く持つべきだと思う。店の外を見てみると良い」


「なっ!?」


「店主、少し急いであげて。流言が流れるのも時間の問題だろう」


「はい、では子爵様、奴隷の引き下げ、お代金でございます。またのご来店をお待ちしております」


「世話を掛けた」


 そう言ってお金を受け取り、子爵は馬車で素早く店を後にした。



「お嬢!」


「おう! あんた達! って買われちまったのかい?」


「へえ、この伯爵様に船乗りとして働かないかと」


「なに!?」


「坊や! いや、伯爵様! あたいも買ってくれ! 船乗りとしての力量はこいつ等とは比較にならないほど低いけど、海流や潮の流れをよむのだけは得意なんだよ! 一緒に買ってくんなよ!」


「ヴァーガー」


「何も仰らずとも分かっております」


「待て! その女は俺が目を付けてた――」


「すがらなくていいから、早く登録を済ませておいで」


 そう言ってラライカを送り出した僕と、自分の発言を無視された一人の少年。年は10歳くらいだいだろうか。僕はすかさず相手のステータスを読み取る。


「その目の異能は女神様からか? 君には相応な能力ではないと思うが、この世界に来て間もないのか。お金をどう得たのかは知らないが、地盤を固めるのにまず奴隷、か? 小説のセオリーか、それとも君の中でのシナリオではそれが王道なのかい?」


「何で女神様の事を……」


「察しが悪いな、僕は君の先輩だよ。さ、握手でもしようか」


「まさか、同じ転生者――」



 彼と手を繋いだ瞬間、彼は物言わぬまま倒れ伏した。


「記憶を読ませてもらおうと思っただけなのだけど?」


『女神様が望まれた転生者ではなかった、という事だと思われます』


「そうであっても、害悪になるかなんてわからないじゃないか?」


『女神様の判断では、と言いますか。女神様が対峙した際に、彼は女神様の怒りを買ったらしいのです。それで、貴方と接触した際、女神様が能力の譲渡と、廃人になることを決定されました。定めです』


「何したの彼……、いや、彼の記憶を読めばわかるのだろうけど、読みたくなくなって来たな。彼はとりあえず廃人になったと? 巡回兵に引き渡すべきかな?」


『それはお任せします。譲渡された能力を確認されますか?』


「後でいいよ、とりあえず彼が無残すぎる。廃人じゃなくても多少元に戻せないのかね?」


『彼が神殿か教会に行けば、あるいは……。貴方は、それを心からお望みですか?』


「彼の生い立ちを知らない身としては、哀れではあるかな。性格に難があって、女神様の逆鱗に触れたって言うならもうこのままで良いかも。それこそ任せるよ。それに、彼は僕の邪魔をしようとしてたみたいだし」


 結局、彼を巡回兵に引き渡す様にヴァーガーに頼むことにした。



 ラライカにはとりあえず、買った奴隷全員で屋敷に向かうことになった。代表としてラライカ、それに代表の男性でラライカの叔父であるキャンカーという男性に話を付けることになった。


「で、あっしらは、そのヘルウェンの新しくできる港で、仕事をすればいいと?」


「そう。宰相様には二つのドックを好きなように使って良いと許可をもらった。今のところ漁船は二隻だけど、大型船だ。貴方達ならそれで十分仕事ができるものと思ってる。あー、それと船は今フィナトリーで作ってもらってる最中。良ければそちらに移動して、自分達好みの船にするように口出ししても良いだろう。資金や資材は僕が持つからね。頑丈で長年持つ耐久型を発注中だ。どうする? 飛竜なら今日中に移動もできる。宿泊も場所を確保できるだろう」


「夢のようなこったな……」


「行くっきゃないだろ、船長!」


 行くか! と声を上げたキャンカー船長。ラライカはもう、何が何でも僕から離れないぞとしがみついてくる。


「分かった、話は全部本当だし、ちゃんと奴隷としてだけで給料も払う。だからそんなにくっつかなくても逃げやしないよ。食事も向こうで摂ろうか。飛竜4頭もいれば何とかなるだろ。出発の準備をする前に、先に衣類とか買い出ししてきておくれ。荷馬車を渡すから、僕の従者と一緒に行って来ると良い」


「何から何まで。これ夢じゃないよな? な?」


「夢じゃないさ、甘い紅茶をさっき飲んだばかりだろ? 君は女の子なんだ必要品もあるだろう、従者は4名つけるから行っておいで。無駄遣いはいけないが遠慮はいらない。これでも僕は稼ぎ頭なんだ。無用な心配はいらない。分からないことは従者に聞いておくれ。さあ行った行った」


 僕は急かす様に二人を荷馬車に移動させる。



 休みが後3日となっている僕は、単純に計算して今日と明日をフィナトリーで過ごして、最後の一日をヘルウェンの屋敷で過ごすことに決めた。何かあれば念話とPCで何とでもなる。情報交換はうちが最先端を行くだろう。まあ、チートをもらっているので当たり前と言えば当たり前だけどね。



 最後の一日はラクシェ王女とイチャイチャするのも悪くはないだろう。全然かまってあげてないからねぇ。少しくらいそう言う時間を取ってもいいんじゃないかな? そう思う僕であった。その頃の僕には、もうヴァーガーのところで会った転生者の事などすっきり抜けていたりする。現金な奴だな僕は。



 ♦♦♦



「まさか、言水球の話が出るとは驚きですな」


「両国が良い関係であるからこそできることだが、彼奴オルクスがやるといったのだ。ちゃんと考えてやるだろう。褒美をまた考えねばならん。任せるぞ?」


「もう、差し出せるものは何も残っておりませんぞ? 役職も爵位も領地も、王家の血筋も与えたのです。今更何を与えてやれるでしょうか?」


「知らん。そう言うのを考えるのがお前の役目だろう?」


「ギース殿も同じ立場でしょうな。言水球が見事繋がって実用出来た際に二人して相談してみます。で、陛下はどうするのです?」


「ん? わしに何かあるのか?」


「お忘れですか? ワイバーンのテイムがもしもなった時、どうされるおつもりですか?」


「うお、やべえ。わしも考えないといかんのか。無い知恵を絞っても埒が行かん。最悪は王太后に頼むしかないかもしれん」


「ご自分で要求なさったのですぞ? 応えてくださるでしょうか?」


「くそっ……、おーい、飛竜の。お前ところの主は何か欲しいものはないのか?」


「我が主は……、そうですね。欲しいものは何でもご自身で手にしようと思いつかれるので、主ご自身に問われた方が早いものと思われます」


「だとよ。確かに本人に聞いた方が早いだろ」


「まあ、彼は無茶な要求はしてこんでしょうが。はあ……」



 その時、場所の違うところで、ギース宰相もまた、同じように悩んでは溜息をついていたことなど、誰も知りはしないだろうことである。

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