第98話

 8月の12日、晴天である。呼んだ奴隷達の働きは順調で、先ずは村から通いやすい場所に教会を建設する話が持ち上がった。実家と同じやり方である。田畑の作業を終えた者等と治癒を受けて動けるようになった者達が加わり、土台から始まり骨組みを作り、と教会の下地を作ることになっている。


 ちなみにここの領地には以前よりシスターがいたが、高齢で代わりの者が後を引き継ぐ予定であったらしい。ただ教会もぼろく古めかしいので、作り直すという話になった。なので御神体だけ、仮設の大型テントへお引越しである。シスター達が住まう場所も仮設テントで補っているので、後は教会を新たに建てるだけの段になった。


 教会には身寄りのない子供もいるし、そのまま大人になった男女の青年等もいる。彼等の手前下手なものは作れないと、ルルスやマティア達を呼んでのピッチの速い作業ではあるが、あまりにも物事が早いと、それが普通になって危険だという話になり、ペース配分を落とし手の作業となった。普通にやればコンクリートなどの渇き具合などを入れても4ヵ月は見ないとダメだろうな。材料が揃っている為、それでも早すぎる建設作業は慣れた手つきで作業がされている。


 怪我をすれば、治療を受けれるのも人手が減らない理由の一つではあるが、教会と言う物を崇拝する村人からすれば、新たな教会は光を取り入れた真新しいものである。引退するシスターも涙していた。


 そして僕は、ポータルでヘルウェンの自宅とカイルナブイに建てた僕用の仮設テントを行き来する為の準備をした。領館にずっといるという事も考えたが内緒にしているポータルの事もあるので作業効率を考えるとこちらの仮設テントの方が便利である。まあ、今のところ使わないのだが。


 予定にしていた滞在期間、結局は代わりの代官や補佐役が執り行ってくれているのを眺めるだけなので、僕は水路の最終確認をしてから、今度はユピクスに移動する準備を始めた。だってすることがないんだからしょうがないじゃないか。1日の作業効率なんてたかが知れてるんだからね。


 なので代官達に引継ぎを済ませ、飛竜に乗っていざ空の旅へ。これも一日いらない飛竜での移動だ。中々快適な旅であった。ユピクスにある自宅のリホームも当然終わっているので僕が帰って来たところで従者達が出迎えてくれた。ヘイリー王女は城での王族として、あるいは宮廷魔術師として仕事をしているらしい。とりあえず念話を送っておく。


『やあ、ずっと放置してたみたいで済まない。ヘイリー王女、今大丈夫かな』


『あら、お帰りなさい。大丈夫、執務中だったから。そちらの滞在時間が早まったの?』


『うん、代官ができる人でね。僕抜きでもやってくれそうだった。少し早いけどこちらに来れたよ。何か連絡事項なんてあるかい? こっちは少しあるんだけど』


『じゃあ、悪いけれどこちらに来れるかしら、さっき執務を始めたばかりで出るのも変でしょ?』


『分かったよ。じゃあ、飛竜でそっちに向かうから、その足で執務室にお邪魔させて頂くね』


『お待ちしてます』


 そんな軽いやり取りをして、僕は再び飛竜に乗りユピクスの王城。その発着場へ降り立った。


「テコア、ゆっくり休んでておくれ。コルチールもたまには何か食べたいだろう。屋敷に戻って何か出してもらうか、注文でも取ると良いよ」


「ありがとうございます」


「GYUAA~」


 また後で呼ぶから、と僕は手を振って城の中に入らせてもらった。



 ♦



「いらっしゃい。長旅、お疲れ様」


「うん、飛竜だから全然疲れなかったけどね。労いは素直に受け取るよ。早速だけど、ヘルウェンからの情報だ。防音にするよ」


 僕は指を鳴らしサイレントを発動させる。


「で?」


「10月にヘルウェンの3年生以上の生徒が、魔力溜まりに遠征に行くんだけど、そこで一悶着あるらしい? 何か情報を受けてないかい?」


「……いえ、そう言った話は何も、他国だけどそう言うのほんと困るわ」


「魔力溜まりで何をするのかは知らないけど、場を混乱させて王族の命を狙う計画と、水面下で僕を陥れる計画が同時進行で行われるらしい。その容疑者はヘルウェンの貴族に、加えてユピクスの貴族も含まれているとか言うのが重大な事さ」


「大事じゃない……」


「僕の従者を30名、殿下達につける。それと少数別動隊で動かす予定だ。君の意見を聞きたい。どう思う?」


「相手の出方が分かっている以上妨害は容易だけど、その遠征事態を中止には?」


「11月に時期外れの模擬戦大会がある。時期をずらすというのは結局相手に準備期間を与えるという意味でかわらないからね。予定はそのままで決行してもらって阻止するのがベストだと思う」


「何よ、聞いておいてもう決めてるんじゃない」


 僕はおどけた様子で彼女に謝る。


「ごめん。そうむくれないでよ。相手の最終的目標、それが分からない以上手の出しようがない。接触できれば記憶を読み取れるんだけど、相手が誰かまでは分かっていないらしい。困った依頼を受けたものだよ」


「その表情で困ってますって、どの口が言うのかしら。でも、確かに不穏な動きよね」


「そちらで何か分かれば連絡を頼みたい。あ、これお土産」


 僕はインベントリからヘルウェンのケーキ屋で買ったケーキの箱詰めを開けて見せる。


「あらケーキじゃない。いいの?」


「勿論、苦労が絶えない君へ。こんな物しかないけどね」


「十分よ。最愛の人に労われて喜ばない女はいないわよ」


 そう言ってくれるともって来た甲斐があったよ。僕がそう言って自分で食器と飲み物を取り出す。


「私も空間収納のスキルほしいわ」


「魔術でもできるって本で読んだよ? 習得してみたら?」


「らしいけど、詳細な記録ってないのよね。父も母も持ってるのに、私だけないって、ちょっとやだわ」


「記録、何かあったらお土産にするよ」


「お願いするわ」


 多少の寛いだ時間。ミルクを入れた紅茶がさっぱりした、まろやかな風味を感じさせる。と、いつまでも寛いでいるわけにはいかないか。さて、僕は飲んだものをしまって席を立つ。


「もういくの?」


「予定は早まったけど、学校の休みは半分近く使ってるからね。今度はもっとゆっくり時間を取るよ。じゃ、お邪魔したね」


「行ってらっしゃい、気を付けてね」


 僕は後ろ向きに手を振って見せる。ケンプに連絡して馬車を回してもらい、自宅に一度引き返す。それでリホームされた家を軽く見て回り、自分の部屋を確認して、後はユピクスで購入する物をリストにまとめておいた書類。それを傍にいた執事のケルクに渡す。


 この国で困らない程度の発注量を屋敷に集めて、それをカイルナブイにいる者に引き取ってもらっておくれ。僕がそう言うと、かしこまりましたと彼はその場を後に出かけて行った。他の従者に連絡を入れて、リストの品を発注してくれるだろう。


 僕はと言うと、特にこれと言ってやり残したことはない。あ……、フォルトス陛下に今回のこと言ってなかった。ごめんなさいと思いながら早速念話を送ってみる。フォルトス陛下は今は会談中らしい、少し待ってくれといって10分後に時間を取ってくれた。


 陛下に連絡を入れて、ヘルウェンでの策略について意見を聞いて見る。と、なんとその首謀者割り出せるかもと言って、また少し待たされた。どんな手段を使うのかと思ったら。その話をしてきた貴族がいたことが記録に載っているらしい。話をしたってどういう意味だ? 策略をやりますよとでも言って来たのだろうか?


 そんな馬鹿々々しい話があってたまるものかと思っていたら。何でも10月にその周辺を巡回する貴族がいるそうだ。その人達は、何年もその魔力溜まりを稼ぎ場所にしているらしい。ちなみに、ヘルウェンにも同じ場所を毎年10月にあさりに、もとい討伐しに来る連中が名を告げて使命を受けてくるそうだ。


 そんなキナ臭すぎる連中に、何故焦点しょうてんが合わないのかヘルウェンの見落としか何かだろうか。うーん、何か嫌な策略を感じる。それと、魔力溜まりには特殊な薬を撒くと、魔力溜まりに強力な促進効果が出て、魔物の発生が一気に膨れ上がるそうだが、それは禁忌とされているものではあるが、魔力溜まりを鎮める為に必要な処置として開発された薬品である。


 そのことから、ユピクスでは毎年この10月が近づくと、こぞってその薬品が作られるようになるらしい。成分は簡単なので、薬師ならば大抵は作れるものだとか。そんなもの作らせて大丈夫なのかと言いたいところだが、魔力溜まりの発生が頻発する時期や場所があることが原因であるらしい。それを抑制する為の処置である。だから誰も文句など言いはしない。


 で、今回の討伐にユピクスから名乗りを上げたのが、モーン・ジニガン男爵と言う者である。魔物からは魔石がとれるし、国からは少ないが報奨金が出るらしいので、良い小遣い稼ぎ程度にはなるらしい。 


 貴族でもやはり、何もせずお金が手に入るなんて自適な生活なんて、そうそう送れるものではない。資金の工面に何かしら仕事をしないと貴族なんてやってられないんだ。それが魔物討伐でも魔石集めでも、報奨金目当てでもやることはかわらないからな。


 領地が繁栄していれば問題はないが、徴収ばかりで民が飢えては意味がない。その辺を上手く見て調整するのが領地をもつ者の役目なんだよ。ただ、爵位や役職に頼らずの稼ぎ方なんて、頭を使えば何とでもなる。特に、この世界には魔物がいるのだから。それを利用するのも人間の生業の一つである。


 ただ、それと学生を巻き込む企てとは別物で看過できない。フィナトリーに行く前にその貴族に接触できるのか、陛下に相談したら、明日であれば来るだろうという事であった。なんでも、通しておきたい話があるとかなんとか。きな臭いことだが、接触してみなければ何もわからないのだ。明日を待つしかあるまい。


 とりあえず、その日は城で滞在することになった。その間、フィナトリーの資料でも整理して時間を有意義に使うしかないだろう。



 ♦


 

 翌日、陛下に呼ばれてその問題の貴族と会った。場所は謁見の間の前、彼はとても驚いた顔をして僕をまじまじと見て来た。


「モーン・ジニガン男爵でいらっしゃいますか?」


 フレンドリーに声を掛けて握手を求めてみたが、相手は警戒を強めて来た。こちらの動きが悟られている? いや、ただの警戒だろう。


「いかにも、貴殿、は? ……もしや、ヴァダム伯爵殿、か?」


「ええ、何でも魔力溜まりに討伐に向かわれるとか。魔物討伐は責務ではありますが、手を焼くこともありましょう。その成果期待しております」


 彼の手を強引につかんで、記憶を引っ張り出す。見えた……。なるほど?


「無事の生還お祈りしております」


 僕がそう言って彼から不自然にならぬよう離れたところで、謁見の間への扉が開いた。僕は中へ用はないのでその場を後にする。


『おかげさまで、相手の記憶を読み取ることができました。完全な黒ですね。僕はこの案件をヘルウェンへ持ち帰ります。実行してから捕まえるのがお望みらしいので』


『難儀よな。まあ、そちらは任せるとする』


『はい。何も知らないふりをして、気楽に送り出してあげてください。僕の名を語って悪事を働くんです。相応のむくいをくれてやります』


『おお、怖い怖い。まあ、当然の報いか』



 ♦♦♦



 さて、伝書鳩で届けられた生徒会宛のオルクスからの手紙。


「事と次第は送りました。どう動くかはそちらでご随意にどうぞ、だとさ」


「彼の使う手品はいつも不思議だね。どうやって相手を見つけてくるのかわかりゃしない」


「だがしかし、恐らくは正確な情報なのだろう? ユピクスのモーン・ジニガン男爵と、ヘルウェンのアサーキ・ユッケス男爵。繋がりを洗って、後は僕等の出番か。オルクスも譲るとこは譲るんだね」


「元々、こちらが出した情報だからだろ。あいつの名を語る輩が出るのは時間の問題だった。これからも、彼奴の名を語る奴が出てくるだろう。その先駆けが、こいつ等ってわけさ」


「で、こいつ等をどうやって裁く?」


「そりゃ、現行犯以外ないでしょ? 薬品を撒いて逃亡したらその場で、あるいは、最初から動向をはっておくかするくらい?」


「芸がないがそれしかあるまい」


「こいつ等が、オルクスの名を語ってから動くの? 情報貰ったのに動きが遅くない?」


「とりあえず、薬品使用後に捕まえられるのかどうか。薬品の効果で場が混乱するだろう。陛下にお願いして暗部を出してもらい捕縛するとしよう。あいつ等もオルクスに借りがあるらしい。それと、捕まえたそいつ等からオルクスの名前を出してから薬品の不適切使用と詐欺罪を適用するか?」


「それが無難かな?」


「結局我等は、魔物の処理か、生徒の誘導で手が余ることはなさそうだな」


「オルクスならもっと上手く動きそうだけど、従者達に任せたらもっとうまくいったりしてね?」


「私は案外、それはいい手かもしれんと思うんだが。参加リストを見せてくれ……。トヨネとアイリス。この二人が入っているな。恐らく事情は伝えているだろう。彼女等に任せればいい」


「ドタバタの10月か、めんどいなぁ」


「それは俺も同感だが、仕事だと思って我慢しろ」



 ♦



 そんなわけで、フィナトリーに向かうことになった僕。ユピクスから飛竜でのんびり行っても一刻30分くらいである。実に早い空の旅であった。また同じこと言ってるぞ? さておき出迎えてくれた代官は、アーコン・クーガン代官殿。握手をしている間に、テコアとコルチールを自由にさせておく。


 結局やる事って変わらないからね。代官がどのような領政をしてきたのか、それに従い村々はどのように変化したのか。そう言うところを知っていきたいのだけど。何となくこの代官にきな臭さを感じて記憶を読ませてもらう。勿論無断でね。この代官……、ほぼ何もしてないぞ……? おい、言っておいた住民票の登録だってだってほどんど人任せで出来てないじゃないか! と言うかやる気がない、のか? 無いんだなこの野郎!


「クーガン代官、僕が行っていた住民票どうなっていますか?」


「ああ、進めていますぞ。窓口で定期的にされてるはずです」


「今どれくらいの数集まってるんでしょう?」


「さてぇ? 役所に行かねば分かりませんな」


 分かっていながら、無駄と知りつつ代官の反応や人柄を知る為、用意してある質問を重ねていく。


「代官はいつも今頃何をなさってるんですか?」


「雑務ですな」


「雑務の具体的な内容は?」


「雑務は雑務ですな。書類のチェックをしていたり……、ああ、村の者の相談に乗ったり」


「ちなみにその相談とは?」


 いや、まてぇい! それは忘れたらダメな案件とかじゃないのか。と言うか、この人ほんと何のやる気ももってない。頭の中では、残り4年でどうやってお金を溜めて持ち帰るかしか考えてない。こいつ……。


「さてなんだったか……。あー船がそろそろガタが来ているとかで、しかしそんな事を言われても、替えの船なんてありませんしな。新しくするより、補強した方が安上がりで使いまわせますからな」


「……そうですか。ついでに、浮いた資金はどのようなことに?」


「それは……。給金に回してますな。あくせく働く職員の給料はそれなりに高いですからな」


「国に返還はしていないと?」


「そんなことをするよりも――」


 なんだかめんどくさくなってきた! 僕はとりあえず、僕の持つ権限を実行する。


「仕事のやる気ないならやめてしまえ。これより、代官の権限を全て僕に譲渡してもらいます。補佐役! いないのか、補佐役!」


 急に声を張り上げた僕に、視線が集中する。そんなこと知った事か。今はこの領政を何とかしなくちゃならんだろう。


「は、はい!」


「前代官の時代からさかのぼった資料を全部見せろ! 輸出、輸入、売上、船の補修、全部だ。アーコン・クーガン代官を拘束して、一時軟禁しろ! 去年と今年に入ってから相談に来た者のリスト、そんなものはないか。顔役を大至急呼んでくれ! 急げよ、ほころびは全て追及する。言いたいことがあるなら早目に申告した方が身のためだと思え。補佐役、貴方も他人事ではないぞ?

 代官の仕事を補佐するのが役目なのに、代官の仕事が殆ど人任せなのを言いことに、やる事もやらないでいたんだ。今からでもその腐った性根を叩き崩してから再構築してやる! 役所の代表を呼び出せ、こいつも同罪だ。仕事の重要性を噛み砕いて言い含める。定時で上がれると思うなよ!」


「ひぃっ!?」


 僕はこうして、代官の身柄を拘束している間に、彼が溜め込んでいる資産を全て没収することと相成った。勿論、この事は陛下に報告済みである。報酬として与えた領地で不正が発覚したのだ。その時のフォルトス陛下の怒りは、その場にいた者達の理解を超えるものだった程で、急に何に怒りを覚えたのか誰にも分らなかったので対応のに困った者達が宰相様に話を飛ばしたらしい。


 そこで国王が、フィナトリーのアーコン・クーガン代官の不正について陛下が知って怒りをあらわにしたことを聞かされる。


「安定した場所だからと、ぬかったわ!」


「して、オルクス殿が今何をしておられるのですか?」


「尻拭いだ。不正の裏帳簿の洗い出しから初めて、領地の膿を出しきるまで落ち着くこともできないと言って来た。おのれぇ! これでは予定がつかんではないか!」


「陛下、落ち着いてください。オルクス殿ならなんとかするでしょう。今は代わりの代官なり巡察使なりを送りましょう。オルクス殿の屋敷に至急飛竜の準備を手配してくれ!」


「分かっておる。だが不正があそこだけとは限らん。巡察使を全ての代官の治める領地へ向かわせる準備をしろ。不正に引っかかったものはすぐに入れ替える。国を挙げてすぐさま取り掛かれ!」


 と、そんなこともあり、巡察使の派遣が急務で進められることとなったユピクス。その話は普通に城の外に漏れて他国へ流れる程の、大変大きな出来事なったとかなんとか。


 そして場面はフィナトリーの領館に戻り、役所に移動したオルクスが、能力を駆使して、PCに資料を急ぎ入力することになったその月日は6日と長く、不正と正しい帳面の抜き打ちに時間がかかったこと、漁を生業にする者達の話と、役所の人間の話を聞いては修正に修正を重ねて、裏帳簿と表帳簿の切り分けを行った。


「代官の資産は全て没収するが一度フィナトリーに来る巡察使に預けてから使えるものは使わせてもらう。水揚げ量も年々低下しているのを裏帳簿でごまかしていたなんて。代官の交代が6年前で助かった。もっと古くからなんてやってられないよ。船なんてもう何十年変えてないそうじゃないか。補修で賄える限度が過ぎてるぞ?」


「オルクス様、そろそろ就寝のお時間前ですが」


「ええ? もうそんな時間なのか、徹夜できないこの身体が恨めしい」


「単純な入力でしたら我等でも可能です。御身はお休みになられてください。食事も軽くしか摂られておられませんし、もう巡察使や他の方々は派遣されて動き回られております。明日に備えてくださいませ」


「分かったよ、アルファル。入力の続きを交代でもいいからやって進めておいて欲しい。これはもう数年いや年内には事故に繋がってたかもしれな、い……」


「主様がお休みなのでお部屋にお連れしてまいります」


「作業はこちらで引き継ぐ、そちらは頼んだ」


「はい」


 従者達の長い夜は続く。



 ♦



 翌朝、早朝の5時に目覚めた僕は、用意してもらった水とタオルで洗顔して眠気を飛ばす。


「うは、冷たい」


「おはようございます」


「おはよう、今日はトヨネなんだね。よろしく頼む」


「お任せを」


 巡察使達はどうしてる? 僕がそう聞くと、深夜まで仕事を成されており、深夜の3時に就寝されております。7時には起きるとのことです。と報告が返ってくる。


「彼等にはここに残って仕事を引きついてもらわないといけないんだ、出来る限りやっておきたいけど、どこまでできるか微妙だな」


「そのことですが、ラタルさんとリタールさんが、ここにデスクトップPCを持ち込みまして、データの入力をなさって、ノートPCに共有するという作業をされているそうです」


「うわ、それ凄く助かる。もう構築で来てるの?」


「はい、昨日の夜に入力した分は共有フォルダーに入れてあるそうです」


「やってくれるね! でも、とりあえず朝食か。昨日食べてないのが結構堪えてるみたい」


「では、唐揚げと、チャーハンのセットです食事が終わりましたらお声かけください。職員一人一人に接触して、不正がないか調べておりますので。7時頃には結果が出ると思われます」


「そんなことまで……。さすがだね。頼りになる」


「では」



 さて、どのような結果になるのか。僕は食事をしながら午前中の仕事に思いをはせる。



 結果から先に言うと、不正をしていたのはアーコン・クーガン代官のみであった。これは人員的に助かる事だが、役所の人間は基本がこの町の住民である者が殆どだという事が大きいと思われる。元居た補佐役も、今は応援に来た巡察使達にこき使われていたようだ。


 それから代官は檻に変えたものを飛竜に持たせてユピクス本国へ、これで仕事が捗るかなと思ったが、抱えている問題が山積みである。港なのに使えない船ばかり、これは僕が立て替えて船を購入するという話になった。それまでは今まで使っている船で少ない量の魚を上げる事しかできないが、最新式の船が来るという期待感から不満が来ることはなかった。


 それに、裏帳簿でつけていた帳尻合わせ。どこからそれを捻出していたのかってことだが。やはり船の整備費をけちるなどしてちびちびと稼いでいた積み重ねがあの資産らしい。もう4年もすれば代官としての人事が終わるところ、彼はそれをもって本国に帰る為に私腹を肥やしていたのだ。


 僕の最も嫌う話であるが、話はそこで終わらない。彼は何と既婚者であった。子供もいるし長期単身赴任ながら蓄えた金で気長に余生をという流れらしいがそんな事させるわけないだろ! 夫人や子供達には悪いが、悪事を働いて得たお金で余生を過ごすとかありえない。役職と身分の剥奪と資産の没収、それに借金と言う重い罰を与えられた。これは離婚とかになるのかな? 


 僕がそれを考えてもらちが明かないのだけど、借金の返し方は選べるようだけど、これは家族の支えがあれば乗り切れるだろうか? いや、もう破局か? どうでもいいか。


 もうあの代官について考えるのは良そう。不毛で意味がない。あー、空揚げがおいしい。チャーハンも文句が出ない美味さだ。

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