第89話
ついに4月の1日目を迎えることができた。現在の僕と言えば、視線集まる壇上の前で式辞を述べているところだ。飛び級のくせして、学年主席の座を得たらしいことから、との大任を仰せつかったわけだが、僕の前の人の話がやたら長かったせいで、所々であくびが見られるのは仕方がないことか。
「我々新入生一同は、教師の方やその他の職員の方々を含め、先輩方に規律と礼節を学び、今後に生かすことを第一とした学び舎での、第一目標またはそれに由来、関係する事柄を収めることで、学院に恩返しができるように、日々を一日一日を大切に糧にしてまいります。以上です」
僕の台詞が案外短かったこともあり、拍手もまばらながらそれなりにされての退場となった。全く……、入学式が時間とスケジュールで組まれていると言うのに、1時間もぺちゃくちゃと喋ったあの教師。あれが噂のアイック・トーサニー先生か、確かに前髪をいじる癖と、ふっと顎を上げる癖がキザと言えばキザか。
「ヴァダム君、助かるよ。君のおかげで10分は短縮できた。あのキザ野郎、時間押してるっつーのに……」
「フリーヌ先生、入学式も後は学院長のお言葉だけですし、スケジュールは各々のクラスでやって頂いた方がよろしいでしょう。今日は午前中だけですし、その後は校舎の案内程度で終わりですから」
「そうでした。はー、君みたいな出来た生徒がいて助かります。昨日の事もう噂になっていますが、地下施設の一人用のブロックと出題のゲームを攻略されたとか。貴方うちのクラスになれば良かったのに!」
「まあ、まぐれでという但し書きがつきますけどね。それより先生、先生も担当のクラスがあるのではないですか? 僕にかまっていては時間がもったいないですよ。早く行ってあげてください」
「分かったわ。また今度じっくりその時の話をしましょう」
♦
僕のクラスは1年1組。さすがにアルファベットは使われてないか。クラスの人数は40人程度、男女比は3対7で女子が多い。何故こんな偏ったクラスになっているのか、他のクラスでも同じなのか?
そして担任は、シスコ・デインズ先生と言う方だった。デインズってどこかで聞いた名前なんだけど……。あ、思い出した。アルドラ・デインズさんのお姉さんだ。学院で講師をしている姉がいると聞いていたが、もしかして思い過ごしだろうか?
まあ、確認はいつでもできるんだし、それは良いとしても、これから担任の挨拶と、係りを決めたりするのが流れかな。あとは必要がある人は、先生が学校の案内をするという事だったはずだ。僕は昨日済ませてあるから問題ないが、他の子はどうなんだろうか?
「えーっと、これから6年間貴方達のクラスを受け持つ、担任のシスコ・デインズです。基本的なことは大抵こなせる担当教師と思ってください。それから、今日は午前中の予定ですが、クラスで役員を決めることになっています。なりたい役員があれば挙手をするように」
デインズ先生が黒板に白チョークで役員を書き出していく。まず、お決まりの委員長一人に副委員長は二人、広報委員、図書委員、美化委員、風紀委員、行事実行委員、保健委員は男女各一名、放送委員。様々あるのだが、あれだなどれもやりたくないのが本音だが。
先生が良い笑顔で僕を見ているぞ? 何だそのやってよ的な笑みは……。僕の事は仕事で手が埋まるから、何かするにしても無難なのは図書委員か広報委員。大穴でも美化委員が無難なところだと思う。
「あ、じゃあ、今期だけは先生が勝手に決めちゃうので、誰がどこに当たっても悪しからず! さて――」
さてじゃねぇ! まず最初に僕の名前を書くのをやめてほしい。委員長とか、せめて副委員にしてほしかったんだが……。
僕がどよーんとした目で見たら、先生は逃げるように他の委員を書き始めた。
「と、言うわけで、今期の委員はとりあえずこんなところかしら。とりあえず、学級委員にオルクス・ルオ・ヴァダム君と、副委員にスヴィ・アストリーさんと、ソイラ・ウェッバーさん。広報委員にホッカ・トゥルッキ君、図書委員にカネルヴァ・ゼンゲルさん、美化委員にヨヴァンカ・ユリヴァーラさん、風紀委員にイルヤナ・セヴィオ君、行事実行委員にアスラ・ウフレニウスさんとヤニカ・イラヨキさん、保健委員にイーナ・ヴレーデさんとアフメド・アーレ君、放送委員にアルヤ・ヴィクルンドさん。以上で今季の委員をお願いします。では、拍手」
いやいやいや、パチパチパチではない! 僕は頭痛を覚えた。だが、委員長と言っても基本的にそんなやる事ってあるんだろうか? それにしても副委員と風紀委員って、アネイさん、シプリアさん、ホルカさんの弟妹達だろ? このクラス色々仕組まれてるのか。それに委員に僕を入れることで、何かしら動きを制限する、いや、逆か? 役員に付けていれば、突発的なことに巻き込まれなくて済むと考えればまだマシか?
これは、後でもいいから先生に意図を聞いておく方が良いのかもしれないな。
「クラス委員長をすることになりました、オルクス・ルオ・ヴァダムです。よろしくお願いします」
僕はとりあえず、名乗って礼をしてから着席する。僕の行動が切っ掛けになって、それぞれ役員になった者が名乗って礼をする流れになった。
それから、学院の案内が必要なものは挙手を受け、先生についていくらしい。残りの生徒はもう下校するなり、寮に戻るなりしても良いそうだ。午後の予定がそのまま空くことになるが、食事を摂ってからまずは学院の自室で荷物整理が必要だろう。
さて、何を優先させるか。とりあえずノートパソコンだけでも動かせたら、後はプリンターと合わせて大抵のことはできると思うんだけど。とりあえず、実家に戻ってハニークイーンと契約が先か。出来る事は先にやっておこう。
♦
「なに!? 我と契約してくれるとな? まことか!?」
「本当だとも。お世話になっているし、僕で役立てる事なんて特にないからね」
「何を言う! 進化の材料もくれたではないか。こちらこそ礼を言いたいくらいだ」
「なら早速で悪いんだけど、契約しようか。始めるよ?」
うむ! と手を出したハニークイーンの手を握り、互いに契約の印をイメージする。
「我は契約を結び、この者と時を過ごす。解約は互いの死以外には任意での同意を必要とする。相違なければ契約を神に誓う!」
「我も相違なし、故に誓う!」
僕等を周囲3mの魔方陣が囲み、契約の光が天に向かって伸びていくのが見えた。
「どうだい? 何か変わったところはあるかな?」
「う、うむ。やたらと思考が回るようになったように思うし、ステータスも大幅に伸びたらしい。お主も鑑定ができるなら見てたもう」
「うん、うお! 凄くステータスが上がってる。それに、ハニークイーンマンサーって書いてるよ。能力にて同属への指示系統の効果向上って言うのが追加されてる。それに魔法も使えるんじゃない? 魔力が大幅に増えてるよ?」
「おお……。契約する者に左右されると言うテイム契約、やはり我の目には狂いなかったという事か、これからもよろしく頼むぞマスター!」
「ああ、よろしく頼むよ」
これでハニークイーンとの契約はなったわけだ。彼女との契約で僕にも能力が少し追加されてるけど、これは追々試そうか。時間は有限だからね、ノートパソコンを使えるかどうか、試してみないといけないからね。
僕はハニークイーンを伴いながら、ラタルとリタールに来てもらって用事を告げた。
「この機械に取り付ける充電器の配線と、充電器自体を作ってもらいたいのだけど、二人の能力で出来そうかな?」
「必要なもの自体は分かっているので、後は規格を合わせるだけ」
「ラタルが用意してくれたらチョチョイといじって使えるようにしてやるぜ? マスター 少しパソコンを借りますがよろしいですか?」
「うん、任せるよ。できれば起動チェックまでやっておりてほしい。中にどんなものが入っているか分からないから注意はしてほしいかな」
「了解、任せて」
「良ければデスクトップも、プリンターも使えるように調整しとくよ。できたら、インベントリ経由で送るから、マスターは自由に動いてても良いよ」
「それは助かる。全面的に任せるけど、よろしく頼むよ」
♦
僕とハニークイーンは学院の僕の執務室から出て、外に止めてある馬車に向かう。
「ハニークイーンは、他の部下達についてなくて平気なのかい?」
「仕事は決められているし、人間の貨幣についても理解させてある。有事の際であればすぐに分かるし、我が多少離れた時間が長くても、近衛がおるからな。何も不安に思うことはない」
「なら時間があるし、テイムの登録書の発行に行こうか。人間はそう言う何かしらの補償がないと、大抵は魔物として皆恐れるからね。時間があるなら構わないだろ?」
「マスターが良いならば我はどこにでも行くぞ」
「なら決まりだ」
僕は馬車をケンプに任せ、ヘルウェンの冒険者ギルドを目指す。その際、ハニークイーンからは、ちょっとした情報と言うか、魔物についての裏知識ネタを教えてもらった。
テイム契約をした魔物は、能力や知力、この場合は理解力になるらしいが、それが契約者のステータスに大いに関係するらしい。契約した人間が力自慢なら筋力が極端に上がり、知力や魔力が大きければ、それに類する力が加わるらしい。さらに、ステータスの進化で、人間に近い知力や思考、肉体の変化などもあるらしい。何とも不思議なものだな、と思わなくもない。
と、そんな話を聞きながら冒険者ギルドの裏手側、馬車止め場に到着したら、ギルドには溢れている人だかりが。何の騒ぎかと思えば、飛竜やペガサスの卵をなどと言う言葉が聞こえてくる。飛竜は兎も角、ペガサスの卵って……。噂を考えたのは僕だが、普通に交配して卵からかえるかどうかなんて、馬を知ってたら普通は分かるようなものだが……。
さておき、ギルドの裏口から入らせてもらおうか。
「あ、ここは関係者以外は……。あ、ヴァダム伯爵でしょうか?」
「ご無沙汰してます、アグリルさん。今日はテイム契約書をもらいに来たんですが、表からだと入れなさそうだったので、申し訳ないけど裏手から回らしてもらいました」
「それは、大変恐縮でございます。書類をお持ちしますので、お掛けになってお待ちください。それと、ギルドマスターが会いたがっておりましたが、お会いになりますか?」
「何かの依頼かな? もしそう言う類なら手紙でお願いします。急ぎであれば急ぎの印をしてからお願いしますね。僕も今日から学生生活なので、希望に添えるかは分からないんですよ」
「まあ、その歳で入学されたんですか? それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。なのでやる事も目白押しで、正直依頼を受けるのは時期を見ないとと言うのが本音の部分ですよ」
「それはそうでしょう……、これが契約書です。契約はそちらの? ハニー……」
「ハニークイーンですよ。正確にはハニークイーンマンサーですが。契約は既にしているので、その証明書がないと店とか入れない場所もあるでしょ。だから早目に必要だと思って取りに来ました」
なるほど、それは確かに。そう言って書類をさらさらと記入しているアグリルさん。出来る女性と言う感じの人柄に見えるが、お城で見た慌てようから、多少混乱するとドジを踏むらしいことは分かっている。まあ、本人にそれを言ってあげようとは思わないが。
「では、書類にサインをお願いします。控えと保管用にお願いします」
「では……、これでいいですか?」
彼女は二度程書類を読み返しながら、確認作業を行う。
「確かに、では控えは大事になくさないようにお願いします。再発行はできますが費用は頂きますので。」
「分かりました。あー、ポーションや消耗品の類は来月の頭から再度納品する予定なので、それだけギルド長にお伝えください」
「助かります。必ずそのように伝えておきますので」
再び馬車に乗り、今度は軽く食事ができるところに入る。15時のおやつタイムみたいなものだ。
「人間は本当にその書類やら、契約書と言うのが好きなのだな」
「好き嫌いでってことはないんだよ、目に見える証明ができればそれでいいのさ。人間でもそんなまどろっこしいことは嫌だと言う人もいるし、大事だと言う人もいるよ。君達の中で言うと、臭いで判別するのと、似たようなものだと持ってくれれば理解しやすいかな」
「なるほどのう。お、このサクサクのクッキーはうまいな。蜂蜜を垂らせばよりうまい」
「帰りに土産で買っていこうか? アイリス、土産用に大目に買っておいておくれ」
「かしこまりました」
「悪いのう。なんぞ、催促したようで」
「気にしなくていいよ。それより、仕事の方は何か困った事とか、必要なものとかはないかい?」
「今は特にないのう、巡回の兵士等とも特に仲が悪いわけでもないし、生態系自体が異なるから、多少の話の噛み合わない部分を除けば問題は一つもない。エルフからも、人間からもたまに今のような焼き菓子をもらう程度には、互いに慣れてきておるようだ。ただ一つ問題があるとすれば」
「すれば?」
「我等の環境が良すぎてLVが上がらぬという事くらいかのう」
「それはまた、贅沢な悩みだね。ちなみにハニークイーンを一体だけLVを上げて、他の部下に分配する方法はどうだろう?」
「おお、それは名案じゃな。実戦は追々でも問題はなかろう。我等も種族故の限界は知っているし、LVが上がって増長するような奴もおらんだろう。自分達の生態で安全な住処があるだけでも嬉しいことなのだからな」
「なら決まりか。ギルド長から何かしら依頼があればついでに片づけてしまおう」
♦
そして城にて、一度宰相様に15分ほどの短い時間を取ってもらい、自分の認識についてどう思うかを訪ねる。
「確かに、城にいつまでも仮住まいでは体面もよろしくはないか。自宅が改装中だと学院にて寝泊まりする旨を申し出ていれば問題ないと思う。それと、学院でクラスの7割が女子だった件は、その親御の申し込みが多くてな、そなたには既に相手がいると突っぱねたのだが、それでもいいからクラスにねじ込ませろと言ってくる親達が多かったのだ。
私は心配していないが、そう言うわけなので注意は必要だな。その昔、陛下も学院に通われた際、着替え中の女子の部屋に放り込まれたらしい。その時陛下の勘では部屋の外に自分を部屋に押し込んだ者がまだいると確信されて、扉を蹴破ってその犯行に及んだ者等を捕まえたらしい。陛下は無罪を訴えて無罪放免だったがな」
「それは何とも、嫌なハニートラップですね。僕も注意しとかないと」
「兎も角、そなたにはこちらから二人補佐官を付けることができた。いかようにでも使ってやってくれ」
「助かります。仕事は滞りなくやっておきますので、その手段も準備もできそうですから何とでもして見せます」
「それは心強い。さて、わしも一仕事終えてから休憩にするかな」
「それでは私はこれで失礼します」
「ああ、頑張ってきなさい」
そんな話をした後、学院に戻って自分の執務室に戻って一息つくことにした。
「ハニークイーンはとりあえず、お土産持って帰ってみんなと食べてよ。僕はこれから少し仕事をしてから職員室に行くよ。色々と根回ししてくれた宰相様の計らいを無駄にするわけにもいかないからね」
「わかった。無理はするなよマスター、我はお前に倒れられては困る故な」
「いらない心配だよ。適度に肩の力は抜くさ。じゃ、みんなによろしく」
そう言ってハニークイーンをポータルに送り出した僕は、インベントリに既に送られて来ていたノートパソコンとプリンターを取り出す。お、なんか、この感じ凄く久しぶりな感じがするな。
「おおっと?
「正直に申しまして、私でも分かりません。女神様に直接聞いた方が早いかと。これの前の持ち主が誰かも不明ですし、性能も許容範囲を超えすぎています。この世界ではオーバースペックでしょう。これがあれば大抵の自動プログラムを作って構築してしまえば、より使いやすいものになるのは言うまでもなく、それにその物質が異常な強度なもので出来ていることから、この世界にもとあるものではないと言えます。そこらの壁に投げつけても傷一つ付かないでしょう。」
「はあ……。僕これ使っちゃって大丈夫なのかな? 女神様にお咎め受けるのは嫌なんだけど」
「恐らく、必要ならばもう受けているはずなので、使っても問題ないと思われます。女神様は寛容な方ですので、貴方の行いが悪であると判断されなければ問題行動とはみなされないかと思います。不確定要素故に、断定できないことを許容して頂ければと思います」
「いや、ヘルプさんがわからないなら、女神様しかわからんでしょ。使えるようになったってことは、使ってもいいよって言われてるような気がするし。ヘルプさんもその辺は気にしなくても良いと思うよ。いつも助けてもらってるんだからさ。僕はいつも通りヘルプさんを頼りにしてるよ」
「ありがとうございます。良ければ、腕輪をかざして頂けますか? 私が内部からフォローできるようにして見ますので」
「了解、お任せします。とりあえず使いやすいようにカスタマイズだな」
それから大凡で2時間は経過しただろうか、ヘルプさんのフォローもあり、僕の多少のプログラマーとしての腕も加味して、それなりに使える形にプログラムをいじってみたのだけど。中々様になってると思う。途中でバージョンアップとか不明なのが来たのだけど、女神様にお伺いを立てるまではしばし保留と言うことになった。
「もう、17時過ぎか、職員室はまだ先生達がいると良いけど。兎に角はできることはしたし、デインズ先生がまだいると良いけど」
僕は部屋の戸締りをしてから、急ぎ職員室へ向かうことにした。
♦
「失礼します。1年1組のオルクス・ルオ・ヴァダムですが、デインズ先生はおられますか?」
「あら、学年主席の子じゃない。デインズ先生なら奥の席にいるわよ」
「ありがとうございます」
僕は名前も知らない女性教員だと思われる女性に頭を下げて、奥の籍と言われた場所に向かってデインズ先生の姿を探す。
「あら、ヴァダム君。何かご用かしら?」
「はい、少しお尋ねしたいことがありまして、お時間が大丈夫であればお付き合い願いたいのですが」
「時間は大丈夫よ。ここじゃ何だし、場所を変えましょうか」
そう言ってデインズ先生は、僕の横を抜けて、こっちよ、と声を掛けて来た。僕が通されたのは応接室、だと思う。先生は二人分のお茶を用意して僕に席に座る様に促す。
「どうぞ。それで、お話と言うのは?」
「僕をクラス委員にしたことは、何となくですが推測できるのでいいのですが、他の委員でも良かったと思うのです。それを確認しておきたかったというのが一つ。宰相様より、補佐役を二名派遣して頂きました。それが、授業中に入ってきて問題がないかと言うのが一つ、僕が仕事をしながら授業を受ける際に持ち込む道具が認められるのか。その三点を確認しに来ました。」
なるほど、とデインズ先生がお茶を一口すすり、手に持ったまま答えを出す様だ。
「普通ならそんなことは認められないのよ? 学生は学業だけに専念するのが普通なのだもの。だけど、貴方は筆記試験で主席か次席をとれば、大抵は免除されることは先生方も了承済みです。なので、それが守られていれば、二つ目と三つ目は問題ありません。一つ目の質問について、実はクラス委員長はあまり移動がないのよ。大切な話し合いの場合は必要だけど、副委員を二人つけたのもその為。答えになったかしら?」
はい、と僕は答えた。
「ご配慮頂いて、ありがとうございます。別件で、宰相様からは親御さんのねじ込みがあったと言われましたが、その辺は大丈夫なんでしょうか?」
「あー、確かに、貴方目的の親御さんがご息女を同じクラスにと、ね。何を考えているのか、6歳の子供相手に何を期待してるのか分からないけど、貴方がしっかりしていれば問題ないことよ?」
「それは勿論、ハニートラップなんてかかるような僕ではないですよ。僕がそんな男だったら、今頃僕はここにはいないはずです。まあ、ねじ込まれたご息女達には申し訳ないのですけど、必要最低限以上の事をするつもりはないですし、婚約者が二人も控えているのに、色目を使うって普通じゃないと思います。ちなみに何割がねじ込まれたんですか?」
「5割ってところね」
「は? 半分じゃないですか。男子がその分他のクラスに言ってるってわけですよね。ほんとに何がしたいんだ? 僕と縁を持てたからどうなるものでもないだろうに。いや、もしかして金銭目的か? 後は、王位を狙う足掛かりとか。馬鹿々々しい。もしそんな考えでご息女をねじ込んできたなら、本当にいい迷惑だ前後関係を洗って……」
「ストップ、ストップ!」
いきなり、思考の停止を告げられて、驚く僕にデインズ先生は溜息をついて見せる。
「妹からよくできてる子だとは聞いてたけど、貴方はさっきも言ったでしょ? トラップにはかからないと。見え透いた手に引っかかる貴方じゃないでしょ。今のやり取りで安心した上で少し不安だわ」
「不安、ですか?」
「罠を警戒し過ぎて、クラスメートに冷たく当たらないかどうか、よ」
「それはないです。あからさまなのは避けますが、人間である以上個人の人格を優先します。それで困っているなら助けることもありますし、害が及ぶなら避ける一手にします。目に余る事が起きたら、僕のできる範囲で相手には、どうなってもらうかはその時の気分ですかね? ただ、人格を見られるのは僕も同じでしょう。なのでその辺はお互い様であると思いますよ? いたずらに領域を犯すのか、静観するのか、見て見ぬふりをするのか。その時々で変わると思います」
「はー、そう言う不安なこと言うのはやめてちょうだい。妹からは貴方の事それなりに話を聞いています。道理も分別もちゃんとある子だって聞いてるわ。だから極力は、相手の出方を見てから静観することを選んでほしいわ。無事に誰一人欠けることなく、6年間を共に過ごしてほしい。それが私からのお願いでもあるわ」
「先生がそうお望みなら、極力そうしますよ。僕だって好き好んで人の人生に介入したくなんてありませんから」
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