第87話

 まず、僕等が馬車を邪魔にならないところに止めて。従者二人を引き連れ、人込みの前に進み出た。僕が来た時点で誰が来たなんて知る由もないだろうが、それなりに身なり良くして来たのだ、目立たたないはずはない。人の波が割れて僕が進む道が開かれていく。これなら大声を出さなくても、ある程度の混乱は抑えられるかもしれないな。


「すまない、ここの職員に所用がある。悪いが通らせてもらう」


「これは、ヴァダム伯爵様!」


 役所に入ったところで、僕の事を知っているのだろう相手職員が声を上げた。


「なんだと!?」


「あれがか?」


「ちっちぇ!」


「ばかっ! 聞こえるだろ!」


 所長はいるだろうか、と僕が声を掛けた職員は、すぐ呼んでまいります、と言ったが、僕が会いに行く君はそのまま仕事を続けてくれ、と止めた。


「すまないが通る。それと外で従者を待たしている、外の行列整理に出ている職員は、交代して中の仕事に回させてくれ。その方が効率がよいだろう。だまになって並んでいる者はその場から三歩下がってほしい。メイドと執事に整列させる」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! もう少しで順番が来そうなんだぞ!」


「こっちもだ! いきなり来て無茶苦茶言うな!」


「自分がどこに並んでいるのかもわからないのに、次に順番が来るだと? 何を寝言を言っている。担当の窓口に自分の仕事場を見てもらわなければ意味がないだろ。自分の後ろを良く見ろ。整列もおろそかにできない者が、仕事にありつけるものか! 自分優先は結構だが、順序を守れ! 貴方が手に持っている待ち札は今並んでいる列ではないし、用紙も書式も違うものだぞ。窓口に行ったら違う窓口へ行けと言われてまた並び直しだ。それでもいいなら一生そこに並んでいるがいい」


「列を整理します、まず誰かの後ろに並び列を作ってくださいな」


 僕の後ろでアイリスが声を上げた。優しい声音だがどこか有無を言わせぬ威厳がある。


「書類を見る相手が誰でもいいなどと思うな。仕事が欲しいなら相応に順序を守れ。仕事の数は山とあるんだ。書類を窓口に出したら終わりではない。冒険者ギルドと勘違いするな! 職員は混乱せずに目の前の書類に集中! 列の整理はこちらでする。手が空いた人員は書類の移動と、窓口を増やして事に当たれ!」


「整理番号を配ります。番号札を呼ばれた人は窓口に向かってください。はい、押さない押さない。建物の中にいる人には整理番号を配ります。配られた方はその場から三歩退いてください。窓口を埋めないように」


「整理番号とやらをもらえなかったぞ!」


「建物の外にいる方は並び直してください。建物内の人は整理券を無くさずに窓口に行くようにお願いします」


「押すんじゃねぇよ!」


「押してねえよ!」


「お前か!?」


「揉め事を起こした者は最後尾まで下がってもらうぞ。それでも良かったら喧嘩でも何でもしろ。順序を乱すものは力ずくでも排除するぞ。並んでるのは貴方達だけじゃない。周りの迷惑も考えろ! もう一度言うが、ここは冒険者ギルドではない。仕事をする前に決まり事も守れぬ者に、与えられる仕事などないぞ! 職員の指示をよく聞いて場を乱すな! そんなこともできないなら帰って寝てろ! ここには何をしに来たかを思い出せ。仕事にありつきに来たんじゃないのか?」


「…………」


「ふう、後を頼む」


「かしこまりました」


 所長の部屋は1階の奥の別室であった。そこにノックをしてから返事を待たずにはいる。すると、中にいたのは目を細めた初老の人間であった。机にかじりついて、しんどそうにペンを走らせて、判子を押している。


「返事を待たずに入って失礼します、所長殿」


「き、君は……? あー、貴方がヴァダム伯爵か、してこんな場所にいかがな用で来られたのか……」


「人の列の整理に屋敷の人員を連れて来ました。書類仕事ができる職員と交代していますので、役所の中も、次第に少しは緩和されるでしょう。私は今日は非番でして、様子を見に来たらこの有様。人が足りていないのはすぐ分かりました。宰相様から権限は既にいくつか頂いています。多少ですが私も手伝わせて頂けないかと参りました」


「な、なんと……。いや、助かるが、そちらの人手は大丈夫なのかね?」


「言ったでしょ? 私は今日は非番なんです。手伝えることは何でもしますよ。遠慮せず言ってください。所長はそのままで結構ですので」


「かたじけない。もう腕が棒のようで、痙攣がし始めていたのだ……」


「手を出してください。神聖術で軽減しましょう。それから少し休んでください。代わりますので。これは……、いけないですね、少し横になってください。分からないところは聞きますので『救護班、一人役所の事務室まで頼む』」


「申し訳ない……」


『かしこまりました』


 僕は椅子を最大まで段差を上げて、クッションを重ねてその上に飛び乗る。そこには書きかけの内容と、ボロボロなペン先になっているペンが数本転がっていた。そこに、一人僕の従者とこの役所の職員がやって来た。


「ヘッケン所長!?」


「いや、腕が動きにくくなってな、暫く休めば直に治るさ。今はヴァダム伯爵に席を譲った。君は君の仕事をしてくれ」


「は、はい。あ、私、補佐のビスラと申します」


「よろしく。僕の事はオルクスでいいよ。伯爵と呼ばれるのにまだ慣れていなくてね。とりあえず、神聖術を使える従者を一人つけている。所長には少し安静にしててもらうので、このまま引き継がせてもらうよ」


「はい、こちらが追加の書類になります」


「分かりました」


 僕はペンを走らせながら、外の状態を一応聞いておく。


「応援に屋敷の者を連れてきましたが、お役に立っていますか?」


「それはもう! 書類を動かせる人員や受付も増やせますし、これ以上ないです!」


「それは良かった。立ち上げたはいいが地盤がまだ弱いし、人手も少ない。ここが大変だとは聞いていたんですけど、もう少し早く来れればよかったのだが」


「いえ、それは違います。この部署は出来立てで職員が仕事に慣れていないと言うのも相まって、この有様だったのです。それに日雇いの数が多く、書類を何度も処理することが多くなっている現状、仕方がないと言いますか……」


 彼女はそう言って言葉を噛んだ。恐らく結局、人手がいないとどうしようもないという事なのだろう。


「時間を決めて、私の方で屋敷から人の整理に充てる人員を、明日以降も出しましょう。宰相様には私の方から現状を伝えておきますので、暫くは代案が上がるまで、継続と言うことになるかな?」


 大変助かりますと、彼女は礼をして部屋を出ていった。


 後は軍務部でやっている事と大して変わらない仕事のやり方で、さっさと書類を片していく。そこで、別口のメモに思いついたことを書いて残していく。兎に角思ったことは書類の形式を変えないと、筆を執って書き加える量が半端ない。これではヘッケン所長の仕事量がパンクするのも無理はないし、これでは非効率だな。


 黙々と仕事をこなし、途中で回復したヘッケン所長には、仕事の上で何が問題かを一通りメモに書いて見たものを見せて意見を聞いて見た。時間は17時と、この役所の受付時間は終了を迎えている。ただ、役所の中では未だに書類に追われる職員達がバタバタと働いている。従者達は数名を残して引き上げてもらっているので、役所の外は昼間と違って閑散としている。


 まず一つにこの役所に使われている書類一式を丸ごと変える必要があることが前提として、他に職員の数と、整列の整備の数を大幅に必要とする。役所自体ももう少し大きなものが必要だ。ここでは人を裁くのに最大で10人と言ったところか。多く感じるかもしれないが利用者の数に追いつけていないのだ。勿論そこにも書類の書式で必要事項が多くあることが問題だ。


 もう少し必要な言葉をまるで囲うくらいの、内容にしないととてもではないが、この先やっていけないと思う。この辺ももう少し考えようだな。仕事を終えた僕と机を挟んで向かい合っているヘッケン所長。とりあえず、書面に整理された者が必要で、人員の確保が急務と言うのが一つだな。とりあえず白紙の書式がバラバラなものを一枚ずつ見て、あーでもなくこーでもなくと、話し合っていると、時間が19時を回ろうとしていた。


「すみません話し込んでしまって」


「いやいや、オルクス殿の言われることは尤もなことで。私もその考えや案には賛同しています。是非とも宰相様に認可を頂いてもらいたいところですな」


「そうできるように話してみます。それまでは今暫く時間を頂きますが、簡単な仕事でしたら暫くは従者に任せますので、治療や人手が必要であれば言ってください」


「大変助かります。恐縮ですが、今の話くれぐれもよろしくお願いします」


「はい、勿論です。明日は8時から人員を配置させますので、ご無理を、とは言えませんが。暫く耐えてください。では」


 僕はその足ですぐに城に向かい、書類と手紙を宰相様宛に送ってもらう。



 ♦



 次の日、僕は職場に行くよりも前に宰相様から呼び出しを受けた。


「昨日の手紙の件、内容は理解した。話ばかりを聞いて実際に目にしなかった私が愚かしい。君のその権限で、良いようにしてくれて構わん。ヘッケン殿は男爵ながらその力量は確かな方だ。その彼をしても、問題があったとは……。休日にとは言え、行動も報告も十分なものだった。人員の手配は今のところ難しいが、書類の書式変更はすぐにでも裁可を出せるものだ。それと、誠にすまないことだが、給金は出す故、暫く人の整理をよろしく頼みたい。出来るだろうか?」


「お任せを、交代制で派遣しますので、給金は相応になりますが必要経費とお考え下さい。書式の発行は急場しのぎですが発行部にお願いをしますがよろしいでしょうか?」


「頼む。順調に役所が利用されている。それだけの報告を鵜呑みにしていようとは情けない。私も耄碌したかのう」


「報告者の報告の仕方にも問題がありましたし、実際に外から見れば盛況なのは見て取れました。ただ、その報告者の目からは、忙しさをあまり考えた目線が無かっただけなのだと思われます。私も実際に仕事をして、気づいたところはいくつもありましたので」


「そうか。ヘッケン殿には悪いことをした。他に何かあればすぐに知らせてくれ。対応が早ければそれだけ、向こうも余裕が出るだろうからな」


「確かに、では急ぎ発行部へ行って参ります。御前失礼致します」


 僕は礼をとって宰相様の執務室を出て、その足で発行部へ急ぐ。



「マジかよ! この書式でって言われてもなぁ」


「何とかなりませんか、せめてこっちの書式だけでも発行を急いでもらえると助かるんですが」


「だそうですよ、大将!」


「ヘッケン殿が困るほどなのだからよっぽどなのだろう。分かった、1時間で2、いや300はいけるか? おい、発行部数に余裕があるところのを調べろ。そこで印刷機の書式を書き換えてやってやれ! 用途が高いのはそれとそれか? 結構複雑だが、確かに記入に丸を付けるだけだからな。書き手には負担がないし確認も簡単だ。よく考えられてるな。兎に角、急ぎでその二種類は刷ってやる。1時間毎にとりに来い。しっかりしあげてやっからよ!」


「ありがとうございます! では、1時間後に人をやりますので!」


「あいよ!」


 僕は頭を下げて礼を述べその場を後にした。




「良いんすか? 安請け合いして」


「あの子供、噂の救世主様らしいぞ」


「マジっすか!?」


「それに爵位とか立場に関係なく、人に頼むのに頭下げれる奴は貴重だ。ついでに自分の家の使用人使ってまでヘッケン殿を助けてるそうだぞ。無駄に気位の高いガキや大人が多いうちの国では、ああ言うのは大切にしてやんねぇとな!」


「なるほど、がってんでさぁ!」



 ♦



 従者の一人、昨日ヘッケン殿に付けた従者とは別の者に、知らせ役として向かってもらった。僕はさすがに自分の部署をほっぽって手伝いに行くのは難しいので、とりあえず、ここまでが精いっぱいと言ったところか。


 だが、この世界に印刷と言う技術が確立している、と言うのがなんとも不可思議でならないが、活版印刷かっぱんいんさつを実際に形にした人には感謝だな。これで、あっちの役所も何とかなるってもんだろう。……だと良いのだがね。


 さあ、こっちはこっちで仕事しないと、うーん! たまに伸びしないと身体がカチカチだねぇ。ちなみに僕の誕生日3月の25日まで残り3日、さらにその5日後にはこちらの世界で初となる学院ライフが始まるのだ。今の内にゴタゴタは片づけておきたいからね。


 軍務部の職員達は3月29日の日に外の食堂で、入学の打ち上げをしてくれるらしいのだが、そこまで盛り上がってもらうのは少し照れくさいとおもうのだが、ベルセリさん曰く、皆何かしら理由を付けて送り出したいのだと言う。ご厚意に甘んじてその日を楽しみにしておくと答えておいた。なんでも、彼等がいた頃の名物教師や、教師の癖を教えてもらうことになった。そう言うのは参考になるし、少し楽しみである。


 それから、ヘッケン殿とよく手紙のやり取りをするようになった。ヘッケン殿は本当にこちらの要求を通してくれたことに深い感謝を綴っていた。あれから一度宰相様直々に役所を訪れられたそうだ。その際に話した内容で、この役所にした建物では立地は良くても、建物の規模が小さすぎる問題が浮上していることが話題となった。書式が変更されて職員の働きやすさも改善されたからわかる事であり、1時間ほどであったが問題点を掘り下げて、宰相様直々に問題を洗い直して対処すると約束されたそうだ。


 良きかな良きかな、と思っているとこちらに回される仕事の量も半端なく多いことに気付いた。学院生活を送る上で、色々と問題になるようなことを持ち込む身としては、僕は少し肩身が狭くなりそうだ。それは結局やってみないと始まらない。という事に他ならないのだから、今更考えても仕方ないだろう。当たって砕けないように頑張ろう。



 ♦ ♦



 そしてついに僕の誕生日である。実家に飛竜で帰ったと言うていで、実家での誕生日を祝ってもらった。凄くこっぱずかしいことに、屋敷でも集落でも、年齢をさほど気にしないエルフの住人達でさえからも、お祝いの言葉をもらった。その日は最後に寝る前に教会に寄ってから感謝を言って帰ろうと思い、センテルムに断りを入れてから、一人教会の中で女神様の像に、お礼と感謝を述べる。それで終わりだったはずなのだが……。


「おめでとう。オルクス」


「ありがとうございます。こうしてお会いできるとは思っていませんでした。どちらかと言うと夢でのほうが無難な気がしていたので」


「あらあら、悲しい事を言わないで。いつも貴方を陰ながら応援している身ですが、貴方には幸せになってほしいのです」


「十分して頂いていると思うのですが……。さておき、転生の件から腕輪の件まで何から何まで感謝しっぱなしです。1歳年を取るのに僕は、色んなことを経験しました。そしてこれからも多忙ではあるでしょうが、充実した人生となる事だろうと思います。僕のできる限りがどこまでの事に影響するのか。見守っていてください」


「ふふ、その意気です。そうそう、貴方に一つプレゼントと言うか、追加で能力をあげましょう。明日の朝から使えるようにしておきますから、起きたら確認してみてね。それじゃ、また何かあればここに来るか、夢で逢いましょう」


「ありきたりなお礼の言葉しかありませんが、ありがとうございます。能力が何かは知りませんが、それに見合う働きをお望みだと思います。精一杯頑張りますので。それでは失礼します」


 僕はその足で、雪がそろそろ浅くなっている道を歩きながら、センテルムにお礼を言って待たせていた馬車に乗り。自宅でゆっくりとした時間を楽しむことにした。



 ♦



 それから次の日、僕は自分のステータスを確認して頭にクエッションマークを並べていた。自分ではよくわからないので、とりあえずヘルプさんに質問してみた。


「ヘルプさん、昨日女神様から新しい能力を頂いたらしいんだけど、ステータスの表記に新しい項目がついてるのはついてるんだ。けど、これって一体何だろう? 詳しくわかる?」


「それは“特殊視程”ですね。読んで字のごとくというと、昆虫等の目を思い浮かべられそうですが、これはそれとは異なり、貴方の周囲を目で追わなくても見れるというものです。人には目が二つしかついていませんが、その能力を使いますと、周囲の貴方の視力で見える距離を視程していと呼びますが、指定範囲であれば360度死角なく見通せる優れたスキルです。これで、今までの仕事にスキルを併用すればより快適で円滑な作業ができると思われます」


「なるほど。……おお、っと。これは慣れるのに少し必要かも。視野を狭めたり拡大したりは可能?」


「勿論です、とりあえずこんな感じでしょうか」


「お? 何と言うか、三人称視点でスクリーンを見分けてるのに似てるような気がするかな。これならなんとかなりそう、ヘルプさんのフォローもあるなら、確かに死角がないような気がするね。これって僕にもっとデスクワーク頑張れってことなのかな? なんて……」


「……さて、どうでしょうね」


 含みを持たせたヘルプさんの言葉が少し気になったが、新たな能力は確かに使えるものだ。ありがたく使わせて頂こう。


 僕の所持スキルはこれで3つになった。並行思考、思考加速、特殊視程。何とも僕にとって仕事しろスキルが目白押しである。まあ、それだけにとどまらず使いどころはあるのだけど、僕が使いこなせるかは別問題だ。後四日で僕は軍務部を一時的に抜けることになる。一応は籍は置いたまま、他の仕事に掛かると言うのが実態ではあるのだけど。まあ、望んだことではあるので仕方ないと思う。


 さて、残りの日付も頑張りますかっと。



 ♦ ♦



 そして、3月29日、僕の仕事納めの日がやって来た。仕事場にいた人も非番の人も、職場関係で関わった人も皆来てくれた。少し照れるなこう言うの。


「では、オルクス副部長の今後を祝して、乾杯!」


「乾杯!」


「カンパーイ!」


「飲むぜ!」


「食うぞ!」


 あんた達ちょっとは遠慮しなさいよ? そんな声が飛び交い、酒場の予約席が埋められて騒ぎ始める。


 学業と仕事を両立なんてほんとにできるのか? それが皆の第一の疑問であった。が、ここ最近の出来事で、僕が見ていないのに指示を飛ばしたり、書類を移動させたりするもので、その脅威の仕事の処理速度に、周囲は舌を巻く事であった。スキルの併用でここまで影響が出るとは自分でもびっくりだが、授業を聞きながら仕事をするなんて無茶なことも叶いそうではある。



 それから飲み食いを続けている内に、僕は女性陣に囲まれ、王女との関係とかを根掘り葉掘りとはいかずとも、軽い感じで聞かれたが、まだ年齢一桁の男女に何を期待しているのかと言い返す。


「ただまあ、お互いに相手を好きになって縁が結ばれたので、僕的にも、王女的にも問題はないと思いますよ。後は僕等が大人になって、互いに自分達で納得できる生活を送れればいいと思います。女性がずっと家に引きこもるって言うのは僕はダメだと思うんですよ。好きなことして伸び伸びしてもらってた方が、気が楽でいいですからね」


「いいですよね! そう言う理解のある男性は! 私も彼氏が欲しいです!」


「わたしもー!」


「わ、わたしもー……」


 最後に手を上げたのはクレシダさんだったので皆が注目されている。仕事ができる人故に、イメージが無かったが、彼氏募集中であるらしい。そういえば、サイラスさん達に見せたお見合いのリスト、逆パターンはさすがにないが、気が向いた時に見繕ってみるのもいいかもしれないな。


 とりあえず、今は話題転換が肝心かな。


「そう言えば、皆さんが学生の時にいた講師の方々、良ければ特徴とか覚えてることを教えてくれませんか? 1年前ならまだいらっしゃる講師も多いでしょうし、知っておくと良い情報などあればお願いします」


 アネイ・アストリーとアルドラ・デインズさん、受付の仕事を担当している彼女等が言うには。


「そうねー。モットニーデ・リッテマン教授とか、ブーニオ・コネッチス先生とか!」


 シプリア・ウェッバーさんが言うには。それぞれ独特な癖を持っているらしい。それと、アルドラ・デインズさんには年上で、学院の講師をしているお姉さんがいるそうだ。会ったらよろしくと言われた。


「あー! 実技のフォークニト・アリーン先生とか、コッツニイ・ブイロー先生とかも特殊よね!」


「私、あの人達すごく苦手。魔術指導のカッニー・フリーヌ先生とかならまだ大丈夫だけど」


「いたいた、アイック・トーサニー先生とかはキザったらしくて話長いのよ。その話いいから先に進めろって言うのにね。それで授業長引くので、次の科目に遅れて怒られるのこっちなんだから!」


 ホルカ・セヴィオさん、が言うにはその先生が特殊中の特徴的な人らしい。


「俺も有名人としちゃー、クエット・フッツリー先生とか。あー思い出しただけであの鞭の音が聞こえてきそうだ」


「何ですか鞭って、もしかして……、叩かれたりするんですか?」


「いやー、生徒には手を出さねえさ。ただ、教卓をこれでもかって程に叩きまくる先生でさ、鞭捌きは見事なんだけど、寝てる奴とかには容赦ないな。どこからかロープ出して縛り上げるんだぜ? それで、教卓の横で動かないように立たせんの」


 体罰、ではないんでしょうけど、それって身動きとれない分しんどそうですねぇ、と僕が言うと、一度あれを味わったやつは二度と授業中に寝たりしなくなるぜ。なんてことを言われた。


 リガスさんも特殊な先生を数名出してくれたが、やはり女性陣が出した先生たちよりかはマシのようだ。


 ちなみに、今まで名前が挙がっていないヨウルカスさん、ミルティアディスさん、ヒュプオトルさん達中途採用組は、話よりも食い気に走っている。この席の食事代は僕が出すことになっているからね。


 それと、アネイ・アストリーさんと、シプリア・ウェッバーさん、ホルカ・セヴィオさん達は、妹等と弟が今年の入学になるらしい。これも、会ったらよろしくと言われている。


 さておき、色々先生がいるんだろうけど、話にある様に個性的な先生も多いんだろうな。今から行くのが楽しみになって来た。

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