第81話

 今は1月の20日の朝になったところだ。僕には珍しく日課をせずにだらだらと城の宛がわれた部屋で過ごしている。そこに、部屋のドアが外からノックされ、どうぞ、と促すと入ってきたのはいつものローブ姿ではなく、ドレスを身にまとってティアラを頭に乗せたヘイリー殿、いや、ヘイリー王女殿下だ。


 自分の侍女を伴って僕の部屋まで来た王女殿下は、侍女を部屋の外に出して、開口一番にこう述べた。


「お返事を聞きに来ました」


「三日、お時間を頂きました。その間色々と考えて、自分の気持ちに素直になるように、自分と向き合いました。それで返答なのですが……」


「はい……」


「その前に、サイレントを掛けます。よろしいですか?」


「え、ええ、どうぞ」



 僕は指を鳴らして部屋にサイレントを掛けた。これで部屋からの声は一切外に漏れないだろう。


「ヘイリー王女殿下からの申し込みを、お受けしようと思います」


「えっ!? いや、でも……」


 恐らくだが彼女は僕から色よい返事など期待していなかったのだろう。その狼狽うろたえ様や表情からもうかがい知れる。ただ、と僕が言うと、彼女はハッとして身構えたように姿勢を正した。


「お受けするのはするのですが、いくつか条件があるんです。それを全て呑んでくれるかどうか。それはヘイリー王女次第であり、もしも拒否されたなら、話はなかったことにします。どうでしょう?」


「それは、聞いて見なくては分からないわ」


「それはそうでしょう。では決まり事を一つだけ。今から見せること、聞かせること全てにおいて、納得がいかない場合。失礼ですが王女の記憶を消します。貴方の右手を握っていることで、話は成立しなかったという意思表示をします。逆に話が終わり記憶を消さずに貴方の左手をとった場合、話の成立が成されたと言う意思表示を示します」


「そんなことが可能なの!?」


「出来ますよ、例えば貴方の記憶から、カックシーの名前を消してみましょうか? よく覚えておいででしょう?」


「それは、数日前の事だもの、忘れるわけがないでしょ?」


「出は左手を拝借します」


 僕はヘルプさんにお願いして、彼女の記憶からカックシー・モォーケルの記憶で名前だけ消し去った。ヘルプさんに掛かればこういうこともお手の物だと、分かっているけど人の記憶を操るなんて恐ろしい。


「どうでしょう、モォーケルの名前を消してみました。思い出せますか? 他の記憶は一切いじってませんよ?」


「な、ば、かな……。ダメだわ、一切思い出せない。貴方、なんて恐ろしいことができるの? ……貴方は――」


「僕が怖くなりましたか? ちなみに僕は一切この力を他の人に使ったことはありません。頭のイカレタ悪人に一度使ったくらいでしょうか。国王陛下を動かしたことも、戦争の結果も、その他諸々に僕はこの力を使っていません。それとも使ったと言って失望させた方が良かったですか?」


 はぁ~、とヘイリー王女が深い溜息をつきながら僕の目を深くまで覗き込むように見つめて来た。


「嘘は行ってないみたいね」


「ヘイリー王女は、スキルに審議判定しんぎはんていをお持ちな稀な方なんですね。あ、記憶を元に戻しておきましょう」


「そんな手軽に……。それに私の記憶を覗いたわね?」


「それは不可抗力です。見ないと分からないこともありますから」


「えっち、すけべぇ……」


 いやいや、困ったな。段取りをミスったかもしれない。


「でも、いいわよ。貴方になら何を見られたって」


「お詫びと言うわけでもないですけど、僕の秘密も教えて差し上げます」


 そこからの話の流れはラクシェ王女と似たようなことをした。僕が出したマジックアイテムを興奮気味に見入っている彼女に、使い方や用途を話した。彼女は既に、記憶を覗かれたことなど記憶の彼方に追いやったみたいな、そんな雰囲気でいる。



 ♦



 それから1時間もしない内に話を終えて、貴女の返事は決まりましたか、と言うとすぐに言うまでもないと飛びつかれた。ヘイリー王女は魔道具マジックアイテムに目がないらしい。それも、誰も見たことも使ったこともないものなら尚更だと言う。そう言うところは年相応なのだなと、等と考えていると、それが僕の顔に出ていたらしい。


 失礼なこと考えたでしょ? なんて頬を軽く引っ張られた。結構緊迫した場面だったと思うんだけど、僕の考え過ぎだったのだろうか。だって、一生を左右する問題なわけだよ? 好意を寄せていたからと言っても、秘密を知ったら何かしら引くもんじゃないだろうか? 彼女の興味の琴線きんせんに触れるたが為に、そんなことはどうでもよくなったという事だろうか。よくわからない。


 だけど彼女は最終的に、僕を選ぶことを止めなかった。その事実だけが残ってしまったわけだ。彼女がそれで良いのなら、僕は何も言うことはない。


「これからよろしくお願いします」


「こちらこそ、旦那様!」


「それにはちょっと気が早いですよ」


「いいのよ。誰にも文句なんて言わせないんだから!」


 だが、話はこれだけでは終わらなかった。僕がフォルトス陛下に成り行きを話したら、そうかと、恐らくはそうなるだろうと予測していたような口ぶりで返された。それから話は王妃様にもすぐに伝わったらしい。


 宴でもするかと冗談交じりに言われたが、三日前の晩餐でこりているのでお断りさせてもらった。それと、陛下には顔合わせした王女達にフォローをお願いしておく。その辺りは何とでもすると言ってもらえたので良かったが、子供を産むとき大変じゃないか、なんて言われたり、年齢差について考えてるのかと言われたので、三日前の晩に眠ってからカルティア様に会ったと伝え、その時にささやかなご褒美をくれると聞いたことも伝える。


 ご褒美の内容は、ヘイリー王女について肉体年齢を20歳以降は10年だけ保持してくれるというものだった。それに飛びついたのは王妃であるアダレード様なわけだが、なんだかんだうらやましいと言いながら、自分の娘にそう言った女神様からの計らいがあると言うのは、母親として嬉しいと本音を語っていた。



 ♦



 さて、婚約の話もまとまった事だし、少し前倒しして戦勝式典の宴を執り行うと言う話が決まった。その場で武勲を立てて認められたものは授章を受け、褒賞やら報酬やらなんやらを受け取る流れになっている。ちなみにそう言うのに参加できるのは、立場が高い者や、高くなる者達のお披露目を兼ねた晴れ舞台なのだ。だから、爵位のある貴族だけでなく、冒険者や傭兵も宴に参加する。勿論、武装は基本的に王国側で一時回収されて管理されるわけだ。


 ちなみに冒険者が組織したパーティーよりも大きな集まりをクランと呼び、傭兵の場合はファミリアと呼ぶらしい。この宴は戦勝を祝う席なので、それ程きっちりした服装ではなくても参加できるのが、習わしではあるが、さすがにそれぞれのパーティーやクラン、ファミリアの看板を背負っている人間が参加するのだ。なので、ある程度グレードの高い服装での参加がローカルルールらしい。他にも暗黙の了解らしきものはあるが、その辺は追々で良いだろう。


 そして僕の所にも、それなりの衣装が用意されるらしい。只今寸法やら、色合いやら、デザインやらを衣服の専門店から選りすぐりの人材が呼ばれ、僕は下着姿でカカシのように腕を上げたままでじっとしている。衣装代は王家から出してくれるらしいが、これも報酬の内だと言われれば断りもできない。



 ♦ ♦



 そしてそんな落ち着かない日々が数日経ってから、僕は久々に馬車で城の外に出かける。サイラスさん達と食事会である。僕はとりあえず早い時間だが、予約をしている店に到着すると、既にサイラスさん達が揃っていることに驚いた。


「いやいや、襲名前だが、伯爵を待たせるなんてことはできんだろ。おっと、この口調も改めんといかんか」


「我等が出世頭殿は人気が高いからな。それも、婚約が早々に決まるらしいとの噂だ」


「今日はご馳走になるが、気軽に話しかけられるのも今日限りか」


「そう思うと寂しいものだな。俺も早めに嫁さん貰って出世したいものだ」


「俺も嫁が欲しい! だてに戦場から無事に帰ってきたわけじゃないんだ。出世はともかく嫁ぐらいは欲しい……」


「お前ら、仮にも年齢を考えて愚痴を言え。すまんな、オルクス殿。大人の子供じみた愚痴だと思って聞き流してやってくれ」


「ひでえ!」


「自分だって独身の癖に!」


 煩い、愚痴ばっかり言ってないでそろそろ注文でもしろ! オルクス殿は21時前には戻られるんだぞ? サイラス殿がそう言うと、周りは、ああ、そうだった! 夜通しできないのか! なんて言って嘆いてる。前世でもこういう同僚がいたなぁと、少し懐かしむ。


「とりあえず、注文しましょう。お酒もどうぞご自由に。僕は飲みませんし、21時前に帰るのもそうですけど、ある程度店にお金を落としていくので、僕が帰った後も飲んで、ある程度は鬱憤うっぷんを晴らしてください。ちなみに、少し良い知らせと、大きな良い知らせがあります。どちらから聞きたいですか?」


 僕がそんな事を言うものだから、個室ながら盛り上がりを見せた。それに、良い知らせとは一体何なのか。さておき、先に注文を一通り注文して、それぞれが好むお酒を2本ずつ注文させた。僕は水で十分だよ。


「少し良い知らせから聞こうか、君の少しが我々の認識で少し・・なのか侮れん。皆もそれでいいか?」


「応!」


 そんな身構えなくても……、僕はそう言いながらあるリストを取り出した。


「これは……?」


「家名と女性の名前、それに年齢が載ってるぞ!?」


「ちょ、ちょっと声が大きいです。サイレント使いますよ?」


 僕は指を鳴らし、部屋を防音にした。それからこのリストの意味を説明する。


「実はこれ、僕のところに来たお見合いの申し入れだったのです。でも僕は、御存じの通りこの国の王族と婚約することに――」


「待てっ! あの噂本当だったってか!?」


「いや、噂の出所が宮廷や城勤めの奴からだし、あり得る話だろ。で、で?」


「僕に来ていたお見合いの相手のリストを製作してもらっておきました。僕の話が白紙になるのなら、それを他の人に回しても良いのではないかと思いまして。どこの家名のどの方が未婚なのか知っておけば、少しは狙ってお近づきになれるのではと、持参した次第です」


 おおおお!! 食い付きが半端ないなこの人達は……。リストを身体を重ねて間から全員が見ている。少し面白い光景だな。


「いや、まだあるんですよ。次の話に行って良いですか?」


「あ、ああ。しかし、とんでもないものを持ってきたな。これが少し良い知らせで、もう一つの大きなっていう方は、聞くのが怖いのだが……」


「皆さんには了解もなくしたことなので、多少余計なお世話だったかもしれませんが、各々の所属の部署でサイラスさんを含めた6人の、役職を上げてもらえないかと言う相談を持ち掛けてみました」


「はっ!?」


「へ!?」


「も、持ち掛けたって誰にだよ?」


「バインク殿下です」


「ひゃ!?」


「うそぉ!?」


 え? そんな驚かなくても良いと思うのだけど。確かにバインク殿下は取っ付きにくいところはあるかもしれないが、認めた相手には寛容だ。それに今回の件だって、ちゃんと理由を付けて許可してもらったんだ。


「バインク殿下って、あの眼光の鋭い殿下だろ?」


「俺、会ったことあるけど、敬礼しかしたことねぇよ!」


 勿論、無条件ではありませんよ? 僕がそう言うと、次は何を言い出すのか、部屋が静まった。


「研修期間を半年とし、部署で人手が足りない場所で仕事をして使えるなら良し、使えないなら役職はそのままか降格だそうです」


「はあ~?」


「いや待て、と言うか俺達に相談くらいしろよ!」


 僕はまあまあ、と言って乗り出す相手をいなす。それにまだ話は終わっていないのだ。


「相談しなかったのは申し訳なく思います。ただ、皆さんをあの戦場で見ていて思ったこと。それは能力を無駄にしていると言う一点に他なりません。皆さんがどこの部署でどういう仕事をしているのか、僕は勿論把握していますよ。敵を知り己を知れば百戦危うからず、と言う諺があります。敵は勿論のこと、味方であるあなた方がどういう能力を持ち、何に長けているのか。最終的な指示を出すのはサイラス殿ですが、僕も把握しています。その方がいざと言うときに指示が出せますからね。

 そこで貴方達の能力を把握した上で思いました。今の部署よりも上で仕事をした方が、国にとっても個人にとっても助けになると。僕の仕事を手伝っているときや、相手の情報を覚える時だって、貴方達は能力を発揮していました。

 それができているのに、その延長上ができないはずはない。僕はそう確信しています。貴方達は愚痴を漏らしたりふざけ合ったりすることはあっても、決して仕事を中途半端に手を抜かなかった。やって当たり前と言えばそうでしょうけど、それが実際にできる人と言うのは案外と少ないのです。僕程度が太鼓判を押しても納得してくれないかもしれませんが、貴方方ならばきっと、半年の研修期間くらい乗り切って見せるでしょう。

 敵を切り伏せたり探す戦場ではないですが、物事の把握や臨機応変な対応力は見事だと思っています。貴方達ならやれるはずです。近くで見ていた僕が一番見て取っていたのです。別に相手がバインク殿下になるわけではありません。むしろ、本国で常に気を張って仕事をすることもないでしょう。今日みたいにお酒を飲んで愚痴を言って食事して、腹を膨らませて帰って寝る。そして日々の仕事に専念するだけなんです。できないはずがありません! そうでしょ?」


 僕はあらん限り捲し立てた。部屋が静まり返った後、彼等は自分の顔を両手ではたいたり、殴ったりしている。気が狂ったわけではない、と思う。僕の言ったことをちゃんと理解してくれているのだと、そう思っている。


「くそっ! 俺こんなに褒められたことねぇよ!」


「俺もだよ馬鹿野郎!」


「俺等はお前がくれたチャンスをものにするぞ!」


「やってやれないことはない。役職が上がったら俺等が次を奢ってやるよ!」


「ばーろーぅ! 俺の台詞とんじゃねーよ。ありがとよ、ちゃんと恩には報いるからな」


 そこで漸く料理がテーブルに運ばれて来た。出はとりあえず乾杯と行こうか、とサイラスさんが音頭をとった。


「では、戦勝とそれぞれの未来を祝して」


「乾杯!」


「乾杯!」


 そこからはただの食事会であったし、特に述べることもない。21時が近づいてくるときには、サイラスさん以外は既にアルコールで出来上がった状態だ。それでも成人男性6人がいるのだからその食欲はかなりのものだ。次々とからになる皿を、とっかえひっかえ口に運び腹に収める。


 サイラスさん達にお土産のお酒と、この後も食べるだろう量を考えて店にお金を前払いしておく。まあ、足りないことはないだろうと思い、軽く挨拶して席を外させてもらった。


 サイラスさん達は相当仕事に不満があったみたいだし、仕事の非効率を愚痴っていた。それを効率よく回してみたらいいんじゃないですか? そう言った僕に、俺達の立場じゃ口を挟めない領分があるからなと返された。


 ならば半年の研修を終えてそれを変えて見せることも目標にしてみてくださいと、前例を変えるなんて言うのは年代が変われば良くあること、その時の効率が良いものも、時が経てば効率は別の部分で補えることもあるでしょう。それをするのが若い世代である貴方方の役目かも知れない。僕は少し大げさに言ったかもしれないが、何かが変わるときに生じるものなんて、ちょっとした誤差だったりするものだと思う。なれれば案外、新しいやり方の方が無難な時もある、そう締めくくった。


 彼等はその言葉で何を思ったかは結局聞かなかったが、彼らなりのやり方を築いていってくれれば良いと思っての事だ。



 ♦♦♦



 何だか酔いがすっかり冷めちまった。オルクスの奴、人を焚き付けるだけ焚き付けて、そのまま帰っちまうんだぜ? 貴方達ならできるはずだ、なんて言われたらそりゃやる気も出てくるわな。それにお膳立てまでしてくれたんだぞ?


 ああ言う奴が上司にいてくれたら、俺達だって酒の肴に愚痴なんて漏らしたりせずに、腹いっぱい飯を食って女房や子を待たせてるからって家に帰る。そんな夢みたいな生活が送れるかもしれない。


 だが、現実は厳しいのよな。嫌な上司に仕事を押し付けられて、毎日を酒場で愚痴をこぼす毎日。そんな生活が嫌になってた時にオルクスの奴に会ったんだよ。


 最初は子供のお守りかよと思ったが、蓋を開けてみたら、予想してたのと全然違う。夢みたいに戦場で敵の指揮官を探しては見つけ、報告しての繰り返し。それで相手さんの指揮官がどんどん死んでいくんだ。


 鏡を見たときなんて夢中で気づかなかったが、10歳にもなってない子供が、戦場で場面を動かすような大事を、地味にだがやってのけたんだぜ? 普通のガキの神経じゃねぇ。俺が同い年なら馬車か天幕で震えながら、戦争が終わるのを待っていたはずだ。


 なのによ、あいつは戦場から離れた場所だが、目立つ場所に陣取って、やりたい放題敵の指揮官を探しては仕留める。こういうの、サーチ&デストロイとかいうんだろ? こいつがどんな方法で敵を殺したのかはよくわからんが、敵にこいつがいなくて本当に安どしたよ。


 そしてこの食事会も冗談で言ったつもりが、本気にしてやがんの。しかも土産付きでよ。こいつには一生頭が上がらねぇと思ったし、足を向けて寝れねえとも思った。サイラスも言ってたが、俺達は案外運が良いのかもしれないな。なんて言いやがる。ほんとその通りだよ。


 ちなみに俺達の名前だが、皆爵位のある出の三男とか良くて次男だよ。俺は

ユーリアン・ジンデル、右隣の奴がヴィック・イェーツ、左隣がウィルバー・ウッドヴァイン、サイラスの両隣がウィンストン・ホウォートンとザドク・ホイーラーだ。サイラス以外は皆20代そこそこだが、嫁さん募集中の寂しいやろうばかりなんだぜ。それを、オルクスの奴が持ってきた名簿を渡しながら、良い相手が見つかると良いですねだとよ。


 ほんとに、気が利く奴だよ全く。お前さんがヘルウェンに行っちまって、次に戻ってくる時までに……。できっかな? いや、やってやんねぇと、あいつの折角の好意を無駄にしちまう。何としても結果は出しとかねぇとな。



 一番乗りする奴を賭けて、その日はある程度夜が更けたところで解散することになった。



 ♦



 ふうー、店を出るときにやたらと寒さが肌を指すと思えば、風はないけれど雪が地面を覆い、辺り一面の屋根にも白い化粧を施していた。通りで寒いわけだ。馬車に乗って城を目指す僕は、馬車の中では寒さを感じないのでフード付きのコートを脱いで横に置いて、窓の景色を楽しむ。


 確か、2月に入る前に式典を終わらせる予定だと聞いているが、それが終われば僕はヘルウェンへ戻り、また仕事に追われる日々を過ごすことになるだろう。いや、その前にヘルウェンでも式典が行われるのだ。何とも忙しいスケジュールになったものだ。


 爵位を賜った後、まだヴァダム家とは名乗れるのだが、結婚した後はどんな名前になるのだろうか? それに賜る領地がどんなところなのかも気になってしまう。職場はあのままなのかな? それとも転属か? 勤務部署はなるべくデスクワークで統一してほしいところだが。


 馬車は時間にして10分としない内にユピクスの王城に戻った。これからの言事は推測の域を出ないけど、働きやすい仕事場ならどこでもいいと思う。ただ、あれだな、ラクシェ王女と一緒に入学する話、前倒しで出来ないだろうか。僕には知識が必要だ、できればだれにも邪魔されることなく、必要なことを必要なだけ。ちょっと欲張りかもしれないが、そういう環境が欲しいと思う。


 学院、早くいってみたいものだ。この辺は要交渉ではあるかな?







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