第78話

 ふー……。疲れた。体力的にではなくて、精神的な疲れが僕にのしかかる。何故かって? そりゃ、もうすぐユピクス本国に到着するからだよ。巡察使殿達の話では、戦勝パレードは既に収まったと言っていたけれど、僕の名前は何故か注目を集めていると言う。文字通りもみくちゃにされるとかなければいいが……。


 武勲を上げ過ぎたとか、相談役なんて肩書を付けられたのが原因だろうとは思うのだが、それは仕方なしにやった事であって、戦争が終わるまで馬車の中でガタガタ震える、イメージ通りの子供であったなら、誰も今頃は何も言わないし、見向きもしないだろうさ。


 でも一度ゆっくり考えてみたんだよ。現代日本と違い爵位がある世界で、何の肩書もない爵位を継ぐだけの僕と、多少の悪目立ちしても何かしら肩書や役職を持って収入を確保している僕。前者は気楽な生活が送れるだろうけど、結局爵位って言うのに縛られるんだよね。ならば後者であった方が、収入は定期的に受けれるし、爵位や礼節もある程度上にあった方が融通が利くと思う。それに何かあった時の為に必要なものが何かしら手に入れることができる。そう言う立場にあった方が無難だと考えたんだ。


 だから無茶振りも何となくだけど、自分にメリットがあると思ってやってきたわけだ。現世で家族に物品や金銭の仕送りをできていると言うのは、自分の中でも何かしら、役に立てれるという自信にもなっているんだ。だから僕は、あまりにも出鱈目な無茶を言われない限りはこなして見せようと思う。それで悪目立ちするのは本望ではないけど、仕方ないかなとは思う。


 城下街の手前で出来ている一般の長い行列を横目に、貴族として検問を受ける。窓から顔を出して馬車から降りようとしたが、名前を聞いた門兵が王城への直通の通路を通り抜け、そのまま城までお通りくださいなんて言ってくるんだもんね。


 一般庶民で急用じゃなきゃ、普通はこの直通の道を通ることはできないんだよ? それに通るにしても基本は爵位があってこそ通れる道なんだよ。僕はまだ世襲も何もしてない、貴族の長子なだけだよ。以前来たときは母上や父上の存在があったし、その後ヘルウェンからの案件できたときは、宿に直行してから城に向かったはずだ。


 なんだろう、この特別扱いの延長に何が待ってるのか不安になる……。いや、エルフ達の件で報告義務があるからという事もあるか。僕の過剰な考え過ぎという事もあるだろう。だけど、やはり気が滅入るよ。フォルトス陛下が前世の同郷の人間であるだけ、まだ心持はましでいられるがね。


 いやー、母上にはエルフ達の件は伝えてあるので、今頃は最初に送り出した馬車の列が実家に来ている頃だろうか。とりあえず、領地にエルフが来る、それも354人も領民の半数以上の数が、と言った当初の僕に母上からは無言の圧力が来た。ビジルズも同じまた無茶なことをと言う考えのようだが、僕が捲し立てるように理由を説明したさ。


 他の領地で犯罪奴隷の如くこき使われていたエルフ達。彼等を一時的に保護できないかウルタル殿下から頼まれたのだ。食料などは基本的に国から前渡しである程度渡してもらっているし、最初は354人を受け入れる手はずだが、最終的に領地に居続ける数は3分の1程度になる予定だ。何しろ僕が伯爵の地位を受けて、領地をもらうことになっているのだ。しかもユピクスと、ヘルウェンの両方で同じ事が起きる予定なのだ。


 それを言ったら、今度は別の沈黙が下りた。


 それはまさに驚きでしかない。ど、どどど、どうしましょう。お、おお、奥様、おち、落ち着きましょう。いや、二人とも落ち着いてほしい。言ってなかったことだから、そりゃ驚くのだろうけど。


 まだ爵位しか決まってないから、もらえる領地も決まってないからね、とゆっくりと言うと、少し間を置いて落ち着いてくれたようだ。


「お、オルクス、結局それは本当なの? ビジルズ、ルオを呼んできてちょうだい。すぐに家族会議をします!」


「かしこまりました、すぐお呼びします」


 そんなことで始まった第2回家族会議、である。以前の会議は、ヘルウェンの陛下に戦争に参加しろ、と言われた下りを説明した時だったと思う。(※36話)


 その後の家族会議は母上も父上もビジルズも、三人揃って驚いていることが多かったと思う。いや、不定期に連絡を入れた際のこちらからの内容は、基本的に今起きている事や、何をやっている途中なのかってことに終始話が向いていただけだしね。三人にはこってりと怒られて絞られたんだ。でも、これは公式にまだ決まっていない事だから、他言できなかったと言えば納得してくれた。


 父上から、親が無くとも子は育つものだな、なんて言われたしねぇ。いや話せることと話せないことはあるんですよって、フォローしたつもりだったが、あまり効果はなさそうだったな。そう言えば、実家の爵位が一つ上がる予定ですよ、なんて言えばまた慌て出すのだ。嬉しいことだが、唐突で困った様なことだ。それはそちらで対応してくださいねとは言っておいたが。


 そんな数日前の事を思い出しながら、僕の馬車は王城の前で一旦停止、だが、ケンプがすぐに家名を名のると、ああ、あのヴァダム家の……、と門兵が中に入れてくれた。



 ♦



 城の中をトヨネと歩く僕に、すれ違いに声がすることが多い。あれがそうらしい、まだ子供じゃないか、この際歳は関係ないだろ? などと人を見れば話し声がそこかしこでされている。以前よりもなんだか酷くあからさまだ。何だその反応は、一体何がどうなってるのか凄く怖いんだけど。僕が通されたのは、予想していた謁見の間での王の御前ではなく、応接間であった。


「来たか。とりあえず座ってくれ。こうやって落ち着いて話せるのも久々だな。息子達から話は聞いたが、先ずは済ませておくことを成そうか。口上を許す、報告をしてくれ」


「では、失礼して」


 僕は書類の束を机にそっと乗せる。巡察使の方に領地を引き継いだことの証明になるものや、必要経費に、今後の必要と予想される備品などがそうだ。普通こういうのって、殿下が残ってするもんじゃないのか? と思わなくもない書類の類もある。


 それを、机に分けながら説明を述べて良く。


「村々には徴収されていたものを、大凡今年の収穫期まで持つように分配して還元してあります。村で保管できないものは、伯爵の屋敷の倉庫に収納しております。巡察使達自身の持ち込んだ食料や必需品に仕事道具、その他を別で保管して混ぜないように注意して頂いています。伯爵家の財産は基本は没収、とのことですが、屋敷を使う以上残すべきところは残しております。没収しいた金品、それに換金可能なものはウルタル殿下へとお渡ししています」


「ああ、その辺は部署の者がやりくりしている。ウルタルが持って帰った書類を手際が良いと皆褒めていたぞ? ところで、爵位を取り上げたカックシーだが、その家族の処遇は大体決まったが聞くか?」


「関わった案件ですので、結果まで通して知ることが役目だと思います」


「ん、ふむ。一言でいうならカックシーは処刑だ。その家族は、カックシーの正当な財産を充て、当面で困らない程度の生活援助をする予定だが、これは何をもってしてもまぬがれぬ。残った者等の世間体は厳しくなるだろうが、当人以外の家族と使用人、その他は当主の指示に従っていただけのようだからな。つつましく暮らせば、特に困ることはないだろう。以上だが何かあるか?」


「当事者の処分は分かりましたが、それ以外の前後関係はどうしてわかるのですか? 前もって何か根拠でもあったのでしょうか?」


「お? お主でも知らないことはあるんだな。神聖術、あるいはスキル持ちの中に、審議判定しんぎはんていという特定の者しか使えない能力スキルがある。それを用いて処罰を軽減する、あるいはないことにする判断材料とするのだ。便利ではあるがスキルの使用者には負担がかかるから、長時間とはいかぬし、一人ずつでしか意味をなさないからな」


「なるほど、それは知りませんでした。それよりもその働き口を無くした者達ですが、給金は以前よりも劣るかもしれないけれど、面会させて頂けませんか? できれば何人か雇用したいと考えています」


「ほう? 免罪符の代わりにでもするのか?」


「その様な大層な事ではありません。使えそうな者を徴用するのは当たり前の事です。面談をした上で決めることですが、能力のある者を遊ばせているくらいなら、僕は罪人でも理由如何りゆういかんでは懐に入れて相応に遇するつもりです。私の考えはおかしいですか?」


「いや、当たり前の事だと思うし、わしでもそうする場面ならば迷わんだろう。立場故に色々とあるが、確かに有能者ならば遊ばせるのは惜しい、な」


 互いに言いたいことは分かっている。陛下は僕を何とかして僕を国で働かせたいのだろうな。逆に僕は年齢的相応な生活を望んでいる。それに僕の立場は、ユピクスにも、ヘルウェンにもあるのだ。仕事に追われる毎日なんて基本的にやりたくはない、と言うのは本音だが。



 というか、ヘルウェンでやってるので既に懲りてるんだけど……。何か方法はないものか、というか、便宜は図ってくれるってのはなかったのかな? 僕の期待し過ぎなのかな? さてどうしようか。話が止まってしまったわけだが、陛下が何を考えておいでか、それがわからないのが一番やりにくいことだ。互いの事情は知っているのに、話を進めないこの視線を重ねる間に、何が言われるのかを推察するつもりだったが、それは無用だったらしい。


「陛下、時間を無為にするのは感心致しませんぞ?」


「……ギース、そうだったな。無為にする時間が惜しい。だからこちらでとりあえず形にしたことを教えておいておく。まず――」


 話は掻い摘んで話していると思われるが、身を入れて聴いてびっくりする事ばかり、そのオンパレードであった。ちなみに、この部屋には僕が持ってきた書類の整理や、何かを写したりしている職員、それに侍女さん達などもいるなかで、それって皆の前で言って良いの? って事ばかりが話されている。侍女さんとか、他の職員も手を止めてるじゃないか。


「あ、あの、よろしいですか?」


「ん、どうした? 何か不服か?」


「そうではなくてですね、それってもうほぼ確定なんでしょうか? 私はまだ爵位すら継いでいない年齢一桁の子供ですよ? 期待されるにしても度が過ぎてると思うんですけど」


「そんな事か。良いか、その耳でよく聞いておけよ? うちの娘と結婚するってことは、貴族として迎えるという事だ。だが前に言ったと思うが、爵位というものは世襲だけが継げる手段ではない。能力があると認められれば、国王であるわしから爵位の位を上げる、または与えることも当然含まれる。王家の娘と結婚すれば必ず公爵になるわけではない。娘の嫁ぎ先が爵位が高いことは当然良い面はあるが、全部が全部良い方向になるわけではない。それは分かりそうなものだが?」


「でしたら、私に陛下は何をお求めなのですか? 高い爵位と言うのは責任の他にも危険が伴います。私に力をお与えになる、すなわち私が必ずしも陛下の味方につくと、陛下御自身は考えておいでですか?」


 口上を許されたと言っても、物には限度がある。文句を言う必要もないのに、何を口走っているのか。そんな視線を周囲から感じる。だが確認しておかなければならない事だ。


「いや、わしが愚かな統治を推し進めれば、お主は黙っておらぬだろうと思う。だが、逆に正しいかどうかは兎も角、民を思う国政、政策、施策を考えて動かすならば、わしにその力を貸してくれると、わしの中ではそう思っているが、問の答えにはなったか?」


「……はい、十分でございます。試すようなことを申しました、無礼をお許しください。国王陛下が後者であれば、私の持てる時間、微力ながら力の限りご期待に沿えるように致します」


 僕がそう述べてから、部屋の空気が少しかわったような気がした。何故か部屋の中から感心したような、驚いたような、そんな雰囲気が満たしているような気がする。僕が陛下から教えられた事は、爵位の叙任じょにんに、賜る領地の候補地の説明、また婚約者の選定と条件など。他には武勲で授与予定の報償、報酬、予定の役職候補の叙勲も述べられた。


 他は、実家についての多少の配慮する話も含められた。ちなみに僕の家名は、婚約が決まってもそのままだが、結婚した後は家名が変わることになるらしい。一度の、いや、二度の戦争で得る対価としては大きすぎるような気がするのだけど、その辺の詳しい情報は、別の機会に説明をされるらしい。


 大まかな話はそれで一旦終わりらしい。だけど僕はしばらくここで待機しておくように言われた。なんでも、殿下達が話があるそうだ。今回の件や、妹君の事だろうか? 陛下も宰相様も退出され、部屋にいる周囲の視線を一身に浴びながら、殿下達の来訪を待つ。



 ♦



 時間にしてそう経っていないと思うが、僕はとりあえず出された飲み物を飲んで落ち着くことにした。お茶請けの菓子を軽くつまみ、行儀悪くならない程度で肩の力を抜く。それにしても、陛下はとんだ茶番をやってくださる。考えてみれば分かることだ。人がそれなりにいる部屋の中で、宰相様と一緒に、僕に面会なされた。そして、まだ発表されていない予定を大まかにだが述べられた。


 それにあのやり取りは何というか、前ぶりがあった。貴族とは何ぞや、力をどう使う? と言うような問いかけだ。気づけて良かったけど、陛下や僕の考えを周囲が知る場面で、周りが納得するような言葉を、確認するていで僕に喋らせた。それを正しく理解できたのだと僕の中では思っているが、陛下としても周囲を納得させる理由や姿勢を見せなければならない。貴族のめんどくさいところではあるが、必要な事だ。


 ただの気まぐれで爵位を与えるなんてとんでもない、理由あって然るべき品格や人格、能力が相手にあるのか。それを周囲に知らしめながら、周りの反応を見る為の布石だ。恐らくは、陛下の判断に口を挟む者達が、この部屋の中にもいたのだろう。前提として、前振りもなくされるこちらの身にもなってほしいが、必要事項というか、予定調和というか、そういったものなのだろう。


 所謂、宣伝行為か、悪く言えば見せしめのようなことだ。評価される者の本質とはどういうものかを知らしめる為の、だが。


 さて、それなりに考えをまとめているが、待機にはあとどれぐらい時間が必要だろうか。部屋には僕と侍女さんだけが残っている状態だ。侍女さんは特に何も言ってこないが、密かにこちらの一挙一動いっきょいちどうを見られているような感じを受ける。そう思っていると、殿下達の来訪が告げられ部屋に入室されて来た。僕は立ち上がり頭を下げて出迎える。


「任務ご苦労、楽にしていいぞ」


「やあ、お疲れ様」


 声から察するに、バインク殿下とウルタル殿下の二人に、魔力が感じられる人物からヘイリー殿の気配を把握する。


「ご無沙汰しております。例の案件は既に書類を提出させて頂いております。後ほどご確認が必要であれば、目を通して頂きたく」


「とりあえず、掛けろ。先ほど陛下とすれ違い軽く話を聞いたが、宰相が褒めていたぞ。打ち合わせたわけでもなく、こちらの真意を見る目が既にあるとな」


「それはいささか過分な評価ですが、良い意味で評価されたと受け取らせて頂きます」


 ふむ、さて、とバインク殿下が何かを話す前振りをして、膝を組んで、両手をお腹の前で組みながら質問されて来た。


「エルフ達はあれからどうなっている?」


幌馬車ほろばしゃにて移動中であります。一陣目はそろそろ我が実家についていそうなものですが。残りの第二陣も、陛下の御慧眼で手配して頂きました馬車での移動中。途中で別れましたが、ゆっくり行っても4日ほどで実家に到着するでしょう。食料も水も途中で補給できましたし、経費は申告させて頂いていますので、特に問題も負担はございませんでした。実家への連絡は済ませておきましたので、問題はないと思われます」


「なら良いが、ウルタルもヘイリーも基本的なことは、お前に殆ど任せたらしい。こいつらの不足してる部分を補ってくれて、こちらとしても助かった」


「勿体ないお言葉です。私にできることがあったので、手伝わせて頂いただけでございますから。それよりも、陛下よりここで待機しているように言われましたが、何かお話があったのではございませんか?」


 ああ、そうだった、とバインク殿下は侍女に呼び出しを命じた。


「えっと? どなたかおいででしょうか?」


「義妹達を呼ばせた。ちなみにここにも一人義妹がいるがな。お前の事だから分かっていそうなものだが?」


「ヘイリー殿下の事でしょうか。お会いした時に何となくですが、王妃様に似ていらっしゃるような気がしておりましたが」


「正解、良く見ているわね。でも、それをわかっていながら、それとそ知らぬ風に接してくれていたのも評価するわ。貴方の実務能力も、先々を考えて指揮する能力も、柔軟な思考と対応力、素晴らしい人材だと思いました。これは本心からの言葉だから謙遜は不要よ」


「ありがとうございます。その称賛を今後の励みに致します」


 和やかな雰囲気で時間を過ごしていると、呼ばれたらしい王族の妹君達が三人部屋に現れた。バインク殿下から、歳の順に紹介されていく。


「オルクスの年齢から見合う妹達だ。五女とそれ以降となるが、ブルックが今8歳でカミラが7歳、キャンディスが5歳だな。とりあえず、それぞれ自己紹介して、オルクスに覚えてもらえ。キャンディスは……、年相応だ、としか言えん」


「よろしいですよ、お前がおかしいのだと言って頂いても。もう慣れてしまいました」


「それが望みならそうしてやろう。で、カミラが礼儀作法を習い始めたところだ。多少だが、親や兄妹に甘えている場面が多いな。それ以外は特に何もない。ブルックも年齢的にはしっかりしている方だと思うが、カミラと似たり寄ったり。俺の評価はそんなところだな」


義兄上あにうえは厳しいからね。うーん、でも、私の印象も似た感じだろうか。それに、確かヘルウェンのラクシェ王女も8歳だったか。なら、ブルックかカミラの方が良いのかな? と、最後に決めるのはオルクスだから、私達がなんだかんだいうのはダメだろうね」


「ちなみに四女は、他国に嫁ぐ予定で三女も似たようなものか。長女はもう婚約しているしな」


「優良物件がここにあるわよ?」


 おいおい、とバインク殿下が突っ込みを入れている。


「10歳の年の差なんて、案外何とかなるものよ?」


「男女を逆にするパターンでそれは多いと思うのだけど、女性が10歳も年上って、あまり聞いたことはないな」


「お前が良くてもオルクスが困るだろう。こいつが成人したら、お前は26なんだぞ? 子供を産むのだって考えるなら、お前は年相応の相手を見つけた方が良いんじゃないのか? 魔術の才能があったからと宮廷魔術師になどなって、それが悪いことだとは言わんが、相手はちゃんと選べよ」


 子供を産むだけが女の生き甲斐だけじゃないわよ。それを彼は理解してくれたわ。そうよね?


 そこで話を振るんですか? と心の中で思いながらも、以前に言葉に出したことがあるから否定もできない。僕は、ええ、と返事を述べてから言葉を選んで話をする。


「僕は年の差はそれほど気にしません。自分にしっかりとした将来へのビジョンがあり、自分がこうありたいと言う相手は好ましいですね。こちらと意見が食い違ったとしても、折り合いをつけられる人であれば直良しだと思います」


 お前も本気で答えるなよ、とバインク殿下の溜息が聞こえて来た。しかし、何というか、性別は異なるが同年代の子供が目の前にいる、と言うのは何かしら違和感が凄くある。もしかして、この違和感を周囲は常に感じていたのだろうか? いや、本当にそうなのかもしれないな。


 三人は少しおどおどしているような、こちらを警戒するようなそんななんとも言い知れぬ不安を感じる塩梅でいるらしい。ここは何とかするのも、僕の仕事なのだろうなぁ、なんて思いながら。


 少しだけ魔術をお見せしましょう、とバインク殿下に視線を送ると頷かれた。了承して頂いたようだ。では早速――。


「右手に一つ青い玉、左手に一つ赤い玉、さらに、右のポケットから一つ緑の球、左のポケットから一つ土の球、さらに、ポケットを叩けば、白い玉と黒い玉が出てきました。これで六つ、そこに取り出してお見せするのは、種も仕掛けもない灰色のハンカチ、それをここに被せます。さて、お立合いです。6つの球体はどうなったでしょうか?」


「そのまま6つあるんじゃないの?」


「溶け合うとか!」


「全部消える?」


 ふふ、ではもったいぶらずに、ハンカチをどけてみましょう、そう言いながら僕はハンカチをつまみ上げてさっとその場からハンカチをどける。


「正解は、光る鳥になってました」


 その答えに、わ! え、なんで? 鳥だ! と三人の幼い少女たちが驚く。僕は光る鳥を手に乗せて、王女達の前に近づけた。


「お嫌でなければ、触ったり撫でたりして見てください。暴れたりはしませんので」


 ブルック王女達の前の机に鳥型の光を、さも鳥の如く動かしてやる。これは魔術で言うところの事象を具現化するものだ。魔術の基礎の一つである。ただ普通はこんな使い方をすることはない。イメージをはっきりとさせて具現化させただけの、ただの光である。魔術操作をひたすらやっていて身についた、副産物の一つであるが、中々受けは良いようだ。


「私、ウサギが良い!」


「子猫!」


 おおう、リクエストが来たよ。とりあえず、玉を軽く12個取り出して見せ、手品のていで、先ほどのようにハンカチを使って、ウサギと子猫をだして見せる。なんとも即興にしては手が込んでいるものだと自分で思うが、喜ばれているのだから、まあ良しとしよう。


 ちなみにさっきから、ヘイリー殿が興奮したようにその様子を見ている。属性を全部使えるとか……、どこの物語の英雄よ! はい、そんな言葉を頂きました。


 僕の能力をチートと呼ぶのは早計だと思うんだけどね。どこがだよ! なんて言われると、5歳の子供だからそう見られたり、とられるわけであって、年齢を重ねればいつしかただの人になるだろうと思う。恐らくはチートを与えられた人の感覚って、大概そんな感じの認識なんだよ、と誰に言い訳しているのか心の中で思う。


 基本的に能力値として従者達の方がずば抜けて高いのだから、僕がチートであるとか、反則級とかそう言うのは勘違いではないだろうか。これって無自覚なだけなんだろうか、年齢故の捉え方以外で、僕って普通だと思うんだけどなぁ。


 周りが彼奴すげえ! なんていうのも、僕がフォルトス陛下の件があってのことだ。戦争前の準備で、敵の情報はマティアに頼んだことだし、砦への襲撃でグレイスやルルス達に頑張ってもらったこと。後は都合よく敵の王族を確保したり、後は殿下達を陰ながら守護していた程度だ。基本は従者達の力あっての事だよ。


 後は、実家からの商品の納品程度だと思うので、凄い凄いと感心されるようなことは何もないと思うんだけどなぁ。そんなことを頭の片隅で考える僕であった。

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