第77話

 それから数日が経過して、のちに珍しい“エルフ族の大移送”と言われることになる、エルフ達の移動する準備が整った。荷馬車を買ったり借りたりで、かき集めた数は7台が限界であった。ただ有難いことに、馬車にはほろがついているものばかりで、雨や風、雪も防げるので、布と暖をとれる魔道具を馬車の中にいくつか入れておけば、凍えると言うことはないだろう。


 馬を2頭から4頭に馬車を引かせることで、大人で最大12から16人ほど、子供だと14から20人程が乗れる幌馬車ほろばしゃである。ただ、エルフ達の数が数なので、7台の馬車では何往復もしなくてはならない。そこで、今頃は本国に到着したであろう戦場帰りの部隊から、人員を別に馬や馬車を引っ張ってくるという事になった。


 その旨をフォルトス陛下に念話で送ると、それならば予測したと言うていで、今頃は巡察使達がそちらに向かう準備をしているだろうから、同時に整備した馬車をそちらに至急向かわせる準備をすると言ってくれた。


 そう言うわけで、やる事もやったし落ち着いて自分の馬車で寛いでいるときに、エルフの族長殿がこちらにやって来た。と言うか僕が呼んだわけだが、彼女は付き添いもつけず、一人で来てほしいと言う僕の言葉に従いやって来た。


「お呼びだてして申し訳ありません、イアンテ族長殿」


「いやなに、込み入った話があると言うのでは、来ないわけにもいくまい。して、早速だが私を呼んだ理由を尋ねようか」


「ええ、その前に一つお尋ねしたいこと、と言うよりは確認なのですが、数日前に族長殿が言われた言葉。恐らく僕に向けてだと思うのですが」


「ああ、“トウキョウは天下の台所、オオサカは将軍のお膝元”のことですかな?」


「ええ、他の方々がいる場所でお答えはできませんでしたが、それはトウキョウとオオサカが逆ですね。ちなみに、それを知っている僕は、御存じの通りの者です。これで、何かしらご満足頂けましたか?」


「おお、やはり! それはもう……」


 エルフの族長が目を見開きながら感動したように呟いた。それから暫く馬車の中は静まり返った。



 ♦



 イアンテ族長は不意に語り出した。今よりも200年近く前の昔の頃に出会った、一人の人間の男性がいたそうだ。彼は突然に現れエルフ達の住処の森に近づき、警戒をあらわにするエルフ達に矢を向けられながらも、抵抗せずににこやかに接してきた。荷物は革袋にスコップを肩に担いだ彼は言う。


 なんでも、森からかなり離れた場所に自分の住処を建てたい。了承してはくれないだろうか、と。エルフ達は最初、そんなことの為にわざわざ、我等に伺いを立てに来たのかと呆れたり、馬鹿にしたりしていた。だが、男は特にふざけた様子もなく、まじめな様子で話し出した。


 もしも許されるのならば、家を建ててそこに住まう人間を増やしていきたいのだと語る。そして、人間は寿命が短いが子を産む頻度が高く、住人はさらに増えていくだろう。その際に森の一部の木を活用させてほしい。そちらに危害を加えないことは約束するし、迷惑が掛からない様にも注意を促す。


 どうだろうか? 男は真剣に矢を向けてくるエルフ達に語った。将来は小さな集落を目指し、そして大きな村へ、やがては街にしたいのだと言う。自分が生きている内は決して、エルフの困るようなことはさせないと言って頭を下げてくる人間の男に、エルフ達は判断に困り、当時の部族の長に話を持ち帰るからしばし待てと男を待たせた。


 だがその当時のエルフの認識で、少し待てと言うのは、人間の待ち時間とは感覚がわざ・・と違って見せていた。長寿種であるエルフは一先ず自分達の住処に話を持ち帰り、話を族長や補佐が話し合ったが、大凡10日男を待たせる予定だったのだ。だが、男は文句の一つも言わずその場に座り込み、腹が減ったのか珍しい空間収納のスキルを使って、食事をしながら気長に待った。草木を集めてマントを広げてはそこに寝転び睡眠をとり、待てと言われて待った期間、ずっと彼はそこから動かなかった。


 途中で食料が尽きたのか、近くの木を見渡し実の付いた木から実をとっては食らいながら、途中で体調が悪くなっては木の陰で排泄はいせつを行い、持っていたスコップで後始末をして、また同じ場所に戻っては水を節約しているのか、ちびちびと飲んで喉を潤していた。


 それからついに10日が経とうとした頃、見張りの交代と共に現れた族長が、男を見て思った。こやつ……、人の身で森の中に10日もいたその男は、ひげを蓄え、当初の面影よりも勇ましくあったほどだ。


 族長は他の者達に、急いで男に腹に入れても大丈夫な食料を用意させ、淡々と話をした。普通人間は、10日も待たされれば怒って帰ってしまうことが殆どだ。そして、その場を離れたことでエルフ達は、待てと言うのに待っていなかったと述べて相手を追い返し、相手側が諦めるのを待つという手段を常にとっていた。


 それを聞かされた男は、怒るでもなく、なんだ、試されてただけか、と声を上げながら倒れ込んだ。男は空腹と脱水症状になりかけていた。用意された食べ物をむさぼるように食べる姿は、男の意地の残りかすが、まるで満たされていくようであった。漸く落ち着いたのか腹を満たした彼は語る。その場に待ち続けた男の名前はジュロウと言った。正確には十郎と言う名前らしいのだが、エルフ達はジュロウと呼ぶようになった。


 当時のエルフの族長が住処の件を了承し、いくつかの約束をした後、ジュロウは本当に心から感謝して、喜び勇んで去っていった。



 そして時は流れ、時たま遊びに来るようになったジュロウに、エルフ達はいつしか心を開いて接するようになっていた。彼の性格もそこには過分に影響していたのだろう、彼が言ったように彼が住まう集落は時を経て大きな村へ、さらに街へと拡大していった。


 時にエルフ達でもてこずるような魔物に、ジュロウは果敢に挑んではエルフ達の信頼を得ていった。彼はその時だけは、エルフ達と共に食事をしては、色々な話をして、エルフ達の好奇心を満たしたのだった。


 我等もジュロウとの友好として、いつしか森の木を定期的に納めるような間柄になった。我等には秘術として木々や草花、自然を活性化する術がある。その頃のジュロウにはそれを話していた。そして彼も同じように秘密である、転移者や転生者の話をしてくれた。自分は転移者であったが、この世に生を受けた、前世の記憶を持ちながらにして生まれてくる子供。そのような転生者もいるだろうなと言っておった。


 そんなおとぎ話や夢物語のようなことが本当にあるのか、最初はそう思ったが、彼が言う話はその知識が物語っていたし、今までに我々に嘘を言うようなことが無かった。彼の話は本当なのだろうと、そう思って皆が信じていた。神は本当にいるのだとその時は思ったが、神が我等が住まう地上に干渉することはない、と言うのも彼の言葉だった。だから、神がいても会えはしないのだろうなと、代わりにジュロウのような者が、世界に干渉することで、何かしら世界は動くのかもしれぬ、そう思うことで落ち着いた。


 そんな経緯や知識について、さらに今ある街の発展、その出来事を土産話にしている、度々来るジュロウはエルフ達との交流はとても素晴らしいものだと語った。


 そしてそれからさらに月日が多々ある日、ジュロウは言った。その時の彼は何かに疲れた顔をしていたのは、今でもはっきりと覚えている。それまでと違って真面目な声音だった。


 なんでも街を国に変えると言ったのだ。それに周囲は驚いたが、ジュロウは何かを悩んでいたようだった。彼は何かを決心したのか重い口を開き、ぽつりぽつりと語り始めた。俺が国王になって国を興し、他の国と肩を並べられるようになるのも、そう遠くはない将来の事だ。だがそこにはいくつもの問題が生じる。


 街が大きくなり人の営みが栄えれば、その際に必要になる、石や鉄、それに木材が必要不可欠なのだ。いつしかこの森も伐採の対象になるだろう。それはいつもの事ではないのか? 木の伐採は一定量を毎月納めているはずだが、とエルフの一人が述べた。


 ジュロウは答えにくそうにだが述べた。人間は人口が増えれば、需要を満たす為の消費が、歯止めが利かなくなるのは分かっていたが、こんな順調に街まで発展できた。それはひとえに人の努力であるだろうが、根底には条件として、この森の存在があってこそだった。定期的な木材の納品がある。それで家を建て、船を作り、家具や調度品が作られ、大工や木工が活躍できるのだ。


 だが需要が大き過ぎて、今のままでは森からの納入量では、需要に供給が追い付かない。人間の欲求が抑えきれないのだ。ジュロウは涙して頭を下げた。過去に迷惑を掛けないと言っておきながら、木々の納入量を増やしてほしいと願いにきたと、そしてそれを願い出ている自分が不甲斐ない。だが、民の需要を満たす為には必要だったのだ。


 当時のエルフ達も、そんな人間の欲求で住んでいる森を大規模に伐採されると言うのは、困ると言うのは言わずもがなである。それを、どうにかできないかとジュロウは申し訳なさそうに問いかけて来た。


 我等の族長は、これ以上は森をいたずらに削るだけで、木々をこれ以上納入すると、森が廃れてしまうと告げた。エルフの用いる魔術であっても、万能ではないし限界がある。森を脅かすほどの伐採などは認められるはずもない。それを聞いて、ジュロウは分かっていたのだろう。やはりそうか、と諦めていたよ。そして、自身がここに頼みに来ることは今後できないだろう。来るのもこれが最後になるだろうと言って、我等に別れを言った際、こんな事を言った。


 “トウキョウは天下の台所、オオサカは将軍のお膝元”これを、間違いだ、正確には前言が逆だという者がいれば、俺と同郷の者だろう。恐らくそいつは“ニホンジン”だ。ニホンジンにも良し悪しはあるが、善悪の区別はそいつの行動で分かると思う。お礼を述べても多少の遠慮をする奴もいれば、自分の行動に自己評価が低い謙虚な奴もいる。そう言う奴だったら当たりだと思え。


 もしもそう言う奴を見つけたら、俺と接したように親切にしてやってほしい。そいつならば、お前達を苦しめずに、もっと賢く立ち回れるだろうと思う。覚えておいてくれ、とジュロウが最後に残した言葉だ。


 それから数年しない内に森の大規模な伐採作業が開始され、ジュロウの使いと称した兵士達が森を訪れるようになった。木々の納品がこれ以上できぬのならば、我等のいる住処の近くまで伐採を続けると警告であった。


 恐らくはジュロウは最後まで反対したのだろうな。だが、それから十数年経った頃、ジュロウの血縁だと言う男が兵士等と現れた。ヘーベウス王国の先王ジュロウは、病に倒れお亡くなりになられた。先王がこの先住民と何かしらやり取りをしていたと思うが、それは全て白紙とさせてもらう。今の国王が全てを決断された。そんな一方的な言葉で、後は森から徐々に木が失われ、さらに数十年後には我等の住居を速やかに明け渡せと通告がされた。


 その頃には、既に我等の住処以外の森は開かれ、木々は完全に切り倒されていた。我等は住処を追われることになった。


 多少は省いたが流れ的には言った通りだ。そなたには聞く権利があると思って大筋を話しさせてもらった。と、そのように言葉を締めくくった族長殿は、軽く溜め込んでいたものを吐き出すように、溜息をつかれた。



 ♦



「350人近くの部族が、当時そこに住んでいたという事ですか?」


「いや、あの森に見切りをつけていた者等は、すぐに出ていったな。当時は1000以上は森に棲んでいたはずだ。今頃どうしているかは知らぬが、我等よりも判断のできた者等だし、当時の部族の長も、私に引継ぎをして一緒に行ってしまったのだ。同じような事にはなってはいないだろう。どこかで上手くやっておるだろうと思うがな」


 馬車に同乗していたケンプが、そっと紅茶を出して相手に促す。それを手に取った族長殿は、まじまじと飲み物に浮かぶ自分の表情でも見ているのだろう、間を置いてからそれを飲み下す。


 僕は、と自分の口がさながら意図せず動いていた。


「ヘーベウス王国の生い立ちに、転移者の存在があったっていうのは驚きですけど。聞いていて思ったことは一つだけです。……同じようなことは繰り返させません。その十郎と言う人も、望んでいたように貴女達が暮らしていける場所を用意しましょう。

 聞いてわかった分、そんな愚かなことはしたくはない。ただ、木材以外で使えるものは、色々と考えるべきでしょう。木の需要は必要ではあるけれど、一定に抑えた上で他で補う事だってできる。需要に供給が追い付かないのは、それを見越した施策をとらなかったからだと思います。

 それを考えて実行します。勿論、貴女方の協力は必要ですけど、木だけが需要の全てではないと証明して見せますよ。僕でもまだ知らない方法もあるかもしれないし、知識を得るために動く必要はあるでしょうけど、十郎さんが言ったように、上手く立ち回って見せますよ」


「おお、何やらやる気に満ちておるのう。そう言うところは、最初に会った頃のジュロウに似ておるわ。手伝えることは手伝わせてもらおう。我等が永住できる場所であればいいがな。ふふふ」


 軽く笑う族長殿だが、僕の要件はまだ終わっていないのだ。


「それで、話にはまだ続きがあるんですよ。族長にだけ先に僕の実家をお見せしようと思いまして」


「ん? それはどういうことかのう?」



 僕は転送用ポータルである綴織つづれおりを取り出して、馬車の内側にある留め具に引っ掛け、魔力を流し込んでいく。


「おお……。純粋で清らかな魔力だの」


 族長殿が驚いているのは僕の放つ魔力らしい。魔力には質というものや、系統に合った魔力の種類と言うのがあるらしい。族長殿が言うには、僕の魔力は心地の良い風に暖かな日の光を感じる、感情に左右される場合もあるが、エルフが好む波長、波動のある魔力らしい。


「僕はそう言うのを意識したことはないのだけど、褒められてるという事でいいのかな? なら悪い気もしないけど」


「人の子が、このような万能型の魔力の質や、波動を持つのは珍しいと思う。属性で言えば風や土の系統が我等寄りの魔力ではあるが、やはりそれでも波動そのものは別物と言うことじゃ。だが、そなたの魔力は我等に近いように思う。もしや、教えればそなたでも我等の自然に干渉する魔術を使えるのではないだろうか……」


「使えたら使えたで利用はしますけど、僕はそれ専用の魔道具に成り下がるつもりはありません。それに、貴女達も自然をはぐくむだけで終わらせるつもりはない。ちゃんと対価を得て、生活を営む普通の人と変わらない人生、物事を運だけの歯車にするつもりはないんですよ。それは追々相談していきますけどね」


「……それは、我等を自然の中にはおいてくれぬという事か?」


「いえ、ヘーベウスの森にいた以前の生活に戻るだけではなく、人間や他種族とより交流を持ってほしいのです。族長も仰っていましたよね? “閉鎖的で外の世界を知らぬ我等に、相応に情報を頂けることが望ましいと考える”と。外に目を向け耳を向けることをおろそかにせず、自分達の判断を持って、貴女方の生活を見直してほしい。それが条件です」


 どうでしょう? この条件を呑んでくれれば悪いようにはしませんが、と僕は族長殿に問い質した。


「自分達の生活に満足するだけではなく、外に目を向けて何かしら判断しろという事だろうか。それは構わぬが、我等にそれができるだろうか?」


「僕やユピクスと言う国がそれをサポートするのです。慈善事業ではなく、ちゃんとした対価があって動くのは、とても当たり前の事だと思います。時にはそれを考えないことも必要ですが、普段はそれを普通にしていけばいいのです。エルフだろうと人間だろうと、ドワーフだって獣人だって価値観はそれぞれ違いますけど、それぞれを等しく結ぶものはたくさんあります。それがお金なのか、物なのか、情報なのか、食料なのか。はたまた目に見えぬ情なのか、絆なのか」


「ふむ……」


「尤も悪いのは、対価や見返りもなく、ただの歯車に成り下がる事です。それでは生きているとは言えません。自然と共存できるなら、他の生きている者達とだって共存できるはずですよ」


 兎に角、行きましょう、そう言って僕は族長殿に手を差し伸べた。



 ♦



 馬車から族長殿を降ろし、とりあえず見せたいものは見せましたし、お話もできましたから、ある程度の部分は伏せて、そちらで話し合って頂けますか? と述べた僕に、族長殿は時間はあるからよく相談してから決めようと思う、と答えた。


 その族長殿の後姿をある程度見送り、僕は空を見上げる。もう軽く新年を迎えてしまったが、今頃は王都は賑やかになっているのだろうか。新年というか、こよみは、どこから何の始まりでついたのか、詳しくはヘルプさんに聞いたことだが、女神様が僕のような転生や、転移などで他の世界からの干渉を始められた年から、“神光年歴しんこうねんれき”と言うのが、始まったらしい。ちなみにその年月は1126年となっている。なので神光年歴の新年で暦を言えば、1127年となるとのことだ。


 えらく前から続いているのかとも思えるが、1000年ちょっとと思えなくもない。その中の転生者の一人が僕なだけなのだから、あまり実感がわかないのも仕方がないだろう。女神様は僕等のような存在を、どうして自分の管理する世界に招いたのかは不明だが、チェスの駒に将棋の駒が紛れ込んだような、ハチャメチャすぎることはないのだけは安心した。あー、でも自分で言うのもなんだが、能力の大きさや影響力の如何では、チートってハチャメチャな気もしなくはないな。



 ♦ ♦



 日付が過ぎるのがゆっくりと感じる今日この頃。漸く待ちに待った巡察使じゅんさつしとその補佐が数名到着した。ついでに陛下が用意してくれた幌馬車が20台と、これならば移動も一括で出来るだろうと思われる。その巡察使殿に引継ぎと使ったお金や資産を漏らさず伝え、証明となる書類に早速署名と捺印を頂いた。巡察使殿達は僕の仕事をえらく評価してくださっているようだ。


 待たされた時間を考えて、まさかここ領地をくれるとか言わないよな、等と不安になった時期もあるが、フォルトス陛下への定期報告の際、恐る恐る確認してみると、馬鹿言え、功績を挙げ連ねた者にそんな場所を与える程、わしの度量が小さいわけないだろ。考え過ぎだ、ほんとに剥げるぞと笑われた。


 それならそれで良いのですがね? ウルタル殿下やヘイリー殿は、罪人であるカックシーとその家族を移送する為、既に本国に帰られてしまったし、残っているのは何故か僕だけだ。僕にそんな役職ってついてたっけ? 疑問に思う。


 それから、数日を経て馬車の行列が20台近く領地まで来て、エルフ達を拾っていったけど、エルフ達の数がなんとかおさまってくれてほっとしている。運ぶものはエルフ達だけじゃない。収納した天幕もそうだが、食料やら馬の餌、それに水も大量に持って行かないといけないからね。何より途中の街や村での補給は必須だ。その手続きも、資金や消費量を計算して見積もりを出しておいたが、書類を確認した巡察使殿から、ありがた迷惑なこんな事を言われた。


「貴方が殆どの陣頭指揮を執られたと聞いている。貴方なら巡察使としても十分やっていけると思う。興味があるなら、仕事を紹介しますがいかがですか?」


「よ、よしてください。僕はまだ年齢なりの子供でいたいんですから! 引継ぎは以上ですからあとはお願いします。」


 僕の否定的な言葉に巡察使やその補佐達が笑い出した。何でも、王都で僕の名前がまた浮上しているらしい。戦勝のパレードなどは既に落ち着いているとのことだけど、本国に戻ったらもみくちゃにされそうですな。なんて笑いながら言ってくるんだから勘弁してほしい。本国素通りして、実家に帰りたい。そう思わざるを得ない僕であった。

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