第41話

 「我ここに盟約の証をかざさん。忠実なる者よ再び封じの鍵を解かん。我が前に姿を!」


 僕の宣言に従い、魔法陣と共に1人の……? いや、え? 3人? 僕はグレイスしか呼ぶように意識してなかったんだけど。現れた魔法陣は3つ、どの魔法陣の上にも1人ずつ、人影が現れている。


「グレイス殿以外にも呼ばれたのですか?」


「いや、グレイスだけしか意識していなんだけど(まさか、また女神様か?)」


 ケンプの質問に答えなつつ、疑問を持ちながら魔法陣の光が消えていくのを待つ。召喚で使った魔力は腕輪に蓄積されていた魔力で殆ど補ったので、僕の魔力は全く減っていない。女神様が来た時の魔力の減り具合ではないし、今回は追加で2人分だ。グレイス以外で誰が出てくるのか、僕はそのまま収まりつつある光の中に見覚えを感じた。


「って、グレイスは良いとして、他に誰かと思えば椿つばき小春こはるじゃないか。僕はグレイスしか意識してなかったというのに、一体全体どういうことだ?」


 グレイスは、胸が強調された服にズボンもぴっちり身体に合わせてある、腰や靴は西部劇に出てくるガンマンのような格好。僕より濃い銀髪で少し癖毛かな、あと少しつり目がちが特徴だ。その彼女が一言。


「彼女達は、私に付いてきました」


「ご主人様に会いたいが為に、小春達頑張りました!」


 いやいや、頑張ったって……。小春が跪いたまま、目をキラキラさせて頑張ったことをアピールしてきた。


「いや、来てしまったことは仕方がないのだけど……」


 そんなアピールされても、何をどう頑張ればガーディアンが自分の意思で、自身から召喚されるようになるんだ? ゲームとは違ったリアルになったが為の仕様によるものだろうか? 僕は首をひねる。すると、今まで沈黙していた椿が僕に向きながら述べた。


「ご主人様の意思とは関係なく、自分達の意思でグレイス殿の召喚に便乗致しました。主の許可なく勝手をしたのです。お邪魔のようでしたら、お手数ではございますが、再び封印していただきたく思います」


「えー、折角出てこれたのにー。ご主人様、小春達また封印されちゃうの?」


 椿の言葉を聞きショックを隠さず、うるうるした目で僕を見つめてくる小春。僕はとりあえず、小春を宥めながら考えを述べる。


「まったまった。少し待ってくれないか? 突然の事だから僕も少し混乱している。いずれは君達を召喚しただろうけど、現在理由があってグレイスに用があったんだ。でも、現状で君達を召喚した以上再封印はこの際しなくてもいいと思ってる。というか、僕が誰であるかもう聞く必要はないかもしれないけど、わかってるってことでいいのかな?」 


「私はご主人様を正確に認識しています」


「もちろんです、ご主人様」


「小春も、呼ばれた瞬間すぐわかったよ」


「モモカも!」


「無論、私もでございます」


 グレイスに椿と小春につづいて、モモカとケンプがそれぞれ述べる。思ったのだけど、見た目が変わっても腕輪を所持していることで個人が認識されているのだろうか? でもまぁ、確認は大事だと思うし、これからもするつもりだ。


 それにしても、椿と小春については突然なので、何か必要な指示を出そうにも思いつかない。どうしようか。僕の知る限り2人の能力はかなり高く、活用する用途はいくらでもある気はする。


 今の2人は現在両手両足に手甲と足甲を着け、鎖帷子くさりかたびらの上に黒に近いの忍び装束をまとっている。ちなみに、彼女達ガーディアンにはそれぞれ異なるジョブクラスが存在する。例えば今回召喚したグレイスは”狙撃手“や”ガンスミス“などのジョブクラスを持っている。


 ついでに、椿と小春は”くのいち“などのジョブクラスを持っている。けど、真夜中はいいけど、真昼間の街中でこの忍び装束の格好で出歩かれるとすごく浮くだろう。まぁそんなことは言わなくてもわかっているだろうから、普段はトヨネ達が着ているようなメイド服などを着てもらえばいいと考えている。


とにかく、3人には僕が置かれている現状の説明に、ヘルプさんの存在、そして肝心のこれから始まるであろう戦争について伝えていく。そこでケンプから言われて思い出した。彼女達には身分証が必要だ。彼女達には先に冒険者ギルドのカードを作ってもらうことを指示し、全員でユピクスに戻る。


 馬車や馬の面倒を見ていた兵士が、ポータルを使い馬車からぞろぞろ戻ってきた僕等を見て不思議そうな顔をしている。明らかに中に入った人数より数が増えていたからね。兵士は自分の認識や記憶違いだったのだろうかと顔に疑問の表情を浮かべていた。申し訳ないけど、僕は何事もないように兵士の横を通り去っていく。



 ♦



 グレイス、椿、小春の3人とは途中で分かれ、ヘルプさんに頼んで冒険者ギルドに向かってもらい、僕等は城内で自身に宛がわれている部屋へ戻る。そこにでは、トヨネとアイリスが手分けして何かやっているのを見て取る。何やら手紙や荷物のようだが……。


「どうしたのそれ?」


 僕の質問にアイリスが答える。曰く、僕への感謝状だったり、お茶会への誘い。パーティーへの招待状だったりするそうだ。トヨネの方は僕への贈り物の仕分けと目録付けをしているそうな。しかも、まだ続々と届いているようで、この部屋に入らない分は別室を借りて保管しているそうだ。


 正直に言う、やめて頂きたい、切実にそう思う。僕はまだ社交界に出たことさえないんだ。それに、今はお茶会だのパーティーだのへ行っている余裕なんかないし、正直面倒で出たくない。これは、どうするべきか。そうだ、この後会うことになっているウルタル殿下辺りに相談してみよう。僕はメモ帳に相談事を書いておく。ウルタル殿下ならこういう事に慣れていそうだし、対応方法を聞いてみるのがいいだろう。


 手紙や贈り物に対して僕が出る幕はない。申し訳ないけどトヨネ達に手分けして整理してもらおう。それからしばらくして、僕がいる部屋のドアがノックされた。今回の戦争で僕の補佐役であるサイラスさんが呼びに来てくれたようだ。これから僕は、ウルタル殿下を含むお偉い方に呼ばれて、対マヘルナ王国、または対ヘーベウス王国に向けた作戦会議が開かれる段取りになっている。


 ユピクス王国に滞在できるうちに、詰めれる話は詰めておこうということだ。サイラスさんに案内されて向かった先は、両開きの扉がある大きい部屋だ。中に入ると服に何かしら将校の証か勲章や階級章であろう物を付けているいる人達が席についている。他にも財務からのお偉い方が来ているらしい。


 僕はどこの席へ行けばよいのだろうか? と一瞬だけ悩むそぶりをすると、大きな背もたれでいかにも偉い人が座る豪華な席に座っていたウルタル殿下が僕を手招きしているのが見えた。寄っていくと。


「オルクス、君の席は私の隣だ。専用の椅子を用意させたからそれに座ってくれ」


 おおう、気配りのできる殿下だな、どこかの太っちょ殿下とは格が違う。と、僕は礼を述べて席に座らせてもらった。その瞬間、今まで席について雑談なり、相談なりしていた将校達、その他にもここにいることから役職が高いと考えられる人達が僕の方を向いたのが分かった。何を言われるのだろうかと身構えたが、それは杞憂であったらしい。初めに1人の男性が言葉を発した。


「殿下、紹介して頂けませんか? 今回我々が動くことの切っ掛けを作ってくれたという彼に、私は礼を述べたい」


「ザッカリー殿、抜け駆けはいけませんぞ」


「しかりしかり、私も礼を述べたいのだ。これまで、幾度もどう説得しても動かなかった陛下の重い腰を動かした。それは、ここにいる者だけが望んでいたことではない。この国にいる者の総意に近い」


「うむ、その通りだ」


「オルクス殿といったか? 彼がやったことは偉業に近いものだと皆思っている」


 それぞれが言いたい放題僕を褒めてくる、けど少し待っていただきたい。戦争と言うのは基本、拒まれるものだと思っている僕としては複雑な心境でいる。もちろん表情には出さないけど、偉い立場のある人達は揃って喜び勇んでいるように見える。そういえば、何かの本で読んだことがあるな。


 全ての軍人とは言わないが、軍人には戦争癖があって、平和のために軍備を整えるというが、整えた後にはその力を試してみたくなる。そういう悪い癖があるらしい。彼等もそういう癖を持っているのだろうか? 戦争で起こる被害や消耗を彼等は分かっているのだろうか? と、妙な不安を覚えた。


 内心素直に喜べないでいる僕に、ウルタル殿下は部屋にいる立場の高い人達を紹介していった。紹介される人の名前と顔を一致させながら、僕はウルタル殿下の紹介が終わるのを待つ。その最後の一人が終わった後、ウルタル殿下が、そろそろ始めるとしようと述べた。


 フォルトス国王陛下は会議の途中で参加されるそうだ。そして全員が着席したのを確認した会議の進行役だろうか、控えて整列していた人達の中から一人進み出て、会議の始まりを告げた。


 初めに議題として挙がったのは北東の隣国マヘルナ王国だった。人口で言えば近隣で最も多い国だと言うことくらいしか知らない。ここで、各近隣の諸外国をおさらいするようだ。まずはマヘルナ王国について。


 人口は約10万人の国で、産業は主に海産に力を入れている。他の産業も少なからずあるが、輸入に頼る面が多いようだ。そして兵力は多く見積もって2万から3万ぐらいだろうという予測。


 徴兵により予想より兵力が多くなることもあるだろうとのことだが、ユピクス王国にばかり兵力は割けるわけではないだろうという見方が強く、実戦投入される兵力はもっと少ないというのが集中した意見だ。


 けれど海産で潤っているはずの国が何で領土拡大を行ってきているのかは情報が少ないらしいが、噂ではユピクス王国以外の隣接する国から領土ないし、財源を削り取られているような話が出された。その削られた領土をユピクス王国の領土を奪って補う。そういうことなのではないかという話でまとまった見解が出ている。


 次に北西の隣国ヘーベウス王国についておさらいされる。


 人口約9万人の国で、産業は農林水産を満遍なく行っていてユピクス王国と似たような産業形態をしている。けれど、最近になって森林の伐採を強行し過ぎたツケが溜まってきた為か、木材を扱う業種が滞り始めているという話が出た。


 それに、国内での木材の買い付けで混乱が生じているとか。一つの例でいえば、高い価格で売りつける組織的な動きがあるそうだ。そして注目の兵力に話は移る。


 兵力は大体2万前後と言いうことらしい。やはりこちらも徴兵による兵力の増加は不明だが、それなりの兵力を有している。そして、マヘルナ王国と同じく、ユピクス以外にも隣国が存在するのだ。ユピクス王国と戦争になるにしても、全兵力を動員してくることはないだろうという結論に達した。


 対して、我が国ユピクス王国の現状が報告として述べられる。


 人口約7万人が住まう国だ。産業は農林水産が中心で山がいくつかあるので少なからず鉄材の産業もある。それぞれの産業で特化したものはないが過不足なく順調に横這いで推移している。それだけ、内政分野が乱れないように国を維持してきたと褒めればよいのか、大した改革を行わなかったと非難すればよいのか微妙なところだと言う意見もある。けれど、僕としては国王がとっていた内政としての舵取りは良いものであると思う。変に改革を推し進めて、隣国ヘーベウス王国のように何かしら不足するものが出てくる産業形態では問題だろう。


 それに今まで領土が削られても、不足なく産業は横這いで推移しているのだ。領土を取り戻し、各地の状態が良くなれば、もしかすると産業が緩やかにでも右肩上がりになるものがあるかもしれない。それには、やはり今回の戦争に勝たなければならないと言うことだろう。


 他所の国が何の問題を抱えているかなんてわからないし、知ったところで僕にはどうしようもないことだ。代わりに、僕がやるべきことは分かり切っている。我が国の問題は今現在、この国が外の国から攻められて領土を奪われているという事実だけだ。この戦争は今後に大きな影響を与える大戦だ。絶対に負けられない。僕は再度意識を戦争へ切り替え、資料に目を通していく。


 兵力は大体1万2千前後とある。他の国よりも人口が少ないのでその辺りが妥当なところだろうか? 相手にする国にもよるが、兵力差は当然生まれる。今回はヘルウェン王国と共闘することが決まっているが、ヘルウェン王国が出してくる兵力がいくらなのか未だに定かではない。それに、ヘルウェン王国はついこの間攻め込んできたばかりの国でもある。疑心暗鬼というか、信用してもいいのかと言う言葉が飛び交う。


 その話に出てきた今回の共同戦線を張る、味方となる国であるヘルウェン王国についても述べられた。


 ユピクス王国の南部に位置する人口約8万人規模の国だ。鉱山が豊富で鉄生産が盛んな国で、加えて森林にも恵まれている為鉄材及び木材の輸出で経済が回っている面が強い。だが、その半面領土の大半が枯れた土地で作物が育ちにくい傾向にある。作物が豊富なユピクス王国へ鉄材を多く輸出して、作物と海産物の輸入を行っているのが現状であるらしい。今回のヘルウェン王国の狙いとしては、戦争で王族を出したことによる交渉力の強化で、海域に面した領土を手に入れたい考えなのが見えてきた。


 だから、ヘルウェン王国から最も近い海域を考えるとマヘルナ王国もヘーベウス国にもある海域に接続した領土。両国の南部に海域に接続している領土がある。ヘルウェン王国はそこのどちらか、あるいは両方欲しがっているのではないだろうか。僕はそのように推察したことを述べる。


 それは前もって周知されていたことなので誰も何も言われなかったが、僕は付け加えてヘルウェン王国の派遣されてくる兵力がもしかしら少なく、張りぼてのようなものかもしれず、兵力として考えるには当てにならないものである可能性があることを考慮して、どのように我が国は兵力を配置にするか考える必要があるとも述べた。


 それからしばらく、机に広げた地図の上で、兵力と見立てた駒を、ああでもない、こうでもないと動かして議論する将校達。僕はただじっと地図上を見つめながらあることを考えていた。机を囲む面々は議論が膠着状態となり始めていて、言葉が抽象的なことしか出てこない。そこで、会議を進行していた役員が見計らったように休憩を挟む旨を告げた。それに対して、僕はヘルウェン王国との外交についてどのように進める意向があるのか尋ねる。


「いかがでしょう、現状で分かっていることは以上となりますが、何か質疑か立案はございますでしょうか? 無ければ一時休憩を挟みたいと思うのですが」


「1つだけいいですか? ヘルウェン王国の情報は今の現状で分かる範囲把握しました。では、ユピクス王国はこの先どのような方針でヘルウェン王国との外交を詰めていくのでしょう? 今言っても仕方のないことですが、彼の国の動きが定まっていれば、もう少し具体的なことも話し合えると思うのですが」


 分からなければそれはそれで良い、と言ったつもりで質問したのだけど、部屋の壁沿いで並んでいた書類を持った人が、会議の進行役に駆け寄り持っていた書類をいくつか渡して何か伝えている。そして、進行役は次のように答えた。


「その外交の内容に関しては、陛下より指示を頂いております」


「指示?」


 意外な返答に部屋は静まり、進行役が書類をめくる音だけが目立って聞こえる。そして、進行役が書類に目を通し、次のように述べた。


「フォルトス陛下は、次の外交でヘルウェン王国側に次のようなことを伝えると伺っています。それは――」

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