第38話
応接室でウルタル殿下を相手に、自分が気づいたこと、気になったことを述べていく。それが正しいかなんてわからないけど、それは統括してウルタル殿下や国を動かす立場の人、さらには国のトップであるフォルトス国王陛下に判断してもらえばいい。僕は推測や推察を判断材料として提示しているだけだ。
僕とウルタル殿下が話し込んでいると、部屋の出入り口が大きくざわついた。誰かの掛け声に、フォルトス陛下の入室が告げられて、今まで目まぐるしく動き回っていた人達が一斉に礼を取る。それに構わず入室してきたのは、以前見た時よりも疲れてるのかな? と僕が気に掛けるくらいに覇気がないフォルトス国王陛下だった。気のせいかもしれないが、お疲れ気味であるように見えた。
「よい、重要な案件と聞いている、仕事を進めよ」
国王陛下は周囲を一瞥して、仕事を進めるように促す。その言葉を皮切りに、室内にいる人達は一度深い礼して、再び忙しなく動き出す。その様子を気にすることなくこちらに向かってくるフォルトス陛下。僕は立ち上がり礼をとる。
「オルクス、よく来てくれた。色々と情報を提示してくれているようで助かっておる」
「もったいなきお言葉です、陛下」
僕が返答すると座るように促される。まぁ国王が座るのより少し遅れて座るのだけど。フォルトス国王は、現状どのような話が行きかっているのかを把握するため、ウルタル殿下と書記から説明を聞いているところだ。僕は先ほどから話に上がっていたミリャン殿下の派閥について推察する。
ミリャン殿下を宮殿から出した意味。それはミリャン殿下個人ではなく、ミリャン殿下の立場、王族として戦場に立たせる意味合いがあるのではないかと、ウルタル殿下が言っていた。王族として出兵させ戦場に出させるというのは、どういう意味があるんだろうか? 僕ではわからない。なのでミリャン殿下と似た立場にあるウルタル殿下に聞いてみることにした。陛下に丁度説明し終わったようなので、頃合いを見計らって声をかける。
「私ではわからないのでお尋ねしますが、王族が出兵するというのは、対外的にどのような意味合いを持つのでしょうか?」
「そうだな。考えられるとしたら、その戦場が初陣であるのなら勝率が高いものであることが多い。また、対外的には王族が出るほどの大事な場面、もしくは国の威信としてその戦争に対する国の心構え。例えば威嚇ではなく本気で攻めるのだといったことを国の内外に知らしめるというところか」
ウルタル殿下の説明を聞くに、国の態度、本気度を内外に知らしめる行いか。でも、あのミリャン殿下だぞ? 見栄えにこだわった挙句、武器もまともに扱えずに義妹に棍棒でぼこぼこにされるくらい弱い人物。いや、そこは立場か? ヘルウェン王国が、本気でユピクス王国と諸外国との抗争に参加する意思表明? それって大事なことじゃないの? 個人としては使えないけど、旗頭としては利用できる。ミリャン殿下を旗頭にするということは、どれくらいの規模かわからないけど、さっき説明を受けたミリャン殿下を担いでる派閥がくっついていくということかな?
なんだか、うっすら何かが見えかけて来た気がする。モイラアデス国王にとって、息子であるミリャン殿下はどういった存在なんだろうか? 学院で煙たがられる存在の殿下を宮殿に閉じ込めた。それをわざわざ出してきた。宮殿でさえ邪魔者として考えられていたとか?
「息子が邪魔になった、だから追い出した? ミリャン殿下を担いでいる派閥も邪魔に思っているのだろうか? その辺は不明だな」
いやいやいや、血の繋がった実の息子だぞ? 国の本気度を意思表示として出兵させたまではあり得ることなのかも。それに、以前話した時に子供は他にもいるみたいなことを話してた。それに、本人の思想はともかく、ミリャン殿下は世襲である王座に最も遠い位置にいるとも言っていた。僕は意識せずに考えついた言葉を繋げてみる。
「国の意思表示としてだけにミリャン殿下という王族を出兵させた。ミリャン殿下を担ぐ派閥付きで。抗争に出てくる兵力によるけど、戦果はどうでもいいのかな? それとも指揮だけ別の人がとるのだろうか? 戦場で旗頭であるミリャン殿下は、最後尾にいるのだろうけど、モイラアデス国王がどんな指示を与えているかわからない。戦場は危険な場所だし、まさか捨て、駒? 自分の子供をそんな風に使うのか?」
僕は朧気ながらに自分が出した推察に混乱する。転生する前の、日本人だった頃の感覚がその考えを否定したがっている。けれど、推察できる材料が不足しているからか、物騒なことしか頭に浮かんでこない。
「少し落ち着きなさい」
「え、あ! はい、陛下。申し訳ありません、お見苦しいところをお見せいたしました」
「良い、お主の口から出る言葉を掻い摘んで聞いていると、モイラアデス国王の考えが徐々に見えてきたように思う。あちらは、世襲に関係ないが王族と言う立場ある者を出兵させた。それは、ヘルウェン王国が本気で我が国と諸外国との抗争に介入するということだ。今回向こう側は共闘だと言っているがな。だが、恐らくではあるが、その息子に戦果は期待はしていないのだろう。戦果が出ようが出まいが構わないのだとわしは思う。いわば口実作り、我が国は王族まで出して共闘したのだと言いたいのだろう。結果が出ればよし、出なくても共闘した事実はかわらぬ。その事実を笠に着て、今後の外交も自分の手のひらで動かす。まさに良いとこ取りと言う考えなのかもしれぬ」
僕は、国王陛下が発したその言葉が、頭の中で歯車がかみ合ったような、パズルのピースがはまったような、そんな感覚を得た。
「なるほど。ならば――」
ウルタル殿下が、フォルトス陛下に何か進言しかけるが、それを遮って陛下は結論だけを述べる。
「だが、我が国は基本的に動かぬ」
「何故です、父上! そんなことだから、我が国の国土が徐々に奪われてしまうのではないですか!」
ウルタル殿下が立ち上がって父である国王陛下に意見する。けれど、いくらウルタル殿下が食い下がっても、やはり陛下は首を縦には振ろうとしない。そのまま、時間だけが経過するのを僕は見守った。そろそろ、頃合いだろうか? 例の件を確認してみようかな? 僕は目の前で行われているやり取りを尻目に、腰のポーチから2枚のメモ用紙程度のサイズで、あるマークを複数書き入れた用紙を取り出す。
そして、膠着状態に陥り、やり取りの収拾がつかない殿下と陛下に、折を見て告げる。
「恐れながら、今までの話を一旦まとめる時間を、休憩に当てようと思いますがいかがでしょうか?」
「オルクス?」
いきなりの僕の提案に訝しむウルタル殿下。だが、フォルトス陛下は賛同してくれるようだ。
「うむ、その休憩は必要だな。議事録と書記は滞りないか?」
「はい、今のところ話の内容を記録している最中であります。時間を頂けるのであれば、要点をしぼった内容の書類の制作をいたしますが、いかがいたしましょうか?」
うむ、取り掛かってくれ、と陛下が指示を出す。そして、陛下は席を立とうとした、そのタイミングで僕は用意した用紙を取り出し、陛下に見えるように机に並べた。
「あ、忘れるところでございました」
「ん? どうした?」
「恐れ入ります、陛下はこのようなマークをお目にしたことはございませんでしょうか?」
僕が、出したマークを見て、陛下は疲れた顔を驚愕に変えた。ウルタル殿下の方は見覚えがないようで反応がない。けれど、陛下が口に出そうとした。
「これは、パソ――」
「あ、陛下。もしご存じであれば、こちらのマークなども」
僕が机に並べたメモ用紙に、いくつかの記号を書き込んでいる。反応あり、かな。失礼に当たるが、フォルトス陛下の言葉を遮り、他にもいくつか記号を書いた紙を並べる。すると、陛下は立ち上がって僕に視線を向けながら告げた。
「……オルクス、と言ったか?」
「はい、陛下」
「わしの書斎までついてこい。休憩は1時間とする。ウルタル、お前も少し休憩して頭を冷やしてこい。わしはこの者と少し話したいことがある」
「父上?」
陛下は、殿下の呼びかけを無視して歩き出した。僕はその後に続く。僕の予想は的中していたらしい。フォルトス国王陛下は――。
♦
「ここがわしの書斎だ。入るがいい」
「では、失礼いたします」
僕はフォルトス陛下の案内で、陛下が使っている書斎に通された。扉が閉じられ、結構広い部屋の中には僕とフォルトス陛下だけとなる。陛下は先に応接用にあるようなソファーに座り、僕にも向かいに座るように促してきた。僕が礼をしてから座ると、陛下は互いを挟んだ間にある机の上に、ちょこんと添えられるように置いてある、きめ細かい細工の施された工芸品に手を触れた。するとどうだろう、ブゥンと一瞬音が鳴ると共に、僕と陛下が座っている座席の周囲一帯をカバーするくらいの膜が一瞬にして貼られた。僕としては馴染みの魔術であるサイレントのような発動が見れた。
「サイレントの魔術でしょうか? それは魔道具だったんですね」
「うむ、その通りだ。そんなことより、先程お主が見せてきた紙に書いてあったマーク。あれは、パソコンや周辺機器の電源部分にあるマークであろ? 他には神社を示す記号や消防署、警察、郵便局、高等学校。何故お主がとは聞かぬ。お主もそうなのであろう? ああ、普段通りに話してくれていい。誰も聞いていないことだしな」
フォルトス陛下はこちらを見据えて、答え合わせでもするように述べた。
「ええ、あれは、陛下がおっしゃる通り丸に縦線を入れたマーク。電源によく使われているマークですね。一応魔道具関連で使われていないか調べたのですけど、使われてなかったので利用しました。他にも前世で地図によく使われていた特徴ある記号です。念の為にもマークと言いますか、記号を複数用意していたんですけど、必要ありませんでしたね」
「やはりお主も転生者か。魂のトレードだったか? 女神がこの世界に来る前に軽く説明してくれた内容では、自分以外の転生者も存在するとは聞いていたし、実際に会ったこともある。さっきのお主のように分かり易い記号を見せてきたり、日本語を使ってきたり、日本文化で使われていたものを話に乗せてきた者もおったわ。悪い奴ではなさそうだと判断した奴は、今のようにここでよく話をしたものだ」
「と言うことは、結構な数いらっしゃるんですね。図書館で偉人を紹介する本に載っていたのを見かけました。結構古い歴史の本を読んでますと、時々この人は! って方がちらほらいるのに驚きました」
「だろう? わしも、小説なんかで読んだような事が起き送られてきた世界なのだ、同じような人間がいるのではないかと調べたこともある。偉業を成した魔術師、偏屈で鬼才の発明家、懐かしい曲を奏でる音楽家。色々おったわ。まぁしかし、会ったのは日本人ばかりで、外国人はおらんかったと思う。
日本人は異世界と何か密接な関係でもあるのかもしれんな。などと思ったりもしたが、王族として生まれ、慣れない生活に苦労しながら気づいた頃には立場が国王陛下だ。俺って勝ち組じゃね? なんて思っていった時期もある」
「時期もあるって、まさに勝ち組なのでは? まぁ人の価値観にもよるとは思いますけど」
フォルトス陛下は疲れた顔を手で洗い、ふーと深いため息をついた。
「国王なんてやってると、必要に判断を迫られる時が度々来る。わしはただ、平和を望んでいただけだと言うのに。今でもそうだ。国土が奪われ、国境が狭まり、他国からは交渉カードがない我が国を強気にだなんだといちゃもん付けて避難つけた挙句に産業の乗っ取りなんてしてくるわ。わしは元日本人で、戦争なんて知らない世代なんだ。抗争なんて死人が出ないように、せめぎ合いでも続けてればいつか落ち着くだろと思っていたら、途端に戦争吹っ掛けられて、国土はどんどん奪われるし、逃げ腰の外交になって諸外国にいいように食い物にされそうになる。……だが、現状まで追い込まれたのも、大半わしのせいではあるな」
「分かっていたなら、抗争なり戦争なり、しなくてはなりませんね。まぁ、僕としてはどうして国王陛下が、軍事力を見せなければならないときに動かないのか気になって、考えていたらもしかして同じ転生者かなって考えにたどり着いたわけなのですが。失礼を承知で、死人が出るから戦争をしたくない、とお考えなのですか?」
「いや、それだけではない。昔言われたのだ、戦争は血で血を洗うものだ、と。そうわしに話してくれた人も転生者で話を良くした一人だが、その人はもう故人だ。この世界に来てよかった、人生がやり直せてよかった、と言っておられた。
その人は戦争を知っている世代の人であった。この国について宰相よりも、よく相談していた頃もある。その人が言うには、戦争は憎しみしか生まない、一度起これば、際限なく続き果てが見えないと。人が人を殺す。それが繰り返されることに耐えられる心を持つのは、日本人としての記憶があると難しいかもしれぬ、と」
「だから戦争を起こしたくないと?」
そうだ。と俯いて沈黙した国王陛下に僕はしばらく沈黙で返す。その戦争を知っている世代の人が陛下に伝えたことは分かる。その人の前世で体験したことが悲惨だったのだろうということも想像に難くない。けれど……。
「陛下は思い違いと言うか、少し勘違いをされているようにお見受けします」
僕が発した言葉に、眉間にピクリと反応を見せた陛下が顔を上げて僕を見据える。その顔は少し不機嫌そうだ。
「わしの考えが、間違っているというのか?」
少し怒気で歪めた表情で僕に聞いてくる。僕は少し間を置いて頷く。
「その故人の話されていた内容は、正しく、と言いますかその方の中では正しいのでしょう。それを聞いて納得されている陛下の感情も間違いではありません」
僕の言葉に、何が言いたいのか読み取れないのだろう、陛下は何が言いたいのかと尋ねられた。それに対し、僕は自分の過去である前世でのことを話すことにした。
「僕の前世の仕事は、『ドミネーション・チョイス』と言うシミュレーションジャンルのゲームでゲームデザイナー兼
「ある、と言うかやったこともある。仕事が忙しいときはできなかったがな」
「そうですか、それはありがとうございます。それで、話を戻しますが、陛下はたかがゲームと思われるかもしれませんが、あのゲームは、舞台やシナリオなど他にもゲームに関わることは深く研究され、それを反映したゲームでした。そこには、もちろん戦争や抗争についての資料や、戦争体験者の取材も含まれます。私もそういった資料や教材を勉強するようになり、戦争体験者の取材に同行したりしたこともあります」
僕はここで、言葉を切る。陛下はそれで? と促されてきた。
「陛下は
僕はメモ用紙に日本語の漢字で統帥権と言う文字を書いた。陛下はその字を書いたメモを手に取り、少し悩みながら答えた。
「字から推測するに、総帥や総統のような感じか? 団体や集団、軍の指揮監督する全権を掌握している者をさしているように思う。それに、権とついているのだから、その権限。ということか?」
「ご推察の通り。
「……? いや、誰かまでは知らないが、わしの知識でいえば、当時の天皇か総理大臣ではないのか?」
「実は違うんです。たしかに戦争をしていた時の当時も三権分立が存在し、陸軍省と海軍省は行政の内閣の中にありました。ですが、省があるだけで行政に軍を動かす権限はありませんでした。指揮権を有していたのは、先ほど言った
そこには陸軍の参謀本部と海軍の軍令部があり、実際にはそこが軍を動かしていたのです。陛下は天皇の名前を出されましたが、基本的に天皇陛下は参謀総長や軍令部総長が出した起案、方針に原則的に反対しないんです。
とまぁ、ここからは少し
僕の言葉に、ふむと同意をしてくれた陛下だが、やはり僕が何を言わんとしているのか図りかねているようだ。もうズバリ言ってしまおうか?
「で、やっと今現在、転生後の話に戻ります。ユピクス王国の軍隊は、誰の指揮下にありますか?」
そこで漸く、陛下は僕が言いたいことに気づいたようだ。
「わしだ、わしが攻めろと指示すれば攻めるし、退却を指示すれば退却する。無論、立場のある者達と会議を開き議論はするがな。何やら、お主が言いたいことがぼんやりと見えて来たぞ?」
「僕が言いたいのは、今まで国王陛下が言うところの立場ある人達に意見されていたはずの国王が、抗争に反対している。だから軍隊は動かない、それは統制が取れているからです。ですから、陛下が攻めてきている諸外国に反抗する意思があると見せる為に軍事力をある程度まで動かし、取られたという領土や国境を元に戻した後、今まで通りなされればよろしいのでは? 血を見たくないのであればそれ以上攻めなければよろしいと思います。その権限が陛下御自身にはありますからね」
「しかし、結局戦争になれば血が流れるではないか!」
フォルトス陛下が騙されないぞとばかりに、根本的な話を蒸し返してきた。それに対し、僕はモイラアデス国王が模擬戦大会に向かう前に話してくれた、亡国の話をしてみることにする。
ある時代の国王は戦争を嫌い、1に交渉、2に交渉。戦争を起こさぬように、他国との交渉はいつも腰が引けた状態で行っていたこと。まさに今のこの国のような状況だ。他国はその国の態度で強行策に出たとして大した戦争はないと判断され、機会を見計らってついに強行策に出されてしまった。無論そのままでやられる王国ではなかったが、自国から戦争を起こさなかったため、じりじりと他国に自国の領土を奪い取られていった。この部分も今現在のユピクス王国と被っている。結局、自国を守るために、最後は戦争と言うカードを切らなくてはいけない。
抗戦に出るべきだと、当時の国の宰相や大臣、軍を司る将軍達は口を揃えて言っているのに対し、国王は断固として首を縦に振ろうとはしなかった。その理由についても話したけど、目の前にいる陛下は戦争を嫌って、血で血を洗いたくはないと言っているのだ。だけど、結局最後に攻め込まれたら、そんなことを言っていられなくなるのは目に見えている。攻め込まれているなら、軍事力を行使するのは、今するのか、後でするのか。結局その2択でしかない。
『ドミネーション・チョイス』を少しでもしていたのならばわかるはずだ。ログに戦争が勃発したなどのログが流れて、どこで、誰と誰が争っているのかすぐにわかる。それは他人事ではない。いつ自分の国が他国から戦争と言う脅威にさらされるのかわからない。確かに、ゲームスタイルは様々で、受け身のプレイヤーだっているし、戦争を起こさないで国力だけ繫栄させているプレイヤーもいた。けど、彼等も分かっていたはずだ。戦争と言うコンテンツがある以上、やっぱり攻めてくる相手はいる。
その為に国を大きくして国力を高め、敵からの攻撃に脅かされない為に長年築いてきたものではないのか、この国は? その為の軍事力ではないのか?
ゲームとリアルの違い位分かっている。わからされてきた。だから言えるのだ。平和を望んでいたというなら、覚悟しておくべきだ。血で血を洗うことを恐れず、望んだ平和を守り抜くために、動けるなら動くべきだ。力があるなら見せるべき時に見せておくべきではないか?
僕はそれだけ言って席を立った。そして、最後に陛下に向けて自分の決意を述べる。
「僕は、僕の平穏の為にできる限り尽力します。今の両親や弟妹が悲しまないように、領民が苦しまないように、力の限り尽力します。それは、以前も言いましたが、国の為でもあります。けれど祖国がつぶされては、今の実家がある領土にも影響が出るでしょうから。僕は僕なりに尽力します。
フォルトス陛下の前世がどのような物であったのかは、僕の与り知らぬところです。今まで、接されてきた方々の言葉がどういったものかも様々でしょう。それが陛下に現状の判断をさせてきたのかもしれません。僕の意見は少数派かも知れませんね。僕には家族がいて、領地がありそこで暮らす領民がいる。それを守りたい。それが僕の本心です。
それと、戦争で血を流すにしても、それを最小限に留めることで、微力ながらフォルトス陛下に協力することはできると思います。僕は、自分の為に立ちはだかる脅威を退ける。人を殺す覚悟をしています。それが僕がこの世界に来て以来常に思っていることです。……以上です、長々と失礼いたしました」
後は陛下に判断を委ねます。と、僕は一礼して部屋をでる。部屋に残した陛下の事は気になりはしたが、僕にできることはここまでだ。陛下がどのように、何を考え決断するのか。人任せではあるが、委ねるしかない。僕はそう思いながら、応接室に向かう。
僕と陛下の対談内容は謎に包まれたものではあるが、後に”歴史を動かした1時間“と言われるようになるのは、僕の与り知らぬことだ。
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