第24話

『その程度の相手でしたら、ご主人様かトヨネさん一人で十分でしょうけどそれはダメなんですよね。ある程度ダメージを与えて、何とか倒したように見せないと悪目立ちすると』


『または、完全にサポートに回って、周りの方々に倒してもらうのが無難ということですか。全く面倒ですが致し方ないのでしょうね。今後の行動の妨げになるようなことがないようにされたいのでしたら。ところでご主人様としては、何か策はおありですか?』


「策と言うほどのものじゃ無いけど、方針としては青ボスや他の魔物の動きを封じたり、攻撃を防ぐ役目が無難かなと思ってるよ」


 ふむふむ、セシルとルルスが頷く。


『相手がアンデッドということなので防御系の魔術でしたら神聖術がお勧めですね。アンデッドの行動の妨害もできますけど、周囲にアンデッド以外の魔物がいるということなので、そちらの動きを妨害するのはルルスさんの魔術系統が良いと思いますけど。ご主人様は『並列思考』がお使いになれますから、両方使えば無難に周囲のサポートができると思いますよ?』


『あー、確かにね。けど今回は神聖術のみに絞るか、切り替えて他の属性魔術を使うことを考えてるよ』


『それも目立たないためですか?』


『そのつもり、僕の護衛にトヨネを付ければ、これ以上目立つこともないだろうという見通しでいるよ。この状況で何かお勧めの魔術があったら教えてほしいんだけど、どうかな?』


『私からは『ホーリー・キャッスル』聖なる範囲結界、と『ホーリー・フリーシールド』聖なる自在盾、がよろししいかと』


『では、私からは『ダーク・ドレイン』闇属性の吸収、と『シャドー・バインド』影の拘束、をお勧めします』


『っておい! 結局それ同時に全部活用した方が便利じゃないか』


『そう申されても、神聖術とはそういうものですし』


『こちらの補助魔術だってそういうものですわ』


 僕が言いたいのはなぁ……、いや文句を言うのはお門違いか。わからないように複数同時に使えばばれはしないだろう。


『了解した。それでやってみるよ。助言に感謝する』


『吉報をお待ちしております』


『同じく』


「はぁ~……」


「どうしたボウズ。疲れたような顔して」


「いえ、何でも。それと僕はオルクスと言います。ボウズっていうのはやめてください。トヨネが消耗しているので下げます。代わりに前に出る準備をお願いします」


「おう、悪かったなオルクス。んで、いつまでもあの嬢ちゃんに頼ってちゃ冒険者としての名折れだ。いくぞお前ら!」


「うちらもいくよ!」


「こっちもだ! 目の前にボスがいるならやっちまえばいいだけだ!」


「トヨネ、下がって!」


 僕の呼びかけにトヨネは魔物の多数に一閃入れて飛び下がり僕の横で着地する。代わりにチアレンスさん達が一斉に攻撃に加わっていく。


「お疲れ様。僕はこれから詠唱に入るから敵から僕を守って。後はあの人達に任せればいい。少しボスの能力が上がってるのかもしれないけど、所詮は地下5階層の青ボス、どうとでもなるだろう。ベルセリさんもいきたかったら行ってきてください。言い方は悪いですけど勝ち馬に乗っておけばドロップ品がもらえるかもしれませんよ?」


「ええ、それはそうでしょうけど。オルクス君は何もしないんですか? ポーションをただであげてしまってるし丸損じゃないですか」


「僕はほら、後衛職ですし前線で戦ってる人達の援護をするつもりです。こんな風に!」


「セレクト:ホーリー・キャッスル」


 僕の呟きに反応し、足元から円状に波紋が広げるように聖なる眩い光がその場を満たしていく。半径15セルク(15m)からなる光の範囲が壁を作り結界を形成していくにつれて、それに気づいた冒険者? でいいのかな、おっかなびっくりした顔で僕の方を見てくる。その光に触れると全身に聖属性効果を宿すことにびっくりしながらも、目の前にいる青ボスや周辺の魔物に攻撃を再開し始めた。


「おお、こりゃいいな! 装備に聖水を使ったときみたいな神聖さを感じる」


「アンデッド系の魔物が光の範囲を嫌がって近づいてこないわ!」


「アンデッド以外の魔物も何だか動きがぎこちなくなってる。これもあの子のおかげかしら?」


「光の範囲を出ても効果は聖水みたいに持続するみたいだ。今のうちに畳みかけちまえ!」


 僕はホーリー・キャッスルを発動しながら『ホーリー・フリーシールド』、『ダーク・ドレイン』、『シャドー・バインド』を続けて発動していく。そうは言ってもホーリー・フリーシールドはトヨネがいてくれるからあまり意味はないし、ダーク・ドレインは青ボスが闇属性の魔術を発してこない限り効果を発動しない。シャドー・バインドは僕を起点に半径20セルク(20m)をカバーしているので、周囲にいる大抵の魔物に効果がかかって動きが鈍っているだろう。


「術を継続しながら青ボスに近づいていきます。そのまま青ボスを追い込んで仕留めてください!」


「がってん!」


「まかせろ!」


「あいよっ!」


「ちょっと! 私も攻撃しますからね!」


 各々のグループ、いやパーティが青ボス目掛けて攻撃を加えていく。このままの勢いでいけば数分もあれば青ボスも倒せるだろうと思っていると、青ボスの目の部分に青い火がともったのが見えた。


「目に青い火がともった! だけど好き勝手にさせないぞ!」


「セレクト:ホーリー・キャッスル・――エクステンド!」




 ♦   ♦   ♦




 そして我々、僕とベルセリさん、そして今回の功労者であるトヨネと3人。それに4つのパーティ全員で現在ボス部屋前に集結しているところだ。


 結局あの後、僕が使ったホーリー・キャッスルの範囲拡張で結界に接触した青ボスはものの見事に消し飛んでしまったようだ。もう少し耐久があると思っていたのだが、さすがアンデッドというべきか、神聖術が効きすぎたのかあっけない幕切れとなった。その時の周囲の視線に少しいたたまれない気分になった。そして、ダンジョン内部でほかに異変が残っていないか確認するため、地下5階層のボス部屋前まで見える範囲の魔物を倒しながら進んできたというわけだ。確かに遠距離攻撃持ちが多数いる階層を進むのは面倒だったが、4パーティに僕等3人がいるので1回の戦闘では対応も処理も物の数分もしない程度で終えてしまったので楽々だったわけだが。


 女性6人パーティのリーダーであるチアレンスさんが話してくれた通りに扉が閉まらないよう内側に打ち込まれていた分厚く長剣ほどある杭を見つける。斜めに打ち込んで扉に引っかかっているので手持ちの道具では取り外せそうにない。相談した結果チアレンスさんのパーティとベルセリさんに、ポータルを使ってダンジョンの見張りについている兵士達に報告してもらうことにした。もちろん、取り締まってもらうために扉に杭を仕掛けたパーティの情報も含めてだ。


 僕とトヨネは、青ボスが再び現れないかこのまま現場で見張りにつく、ついでに他の3パーティの内、野太い声のおじさん名前をローチャーさんのパーティ以外はダンジョンから早々に帰って打ち上げをするそうだ。浅い層の魔物と言えどかなりの数のドロップ品を分け合ったのだ。懐があったかくなれば酒が飲みたくなる。そう宣って戦闘の疲労はどこへやら足取り軽くポータルで去っていた。もちろん去っていく前に、今件の事は伏せておくように念を押しておく。再び同じことをされたら被害が出るということと、僕やトヨネの事を言いふらさないでもらう為でもある。快く承諾してくれたが、彼らの口の堅さに期待できるのか疑問が残る。母上も言っていたが人の口に戸は立てられないということだ。いずれボロが出るだろうと予測しておく。


「ボウズ。いや、オルクス。お主の領地で作ってるポーションは品質が良い。これはポーションの瓶か蓋に印や特徴を持たせて売れば、買い手側は目的の品が分かり易く買いやすいはずだ。手間と思わず買い手側の立場に立って分かる様にしておくことを勧めるぞ」


「っ! それは考えていませんでした! 是非参考にさせてもらいます」


「そうか、お前は素直な奴だな! まぁ売り手は買って貰えてなんぼというやつもいれば、作れれば良いとだけ思ってるやつもいる。儲けを出したいなら買い手や需要を考えれば自ずと売れ行きは伸びるものだ」


「また始まったよローチャーさんの、商売談義! これ毎回聞かされるの飽きてくんだぜ?」


「何を言う、商売人は売り上げてこそだ。だが売れてるうちも怠けるのはダメだ。いつ需要が別のものに移るのかわからんからな。それを見逃さないように情報収集も忘れてはならん」


「情報を集めて、需要を追い続けろ。それが商売の基本だ! って締めくくるのが通例だぜ」


「うるさい! 通例だろうと当たり前の事だ! 商売あがったりな店なんぞ、この王都じゃすぐにつぶれちまう!」


「いや、親方の言う通りなんだけど、毎回毎回耳にタコですぜ」


「なんじゃと?」


 僕はローチャーさんのパーティでのやり取りを見ながら訪ねる。


「ローチャーさんは店舗経営をされてるんですか?」


「おう、よく聞いてくれた。火打ち屋ローチャーとは俺の事だ!」


「あ~すみません。王都には今月の頭に来たばかりで……」


「……お、おう、気にするな! そのうち耳に入る時が来るってもんよ」


 そんなこんなで雑談を継続する僕等だったが、一向に扉の奥に青ボスが姿を表すようなこともなく。自分の事を僕が知らなかったということに意気消沈気味だったローチャーさんだったが、僕が気になったことや商売のことを尋ねたりすると機嫌よく答えてくれて雑談は続くのだった。


 ――それからしばらくして、話にいったんの区切りがついたころ。


「結局、今のところ青ボスは出ないみたいですね」


「そうだな。扉が閉まって1回分のボスとの戦闘という勘定でいいのかもしれん。杭を抜いた時に扉が閉まるようなら、もう一度青ボスを倒せばいいだけの話だからな。ここは地下5階層であるし、わしらだけでも事足りるわい。今回はオルクスや嬢ちゃんもいるしのう」


「まぁ期待外れにならないようにします」


 そんなことを話していると、ポータルから複数の人が転送されてきたようだ。結構少なく感じるな?


「お待たせしました、オルクス君。ボス部屋の内側にある杭の撤去作業が今から行われるらしいです。それと、この件の首謀者パーティの手配も終わりました。今頃ダンジョンの警備班がチアレンスさん方と一緒に詰め所に連絡してくれている頃だと思います」


「お疲れ様です。こちらは青ボスの出現を見張ってたんですが空振りで、雑談に花を咲かせていたところですよ。撤去作業で杭が抜けれた後扉が閉まれば青ボスと一戦交えると話していたところです」


「なるほど。では撤去作業をしてる間に扉の内側に移動しておきますか?」


「そうじゃな。準備は万端。気力も十分。いざボス部屋へまいろうか野郎どもっ!」


「うっす!」


「っしゃ!」


 ローチャーさんを先頭に、6人組のパーティは部屋へと侵入していく。


「僕等もいきましょうか」


「ええ」


「かしこまりました」


 ローチャーさん達に少し遅れる形で僕等はボス部屋に入った。すると扉の裏でで杭の撤去作業をしていた作業者達から声が聞こえた。


「結構長めのぶってえ一物だな」


「こんなの差し込んだらどんな娘も即発狂しちまうんじゃないか?」


 その声が聞こえていたのかベルセリさんの頬が少し赤らんだように見える。プルプル震えているのは怒りだろうか。どこの世界でも下ネタは共通だな。僕がそう思っていると、今度は作業者達の焦った声が聞こえる。


「よっし杭が抜けるぞ。長すぎだろこれ」


「おい、扉が内側に動いて行ってないか?」


「マジか閉じ込められるぞ」


 その声が伝染ったのか作業者達の慌てふためく声がより大きくなる。このまま内側にいられると防衛対象になってやりにくい。僕は作業者達に向けて声を飛ばす。


「杭が抜けたなら、それは放置していい。あなた方はボス部屋の外に出て、安全なポータル付近で待機なさってください。青ボスの処理はこちらで行いますので、早々に退却を! さぁ急いで!」


 僕が発破をかけると作業者達は持っていた杭や撤去道具をその場に投げ出し、閉まり始めた扉から急いで外に出ていく。思惑通り足手まといはいなくなったわけだが。


「肝の据わった子供だな」


「全くだ」


 と、僕に対して声がかかる。僕は息を吐くようにため息をついて、


「あの作業者達を守りながら戦うのって骨が折れると思いませんか? 何なら閉まり切る前に数名呼んできましょうか?」


「っは、言うな。お世辞は素直に受け取っておくものだ。お前さんのおかげで戦いやすくしてもらったんだ、こちらも気合入れていくぞ!」


「うっす!」


「扉が閉まるぞ!」


「詠唱、始めます。トヨネは僕の援護を、ベルセリさんは好きなように動いてください」


「かしこまりました」


「何だか私の扱い雑じゃないですか?」


「セレクト:ホーリー・キャッスル」


「思うんですが、それって詠唱してるんですか? 術名を言ってるだけのような――」


「青ボス出現! オルクスの結界ギリギリで間合いを詰めろ、他の魔物を召喚された時にも備えとけよ」


「っす!」


 ローチャーさんの激と指示が飛び、パーティの緊張感と意気込みが膨れ上がる。青ボスは地下3階層で見たのと同じだった。その青ボスが手に持っていた大鎌の石突を地面に叩きつけるのが見えた。


「おら、早速魔物の召喚だ! 互いの背後をカバーしろ!」


 僕も警戒したが、ホーリー・キャッスルの結界内には何一つ召喚されはしなかったようだ。代わりに結界の外にわらわらと地面から湧き出るようように出現する魔物達。チアレンスさん達が教えてくれたように、スケルトンとスケルトン・ウォーリアが合わせて20体ほど出現する。青ボスの召喚量は20前後だったが、ボス部屋の外で会った青ボスは、周囲のアンデッドを従えていたのかもしれない。けれど、青ボス自体のランクか技量不足でスケルトンとスケルトン・ウォーリア以外にいたアンデッドは使役できなかったのだろう。


 ブルー・マスター・リッチの底が知れるという感じだ。まぁ言っても地下5階層のボスというだけだ。僕等の脅威ではないということだろう。さて、ここも一気に詰めて終わらしたい気分ではあるけど、今回はほかの人に譲ろう。


(セレクト:ホーリー・キャッスル・エクステンド)


 僕は徐々にホーリー・キャッスルの半径を広げていくが、青ボスに直接当たらないように範囲を調整し、技や魔術も封じておく。滑稽に映るかもしれないが、こういうのは協力し合っている空気を出すのが何事にも対処できる処世術の一環だと僕は思う。その間も、周りの魔物はホーリー・キャッスルの範囲に近寄らないので、ベルセリさんを含め、ローチャーさんのパーティは青ボスだけを目標に目掛けて果敢に攻め立てている。それから数分経ったころだろうか。


「おっしゃ、青ボスの目に青い火が付いた!」


「畳みかけろ!」


 そして、青ボスは技や魔術も僕に封じられているためなすすべなく、あっけなく討伐され僕等は勝利することができた。魔物が討伐されるとガラスのように砕けたりするエフェクトだったり、死体が残ったりする場合があるけど、何かと関係あるのだろうか。それはそれとしてまた調べるか。それと今回のダメージトップはベルセリさんだったようで、マジックバックにボスのドロップ品が入っていたらしく大喜びだ。ちなみに、ボスや特殊な魔物のドロップ品は戦闘でダメージを多く入れた人や貢献度が高い人に自動的に取得することが多くあるらしい、そういったドロップ品を取得すると目の前で現れたり、自分の持ち物の周囲あるいは入れ物の中に入っているのだとか。どういう仕掛けなのだか……。


 まぁ無難に何事もなく勝利できたのは良いことだし、外で待機しているだろう、撤去業者達を読んで杭を回収してもらう。予定や段取りは少し違ったが地下5階層へこれた。これで今回のダンジョン攻略の目標は達成だ。いい運動にはなったかな?


 それと、青ボス以外の魔物のドロップ品は4パーティと僕等3人のパーティで山分けすることにしておいた。ポーション代だと少し多めに各パーティから頂いたが、良かったのだろうか。それと、ローチャーさんが言ってた売り物に、どこの誰が制作し販売しているのか示す目印についても後で考えようと思う。


 今回はトラブルはあったが収穫のある休日だった。ダンジョン内のポータルでダンジョンの外に出るともう夕方に差し掛かっている頃合いで、まあだ宿舎の食堂は開いているだろうか? 僕はそんなことを気にしながら、ローチャーさん達と再開の約束をしてその場で別れ宿舎に戻ることにする。トヨネは変わりなく僕の後ろについて歩いているし、ベルセリさんは何に興奮したのか、ドロップ品を品定めしているようだ。それを横目に、僕は少しだけ眠気を感じて軽くあくびをする。よし、食事を摂ったらすぐ予定をメモ帳に書いてから寝ようとここ心に決めておく。


 こうして僕のこの世界で初めてのダンジョン攻略は幕を閉じるのだった。










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