第21話
「オルクス様、おはようございます。そろそろ起床される時間ですが起きられますか?」
「ああ、おはよう、トヨネ。起きるよ」
僕の朝は早朝の5時過ぎから始まる。起きぬけでまだぼやける意識を覚醒させながらベッドから抜け出し、トヨネから水の入った桶をもらい顔を洗って思考をすっきりさせる。
「うう、冷たっ……」
「タオルをどうぞ」
「ありがと。っふうー、目が覚めるな」
目が覚めたところで転送用のポータルとして設置している綴織に触れ魔力を込む。転送ポータルは魔法陣の模様を織り出した
「おはようございます、オルクス様。本日もよろしくお願い致します」
「おはよう、セシル。よろしく頼む」
朝の挨拶を済ませ僕はセシルと向き合って座っている。
「先ずは神力を意識しながら身体の外に放出していきましょう。掌の上に球体を作り出すように。その際も魔力ではなく神力と言う意識を持つことが大切です」
こんな感じでセシルに神力による回復魔法を習っているところだ。この後にマティアによる薬学とルルスによる魔法の勉強が控えている。毎日科目を変えて1教科45分で区切り3教科教わりながら過ごしている訳だ。それを終えると今度は領地内での報告を受ける。アイリスから集落での出来事を聞かせてもらい今後の方針を定めるんだ。
「教会の建設は変わらず順調です。領民の方々の手伝いが順当にされていますので、後は資材が補充されれば予定通りの日程で完成すると思います」
「了解。まだ先だけど次回以降の資材の回収にトヨネとモモカ、それとアイリスで当たってくれ。資材の追加注文もその時に頼む。それと、ヘルウェン王国の冒険者ギルドで従者は全員登録を済ませておいてほしい。ギルドカードは便利だからね、折角ヘルウェン王国に行き来できるんだしこの際登録しておくべきだろう。冒険者ギルドに寄ったらついでにポーションの在庫も買取に出しておいてくれると助かるよ。資金は戻る前に渡すから配分を頼む」
「かしこまりました」
指示を終え少し休憩すると時刻は8時過ぎだ。これから食事を摂りにヘルウェンの宿舎に戻って食堂へ直行し、食堂のおばさんの大盛りの朝食攻撃を食らう。僕が小さいのは年齢的なものなんだから小さいを理由に量を盛るのをやめてくれないだろうか。
「おはよう、オルクス君」
「おはようございます、ベルセリさん」
食堂でベルセリさんと合流。朝食を懸命に食べながら雑談すること30分ほど掛かって食べ終えた。お腹がつらいまま9時前に職場である経理部の部屋へ向かい他の部署から助っ人に来てくれた人達に挨拶する。
「外務部から来ました。本日はよろしくお願いします」
「工部から来ました。よろしくお願いします」
「助かります。お二人ともよろしくお願いします」
基本的に他の部署から来てくれている人達には書類の仕分けや整理を中心に行ってもらっている。経理部の中心的業務である入出金の管理や計算は僕とベルセリさんで行わなければならない。いつまでもお腹を気にしている暇はないのだ、早速仕事に取り掛かろう。そんな流れが僕のここ最近の日常である。
そんなある日。
「オルクス君、ちょっといいかね」
「はい。あ、カテウス人事部長。何時も人事の手配ありがとうございます」
僕を呼び止めたのは人事部の部長だった。経理部の助っ人の手配をいつも行ってもらっている人でもある。僕が頭を下げるとカテウス人事部長はちょっと困った顔で告げる。
「いやいや、当たり前の事だから気にしなくていい。それよりも通達があってね」
「はい、何でしょう?」
カテウス人事部長からの通達は少し驚く内容だった。経理部の雇用試験で試験に合格した10名が配属となることが決まったらしい。しかし、今現在仕事の内容を把握しているのは僕とベルセリさんしかいない。そこで、急で悪いが二人には経理部の部長と副部長と言う立場になって貰いたいと言うものだった。
無論面接の際、上司が年下であっても問題ないという質問で、問題ないと答えた者しか配属者にはいないらしい。色々気にかけてもらって助かりますと伝えると、実は人事部長にはお子さんがいて、僕の年齢と変わらない年頃なのだと言う。やはり仕事ができても年齢的にも見た目的にもは子供であることに変わりはないので気を使ってくれているらしい。僕は感謝しながら人事部長と別れた。
人事の件をベルセリさんに伝えると、やはり彼女も困りながらしぶしぶ了承する。彼女は経理部に所属してからまだ半年も経っていないんだとか。困惑しているけど、僕なんて一月も経ってないじゃないですか……。
「私達二人しかいないんですからやるしかありませんね」
「そうですね」
は~、っと二人して溜息をつきながら仕事に戻るのだった。
それから数日後、新しく配属される人員達が経理部に到着した。
「今日から経理部に配属となりました。ロニールです、よろしくお願いします」
整列して並んでいる端から順に自己紹介を始める。今回採用された人員10名の半分以上は新卒で残りは中途採用らしい。それぞれが自己紹介を終えたところで、僕とベルセリさんの自己紹介だ。
「私がこの経理部の部長をしていますベルセリといいます。よろしくお願いします。それと私の隣にいる彼はオルクス君です」
「副部長のオルクスです。よろしくお願いします」
新入職員達がざわめく。
「あの、失礼を承知でお二人の年齢を伺ってもよろしいでしょうか?」
新卒の新入職員の中から質問が上がった。
「私が19歳で、オルクス君が5歳です」
新入職員達が再びざわめく。そりゃそうだろう、順番で行けば学校を卒業した新卒が部署の中で一番若いはずなのだ。その自分たちよりも若い年齢が一桁と言うのはどういうことだ、といったところか。
「驚くのも無理はありませんが慣れていってください。それでは仕事の割り振りを説明していきますので、聞きもらさにようにしっかり覚えていってください」
ベルセリさんは、なかなか収まらないざわつきに慣れる様に促し説明を始める。いつまでも驚いていられては仕事が進まないのだ。急に説明が始まったので新入職員達は慌てて静まり説明を聞いてメモしている。
「出勤して初めに行うのは書類整理です。各部署やそれ以外の所からも書類が来るのでそれを分別していきます。基本的に書類の分類も手分けして行ってください。それと、書類が何時もまとめられているとは限りません。なので他の人にもわかるように分かりやすいように整理することを怠らないでください」
「分からない書類はどうしたらよろしいですか?」
「最初のうちは分からない書類が多いでしょうから、私やオルクス君にまわしてください。処理の仕方を教えていきますので。それと、過去に処理した書類もまとめてありますので時間があれば見ておいてくださいね」
このような感じで説明は行われていった。職員達は何とか覚えていっているようだけど、実際にやってみないと分らないことが多いだろう。ベルセリさんが説明を行い僕が見本として書類整理や処理方法を実演していく。午前中で大体の書類処理を説明し終えたところで、いざ実践と言うことになる。さて、僕も溜まっている書類を処理していきますか。
カリカリカリ――、ペンを走らせ書類を処理する。説明に時間を取られていたからな、少しペースを上げて定時に終わるようにしたい。
「ほら、皆手を止めない」
気付くと職員達の手が止まって僕の方をじっと見ていた。ベルセリさんの声に皆がビクンとなって慌てて作業に戻る。僕は首をかしげるがベルセリさんは何でもありませんと業務を続けている。僕も気にするのをやめて作業を継続するのだった。
♦♦♦
俺の名前はホルカ年齢は18。この度新卒で王都の中央経理部に見事受かった新入職員だ。経理部に入った初日、俺はとんでもない物を見ながら業務を行っていた。初め自己紹介をした時、俺は何かの間違いかなんでこんな所に子供がいるのかと思った。しかし、紹介の時ここの職員だと言われて耳を疑うほど驚いた。オルクスと名乗った子供は、隣でベルセリさんが説明を行っているさなか実演して書類を整理したり処理したりしている。間違いなく職員なのだ。
しかし、俺が驚いたのはそれだけじゃない。説明の後、執務を本格的に実施させられている俺達新入職員をよそに、その子供職員が行っている作業速度がおかしい。本当に内容わかって処理してるのかってレベルの早さなんだ。思わず手を止めて見入ってしまった。両手でペンもって種類の違う書類を処理してるんだぜ? そりゃいつまでも見てたからベルセリさんに注意されたけどさ。
当日の業務が終わって、新入職員全員で親睦会と称して宿舎の外に食事に行ったけど、そこでの話題もほとんどが子供職員の話だ。仕方ないことだと思うが。
「俺聞いたんだけど、あのオルクスって子。国王様から直々に雇われたらしいぜ」
「え? そんなこと有り得るの?」
「ああ、俺も聞いて驚いたんだけど、俺達より前に勤めていた経理部職員の懲戒処分の穴埋めであの子供を採用したって話だ」
「それで二人しかいなかったんだ」
汚職で辞めさせられた職員は当たり前の処分だとは思うんだけど、残った職員であるベルセリさんは気の毒に思われた。残って一人で働かされる羽目になるなんて。それに1ヵ月後に来た増員が子供一人って。俺なら仕事続けたかなぁ。でもあの処理能力だろ? どうなんだろう……。
「明日からも仕事だけど、今の職場でよかったと思えるときが来ると良いけどな」
「それは言えてるな」
そんな話をしながら俺達新入職員は英気を養うために食事を堪能した。
♦
今日も今日とて書類に追われる日々が続いている。ヘルウェン王国で過ごすのも一月が経過しようとしていて仕事にも大分慣れて来たように思う。人事の増員で10人の新人職員が確保されやっと経理部として稼働し始めた感じがする。新人にも早く業務に慣れていってほしいところだ。
新人の指導をしながら書類の山を午前の分はやり終えて、現在お昼の休憩中である。今日はトヨネが工業区で資材の納品や追加発注に回ってくれているので今はいない。僕はベルセリさんと一緒に食堂へきている。
それにしても、僕の目の前には食堂のおばさんがてんこ盛りに盛った食事がトレイに乗っている。小さいんだからよく食べて大きくなりなって言われたけど、こんなに食べたら横に大きくなるんじゃないだろうかと不安になる。隣にいるベルセリさんに助けを求めると、少し食べるのを手伝ってくれた。しかし、ベルセリさんは女性だし、余り手伝ってもらうのも忍びない。ここは頑張って食べるしかないようだ。
「これだけ食べると運動しないとダメですね」
「そうですね。そういえば最近ダンジョン行ってないので私も運動不足気味です」
「え? ベルセリさん、ダンジョンに潜られるんですか?」
「ええ、浅い層だったら魔物も弱いですからね。ダンジョンの5層目くらいまでは初心者でも難なくは言い過ぎですけど、いけると思います。たまに宝箱で宝石なんかも出るのでお小遣い稼ぎにもなりますしね」
へぇー、と僕は感心する。一応これでも剣の扱いはそれなりなんですよ? と、ベルセリさんは少し得意げに告げる。
「僕も父上に剣の手ほどきは受けているんですがからっきしです。どちらかと言うと接近戦より魔術戦の方が得意なので、そっちに頼っちゃいますね」
「え、その年でもう魔術を使えるんですか? それなら魔術だけでもいいと思いますけど?」
「父上の方針で、魔術が使えない場面でも足手まといにならないようにと、剣の鍛錬もするように言われてまして」
「ああ、そういう理由ですか。私の場合も父から、仕事は何をしてもかまわないが有事の際は剣を持って戦うべし、っていう所謂躾けのようなものとして身につけました」
なるほど、と僕は頷く。家庭によって色々あるんだなと思った。
「あ、そうだ!」
ベルセリさんは何かを思いついたように手を叩いた。
「もしよければ、今度の休みにでもダンジョンに行ってみますか? お付き合いしますよ」
「いいんですか?」
「ええ、先ほども言いましたけどここのダンジョンは浅い階層ならストレス解消や運動不足の改善にももってこいですからね。執務ばかりでなまった身体にも良い運動になりますよ。是非行きましょうよ!」
「そうですね……。では、お願いします」
ベルセリさん意外に強い勧めでダンジョンに行くことに決まった。ダンジョン……、予定になかったんだけどなぁ。まあ何かあってもトヨネがいれば何とかなるだろう。僕はそう考えながら無心で目の前の食事に食らいついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます