第11話

 奴隷達が食事を終え、それぞれの班に分かれていく中、狩猟しゅりょう班と銘打った護衛に向かう集団の中ざわざわとした雰囲気が起こっていた。それもそのはず、護衛する対象の石工と鍛冶の集団の中にポニーに乗った貴族の子息と、それに連れ添うメイドと、見慣れない燕尾服姿の初老の男性が含まれていたのだ。それでも、普段の僕を見ているせいか、そこまでよそよそしくはないのが有り難いことだ。それに見慣れているトヨネもいるしね。


「僕の事はあまり気にしなくていい。普段通りやってくれ。それに何かあるなら気軽に声をかけてくれればいいよ。僕はただの視察だからね」


 と、出発前に言ってみるものの、自分がその立場なら少し気が引けるかな、と思わなくもない。ただ、“気にしなくて良い”、“普段通りに”、“気軽に声をかけて”は、普段から言うようにしている。それだけに、声を掛けられる頻度は少なくもなくはないのだ。現場の意見を拾うのも僕の役目だからね。体育会系のノリではそれは難しいと思う。逆に僕の方が、そんなガチガチな関係は嫌だ。


 職場は買主と奴隷と言う上下関係があっても、極力は色々な意味でアットホームな感じが良い。ギスギスし過ぎる縦社会的な職場など、指示をする側も、指示を受けて働いている側からしても、とてもストレスが溜まるし、息が詰まるだろう。奴隷への対応が一般的かどうかなんて言うのは、この際なしだ。そう言うわけなので、働きやすく各々が実力を出せる、職場や雰囲気を目指しているわけだ。まあ、その一環である。


 さておき、僕達は森の中へ向かう準備を整えた。森の中を馬で? と、言われそうだが、馬のポニーであるマウルは、おとなしくケンプに引かれ歩いてくれる。こいつも確か『課金ガチャ』の景品だったはずだ。体型が小さく僕でも何とか飛び乗ることができるハフリンガー(平均体高は130セル(cm)強)と呼ばれるサイズの馬だ。主に乗馬や引き馬として使われるのだが、今は僕専用の乗馬として使役している。


「では、出発します!」


 奴隷の一人、名をハーデヒト。彼を狩猟班のリーダーにして6人2組の班が石工と鍛冶の組を乗せる荷馬車を守っている。馬車は途中で見張りを置いてから、後は僕以外は皆徒歩である。森を道もないのに馬車が通れるわけもない。


 僕は最後尾の少し前をケンプにマウルを引かれてついていく。森の深さを感じさせる青さが、時折差す木漏こもれ日が、僕の視界と心を刺激している。草木の匂い、葉のこすれる音。王都の賑わいのある雰囲気も良いが、僕にしてみれば、こちらの雰囲気も好ましい気がした。


 集団は雑談もほどほどに森の奥へと向かっていく。そして漸く目的の石や鉄鉱石がある場所まで辿り着くことができた。今回の目的地は、大凡おおよそ集落から1時間弱ほどの距離だったようだ。予め探しておいて、事前に目標を定めておくようにした結果である。そこで石工の班から声が上がった。


「こいつは良い石だ、それに御誂え向きに鉄鉱石もある。よし、適度な大きさに砕いて荷馬車に乗せろ。載せきれなかったら少量は担いでも良いだろう。数あって困ることはないからな」


 僕も手伝おうかなと思ったが、やはり自分達の手で準備できるならそれに越したことはないと思い直した。それに今の僕では返って足手まといだろう。石工と鍛冶の班が作業中、狩猟班の1組が手伝いに入り、ある程度のところで交代するようだ。


 作業は順当に進み、大きかった岩も鉄鉱石も見る見る内に小さくなっていくのがわかった。これはとても面白い。僕は見ているだけで吞気なものだが、作業中の彼等も僕がとやかく言わないせいか、自分達のペースと都合で動き回っている。そんな感想を思っていると、狩猟組の一人が叫んだ。


「おい、こっちに何かいるぞ!」


「狩猟班は石を置いて武器を取れ!」


「どこだ?」


「あの茂みだ。今も動いてるだろ?」


 狩猟組が2人組で茂みをかき分けていく。すると出てきたのは黄色と黒の縞々模様に大きな羽を持つ、所謂はちだ。でもその大きさは親指と人差し指で作る輪っか、なんてものじゃない。僕の今の伸長程ある大きさの超ぉーでかい蜂だった。なんだこのでかさは……。これがこの世界の普通の虫なのか? だが、狩猟班の人間は口々に言う。


「ありゃ、ハニービーじゃねぇか?」


 ハニービー? というかすごく大きくないか? 現世でもおなじみな感じで聞いたことがある名前が出て来た。


「ハニービーって、こんなところに単独でか? 普通あいつ等は群れてるだろ」


「いや、何か様子がおかしい。よく見ろ、羽の辺りが千切れになってるぞ。こりゃ巣が何か別の奴に襲われたくちか? だが、まだ動いてるから油断するなよ」


「オルクス様、どうしますか?」


「どうとは? あれを殺すってこと?」


「そうです。確かハニービーは針と羽の部分なんかが、高値ではないですが、それなりの値で売れるんだったと思います。今まともに飛べなさそうなんで、とても楽に討伐できます。許可を頂ければそのまま討ちますが?」


 ハーデヒトが少し興奮気味に説明してくる。飛べない蜂か……。


「少し待って。皆はハニービーから少し離れる様に」


 僕は腕輪の防壁結界が展開されているのを確かめ、ハニービーに近づいていく。周囲の奴隷達も僕が何をするのか気になるようで、少し躊躇ためらいながら離れたところでじっと静観している。トヨネとケンプだけは僕に何かあった時の為に若干後ろで僕についてきてくれている。


 僕は膝をついて、その動くに動けないと言うのを、その傷付いた身体で体現しているような大きな蜂に、僕が見える位置に移動し、聞こえるように声をかけた。


「ハニービー。僕の言葉がわかるか? わかったら何かで返事をしてほしい」



 しばらくすると――。


「――ギィィ。人間の子供が、間違えるな。――我はハニービーではない。ハニークイーンだ!」


 ――うおお。蜂しゃべっちょる。おっと方言が。いや、報告で喋る個体もあるって聞いてたし、この世界では今さら感が半端ない。内心驚きと興奮が渦巻くが、それに蓋をして今は用件を済ませることが肝心だ。


「間違えてすまない、ハニークイーン」


「ギギ……フン、死にかけの我に何ぞ用か?」


「うん、その怪我どうしたのかと思って」


「……」


「教えてくれたらその傷癒してもいいよ」


「……なに?」


 トヨネがまた始まったって顔してる。わかってるんだぞ? ケンプは表情をそのままだが苦笑するのを隠す様に、顎に手をやっている。


「ギー、……何が目的だ」


「お互いの利益になる取引をしたい」


「ギギ、……はぁ?」


 ハニークイーン、長いので女王蜂と改めるが、彼女は僕が何を言っているのかわからないという感じで視線というか、顔を向けて来る。人間と違い、魔物である女王蜂にそのような考えがわかるはずもないらしく、意味がわからないと返すだけだった。


「ハニーってことは『蜂蜜』、『甘いもの』を意味する言葉のはずだ。だったら貴方は蜂蜜を貯めている巣に住んでいるはず。違いますか?」


 僕の言葉に女王蜂は小さく、そうだ、と言う。僕はそれを定期的に採取させてくれる代わりに巣の安全に協力する旨を伝える。初めはそんなこと信じられるものかと突っぱねられたが、僕の説得と結界の魔術の在り方について解くと、女王蜂は僕のしつこさに観念したのか、少しやけっぱちのように答えた。


「ギー、どうせ何もしなければここで死ぬだけ。よかろう、そなたの言葉を信じてあった事を話そう」


 それから女王蜂は話し始めた。そして、話を要約すると女王蜂の住んでいる巣にゴブリンとオークが攻めてきたのだという。それもかなりの数で。中にはコボルトも交じっていたと言う。ゴブリンやオーク、コボルトが徒党を組んだのか? 何が原因か話からは掴めないが、もしかしたら何かしら原因で、この森の生態系が狂い始めているのかもしれない。


 話を聞き終えた僕はインベントリから怪我等を回復する用のLPライフポイントポーションを取り出し、女王蜂にゆっくりとかけたり飲ませたりする。女神様から上級ポーションの千倍の濃度だとお墨付きをもらったものだ。すると即座に千切れていた羽は再生するように元に戻り、女王蜂が羽が見えないほどの速さで動かし低空をホバーリングするように飛び始めた。


「ギギギ、何という効果か。あれ程の傷を、たったあれだけの事で、それほど時間をかけずに癒すとは……。そなたは一体……」 


「それは一旦置いておこうよ。とりあえず、現状の貴女の巣の状態を確かめたいね」


「そう仰ると思いました。ハーデヒトさん、アプロソスさん達副リーダー達と資材をこのまま集落まで運んでください。話にある女王蜂の巣の場所は離れています。こちらに影響があるかは不明ですが、予定通り作業を進める様にお願いします」


「よろしいのですか?」


「構いません。女王蜂の巣が正確な場所として、どの辺りにあるかはわかりませんが、森さえ抜けてしまえば問題ないでしょう。私とケンプさんが、オルクス様をお守りしますので問題ありません」


 トヨネからこのように言われてしまうと、ハーデヒトとしても引き下がるしかない。多少後ろ髪を引かれる思いをしながら、ハーデヒトは班に号令を飛ばしその場を後準備に入ることにする。


 それを見届けてから、僕達は女王蜂を先頭に、来た方向とは違う森の中を進むことにした。



 ♦



 それから10分以上は歩いただろうか、僕の場合は乗馬であるが、先ほどいた森のさらに先に奥、そこに日差しが入り込みやすい場所があった。その周囲には無残に地面に落され、砕け散った蜂の巣の残骸と蜂達の死骸だけが残っていた。


「ギギギギッくそ、忌々しいオーク共め。よくも我らの巣を、仲間を――」


 悔しそうに呟く蜂の女王。その時だった――。


「女王様だ!!」


「クイーン様!!」




 一瞬黒い影が上空を動いているのかと思ったら、よく見れば蜂の集団だった。それが形を成してあっという間に女王の周りを、いや僕達も含めた周りを囲い待機している。


「女王様、ご無事で?」


「ああ、そこの者達に助けられたのだ」


 その言葉を聞いた瞬間、蜂達の赤い目が黄色く変色した。赤がデフォルトじゃないのね、なんてどうでもいいことを考えている僕の前に、針のような槍らしきものを持った蜂達がゆっくり浮いた状態で近づいてきて一定の距離で止まっている。


「ギギ、人間よ、クイーンを救ってくれて感謝する。ギギ、しかし、ここには凶暴な他の魔物が群れをなしているのだ。悪いことは言わん、早々に立ち去るがよい」


 そう言って蜂の一匹が語りかけてきた。しかし、このまま去るわけにはいかないんだよね。


「それはハニークイーンから聞きました。聞いた上で約束を交わしここまで来たんです。しかし、このまま帰ると僕の望みが叶えられない。そちらも色々と問題はあるだろうけど、一旦一緒に森の外まで着いてきてもらえないだろうか」


「ギー、望みとは何か、クイーンと何を約束した?」


 声もそうだが、やはり目の色が少しずつ赤に近づいていく。だが、そこに女王蜂が間に入ってきた。


「ギギギ、やめよ」


「ギー、クイーン様!」


「ギギ、約束を取り付けたのは我だ。それにそう可笑おかしな約束でもないしな」


「すごく疑われたけどね」


 女王蜂が顔を向けてこちらをすごく睨んできた。余計なことは言うなってことなのだろう。


「まぁ約束は簡単なことです。定期的に蜂蜜をもらう代わりに安全面を補助させてもらうという約束をしたんですよ」


「ギーギ、そうだった。互いに利益ある取引だったな」


 忘れてたのかこの女王蜂。さっきの睨んでると思ったのは僕に約束を言わせたかっただけか? まぁ、言っても虫だしな……。


 だが、今度はさらにじっと見られる。見られている。


「お主、今失礼なことを思わなかったか?」


「お、思うわけないじゃないですか(言葉の冒頭にギを付けなくても話せるのか?)」


 ばれてーら。


「兎も角ですけど、何はともあれここにいても危険があるだけです。移動しましょう」


「ギギ、そうしたいのは山々なのだが……、怪我をしている者も多く今すぐ移動することは……」


「ギギィ、ならば、先ほどのポーションはまだあるか? あるなら使ってはくれぬか。その代わりにできることは何でもしよう」


 女王蜂に何でもしようって言われてもなぁ(相手は蜂、相手は蜂、相手は蜂)。特に深い意味はないが、何でもするというのなら、僕の目的を叶えてもらえればそれで良い。


「とりあえず、回復させよう。というかどうしよう、一体ずつっていうのは時間がかかりすぎるかな。どれくらいの数いるんだろ?」


「ギギ、ざっと1000以上はいるんじゃないだろうか」


 1000以上って……、どうすんべ? 集落の時みたいに並んでやるっていうのはかなり時間がかかるぞ?


 その時、ケンプが僕に手渡してきたものがあった。それは――。


「菜園用に私が使っている霧吹きでございます。これでポーションを吹きかければ時間もかからないかと」


「助かる。さすがケンプ」


 ポーションの瓶に霧吹きのノズルを入れる。これで準備万端だ。蜂達になるべく息のある傷付いた者達で固まって貰い、ポーションを吹きかけてやる。すると、女王蜂の時のように劇的な回復を見せるのだった。何故か女王蜂がどや顔してるような気がするのは気のせいか? なんであんたが威張ってんだ? まぁそれはともかく。


「回復したてでつらいかもしれませんが急ぎこの場を離れましょう」


「ギー、わかった。皆、密集してこの場を離れる、遅れるでないぞ」


「おおっ!」


 それから小一時間、周囲を警戒しながら領地への道のりを急ぐ。


 そして、途中で魔物と出くわすこともなく、集落に戻った僕達というか、僕の背後にいる蜂達の数に、領地の皆がどよめいたのは言うまでもない。


 とりあえず、場所を確保して大工組担当に相談を持ちかけてみるか。できるかなハニカム構造(正六角形または正六角柱を隙間なく並べた構造)式蜂の巣箱。僕は大工の統括をしている、担当のネフザラを呼び出し、ある提案をした。これが功を奏すれば楽しみが増える、もとい交易の材料が増える。いざ蜂蜜取得の為に行動開始だ。


 先ず注文したのが先ほども言ったハニカム構造だ。蜂の巣をよく見てもらうと正六角形または正六角柱を、隙間なく並べた綺麗な構造をしているのがわかるだろう。蜂達はこの構造体の穴に蜜をため込んで、溜まったら蓋をしていくその繰り返しで蜜をため込んでいる。蜂達に蜜を分けてもらうときは、ハニカムの構造を少し崩して蜂蜜だけ取り出せるようにする工夫が必要だ。この工夫は僕が考え出したわけじゃなく、以前の世界のとある青年が親の為に考え出したコロンブスの卵的な発明だ。この知恵拝借させて頂きます。


 蜂達の大きさは女王蜂、親衛隊、働き蜂、大体大きく分けてこの3つの大きさで間に合うようだ。手間がかからなくて結構と思いきやそうでもない。女王蜂で僕と同じくらいの身体身体の大きさ、その体型より少し小さくなるのが親衛隊。さらに働き蜂は大きさがまばらなのとその数の多さで結構大変だ。蜂達とネフザラとで相談した結果、巣箱の形を3つに分け、大きさが平均的な女王蜂と親衛隊以外は個別に穴の大きさを分けて作ることになった。



 そして待望の巣箱第一段が完成する。よく考えてみると女王蜂も親衛隊も蜂蜜を採りに行くことはしないらしいので形を合わせた状態で3階建て巣箱の上の方に入れるようにした。


「というか、人間が住める大きさじゃない?」


「はい、私も作ってる最中に思いました。まぁそれはさておき、言われた通り下から二段目より上をハニークイーンと親衛隊のハニービー。一番下を細工をしたハニカムと言いましたか、その構造にしてあります。他の巣箱は全部働き蜂用に組み立てるので細工も幾分楽に行えますな」


「お疲れ様。さすが経験者だよ。作るのに何日もかかると思ったけどほぼ一日仕事でやっちゃうんだから、大したもんだ」


「まぁ、さすがにあの大きさのハニービー達を野放しにするのは問題があると思いまして急ぎ作りました。それに構造も蓋を開ければハニカム構造に隙間を作るだけですから、構造が理解できればなんとでもなります。ただし、これは仮の住処であり、本拠地はもう少し頑丈にしようと思います。季節を考えれば今は大丈夫でしょうが、やはり強風や雨や雪に晒すには、いささか耐久性は問題がありますので」


「そこまで考えてるなんて、頼もしい限りだよ。これからも頼らせてもらうし、足りない素材は言ってくれれば、何とか用意して見せるよ」



 こうして働き蜂用の簡易な巣箱は数日で数を10個ほどまで増やし、蜂達だけでなく集落の皆の安心も得るのだった。そして、数日かけて女王蜂の本格的な拠点の第一段で作った住処は、ほんとに大人一人なら住めるような大きさになっている。何故か女王蜂の巣の中の注文に、個室や階段と応接間が加えられたのが原因と言えばそうなんだが。言わば、ハニカム構造が無ければ、一軒の普通の家である。


 ここまでかかった日付は大凡5日、ネフザラは本当に優秀だった。その仕事ぶりに女王蜂達も感嘆かんたんな声を上げている。


「ギギィー、ここまでやってくれるとは……」


「でもまだだよ。これで終わりじゃない。巣箱ができたら今度は結界だ。安定した蜂蜜の供給に不可欠な、住処の防衛が無くてはならない。それがあって初めて、安全な住処と言えるはずだ」


 蜂達の巣が建っているのは、木を切り倒して日差しが浴びやすいように、場所を所々広げた場所。簡単に言うと森と目と鼻の先だ。前のようにゴブリンなどが襲ってくる可能性もある、所謂一つの防波堤の役割を宛がっている。しかし、以前と同じ状況だと、またやられて折角作った巣も壊されてしまう。


 そうされないように、今度は結界魔術を組み込んで、しっかりと防衛にも攻撃にも手段を増やそうというわけだ。そう攻撃にもね。結界魔術は封じ込めたり防御したりするのが主な役割とされているが、実際は攻撃にも応用できるのだ。例えば、どのようにかと言うと。


「結界魔術にあらかじめ、攻撃用の魔法陣を組み込んでおき、ハニービー達の配置によって発動させるというものなんだけど。発動には魔力が必要だ、試しにやって貰おうと思うんだけどいけそうかい?」


「ギー、うむ。我らも一応簡単な魔術で風系統は使えるからな。しかし、その魔法陣は誰でも使用可能なのか?」


「魔法陣に予め登録しておけばいいんだよ。例えば」


 まずトヨネに巣箱の周辺に魔法陣を作り結界を張る。その後結界の魔法陣に登録用に穴をあけハニービー達10体を登録用の穴に入って貰う。


「登録の承認が目の前に表示された? 赤と白の円が出てるはずなんだけど」


「ギー、うむ。これを承認すればいいのか」


「そう、白い方を選べばそれで登録完了。登録はクイーンに一任するから試しに結界に登録していないハニービー達で結界に近寄らせて攻撃して見て」


 早速物は試しと、蜂達は僕が行ったように、女王蜂に承認されていないものは、予想通り結界に近づいた蜂達がはじかれていく。もちろん、遠くからの遠距離で石を投げようと針を飛ばそうと結界はびくともしない。


「これはすごい。この結界にどれほどの魔力が……」


「まだ終わらないからね。登録してあったハニービー達にいくつかの陣形を教えるからそれを試してみよう」


 それから蜂達が行う陣形のレパートリーを決めていくつかの攻撃魔法を発動させる。


「ギギギ。す、すごい……」


 単体でサンダーボルト(落雷を発生させる)、2体は横か縦の配置でサンダークラウド(複数の落雷)、3体は三角形の配置でアースグレイブ(鋭い岩塊を地面から発生させる)、4体は四角の配置でウォーターアロー(高圧縮された水の矢を発生させる)、5体はサイコロの5の配置でアイスニードル(鋭い氷の岩塊を発生させる)、6体は六芒星の配置でフレアアロー(炎の矢)。このように決まって試してもらった。結果蜂達には好評のようだと胸をでおろす。


「言っておくけど、結界の中から一定の範囲までしか発動しないから配置や移動、距離に注意してほしい。それとやりすぎて魔力切れにも注意するようにね。住処に設置してある複数の魔石は、蜂蜜とは別に日々補給しておくことをお勧めするよ。怠っていれば、森の中の二の舞になる」


「ギギ、もちろんだ。感謝する! あのような経験を何度も味わってたまるものか」


 一斉に蜂達が頷いている。まぁ後は任せることにしよう。彼女等が後にこの領地の特産品の上位を掴むのもすぐだろう。こうして蜂達の巣の防衛システムをトヨネにセッティングしてもらい僕は期待に胸をふくらませるこの状況を楽しむことにした。

 

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