第9話

 腕輪の表示時刻は19時半を指していた。天幕が設置されている場所から少し離れた開けた場所に僕はトヨネに携えられた馬にまたがっている。目の前には奴隷達を全員集めた状態で、その周囲を魔力で光る照明を設置させた。


 もちろん照明は僕が腕輪のインベントリ(アイテムが収納される場所)から出したものだ。これはさすがに出来合い物が出てきて少し安心する。奴隷達も設置を手伝ってくれた兵士達も、その照明がやたら珍しいのかしきりに見つめているのが印象的だ。ちなみに動力は電気ではなく、魔力なのだそうだ。


 女神様に聞いた限り、この世界に電気で動くというものを生み出されていない。生み出されたことはあるが、基本的に使用者が転生者、あるいは“転移者”と言う存在で、その仲間内しか使っていなかったようだ。そう言う場合は、彼等が死んだ後に、使われなくなった。世界のどこかにそのまま眠りについた形で、何処かに眠っているのだとか。


 そんな話を軽く聞いて、女神様と一緒に食事を摂った。こんな経験をしてるのは少ないのではないだろうか? 少し行儀は悪いかもしれないが、雑談しての食事は楽しかった。女神様や従者達と、ついつい時間を忘れるほどに話してしまう。でもまぁ、何時までもこうしてはいられない。予定を決めないといけないし早速やるか。



 ♦



「さて、食事も終えたところで集まってもらったのは、明日以降で働いてもらう方針を決める為だ。平たく言えば、それぞれ役割を決める為でもある。木こりに鉱員こういん、石工や薪割り。山菜採りに畜産。魔物や獲物の狩り、鍛冶、服の仕立、大工と様々ある中で、この仕事ならと思う者はそれに就いてもらうし、選べない者や人数の偏り次第では別の仕事もある。後こちらから、この仕事をしてほしいと依頼もするけどね」


 この領地には基本王都に並んでいるような店や専門職業と呼べるものがほとんどまない。基本は不定期に回ってくる行商人に注文をしておき、回ってきたときに買い取る流れだ。だから僕は、自給自足が成り立つように手に職のある奴隷を買い揃えていた。開拓に専門職がいないのは心もとないと考えたからだ。


「あの……」


 そこで恐る恐る手が挙がった。


「うん、質問? どうぞ」


「先ほどからの話を聞いていると、私達奴隷は一ヵ所で働くのではなく各々の仕事場で働くように聞こえるのですが。その……、領地を自由に動き回ってもよろしいんでしょうか」


「もちろん構わない。範囲を決めて動くというよりは、ある程度の自由は認めるよ。必要なら領地を動き回ってくれてよい。奴隷の呪術で距離は設定されるだろうけど、基本的に領内は自由な行き来をしてもらって構わない」


 ざわざわと奴隷達がどよめいている。耳を傾けると聞こえてくるのは、どういうことだ? 自由に動き回っていいだと? 持ち場を離れても良いということなのか? 集団の中で飛び交う声は一向に収まる気配がない。それだけ奴隷に対する扱いが異例なのだろうか。僕はとりあえず、質問に答える形で補足説明をする。


「以前も言ったけど無駄飯食らいをいさせるほど、うちにはそんな余裕はないからね。仕事はある程度監督して、ちゃんとしてもらう。見えないと思ってる場所でも監視者がわからないように付けるし、行動範囲自体は大体自由ではあるけど、領地の中の一定範囲に絞らせてもらう。

 印術での縛りは一応あると思ってくれば良い。それと、仕事でズルをしたり、元からいる領民や同じ奴隷同士で危害を加えたりと、問題を起こした者にはそれなりの罰を与える。

 貴方達からの報告も聞くし、監督役からの報告も聞く。個人だけじゃなく連帯責任もあるともって仕事に当たってほしい。それでも問題を起こすなら、最悪は奴隷商に払い下げる、そのつもりで各自はこれから班分けで、決められた仕事で行動してほしい」


「あ、あの!」


 一つ目の質問が終わった瞬間、次の手が挙がった。


「食料はどうすれば、山菜だけで自給自足はとても。今日のようにき出しとして出されるんでしょうか?」


「それは当たり前だよ。ちゃんと足りない分は食事も物資も支給する。もちろん無駄遣いされるとその限りじゃないけど。料理自体も今はうちのメイド達がやっているけどこれも君達で当番制にしていくよ。先の話だけど材料も次第にこの周辺だけで賄えるようにとは思ってる。

 後は、定期的に王都に連れて行くこともあるし、行商人が来たりすることもあるからそれで物を補充するつもりでいる。向こうの荷馬車に王都で購入した道具類や必要そうな物は入れてあるから当面はそれでやってほしい。足りないなら補充リストに入れるかこちら側の監督者に相談して決める。えっと」


「は、はい! 俺も、魔物を狩ると仰いましたよね? 戦闘能力がない者には危険すぎると思うのですが?」


 という風な感じで一人、また一人と質問が許されると波のような質問攻めにあった。ようやく落ち着いたのは21時前と言ったところか。いかん、まだまだ決めないといけないことが沢山あるのに眠気が……。子供の身体ってこんなに疲れやすいのか? うう、瞼が重い……。



「オルクス様、後は私達の方で。先に屋敷に戻ってお休みください」


 僕が馬上で船をこぎ始めたのがわかっていたらしい、トヨネが声をかけてくる。でもまだ全く話が進んでいないんだ。これから色々決めないといけないし、仕事は山積みだ。


「いや、でも……」


「オルクス様は、まだ5歳になられたばかりなのですよ? ここで無理をなされては、身体に余計な負担がかかるだけです。モモカさん、カーチェさん、オルクス様を屋敷までお願いします」


「は~い」


「わかりました」


 またトヨネに怒られてしまった。その間も僕の意識は睡魔に手繰り寄せられる。


「ごめん……、まかせる……」


 意識をその辺りで手放した。



 ♦



 翌日、目覚めたのは朝の8時過ぎ、トヨネから報告をもらう。僕が眠ったその後、トヨネとアイリス達の手で、奴隷達の班分けや分担を決めたらしい。僕も結構張り切って決めようと思ってたんだけどなぁ。今更言っても仕方がないことだし、従者達に任せるのも僕の仕事の内なのかもしれないな。そんなことを改めて思う。


「だけどなんだか、周りに情けないとこばかり、見られてる気がするな」


「そうでもありません。オルクス様が眠られた後、奴隷達は暫く慌てていましたが、眠るまで事に従事する姿勢に、何かしら思うところがあったのか、我々の言葉にまじめに、役割決めや班分けを行っていました」


「そうかぁ、なら良いんだけど。彼等は今何をしてるんだい?」


 今朝の報告では、今のところ問題となっていることはないらしい。内心胸をなでおろす。


「現状までですが、朝6時全員起床後、食事を摂り、残りの中型、大型の天幕を組み立て中です。力仕事に向いていない者は畑の開拓や、領地の地理に慣れてもらう為に兵士達と共に、山菜取りに行っています。それと、カーチェさんから起きたらで良いので、オルクス様にはまず、ビスタリア様の元に行くように伝えしてほしいと伺いました」


「あー、そうか。恐らくは父上の件だな。食事の席で他の事についても、何か話があると言っていたと思う。すぐに向かうとしよう」


「かしこまりました」



 ♦



 僕は身支度を済ませて母上のいる執務室へ向かう。


「母上、オルクスです」


 来訪を告げるとビジルズが招き入れてくれる。部屋の中では、母上と向き合い座っている、カーチェと名前を変えているカルティア様がいた。母上は少し涙ぐんでいるように見えるが何かあったのか?



「オルクス、こちらへ。カーチェさんから話を伺っていました。ルオを助けるすべがあると。用意する物は身体の一部、例えば髪の毛でも良いそうです。ルオは屋敷を出立する前に、自分の髪を束ねたものを残して行きました。それを使いたいと思います」


「それは、蘇生に必要なことなのですね」


「いえ、ルオ・ヴァダムさんは、厳密には死亡していないのでこの場合、治癒した状態で彼を召喚すると言った方が、言葉的には正しいと思います」


 ――えっ!?


「えっと、父は死んでないんですか?」


「ええ、今は仮死状態で私が異空間で保存状態にしています。今は欠損した身体を治癒しながら、その空間で安静に眠っています」


 仮死状態で異空間だ? 話が突拍子すぎてついていけないな。あれ? それを言ったら僕も転生なんてとんでもない、傍から言わせれば馬鹿げたことになってるんだから、やってることは違うけど、とんでもない事と言う部分では似たようなものか。なんだか僕は、驚きが一周回って気持ちが落ち着いてしまったようだ。


「ビスタリアさん、覚えておいてほしいのはルオさんの状態と周囲の状況です。ルオさんの記憶は、髪の毛を切った直後まではしっかりとしたものではありますが、それ以降はあやふやになっていること。仮死状態を解いた後はしばらく身体の自由が利かず不自由であること。今回の出来事でルオさんが生きていることが、誰かの手によって、問題なく当然のように受け入れられること。そして、私がルオさんの生死に干渉するのは、今回だけだということです」


「はい、理解致しました。魔術は万能ではないことは承知していますし、カーチェさんが言った予言が起こるのならば、それは奇跡が起きたのだろうと納得致します。それに、あの人が帰ってきてくれるのなら、それだけで十分すぎることです。その先で何があろうとも、私はそれは受け入れます。貴方の言葉を、全て受け入れます」


 母上はそう言って、ハンカチで目元を拭う。喜びと感謝、他にもあるが、それだけでも十分感情が伝わってくる。珍しく、ビジルズも少し上を見ているな、恐らく涙腺に涙を溜めているんだろう。彼も父の事では心労や苦労したのだから、それが窺えて見える


 次に僕は女神様に促され、隣に座らされる。そして彼女は言った。


「それとオルクスさんには、私からお願いがあります。時間がかかっても良いので、必ずこの土地に教会を建設し、しっかり運営させることを約束してください」


 ……ん、どういうことだ? 条件の最後に必要なのか不明なとこだ。教会を建てる? いや、建てるのは構わないけど、何かあるんだろうか。僕がそう思っていると女神様はこちらを見て少し微笑んだ。


「オルクスさん? 誤解ないように説明します。いつか教会が建ち、神力がこの土地を継続的に満たすようになれば、ルオさんの身体の調子が戻る助力になります。またその土地の田畑の収穫量は上がったり、木々の成長が促進されるなどの効果、そこに住まう人々の健康が期待できるでしょう。もしかしたら採掘時に良い物がとれる可能性も出てきますよ?」


 なんだか、メリットを押してくる、セールスでもされている気分だ。しかし、教会にそういう効果が期待できるなら、確かに建設した方がいいのだろうな。『ドミネーション・チョイス』でも、建物にはある種の特殊効果や機能があったりしたものだ。そういう意味では、現実的に近い環境で女神様の言うような、教会の効果があるのは願ってもないことだし。


「そういうことならば、できるだけ早く建設しましょう。それで、仮死状態を解くのは何時頃行うのが妥当でしょうか。建前上、父上が突然領地に戻ったことを、国へ報告した方がよいと思いますし」


「私としては、本当ならすぐにでも、ルオに会いたいのだけど……」


 しかし、そうすると戦場からここまで、独自に帰ったことになる。戦場において、そういったことが全くないという事もないと思うが、死んだとまで言われた人物が領地まで戻るというのは、言訳がすごく難しいところだ。


「そこは要人の記憶の書き換えで何とかなります。家宝のマジックアイテム、もしくは偶発的な何かで戻ってきた、なんて言い訳はできませんか?」


「それは難しい……、いえ、良いかもしれませんね。家宝と言うのは無理がありますが、ルオは大小様々な魔石をよく集めていて、それを私に送ってくれました。その収集癖も周囲の知るところでしたから。その中にはよくわからない出所不明なものや、術士が失敗して効果のない魔石も含まれています。

 その中のどれかが、不意に偶然効果を発動した、ということにすれば、説明力はかなり低いですが、言い訳が立ちます。こちらも、全く知らないことだらけだった訳ですから、説明しても、有耶無耶うやむやにできるかもしれません」


 母上はこれは名案とでも言うように、考えを並べ立てていく。母よ、女神様は、今さっきさらっと、要人の記憶の書き換えで何とかなるって言ったんだよ? 多分、都合が悪いとそういう手段をとるのかな? 神様とは恐ろしや……。


 それはそうと父よ、貴方はいったいどういう目的でそんな魔石を母上に送っていたんですか。もし、不意に偶然何らかの効果が発動したら、一体どうするつもりだったんだ。小一時間は問い詰めたくなる。


 しかし、こちらの都合がいいように記憶の書き換えされるのは救いだな。それで何とか説明もできるのかもしれない。それから内容を都合のいいように詰め話し合った後、僕の魔力の量と腕輪の蓄積量を見積もって3日後の夜に父上の蘇生を決行することになった。


 なんだかまたもやご都合臭が、というか女神様が出てきた時点で、そういう流れになりそうな気はしてたんだ。今更だなと僕は、何かよくわからないところで諦めることにした。



 ♦♦♦



 ――その頃、天幕の設置作業を行っているアイリスの元では。


 アイリスのあねさん、このポールどこに繋げたらいいんで? 姐さん、天幕の壁の大きさが違うんですが。姐さーん、止め具の補強終わりました。姐さん、中型天幕の入り口の取り付けどうしやしょ。姐さん資材の移動終わりました。姐さん――、姐さん――。


「……」


「どうしたの? アイリスお姉ちゃん」


「モモカ……。いえ、皆さんが私に指示を仰ぐのは良いのですが、何故か違和感を感じられてならないのです」


 モモカはアイリスが溜息をついている様子を窺う。その間も指示がないとできないことは、遠慮なく聞いてくる奴隷達の呼び声は、大体『あねさんで統一されているようだった。しかし、別段ふざけてる様子もなく、皆真剣に作業に取り組んでいる様子からモモカは気にならなかった。


「みんなお姉ちゃんを慕ってるんだよ。トヨネお姉ちゃんは自分でやっちゃうタイプだからあまり指示とかしないし。私も指揮するタイプじゃないもん」


「それはそうかもしれませんが、私は『あねさん』というフレーズに拭えない何かを感じるのです」


「名前で呼ばれないから変な感じがするだけなんじゃない? 多分それだけだよ~」


「そうかしら?」


 後にそれを聞いたオルクスがふざけてあねさんと声をかけようとしたが、察知されてジト目で説教されたとかなんとか。



 ♦



 一方、アイリスと別れたモモカは。


「どお~? うまくいってる?」


「あ、モモカさん。あっちの土の中に大きな石があって、私たちでは無理そうです。他の場所は何とか雑草と石の撤去作業ができてるみたいなんだすけど、まだまだ時間がかかりそうですな」


 奴隷の一人が畑開拓の状況説明をする。モモカは年の見た目が12歳前後と、奴隷達からすると話しかけやすいようだ。それに少し語尾を伸ばす口調が話しかけやすさに拍車をかけている。作業の状態や進捗を説明されたモモカは、フムフムと頷いて辺りを見回す。


「あれは?」


「ああ、彼女等は良いところの生まれのようで、こういった作業は初めてのようですな。恐らく山菜取りに行ったとしても、途中で動けなくなるのではないかと思い、こちらに合流してきたみたいです。それに年齢も低いですから、大人に混ざっての移動は辛いでしょう」


「なので、農業班にいるわけなのねぇ。理解した、のだけど……」


 そこには、必死に雑草と格闘している少女等の姿があった。ヴァーガーの商店でオルクスに、貴族と王族とステータスの欄を確認された者等である。


「このっ」


「姫様、後は私が――」


 ――ブチッ。


「キャッ!」


「姫様!」


 傍から見ると雑草の束相手に悪戦苦闘している、古臭いコントでもしているように見える。だが、本人達は至ってまじめに、本気で作業に挑んでやっているのだからとてもシュールな光景だ。他の奴隷の周りは地面が見えてるのに対し、二人がいるそこだけ、鬱蒼うっそうしげっている雑草。サボっているわけではないにしても、これにはさすがのモモカも、周囲の奴隷達さえ呆れ顔になる。


「ちょっと貴女達、周りの人も聞きなさい。一人が困っていたら、周囲が助けなきゃ。この子達の分も結局、分担してやらなきゃならないのは貴方達なんだから」


「けれど、そこの子が近寄らせてくれないんです」


「あん? その子ってどの子?」


 いつものような間延びした口調ではなく、酒場にいるおっさんのような口調になったモモカに、周囲はすごく戸惑う。その間も辺りにいる奴隷を見まわしているモモカに、言い逃れできないと悟ったのか自己申告する声が届く。


「わ、私だ」


 申告したのは、オルクスに貴族と言われた娘だった。彼女は告げる。


「この方は高貴なお方、何人なんびとも声すらかけて良い方ではない。例え奴隷の身になろうとも、雑草や石の撤去をさせることなど、おこがましいにも程がある。それを文句も言わず進んでご自分から行っているのだ。何の文句がある」


 ……、一同が無言でドン引きである。周囲は文句を言いたくて近寄ったわけではなく、ただ上の方より根元に近い方を握った方が良いと言う感じで、やり方を伝えようとしただけだった。何事も初めての人間はいるし、やったことはあっても不慣れか不器用である場合もある。それを手助けしようとしたら、近寄らば殴るか蹴る、みたいな感じで拒絶をされるのだ。誰だって近づきたくなくなる。


 元貴族の娘と、その周囲の奴隷の意見を聞き、モモカは溜息をつく。そして怒鳴った。


「バッカかよ、お前は!」


 怒鳴り声に周囲の注目を浴びるが、モモカは全く気にしない。そのままの勢いで続ける。


「お前等が不慣れなのは見ててわかった。周りもそれを見て助けようとしたのもわかった。だけど、不慣れなら周りに頼れよ。助けてくれようとしてくれてるんだから縋れよ。さっきも言ったけど、できてない分は周囲の連中が穴埋めする形で、結局やらなきゃならないんだよ。

 何時までも、できません、で飯が食えると思うなよ? 仮に文句言われたとしても、それはできないお前等が悪いんだろう。話しかけられてるなら、やり方教えてもらうとかあるだろ! って言うか、高貴なお方って、お前等は今は奴隷で買われた立場じゃん。任された仕事くらいしろよ。何時までお嬢様やお姫様やってんだよ。大体なぁ――」


「あ、あの!」


「あん?」


「私達が代わりにやりますから」


 見かねたのか、周りの奴隷達が寄ってくる。しかし――。


「それじゃ意味ないんだよ。代わりにやるんじゃなくて、やり方を声出してやれば良いじゃん。手伝えばいい何て安易な事で片づけるなよ、それってただの擁護ようごじゃん。大体こんなの、コツさえ教えればなんとかできるだろ」


 モモカは近くに置いてあったくわを土に斜めから差し込み、雑草の生えている辺りの土を掘り返し、掘り返した土の上の雑草を抜くのではなくヒョイと拾い上げた。その鮮やかさと言うより、あっけなさに二人の奴隷は目を剥くほどに驚いた様子だ。


「こうやって雑草の生えてる土を掘り返すことで、根を張っていた雑草が土ごと抜かれるの。後は拾い上げるだけで雑草を除去できるから簡単でしょ。わかった?」


 元王族の娘も元貴族の娘も含め、周囲の奴隷達は全員驚いた表情そのままに、コクコクと頷いて返す。ここまでやってできないとか言われたら、モモカの立つ瀬がなくなるところだ。雑草の撤去は、基本的に鍬で土を掘り返し、雑草を取り除いた方が労力としては、とても容易たやすい分担作業だ。


 それを誰もが個々に雑草相手に引き抜くことしていなかった。班なのだから、班長がものを言って指示を出せばよい。そんなことを補足説明した後、モモカの口調と表情が普段通りになる。


「はーい。わかったらすぐ作業に戻る。お昼まで時間ないよ。切りの良いところまで、ちゃっちゃとやっちゃおう~」


 いつもの口調に戻ったモモカに安堵の息を漏らす奴隷に、モモカは苦笑して見せる。


「怒る時はちゃんと怒るからね~。皆そのつもりで、ね」


 最後にウインクして見せるモモカ。しかし、モモカを見て反応する者は一律コクコクと頷くだけだった。その日以降、奴隷達の間で怒らせてはいけない上位に、モモカの名前が載ったとか何とか。



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