第7話

「あらあら、荷馬車が1台増えてるみたいね?」


 それが母上が、チコルガ村で合流した時の初めの言葉だった。結局なところ、母上との合流はその日の夜に入ってからと、予定より大分遅れてしまった。急ぎたいのに整備されていない道がそれを許してくれなかったのだ。それに、ヴァーガーから買い上げた荷馬車の馬は、長距離を歩いて来たばかりだったので、短い休息を挟みつつだが距離を稼ぐ為に、移動しながら食事も普及されている、硬いパンを2個と水を回し飲みで補った。それでも到着が夜になるのだからチコルガ村まではかなりの距離を走ったことになる。もちろんこれには理由があって、3日目の早朝には領地に到着したかったからだが。


「母上、また少し予定が――」


「オルクス様が予定外に衝動買いなさいました」


「と、トヨネ!?」


 おおう、急にトヨネが口をはさんできた。確かに衝動買いの様になったが、全部が全部そういうわけじゃない、……と思う。


「あらまあ、その辺り詳しく聞こうかしら、ね。オルクス?」


「ビスタリア様、僭越せんえつながらその件は私の方からご報告致します。さしあたって、オルクス様はその間に、そろそろ別のガーディアンをお呼びください。こうも奴隷側の人数が増えてしまっては、私や護衛の兵だけでは手が回り兼ねます。数日魔力を使わない日が続いたのですから、魔力も回復している頃と思いますし、できれば二人ほどお願いしたいところでございます」


 なんか、トヨネさんが厳しいぞ。けど、確かに人数が多かったかな、とは思わなくもない。お叱りは甘んじて受けよう。


「オルクス様、聞いておられますか」


「き、聞いてるよ。魔力が足りれば良いけど」


「ちょ、ちょっとまってトヨネさん。オルクスはまだ魔術が使えなかったと思うけど?」


「心配ありません、ビスタリア様。魔術が使えなくても、使えない分で余っている魔力が金の腕輪に蓄積されますので、オルクス様個人の魔力量と腕輪に蓄積されている魔力量を合わせれば、魔力消費の激しい能力の高いガーディアンも、難無く呼べるのです。

 私の場合は少し特殊でしたので、魔力消費はそれほどなかったのでしょうけど。次から呼び出す召喚者は消費のハードルが少し上がります。それも、今の蓄積された魔力と、成長されるオルクス様の魔力量でなんとでもなると思われます。何はともあれ、オルクス様は一刻もお早く召喚をお願い致します」


「そうなのですか?」


「ああ、えっと多分、大丈夫だと思います。トヨネは次の召喚するガーディアンで、誰か希望はある?」


「……そうですね。できることなら、“モモカさん”と“アイリスさん”もしくは“拳老父、もといケンプさん”辺りでいかがでしょう? 何事もこなす万能タイプの者達ですし、序盤は色々な場面で頼れるはずです」


「あー、そうだな。とりあえず、モモカとアイリスかな。ケンプも早めに呼びたいけど領地に戻ったら、“セシル”を呼ぶ必要がある。まぁそれは帰ってからにしよう」


「ではビスタリア様、あちらで報告をあらましから」


「そうね。お願いするわ」


 ……もう気にするのやーめよ。僕は村で貸してもらった、今日寝泊まりする家の中に入り、召喚する相手の名前と姿を思い浮かべ奇跡の腕輪を掲げる。


「我ここに盟約の証をかざさん。忠実なる者よ再び封じの鍵を解かん。我が前に姿を!」


 細かい人は気づいてるかもしれないけど、トヨネの時と少しばかり召喚の呪文が違う。トヨネの時は“忠実なる者よ我が前に姿を”で、呼び出せたのだが今回は呼ぶ相手が相手なだけに、呪文の違いがあったわけだ。前文は同じだが『再び封じの鍵を解かん』とある。これは『ドミネーション・チョイス』では知る人ぞ知る、“課金ガチャ”と言われるコンテンツ。所謂いわゆる、ブルジョア人達が述べる。


「今月は課金に10万円突っ込んじゃったぜ! ヒャッハー!」


 とか言うあれだ。分からないって? リアルマネーである、前世で言う、円で扱われている現実世界の現金を、ネット世界のお金に換金して投じて、運営が提示するゲーム内でしか手に入らない、性能の高いアイテムを入手する方法、これでわかるだろうか?


 今僕が唱えた呪文は、その課金で手に入る召喚者ガーディアンを呼び出すものだ。そして、目の前には二つに魔法陣と、その上には光る人形が現れている。光が収まり現れたのは、トヨネと同じメイド服に身を包んだ、ピンク髪のツインテールの小柄な水色の瞳の少女と、トヨネよりも少し年上に見える、長い金髪のオレンジに近い瞳の女性である。


「二人とも、久しぶりだけど“僕”がわかるかな?」


「もちろんです、ご主人様」


「わーん、会いたかったよ~。ご主人様」


 うやうやしく礼をとっているのがアイリス。ぶわっと抱きついてきたのはモモカだ。モモカは以前の僕だと妹みたいな背丈に感じていたが、今の僕からするとそれなりに大きい。二人ともトヨネと同じメイド服を着ているが、トヨネ同様の万能型AIで、それぞれの戦闘スタイルは異なるが、戦闘メイドと言っても良いのではないだろうか。戦うメイドさん、それを体現できるのが彼女達だ。


 ――ドスン。僕はモモカの勢いに耐えれずに抱きつかれたまま、少し硬めのベッドに押し倒されてしまった。


「も、モモカ苦しい……」


「わー、ご主人様背が縮んだ?」


「モモカ、失礼ですよ」


「だって~」


 兎に角、早速で悪いのだけど、二人に僕の事情を嚙み砕いて説明していく。『ドミネーション・チョイス』の終了。僕の死と転生の事。今はこうしてオルクス・ルオ・ヴァダムとして生きていること。そしてこれからの目標。二人は何も言わず真剣に聞いてくれる。


 僕が粗方話を終えると、二人がそれぞれ述べてくる。


「へー、そんなことがあったんだ。ご主人様、色々と手を回してくれてて、モモカ達が安全なように気を使ってくれてたから。でも、やっぱり主であるご主人様がいないと、とっても寂しかったの!」


「相変わらずですね。オルクス様が見た目以外、以前と変わっていないことは、大変嬉しい事でございます。それに、以前の世界以上に、こちらの世界でも仕え甲斐がありそうですね」


 僕の話を聞き終えた後の二人の第一声がこれである。ただ、呼び出した早々に説明をし、既にトヨネを呼んであることは伝えたので、後は彼女に手伝えることを聞いて動いてほしいと言っておく。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。二人に会えて僕も嬉しい。それと、先にトヨネが母上といるはずだから、早速会ってくるといいよ。紹介がてら手伝って色々話でもしておいてくれ。僕はここで少し横になっているよ。そのうち寝るつもりだ。部屋はそんなにないから、寝るのならトヨネと相談して決めておいて」


 僕はこうして召喚を成功させ、次の日に備えて寝る準備に入った。馬車の疲れか、魔力の消費が結構あったからか分からないが、村長の住まう民家のベッドに入り横になると、そのまま眠りについたらしい。気付いたのは次の日の早朝だった。何故か起きた時にモモカに抱きしめられていたのはよくわからない出来事だ。


「オルクス様のお肌はプニプニでございました。モモカは堪能たんのう致しました~」


「モモカ、なんて羨まし――。いえ、申し訳ありませんオルクス様、モモカが粗相を」


 気づくとそこにいたのはアイリスだった。


「いや、ぐっすり寝てたみたいだから問題ないよ。それより奴隷達の様子は?」


「それについては、昨夜オルクス様の連れてきた奴隷達は、休憩をそこそこにここまで来たようですね。しかも着いたのが夜だったようでしたので、荷馬車にあった食材と、トヨネさんから受け取った食料と、料理道具で食事を作り、連れてきていた奴隷全員分まかないましたので問題ありません。ビスタリア様の連れていた奴隷は、先に食事を済ませていたとのこと。現在は大半が荷馬車の中で牧草や毛布に包まって寝ているようです」


 ――そうだ。食事だ!


 食事の事すっかり抜けてたな。もしかして殆どトヨネに作らす羽目になりそうだったから、急いでこの二人を呼ばせたのか。それで急かされたのかな? 恐らくはそうなのだろう、いくら万能と言えども一人で出来る事には限度がある。


「後、複数の奴隷が兵士を通して、奴隷だけで話をさせてほしいと懇願こんがんしてきたのです。オルクス様は就寝されていたので、ビスタリア様にお伝えしたところ、トヨネさんが出入り阻害の結界を施した簡易な天幕を用意されまして、それを見たビスタリア様は、奴隷達にその中でなら良いと許可を出されました」



 アイリスの報告に僕は頭をかいて寝ぼけがちな頭を起こす。トヨネには感謝だな。それにしても懇願してまでの奴隷達の話し合いって何? ここまでろくな休みなしで移動したから、奴隷達を不安にさせたか?


「何の話してたんだろうね。で、その話し合った奴隷達の現在は?」


「こちらも朝になる前に、結界の天幕から荷馬車に移動して寝ているようです。昨夜の奴隷達の会話内容は、トヨネさんが見張りをしていたので把握していますが、大抵は“自分達はこの後どうなるのだろう?”という、考えても答えの出ない議題を延々行っていたようです」


「そっか。変な企て以外なら馬車の中でゆっくり聞くよ。そろそろ母上も準備ができる頃だろう。そういえば、母上とは上手く話せたかい?」


「もちろんです、色々とお話を伺いました」


 アイリスが僕の手を取る。不意に脳裏にアイリスの声が響くようになった。これは召喚した側と、召喚された者が秘密を共有するときに使うテレパシーみたいなもの。ゲームで言うところのチャットシステムにおいて1対1での会話『WIS《ウィス》』として使われる機能だ。英語で言うとwhisperささやくと言われるもので、周りに聞かれないで会話ができるんだ。ちなみに召喚した側と召喚された者は触れなくてもWIS、もとい念話ができるので、『言玉』と同じような遠距離通話的役割も担える。今回はえて手をとったことに特に意味はないだろう。


『しかし、最近のオルクス様に、少なからず戸惑ってもおいでのようです』


『戸惑ってる? やっぱり強引に自己設定を推し進めすぎたか。5歳児の突然な行動に違和感をもたれたかな?』


 だが、僕の言葉にアイリスが首を振る。


『いえ、違和感というより、奥様ご自身がオルクス様に負担をかけて、早々と無理に大人の対応に迫られていることに対して、かなり戸惑っていらっしゃいました。不甲斐ない自身の代わりに、率先して物事を進めようとするオルクス様に、我が子に無理を強いている母親であると、ビスタリア様は思われている様子でした』


『あー、そういう戸惑いか……、気にしなくていいのに。母上は苦労症かな』


『オルクス様を思っての事、私は胸打たれております』


『……うーん。やはり“セシル”に頼んで、父上を何とかして生き返らせるしかないかなぁ?』


『可能ならばその方がよろしいかと』



 ――トントントン。話の途中、僕が泊っている部屋に軽いノックする音が聞え、扉があるわけではない、外側からトヨネが声を掛けて来た。


「ビスタリア様の準備が整いました。全ての馬車の準備もできておりますので、オルクス様のご準備ができましたら、出発しましょうとのことですが」


「わかった。準備はすぐできるから母上には、そのまま馬車で待って頂いて。僕もすぐ向かうよ」


「かしこまりました」



 こうして泊っていた村の民家を出て、馬車の中で母上と合流する。母上はにこやかに笑顔を向けて問いかけてきた。


「おはよう、オルクス。昨夜はよく眠れましたか?」


「はい、母上。母上の方はいかがでしたか?」


「暫くトヨネさんや、モモカさんとアイリスさん達で話していたわ。その後、寝付いたけれど、その前に奴隷達から懇願されてしまって……」


「その話でしたら、アイリスから詳しく聞いていました。代わりに許可を出して頂いて助かりました。ありがとうございます。彼らは時がれば領民になりますので、無理のない範囲でしたら、ある程度の自由は許可を出してもかまわないと考えています」


「そう、それならよかったわ。さ、出発して頂戴。オルクスは昨日、夜の食事を摂らなかったから、お腹が空いているでしょう。トヨネさんにサンドイッチを作ってもらいましたから、馬車で食べてしまいなさい。舌を噛まない様にだけ注意するのよ?」


 アイリスが話していたような、僕への気づかわしさを感じさせず、いつも通りの母親の姿がそこにあった。


 こうして馬車は走り出し、ゆっくりとヴァダム家の領地へと向かっていく。そして、馬車の中飛び交うガールズトークに僕はついていけず。ゆっくりと流れる窓からの景色をなんとなく眺めながらトヨネの作ってくれたサンドイッチを頬張るのだった。


 

 ♦♦♦



 時間は暫くさかのぼる。オルクスが、アイリスとモモカの召喚を終え眠りについた頃。奴隷達は食事を摂り終えたのち、ざわざわひそひそと話し合っている。そして何を思ったか複数人が見張りの兵士に告げる、他にいる奴隷達と話がしたいと。普通ならそんな望み叶えられるわけはなく、兵士に鼻で笑って聞き流されるようなことだ。


 だが、見張りの兵士はオルクスが奴隷として買った者達は、いずれ領民として扱うのだと聞いていた為、奴隷達の望みに対応すべく、伺いをオルクスへ立てようとした。


 基本的に立場として母親であるビスタリア、次にオルクスの順に伺いを立てるのが普通なのだが、奴隷の事に関しては、殆どオルクスが管理することになっていた為の対応である。しかし、オルクスは就寝中だと返答され、ならばビスタリア様にと、伺いの順番が回ってきたのだ。


「トヨネさん、オルクスなら許可を出すと思うのだけど。天幕は兵士達の分しかないのよ。何か手はないかしら」


「では余っている布をつなぎ合わせて簡易の天幕を用意し、結界で囲いましょう。結界は出入り阻害にしておけば問題ないと思います」


「結界……? 魔道具や術師が必要よね? 兵士の中に結界がつかえる者はいないし、魔道具もないのだけれど」


「私が施してまいりますので、ビスタリア様にはオルクス様が召喚した者を紹介致しますので、良ければ暫くお話になってはいかがでしょう」


「そんなことが可能なのですか?」


 ――トントントン。扉がノックされ、モモカとアイリス、参りましたと声が届いた。


「入れてもよろしいでしょうか?」


「ええ」


 扉が開かれ、モモカとアイリスの二人が入ってくる。


「ビスタリア様、挨拶が遅れまして申しわけございません。少し前にオルクス様より召喚されました一人、アイリスと申します」


「モモカです!」


「基本的には、トヨネさんと同じ役目を担うのが我等が使命、今後とも、よろしくお願いし致します」


 二人は揃って頭を下げ、それを見るビスタリアは微笑む。


「よろしくね、二人共。私はオルクスの母ビスタリアです。召喚されて間もないのに、奴隷達の食事の用意、ご苦労様でした。トヨネさんには今から、簡易の天幕に結界を施しに作業をしてもらうので、その間少しお話をしましょう。何から何まで任せるようで悪いけれど、準備をお願いするわ、トヨネさん」


「はい、ビスタリア様、行ってまいります。二人ともここはお任せます。モモカさんは、後でオルクス様のところで待機をお願いします。それでは失礼致します」


「わかりました」


「は~い」


 トヨネは事務的なことを述べ、お辞儀をして部屋を退出した。


「さて、オルクスからどの辺りまで話を聞いていますか?」


 それからしばらく、ビスタリアとモモカ、アイリスの三名でこれまでの出来事や雑談やらと、初対面を感じさせない、とても和やかな雰囲気で話が進んだ。






 一方奴隷達の方はと言うと。


「なぁ……」


「言いたいことはわかってる。これは予想外だ」


「言ってみるものだな」


 奴隷達、主に獣人族や妖精族の面々だ。トヨネが用意した簡易の天幕に入らされ、結界を張られるとどよめきが起こった。本来、トヨネが張った規模の結界などと言うものを、個人で扱える者などこの世界には殆どいないという認識なのだ。しかも、奴隷達の集まりは30人近いものとなっており、天幕も範囲を現すために杭と棒が数本立ててあり、幕に使われている布の部分は結界の上空を浮いているのだ。簡易な天幕と言うより、むしろ結界で作られた大掛かりな天幕である。


 それでも、自分達に害がないと分った者達から順に、落ち着きが取り戻され、奴隷達はいくつかのグループで、円で囲むように座り話し始める。



「お前達も買われてたのか。通りでいないと思っておった」


「そっちこそ」


 初めのやり取りはそんな感じだ。そして互いの調子を確認しあったり、軽い雑談をしたりと話は流れていく。時間が経ち次第に話は、オルクスという幼子の話に移り変わる。



「お前、買われるときなんか言われたか?」


「いや、これで重要な人材が手に入ったとは口にしてるのを聞いたが」


「俺は人柱目当てではないと言われた。労働者として雇用する事になるだろうと」


 ――雇用?


「奴隷なのだから働かせるのは当たり前だろう? 何故そこで雇用という話になるのだ」


 ……?


「まさかな?」


「まさか奴隷にそれはないだろう」


「子供の話す言葉のあやじゃないのか? ただの労働者と、給金を必要とする雇用が同じこと思っているんじゃないか?」


 きっとそうだろう。幼子が興味本位で奴隷を買って、それを親が労働者として働かせる。この世界ではありがちなことだ。酷いのは奴隷を人間以下として扱う買主だろう。いや、飼い主と言って良い。そういう者達に買われたのではなければよいのだが。


 奴隷達の不安は尽きない。しかし、今みたいにこちらの要求を呑んでくれるというのは、奴隷としての待遇としては、あり得ないほど優遇されているように感じる。そして普通は食事など出ない方が多いが、この村への移動を先にした者は移動中も到着後も食事をとっているし、後に到着した者も移動中の休憩は小まめで短かったらしいが、ちゃんと食事が出たという。もちろん身体に欠損がある者も分けへだてなくだ。


 もしかして、この普通とは違う優遇の先に何かあるんじゃないか? 俺達を油断させてやっぱり人柱にする気じゃないだろうか。それとも、買主は奴隷にも優しい人物なのか。一体何を考えているのか? 俺達はどうなるんだ? 夜は更けるが奴隷達の疑問は行ったり来たりを繰り返す。不安はついて回りやはり尽きはしなかった。


「そこまで不安になることはないでしょう。答えは明日以降にでもわかるのですから」


 一瞬ざわめきが止まった。言葉を放ったのは結界を張った、その場にいたトヨネだ。奴隷達からは、その表情の無さから、クールで冷血のような感じで見られているのは、黙っていた方が身の為だろう。


「2日後、貴方達はヴァダム家の領地に行きそこで労働を行う。それ以上でもそれ以下でもありません。起きて食べて働き、食べて寝る、人間の行動原理でしょう。折角買った人材を無駄にする訳がないとオルクス様も言っておられたでしょう。役にも立たない時代錯誤の人柱にするつもりはないとも。お分かりになったら適当に切り上げて馬車に戻って寝てください」


 有無を言わせぬ物言いと態度に、奴隷達は顔を見合わせる。言い終えた当の本人は背を向けて立ち去っていくし、誰もが誰に何を言えばいいのかわからなくなってしまった。


 奴隷達は戸惑いを胸に秘めながらも適当な雑談をした後、夜も深まったと馬車に戻り眠りに就くのだった。


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