第一章 8 ライトノベルの定番といえば
「…………」
気がつけば、紘が乃子のことを黙って見ていた。トランクス一枚の姿で。
「何? あと早く着替えなさい」
「分かってるさ」
紘はクローゼットの前まで歩いていき、その戸を開けながら再び言った。
「お前のことは未だに好きになれないが、僕の話が分かる点においてだけは好きだ」
「……珍しいわね、あんたがそんなことを素直に言うなんて」
驚いた。これまでの印象的に、そういうことを言ってくれないタイプだと思っていたから。
ちょっと嬉しいではないか。顔にはもちろん出さないが。
『ラブコメ的な会話できましたね。やったじゃないですか』
まったく、先ほどの心配とは何だったのか。
『でも男のデレを見て読者は喜ぶんですかね?』
(まあ確かに、そう言われると微妙ね)
ライトノベルの読者は、多くが若年層の男子である。その男子読者に、この紘のデレシーンを見せたとして、果たして喜ぶのだろうか。
(あと二・三人女の子出した方がいいかもね)
『私的に、一人は幼女がいいです! お願いします!』
(はいはい)
冥狐とそんなやり取りをしていると、紘の着替えが終わっていた。普通のブレザータイプの制服で、色はオーソドックスな黒だ。
パタンとクローゼットの戸を閉じ、紘が言う。
「住所不定無職のお前は、これからどうするのだ? ママのお手伝いでもするのか?」
「ふふ、ライトノベル好きのあんたなら分かるでしょう?」
『はは、ライトノベル好きのあなたなら分かるだろう?』
乃子と冥狐は、示し合わせたかのように同じことを言った。もちろん、彼に冥狐の声は聞こえるはずもない。だが、二人は愉快そうな声で同じことを言う。
「……そんなまさか」
「ライトノベルの定番イベント、転校生よ」
『ライトノベルの定番イベント、転校生ですよ』
すでに、次の展開は二人の中で決まっていた。
世界はさらに、そのおかしさを増していく―――。
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