第一章 5 事故からの仕返しエロ
「急いで乃子ちゃんのご飯も用意するから、座って待っててね」
継夜は言うが早いかキッチンへと向かう。
乃子はテーブルに視線を向けた。テーブルには図ったかのように椅子が四つ付随しており、そのうちの一つの席には朝食が用意されていない。この家族はデフォルト設定では三人家族であるので、この席はいつもは使われていない所なのだろう。座るとしたらここか。
この場はおとなしくそうしておこう。乃子は目のつけた席にストンと腰を下ろした――。
――のだが。
椅子がバァン! という風船が割れるような音を発し、木っ端微塵に弾け飛んだ。
「うわぁあああああ!」
突然の出来事に乃子は思わず悲鳴を上げてしまう。そしてそのままドサッと床に尻もちをついた。気を抜いて完全に椅子に腰を下ろしていたため、椅子が消えたらお尻が重力に引かれるのを止める術はなかった。
『これはバチが当たったんですかね』
「あっはは! やっぱり悪人にはバチが当たるんだ! あっはは!」
冥狐と紘が口々に言う。
くっそ、あたしに対してもイレギュラーは起きるのか。油断してた。
乃子はお尻をさすりながら立ち上がる。まったく、あたしのプリティーなお尻にアザができたらどうするのだ。そのアザのせいで男に嫌われて結婚できなかったら責任取ってもらうわよ。あと慰謝料も。
「ああ、いい気味だ。これなら朝食も、いつもより美味しく感じられることだろう!」
紘が歌うように言いながらテーブルへと近づく。父親である灯夜の隣の席に行くと、慣れた手つきで椅子を引きそこへ腰かけた。どうやら紘の定位置はそこらしい。
『どうするんですか乃子? 立ち食いっすか?』
これでも女の子なので立ち食いはあまりしたくない。というか、食卓でメインヒロインが一人だけ立ち食いとかシュール過ぎるだろう。イジメにしか見えない。そんな光景ライトノベルで見たことあるだろうか。
さて、どうするか。…………そうだ。
乃子が閃くのと同時に、灯夜が提案するように口を開いた。
「私が四つん這いになって、椅子の代わりになろうか?」
「いえ、お父様。あたしに考えがありますので、お気持ちだけいただいておきますわ」
「おいおい、空気椅子は椅子じゃないぞ?」
紘が煽るようにそう言う。一応、主人公とメインヒロインという関係なのに、とてつもなくひどい会話である。読者がニヤニヤするような、ラブコメ的会話は果たしてこの物語の中で一度でも出るのだろうか。
「平らで椅子の代わりになるものがあるのよ」
「ああ確かに、君の胸は椅子の代わりになりそうだね」
「あらおしい。半分くらい正解なんだけど(冥狐、紘の胴体を椅子みたいに空中に設置できるかしら?)」『できるよー』
冥狐が反応した次の瞬間には、紘の胴体が白い光に包まれていた。
「な、何だこれは!?」
慌てる紘だったが、さらに次の瞬間にはその光は忽然と消えていた。しかし、消えたのは光だけではなかった。
紘の胴体及びその位置にある衣服もまた、光と共に消えていたのである。
「ぼ、僕の体が! 持っていかれたあああああぁぁぁぁぁ―――――っ!?」
彼の上半身はどこに行ったのか? 答えはもちろんあたしの後ろだ。
紘の胴体は、乃子の背後に出現している。座りやすいように横倒ししてあり、お腹の方が上になるようになっている。言うなれば仰向けになった胴体に乗るような感じだ。
高さも生前の椅子と同じになるようにしてある。背もたれがないのは残念だが、十分に椅子としての役割は果たしてくれるだろう。
「喚かないで。味噌汁を溶岩に変えるわよ」
言いながら、乃子はやや勢いをつけてその人体椅子に腰を下ろした。
「うっ! このぉ、もっと優しく腰を下ろせ……」
「あらごめんなさい。できる限り配慮したつもりだったのだけど」
「嘘つくな! 思いっ切り勢いつけてただろうが!」
とりあえず、ぐりぐりと擦りつけるようにお尻を動かしてみる。
「動かないでくれ。もしかして欲求不満なのか? 男のアレが恋しいのか?」
「あんたこそ勃起しそうなんでしょ? こんな可愛い子のお尻が体に触れて」
『これライトノベルですよね? エロゲーじゃないですよね?』
さすがに会話でふざけ過ぎた。この程度にしておこう。男の上で腰を振るのは、エロゲーのメインヒロインになった時にしよう。
「おまたせー乃子ちゃん」
そうこうしているうちに、継夜がご飯と味噌汁と箸を持ってやって来た。
「ごめんね、すぐに用意できるのがこれしかなくて」
テーブルの上にご飯と味噌汁が置かれる。一瞬イレギュラーが起きるのではないかと焦りもしたが、無事なようで安心した。
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