第一章 4 ママとパパ

「実は私、テレポーターでもあるの。そんなことより! あんた、ロケット弾なんてものを投げ返すことができたのに、何で驚いたリアクションの一つもしないわけ? 気づいてないとは言わせないわよ」

「なんだそのことか。僕の秘められた力が解放されでもしたんだろ。驚くようなことではないと思うけどね」

「……あんたも随分イカれてるのね、頭」

『二人ともお似合いじゃないですか! イカれ者同士、結婚しましょう!』

 うるさいわよ冥狐。

 その時、主人公宅の奥から快活そうな女性の声が聞こえてきた。

「紘どうしたの? 朝ご飯よー?」

 数秒もしないうちに、その女性が玄関口に現れる。

「ああママ、もうすぐ行くよ」

 未だに両足の裏が地球から離れない紘は、首だけを後ろに向けて背後に現れた女性――自身の母親にそう告げる。

「そう? ……あら、その子は?」

 紘の母親がこちらに顔を向ける。乃子は母親と目が合った。

「初めましてお母様。あたしは前世より未来永劫の愛を紘様と誓い合った、広院乃子と申します。此度は再び紘様とあいまみえるため、この場に馳せ参じた次第であります」

 乃子は口調と表情をコロリと変え、平然と母親に向かってそう言う。

 どうかしら? これがいろんなキャラクターを演じてきた、キャラ役者の実力よ!

「そ、そうなの!? 紘にそんな子がいたなんて、母さん嬉しいわ!」

「騙されないでママ! 僕にそんな人物はいないよ! こいつは住所不定無職の、頭のイカれた重火器臭い女なだけだから!」

「よろしければ、紘様と一つ屋根の下で暮らさせていただきたいのですが……。ダメでしょうか? もちろん家事やその他お手伝いは何でもしますので」

『かぁー! そうきますか乃子さん』

 さっさと主人公宅にお邪魔しないと、「いつまでグダグダやってんだ! 早く物語回せや!」と言われそうだからね。さすがに玄関での会話に時間を掛け過ぎてる感あるし。

 乃子がやんわりと居候させてくださいと言うと、母親の目がキラキラとしたもの変化した。

「全然構わないわよ! あなたみたいな可愛い子と一緒に暮らせるなんて、母さん嬉しいわぁ! もうここで全裸になって叫びたいくらいっ!」

「ママ何言ってるの!? こんなの僕のママじゃないよ!?」

「母さん実はね、子供には男の子じゃなくて女の子が欲しかったのよ。可愛い娘ときゃっきゃうふふな生活がしたかったの」

「そんな衝撃的なこと聞きたくなかった!! 何息子の前で堂々とそんなこと言ってるの!?」

「紘はもちろん大好きなんだけど、やっぱり女の子が良かったってのも事実なのよね。本当はこれを、私が死ぬ直前に言うつもりだったんだけど、随分予定が早まってしまったわ」

「大好きなのは嬉しいけど、もうなんかいろいろと複雑だよ!!」

 十六年目にして、母親から衝撃の発言を聞くことになってしまった主人公・種神絋。

 何だこの家族、面白すぎませんかね? エキストラなのに。

『くっそ、こんなん笑いますわ! ひぃー、腹痛い!』

 隣では、冥狐が腹を抱えて爆笑していた。あたしも指差して笑いたかったが、母親に対して作ったキャラのせいでそれはできなかった。

「お話はこれくらいにして、朝ご飯にしましょ♪」

 ルンルン声で言いながら、母親は乃子に近づいていく。

「乃子ちゃんも♪ もう家族なんだから、ね? 私のことも継夜(ままよ)って呼んで♪ 名前でー♪」

 母親――継夜は乃子の左腕に自身の右腕を絡めた。まるで、逃がさないわよ、と言っているかのような感じである。そのままグイグイと乃子を引っ張り、家の中に入っていこうとする。

 乃子は継夜にくっ付きながら、とりあえず勝ち誇った目を紘に向けておいた。

「くそ……勝ったと思うなよ」

 紘の横を通り抜ける寸前に、彼は恨み言のように呟いた。

(足外しといてね冥狐)『りょーかいっす』

 返事の代わりに、ヒューマンホイホイを解除しておいてあげた。

 

 さて、普通のライトノベルなら優雅な朝食シーンとなるところだが。

 もちろんこの作品に優雅なんてものは存在しない。というか、あたしがそうさせない。

 種神家のダイニングへ行くと、そこではすでに一人の男性がテーブルで朝食を取っているところだった。

「乃子ちゃん紹介するわね。こちらが母さんの夫で紘の父さん、灯夜(とうや)よ」

 継夜がその朝食を取っていた男性――灯夜を紹介する。灯夜はこちらに顔を向けると目礼をした。会社への出勤前なのだろう、上質そうなスーツを着ている。

「父さん! 私たちに待望の娘ができたの!」

 継夜がそう言いながら乃子の後ろに回り、前に出すようにその背中を両手で押す。

「この子! 名前は乃子ちゃんっていうの! 可愛いでしょ~!?」

「そうだね、男として『突っ込み』たいくらいに可愛いね」

 えっ?

「そうよねそうよね! 私もそう思うわ!」

 はっ?

『この家族やっぱりおかしいよ。頭のネジが三つくらい足りないよ』

 狂気の沙汰ほど面白いとはよく言ったものだ。だが『突っ込まれる』のは勘弁願いたい。

 この物語は一般向けのライトノベルになる予定なので、十八禁展開はNGなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る