かわいくはないダメな子と

「終わりました!」

「それでは、結果を発表する」


 今日は、綾瀬に対するB番適性検査を行っている。綾瀬の“機械音痴”は本当に機械音痴なのか、その他B番に必要な資質などを見るという目的がある。検査はオレと、公平を期すため春山さん立ち会いの元で行われる。

 綾瀬が情報センターに自称研修生として居着くようになって久しい。新年度を迎えると春山さんもいなくなるし、土田は恐らく戦力としてカウント出来んだろう。場合によっては綾瀬のスタッフ登用を視野に入れねばならん状況にあった。

 機械音痴の文系がセンターのスタッフになった前例はない。文系というだけなら春山さんもそうだが、この人はそれなりにマシンに強いし粗暴な学生からの脅しに負けない眼力がある。果たして綾瀬はどうか。


「春山さんとの厳正な話し合いの元でお前のB番適性を見たが、やはりお前にB番は時期尚早だと判断した」

「マシンさえ触らなきゃまだやれんだろうけど、マシントラブルに対処出来ねーとやっぱB番はキツいっつーのが私とリンの総意だな。ま、そう肩を落とすなカナコ。A番適性はあるんだから」

「っていうことは、正式にスタッフには昇格出来ないってことですよね~」


 春山さんが、チラリとオレに目で訴える。オレも同様に目で春山さんに訴える。綾瀬と二人にしてくれないかと。B番適性検査の後で、バイトリーダーとして綾瀬にしておくべき話があるというのは春山さんにも伝えていたことだ。

 春山さんが出て、自習室にはオレと綾瀬だけが残された。鍵もかかったし、自習室の開放時間は過ぎているから人が来ることはない。内密な話をするならこの場所、このタイミングがベストだろう。


「綾瀬。確かにお前はB番適性がないに等しい」

「ですよね、機械音痴のスタッフなんて」

「だが、春山さんの言うようにA番適性はある。受付用のマシンも、マニュアルを見ながらではあるが最近ではやらかしも少なくなっているのは認めざるを得ん」

「ありがとうございます」

「B番適性が皆無だと判断されてまだその気があるのなら、正式にA番専のスタッフとして認める」

「え、それって……研修生卒業、ですか…?」

「春の繁忙期を抜けたらB番研修を始める。オレの指導に付いて来れるなら来ればいい」

「はいっ! やります! これからもご指導お願いします!」

「事務所に戻るぞ。ついて来い」


 事務所に戻り、春山さんに頼んでいた物を受け取る。綾瀬の名前が書かれた磁石と、蛍光イエローのスタッフジャンパーだ。正式にスタッフとして受け入れるからには必要な物だろう。それらを受け取った綾瀬は感慨深げな表情を浮かべている。

 それと、例の物だ。春山さんに尋ねると、そこの茶封筒だと。ああ、これか。オレと春山さんで用意した例の物。もちろん所長にも話は通してある。


「綾瀬、これを」

「雇用契約に必要な書類ですか?」

「お前がこれまで研修生として実際にA番の仕事をしていた分の賃金だ。時給は研修生対応で900円計算だが」

「そんな! 私が勝手にやっていただけで迷惑もかけてるのに受け取れません!」

「確かに迷惑はかけられた。だが、ミスをせん、迷惑をかけん研修生などいるか。労働に対する対価だ。早く受け取れ」

「ありがとうございます!」

「これからはA番専とは言え正式なスタッフだ。甘ったれたことを言うようならすぐつまみ出すぞ」


 威勢のいい返事に、どこまでそのやる気が続くかと試してみたくもある。だが、B番研修が始まれば、出来の悪い綾瀬をオレは散々冷めた目で睨み、罵るだろう。そういえば、綾瀬香菜子という変態はそれすら燃料にする性癖をしていた。……しばらくは食らいついてきそうだな。今から先が思いやられる。


「リン、お前の負けだな。クソだせー、ウケる」

「元はと言えばアンタの所為だろう」

「さーて、私も私物を整理しねーとなあ! カナコ、お前のロッカー作るから片付け手伝え」

「はいっ!」

「いや、私物よりアンタは未だ蔓延るプレッツェルを何とかしろ」

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