無間地獄でぐうぐうぐう
公式学年+1年
++++
ダメだ、じっと座って人の話を聞いているタイプのワークショップは。この世の地獄と言っても過言じゃない。ただの授業とは違ってこれはゼミ合宿。そんなところで寝ようものならいくら機材を扱えてもこれからゼミで生きていける保証はない。
ゼミ合宿、正式には卒論発表合宿。長篠エリアのリゾート地にある緑ヶ丘大学のセミナーハウスで2泊3日の日程で行われる。このセミナーハウスというのがちょっとしたコテージとか洋館のようで、スキー場まで併設しているという結構な建物。夕飯はフランス料理のフルコース。朝はバイキングだ。
バーコーナーまであって個人的にはこのバーコーナーで飲んでいたい気持ちが山々だけど、これはあくまでも学術的な合宿。一歩脇の廊下を進めば異世界のような洋館風情は一転、ただの講義棟になるのだから。
「おい、高木起きろ」
「はっ、寝てた」
「さっきから頭揺れすぎじゃん?」
さっきから何度もこうやって鵠さんが肘で起こしてくれているけれど、眠い物はしょうがない。だって眠いんだもの。現在時刻は午後2時。あー、早く休憩時間にならないかなあ。でも、山奥じゃ物資の補給は出来ないし、フリスクは大事に食べないと。
合宿のタイムテーブルは、2日目の夜と3日目の朝に卒論の発表がある。1日目は各学年が用意した社会学的なワークショップだったり、先生が研究していることの話を聞いたりする。ちなみに今は先生が喋る時間だ。
研究発表とか、それに関する板書に関しては鵠さんに後から頼んで教えてもらうとして、問題は今この瞬間の睡魔だ。ただでさえ俺は先生に目をつけられてるっぽいし。もしかしたらもう手遅れかもしれないけど足掻きたい。
『今年度から行っていたFMにしうみでの検証では――』
『ゼミラジオのインターネット配信では――』
『佐藤ゼミは緑ヶ丘大学の域だけに留まらず、エリア、そしてブロックをもリードしていくサブカル・メディア実践ゼミとして――』
ぐう。ぐう。
「おい、高木。高木起きろって」
ゼットゼットゼット……。
「鵠さん避けて」
「えっ」
いてっ。
後頭部に、何かがバチンと当たった感覚。えっ、えっ? 何かピンポイントでぶつけられたようなそんな。すごく痛いってワケじゃないけどちょっと痛い。
何が起きたのかとキョロキョロしていると、その動作があまりに不審だったのかバチッと先生と目が合う。マズイ。これは非常にマズいパターンのヤツだ。
『コホン。高木君、千葉君が消しゴムを落としたみたいだから拾ってあげて』
「えっ。あっ、これか」
「ありがとタカちゃん」
「いえ」
『それじゃあちょうどキリがいいみたいだし10分休憩にしようか』
はー、やっと休憩だ。みんなそう言わんばかりに席を立ったり、伸びをしている。もちろん、俺もそんな中のひとりだ。炭酸の飲み物でも買ってこようかなあ。でも、ここの自販割高なんだよなあ。
「高木君、ちょっと酷すぎだよ君ぃ」
「あ、先生」
「まさか私の授業以外でもこんな様子なんじゃないだろうね」
「高木はこれがデフォだし」
「安曇野さん!」
「やっぱり」
やっぱりバレてた。教壇からはよく見えるって言うしなあ、寝てたらわかるもんなんだなあ。でも、よく考えれば公開生放送とかやってるときには周りの様子がよく見えるから、先生にもそんな風に周りがよく見えているのかもしれない。反省。
「君はねえ、これからこの学年を引っ張っていかなきゃいけない立場なんだから勉強ももうちょっと頑張ってくれなきゃ困るんだよ。実技の成績は非常に優秀だよ? だけど君は座学があまりにも弱すぎる。生活習慣から何とかしなさい。しばらく私の菜園で土いじりでもしながら体内時計を正常にしてみたらどうだい? 畑はいいよ~、冬には冬の実りがあって、今の時期ならほうれん草なんかが採れるんだよ、それで――」
あ、あ~……せっかくの休憩時間なのに。あ、あ~……逃げられない。にげるコマンドが完全に封じられてる。果林先輩も、鵠さんも安曇野さんもみんな逃げちゃった。あ、あ~……せめて、誰か飲み物買って来てくれたりしないかな~、な~んて。あ~……。
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