開けゴマを託す先
インターホンを押しても反応がない。両手に抱えた荷物を降ろして、これからどうすればいいのかと考える。これが普通のアパートやマンションであれば扉を直接叩いてもいい。だけど、ここはオートロック式のマンションで、エントランスの前なのだ。
「タカシ、留守なのかなー」
「いや、今日のアイツに予定がないことは事前に果林が裏を取ってる」
俺はと言えば、昨日アヤさんからもらったプレッツェルのケースの上に比較的軽めの荷物を載せて抱えているし、高ピーは重い物を持ってもらっている。それに、荷物の中には生ものもあるからいくらまだ寒いとは言え早く開けてほしい。
今日はMBCCの無制限飲みが開かれる。誰かの誕生日にそれを口実として時間無制限、酒量無制限の宅飲みをするというわかりやすいイベント。今日はタカシの誕生日だからと開催されるのだ。
ところがどうした。いくらインターホンを鳴らしても音沙汰がない。電話も無意味。ここの住人でも現れてくれればその後ろにくっついて入ることだって出来そうだけど、人だって通らない。
「大体電話しても反応がねえってどういうことだ」
「スマホ置いて出かけてるのかなあ」
「アイツがそれはちょっと考えられなくねえか。メモだって何だって全部スマホで済まそうとする奴だぞ」
「まあねー」
結論としてはただひとつ。早く連絡をよこすかここを開けろ。それだけだ。
「おはよーございまーす」
「あっ果林おはよー」
やっと人が現れたと思ったら、俺たちの身内だった。これまた大きな荷物を抱えた果林だ。今日の無制限飲みにも気合十分。一番長い時間飲み食いするのは果林だから、それだけの時間を戦い抜くための物資が必要なんだ。
「あれっ、先輩たちこんなところでどうしたんですか? 中入らないんですか?」
「入らないんじゃなくて入れねえんだ」
「留守なのか何なのかわからないけど音沙汰がないんだよ」
「あー、わかった。それで昨日タカちゃんあんな意味の分からないメール送ってきたんだ」
果林がスマホをスッスッとなぞって、ロックボタンの前に立つ。そして、画面を見ながらポチポチとボタンを押せば。なんと、扉が開いたのだ。これが開けゴマ的なアレなのか。俺と高ピーは思わず拍手をしていた。
「見てくださいよ先輩たちこのメール。「608【12589】」って。昨日見たときは意味がわからなかったですけど、ここに来てようやくわかりましたよねー」
「部屋番号とオートロックの解除番号ってことだったんだね」
「つかオートロックの解除番号教えて大丈夫なのか」
「エージとか頻繁に来る人には教えてるっぽいんで、いいんじゃないですか?」
さあ行きましょー、と果林が意気揚々と足を踏み入れる。俺と高ピーもそれについてエレベーターの前に。3人が入るのも結構ギリギリな箱に、さらに大量の荷物。ブザーが鳴らなくて良かった。
そしてタカシの部屋の前にたどり着けば、さらなる問題が発生する。部屋の前のインターホンを鳴らしても反応がないのだ。オートロックを破ってはみたものの、やっぱり留守なんじゃないかなって。
「どうする果林、待つ?」
「うちのドアみたくぶち破れそうにはねえな」
「大丈夫ですよ。タカちゃんはそんなにしっかりしてません」
そう言うやいなや、果林はドアノブをガチャッと捻る。何とここでもドアがすんなりと開いた。玄関を抜けて、さらに引き戸を開ければ床には毛布の塊が。
「タカちゃーん、来たよー!」
「ん……」
「先輩たちももう来てるから! 冷蔵庫開けるよ、いいよね」
「んー……」
「大丈夫だそうです! 生ものとか冷たい物とか入れちゃってください!」
「お、おう」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
きっと寝てるだろうから入るなら勝手に入ってもらって。そんなような密約がタカシと果林の間で交わされていたようだ。入るって、オートロックなのにどうやって。その辺は後で。そんなようなことが。
毛布の塊はいきなり動くことも出来ず、まだもぞもぞと動いている。傍らにはウイスキーの紙パックとグラス。てかブラックニッカの紙パックなんてあるんだ。片付け楽そう。
「いっちー先輩、タカちゃんどうします? このまま叩き起こします?」
「うーん、寝足りないなら寝ててもらっても大丈夫だよ。起きてびっくりしてもらおうか」
「ったく。ここまで暢気に寝てられる神経が理解出来ねえな」
「高ピー先輩がそれ言います?」
「高ピーが言っちゃダメなヤツだよ」
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