山は何合目

「おい、バカリン。どういうことだ」

「はいナギ、お餅焼けたよ」

「俺はトレーニングをしたいんだけど? まあ、食うけど」

「食べるんじゃん」


 1月2日の朝にやることと言えばこれ以外にはない。こたつにミカン、お餅をセットにテレビを入れる。今年はナギもムリヤリ引きずってきた。ケガから明けたばっかりなのにムチャするからね。

 テレビが映し出しているのは当然駅伝。緑大は地域が違うからこの駅伝には出ないけど、お正月の風物詩だし、陸上が好きなので普通に見ますよね。そのためにバイトのシフトだって調整してる。


「やっぱお正月と言ったら駅伝だよね。実業団もあるし」

「それはわかる」

「華があるしね。駅伝のために向島から出てった子たちも普通にいるじゃん」

「だな」

「アタシ短距離だから駅伝はあんまり縁がなかったけど」

「そういやそうだったな」


 ナギは中長距離だから、アタシよりは駅伝に縁があったと思う。地区の駅伝大会にも駆り出されてたし。前述の通り、アタシは短距離専だったから仮に“天才陸上少女”だったとしてもお断りしてましたよねー。

 まあ、言っちゃえばその辺の長距離走者よりはタイムが良かったけど、慣れないことをすると調整の仕方が変わったりして本業に支障が出ちゃうよねーって。


「あーっ! ちょっとナギ、ナギ! タクミ、タクミ!」

「おお、巧だ」


 見知った顔が映るとやっぱり興奮するし、応援したくなる。贔屓の大学は持っていないつもりだったけど、個人となると話は別。高校の同級生の顔が映るとこたつの中でも盛り上がる。


「えっ、タクミってトラック型だっけロード型だっけ」

「アイツはロードのスピードタイプだな」

「あーそうだっけ。じゃあ出て来るかー。3区ね。って言うか5区の山登りがしんどいよねいつも思うけど」

「俺は復路の山下りの方がしんどいと思う。膝にキそうだ。想像するだけで膝が痛む気がする」


 お餅をうにょりと伸ばしながら、号砲を待つ。ナギは膝をさすりながら無言でお皿をこっちに差し出して、アタシはその上にこんがりと焼き目のついたお餅を2つ乗っける。


「おい、バカリン。ところでお前に聞きたいことがあったんだけど」

「なに?」

「あの後輩とはどこまで行ってるんだ」

「あの後輩ってどの後輩?」

「ゼミだかサークルだかで、黒縁の眼鏡かけたのほほんとした奴だ。そろそろ付き合うのか」

「うっ、けほっけほっ! ちょっとバカナギ、殺す気!? ヤダよ正月にお餅詰まらせて女子大生が死んだとかニュースになるの!」


 トントンとナギがアタシの背中を叩くけど、元凶は誰だっていう話で! あー、久々に煽られた。何かもう懐かしさすら覚えるしそろそろ4年生追いコンのことを考えないといけないですね!

 って言うかナギってそういうことに興味あったんだって、中学の頃からの付き合いだけど初めて知ったわ。陸上以外にも興味関心は一応広がってるのね。ってそうじゃないそうじゃない。


「タカちゃんとは別にそういうんじゃないよ。仲のいい先輩後輩」

「いや、絶対それだけじゃないだろ。アイツ、俺がお前と喋ってんの複雑な顔して見てるし。ありゃ妬いてるぜ」

「タカちゃん人見知りだもん。アンタをどう扱っていいかわかってないだけだよ」

「そういうモンかね」

「ほらナギもうすぐスタートだよ! ほらお餅!」

「いや、俺はまだ2つ持って――」

「いいから食べなさい!」


 テレビの中ではいよいよ長いレースがスタートして、アタシはテレビとお餅にがっついて。ナギはにやにやしながら人の頬っぺたを突っついて来るし。


「つーか俺はお前と同じレベルでは食わないからな。大量に餅食った結果また膝壊したらどうすんだ」

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