色とりどりの世界を

「ミーちゃーんッ! 電話ーッ!」

「知ってる人だったら出といてーッ!」

「もーッ、留守電サービス申し込まないからーッ!」


 お仕事前で顔を作ってるミーちゃんは忙しそう。これまでに何度かミーちゃんの電話に出て取り次いだことがあるから気分はすっかりマネージャーさん。ミーちゃんのマネージャーさんとも電話で話したことがある。

 さて、この電話は誰からかな。知ってる人だったらって言うけどミーちゃんの知り合いで顔と名前が一致する人なんて……あっ、知ってる人だ。出ちゃえ。どうするのが正解なのかな。とりあえず、ミーちゃんが顔を作るまで引き延ばせばいいのかな。


「はいもしもしーッ!」

『水鈴か? あけましておめでとう』

「あっ違います奈々です、水鈴の妹の奈々ですッ! 雄平さんあけましておめでとうございますッ!」

『あ、奈々ちゃん。電話通すとやっぱ声似てるね。あけましておめでとう。今年もよろしく』


 よろしくお願いしますッ、と挨拶をして、雄平さんは律儀だなあと思う。ミーちゃんの妹っていうくらいの関係でしかないのにこんなに丁寧に挨拶してくれるとか。まあ、雄平さん優しいもんね。ミーちゃんが好き好きーッてなるのもしょうがないか。


「えっと、ミーちゃんですよねッ! これからお仕事が入ってて顔作ってる最中なんですッ」

『あー、正月から仕事なのか。まあ、水鈴の場合は仕事がある方がいいのか。あ、でも顔作ってるとかっていうのはあんまり言ってやらない方がいいと思う』

「参考になりますッ!」


 雄平さん、女心的な物までわかってるとかッ! でも確かに、化粧してるから電話出れないって正直に言われちゃうとうちがミーちゃんでもちょっとイヤかも。覚えとこう。


「繋ぎますか?」

『大した用じゃないから別にいいんだ』

「要件だけでも言付かれますけど」

『えっと、実家に年賀状届いてたんだけど、何で2通あったのかっていうのを聞きたかっただけだから。ご丁寧にお年玉くじの下4桁が2017だし』

「それって、ロケで作ったテレビ用のお年賀と、ガチなお年賀じゃないですか?」

『そういや番組のロゴ入ってんな。そういうことか。で、こっちはピー子ちゃん』

「今年の岡島家はみんなピー子ちゃんのお年賀ですよッ!」


 今年は酉年だから、鳥に絡む年賀状は総じてセーフだと家族会議で決定。年賀状に載せる用のピー子ちゃんの撮影会なんかも開かれて大賑わいだった岡島家。その中でも特に可愛く撮れたピー子ちゃんを年賀状に採用しましたッ!

 ――とかいう経緯をお話しても、雄平さんは2年生の極悪鬼畜三人衆とは大違いでちゃんと聞いてくれて本当に優しいですよッ! ミーちゃんも同じ話してそうなのに何て親切でハートフル! ゲンゴローにいい先輩持ったねって言いたい!


「ナーナー、楽しそうだけど電話誰からー?」

「あっミーちゃんッ! 雄平さんからッ!」

「えっ!? ちょっと何でもっと早く言ってくれないのーッ! もーッ! あっもしもし雄平、あけおめーッ」

『水鈴、お前声色変えすぎ。あけおめ』

「電話、何だった? もしや実家でさみし」

『それはねーけど、お前どうして年賀状実家に送ってきた。つか住所アバウトすぎだろ』

「だって雄平教えてくんなかったじゃんッ! でもエリアと市だけ書いとけば郵便局の人の力で届くかなーッて」

『ガチで届いてんじゃねーか……』


 って言うかミーちゃん雄平さんの実家の住所知らないのに年賀状送ってたんだ……でも大体のエリアと市でちゃんと届くって郵便局の人凄すぎるねッ!


『で、これから仕事なんだろ。イベントか、テレビか』

「テレビ。生放送」

『そうか。こっちじゃ見れねーけど、頑張れ』

「録画しとこっか」

『そこまでしなくていい。つかいい加減に遅れるぞ』

「あーッ! ホントだじゃあね雄平! またこっちでね! あっあとお土産に文鳥まんじゅ、……切られた」

「文鳥まんじゅうは興味あるけど、強請っちゃダメだと思うよミーちゃん」


 現実に帰ってきたミーちゃんは、またバタバタと走り回る。雄平さんの声を聞けたからか、見るからに上機嫌。いつもこうならいいのになあ。雄平さん、うちに遊びに来たらいいんだよッ! 姉に虐げられて可愛そうな妹に救いの時間をッ!

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