アシメシゴシマ

「クーッ、レモン酎ハイおいしー!」


 タン、とジョッキを置いて、五島の後輩だっていうその女子は気持ちよさそうにしている。オレンジ系の茶髪でぱっつんの前髪が特徴的だ。あと、五島よか背が高い。五島は男としては小さい方だからしゃーないとも言えるけど、俺が言うと殴られるので黙っておこう。


「サチぃ、お前ねえ、自分ドライバーじゃないからってホントやりたい放題だな」

「ごっちゃん先輩が飲みたいなら今度付き合いますよ~」

「へー、付き合ってくれんの」

「かわいいサチがお酌しますよ~」

「言っとくけど、俺は飲むときホントに飲むからね。先に潰れても知らんよ」

「えっごっちゃん先輩そんな飲むんですか!」


 どうやら五島はこのサチと呼ばれた後輩と一緒に飯を食いに来たらしい。この子の目当てはネギ増しのサービス。曰く伊東サンのいるGREENsということで、絶対そこから漏れたヤツだと確信。

 ちなみに伊東サンはゼミの先輩で、伊東サンとも俺がこの店でバイトをしているというところで仲良くなった感がある。弟であるカズ先輩も薬味好きだとは思ってたけど、姉ちゃんはそんな可愛いモンじゃねえなと思いました、まる。


「はい、醤油ラーメンネギ増し増しと、ベジポタ、あと唐揚げお待ちです」

「ごっちゃん先輩の友達の後輩のよしみでネギ増し増し増しくらいになりませんか!」

「L、増し増し増しにはなんなくても増し増しテンゴくらいにはなんないかね」

「増し増しテンゴって」

「増し増し増しまで行かないけど増し増しよりちょっと多いくらいな。つまり2.5倍的な」

「ちょっとだけな」

「やったー!」


 醤油ラーメンの器にもう少しネギを振りかけ、いただきまーすと手を合わせるお2人さんを眺める。って言うかピークを過ぎるレベルで夜も遅いのに、わざわざラーメン食うためにエリア越えしてんのかよこの2人。つか五島もよくやるな。


「ごっちゃん先輩、サチは梅酒も飲みたいです」

「ダーメ。お前この調子だとやらかすから。お茶か水にしなさい」

「え~!? ケーチケーチ、ブーブー」

「つかね、お前まだ全然酒の飲み方わかってねーな」

「ごっちゃん先輩はわかってるって言うんですか~!」

「お前よかわかってんよ」


 確かに五島はドライバーの印象が強くてMBCCの飲みでも飲まない日があるけど、飲むときはホントに飲むんだよな。やいやいと、酒の場の空気を楽しみながら気付いたらめっちゃ飲んでたみたいな感じ。酒量だけなら2年で1番だ。

 つかカズ先輩以外のMBCCの人が悪酔いしてるのも見たことがない。高崎先輩とか高木みたいな特殊例ならともかく、五島は自分があそこまでではないとわかっているので無茶はしないし、ちゃんと間にソフトドリンクも挟んでいる。

 なっち先輩は以前急性アル中をやらかしたことがあるとも言っていたし、外では事故もいろいろあるんだろう。MBCCでそういう話がないっていうのはここに集まる奴の耐性もさることながら、飲み方をわかってる連中の集まりだから事故が少ないんだとは思っている。


「わかってないっていうならごっちゃん先輩が教えてくださいよー」

「いいけど、そのときは俺が歩いて帰れる場所か泊まれる場所を確保してもらわねーと教えらんねーよ」

「車持ちも大変ですねえ」

「ホントに。サチにはアッシーにされるし」

「あっしー」

「俗語サイトとかで調べんさい」


 ごっちゃん先輩がやたら大人ぶるのでギョーザ奢ってください、などと訳の分からない詰め寄り方はインターフェイスの集まりとかで見た覚えがある。と言うか、このノリとかワケのわからなさは、酔っているのかそれとも地なのか?


「L、ギョーザ頼む」

「やった!」

「驕るんじゃねーの。俺のを分けるだけよ」

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