ご挨拶への下調べ

「ただいまー」

「おかえりなさい茉莉奈。待ってたんですよ」

「えっ、どしたの実苑」


 買い物から帰ると、どうやら私のことを待っていたらしい実苑が玄関先まで出迎えてくれる。手には煌々と光るスマートフォン。実苑とは親の再婚という都合で姉弟になったばかりでまだ1年も経っていない。それでもって、実苑は一人暮らしをしているから家で一緒になると少し変な感じがする。


「この近くに神社はありませんか?」

「神社?」

「祀っている神様や規模などは問いません」

「そう言われると逆に気にしちゃうなあ。えっと、小学校の近くにある――」

「あれはお寺ですね」

「あれっ、そうだっけ」

「それで、この近くに神社がないか調べていたのですが、なかなか」

「お寺じゃダメ?」

「ダメということはありませんよ。ですがやはり氏神様にお参りしておきたいですね」


 実苑は実家……いや、今はこの家が実家か。長篠にいた頃住んでいた家の真ん前に大きな神社があって、暇があれば神社に出かけていたという話は聞いた。その神社では蛇を神様として祀っていて今の趣味に影響しているとか。

 神社とかお寺とか、そういうスピリチュアルな場所に興味があるんだそうだ。それ以外にも、オカルトとか超常現象も好きだから、系統としては何となくわからないでもないかなあと。

 で、この家の近くの神社ね。実苑の前の家の真ん前にあるっていう神社をインターネットで調べてみたら、すっごい大きい神社でこの近くの神社とは比べ物にならなすぎて。


「とりあえず、歩いて10分くらいのところに神社があるのはわかったので、次は大きな神社ですね」

「えっ、そんなに行くの!?」

「え、行かないんですか? まあ、僕も実家にいた頃は一度で済ませていたのですが、興味ですね」


 そっか、こっちに来たばっかりだからいろいろ行ってみたいのかな。いやー、もしかすると家の真ん前に大きな神社があったから一度で済ませてたのかもしれない。実苑のこれまでの言動から考えると、ちゃんとご先祖様に参って近くの神社、大きい神社とかって段階を踏みそう。


「ネットで検索したらいろいろ出るよ、ほら」

「……縁結びばかりですね。辛うじて金運と健康のお寺が数えるくらいありますけど」

「恋巡り~みたいな感じで言った方が食いつく人が多いんだろうね」

「やっぱり、人は多いでしょうが大きな神社への初詣は無難に神宮ですかね」

「初詣に行くの?」

「はい。毎年やっていたことですから」


 今までは家の真ん前に神社があったから行く場所に悩むことはなかったけど、見知らぬ土地にやってきて初めてのお正月。初詣はしたいけど、どんな寺社があるのかの情報は乏しく、それを私に聞きたかったみたい。

 でも私はそこまで神頼みをする方でもないし、神社とお寺の違いもあまり気にしない(現にさっきも家の近くのお寺を神社だと思ってたくらいだし)。初詣も行った覚えがない。


「あの、よかったら一緒に初詣に行きませんか?」

「えっ」

「先に予定などがなければの話ですが。深夜に出歩くことにはなりますが、僕がいるので大丈夫でしょう」

「えーっと、初詣って数珠とかいるっけ」

「神社の場合はなくても大丈夫ですよ」

「お作法とかよくわかんないんだけど」

「僕が教えますからそんなに身構えずに」

「そう? じゃあよろしくね」

「はい」


 思いがけず飛び込んできた初詣の予定。思えば、深夜に出歩くなんて覚えがあまりない。飲み会や何かがあっても何だかんだ10時までには家に入ってたし。ちょっとした大冒険で、来年は何か変わるかな。

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