僕とあなたの世界の温度差
「聞いてよたまちゃん酷い話なんだよ」
「どうしたのアヤちゃん」
冬のコミフェジャンル一覧と書かれたインターネットのページを前に、アヤさんが悲痛な面持ち。俺は紅茶をアヤさんと慧梨夏に運びながら、聞いてもわからないだろうその話を何となく耳に入れる。
「前にさ、ちょっと覗かせてもらってるバンドの話したでしょ?」
「ああ、あの相関図の」
ああ、あのやたらひっどい相関図な。
「そのバンドのピアノさんとドラムさんが、実家に帰るベースさんに対するドッキリを仕掛けるために2人編成で路上ライブするんだけど」
「何それかわいい」
「でしょ!? かわいいの!」
ドッキリの何がかわいいんだ?
「それはいいんだけど、それが大晦日なんだって。日程キツいのー」
「でもさ、うちらコミフェ1日目と2日目じゃん。大晦日は戻って来ればいいんじゃないの? なんなら一緒に帰る?」
また随分なハードスケジュールをお前基準でアヤさんに要求すること。ちなみに慧梨夏も大晦日には予定が入っているとかいないとか。俺は浅浦ン家でパパさん手打ちの年越しそば食ってから初詣だ。いつもの過ごし方。
「私実家山羽なんだけど、実家の方で遊びのお誘いが入ってて」
「へー、アヤさん山羽の人なんだ」
「そうなんですよー。カズさんお紅茶いただきますね」
「あっどーぞどーぞ。クッキーもあるし、よかったら」
カズさんも相談に乗ってくださいよ、とアヤさんが俺にも座るように促す。お手製のクッキーをかじりつつ、大晦日の予定についてどうするべきかというお悩み相談。コミフェの話じゃないので真剣に話を聞く体勢に入ろうか。
「バンドのライブ自体はベースさんに対するドッキリのために生放送するんです。でも、ライブで見たいじゃないですか!」
「で、アヤさん的には地元の子との遊びの優先度って?」
「仲良かった子もいるんですけど、知らない人も来るみたいなんですよ。友達の友達つてみたいな感じでどんどん声がかかってるらしくて。高校のグラウンドで花火をやるっていう感じらしいんですけど」
「楽しそうだけどね」
「何か、文実の子が文実の先輩に声かけたら何かノリノリだったらしくて。こっちも適当に声かけとくわーみたいな感じで」
何かその文化祭実行委員の先輩っていう奴が拳悟みてーなノリしてんなーと年末のノリで思い出す。そういやまだ拳悟から何も連絡ねーな。いつもなら長い休みには遊ぼーって何かしらの連絡が来るのにな。
「気心知れてる友達だけならともかく、どこの馬の骨ともわからない人たちと適当な顔を取り繕いながら遊ぶくらいなら実家は通過して星港に行きたい気持ちもあって」
何か今のアヤさんからなっちさんみを感じる。ちょっと辛辣だからかな。
「でもさアヤちゃん、運命の先輩さんが来る可能性もゼロじゃないよね」
「そーなの! でも今のところ生徒会の人がいるとか文芸部の人がいるとかっていう話は聞かないもん」
「ああ、先輩さん、生徒会で文芸部だったんだ」
「あっ言っちゃった! もー!」
「アヤちゃん、このくらいじゃ特定できないからセーフ!」
「うん。セーフセーフ」
それから、アヤさんは例のバンドがドッキリの準備をしている様子を生き生きと語ってくれた。ピアノさんの曲がスゴいとか、曲に合わせて踊るのが楽しいとか。ドラムさんは路上仕様でカホンなんだよーとか。
なんて言うか、気持ちは決まってんだろうな。コミフェ帰りに実家は通過して星港に戻りたいのだと。友達からの誘いを断ることは必ずしも悪いことではないと言って欲しいのかもしれない。
「アヤちゃんはうちのために例のバンドのネタを収集すべきだと思うの」
「やっぱりそう思う!? うん、私たまちゃんのためにネタ集めしてくるね! たまちゃん言ったネタすぐ本にしてくれるから私もアンテナ張るのが楽しいよー! バンドネタ集めたらコミティカで出してね!」
「それはアヤちゃん次第です」
「えっ、えっ…? 結局、アヤさん実家に戻んないことにしたの?」
「はい! ご心配おかけしました! 星港でライブを見ることにします!」
「あ、うん、心が決まってよかったね」
結論。パンピーにどうこう出来る話じゃなかった。
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