近距離遠距離越えてく飛距離

 それじゃあかんぱーいと宴が始まって小一時間ほどが経っただろうか、インターフェイス4年生の忘年会はすっかりあったまっていた。4年にもなるとやれ就職はどうしたなどという話が主だってくるのはご愛敬。

 今日の幹事は毎度おなじみ向島のマーだ。と言うかこんな集まりをやろうなんていう発想を持つ奴はウチの学年じゃマーくらいしかいない。3年生にも洋平くらいしかそれを実行に移そうという奴はいないらしいけど。

 マーはこの辺じゃちょいちょい有名な印刷系の会社にスパッと就職を決め、あとは綺麗なお姉さんと出会うための冷やかし就活を続けていたそうだ。ただ、お麻里様が言うにはマーは就職より卒業の方が危ないらしい。


「マーさんまだ卒論0文字なんでしょ? せっかくいいトコに就職決めたのに卒業出来なきゃ意味ないじゃん」

「まーまー何とかなるだろって」

「みちゃこからもマーさんに何か言ってあげてよ」

「がんばれー」

「ぬるっ」


 うん、ぬるい応援だ。

 そもそも12月のこの時点で卒論が0文字というのもどうかしている。仮説立て、実験、検証を繰り返しながら詰めていくことはしないのか? お麻里様はちゃんとしてるみたいだから文系がみんなこうだとは思わないけど、マーは酷すぎる。


「マー、マジでダブったらどーすんだよお前。お前のことだからやってないって言いつつ実はやってるパターンでもないんだろ?」

「村井のことだ。持ち前の要領で何とかするのだろう」


 広瀬と咲良、緑ヶ丘勢もマーの心配をしているようだけど、咲良の言ったことが多分真理だ。マーは要領がいい。たとえ広瀬が言ったみたくフリじゃなくてガチで0文字だったとしても何とかなるのがマーなのだから。


「ほらみちゃこもっと応援してあげて!」

「がんばれー」

「がんばるよ~」

「その点こっしーはラクだよねえ。自分はもう卒論大体出来てるし、水鈴さんも卒論書かないそうだから?」


 その名前がここで出るか。あまりに突然過ぎたキラーパスに、俺は飲んでいたビールを思わず噴き出す。絵に描いたような噴き出し方をしてしまった。こんなの今までやったことねーぞ。


「あーこっしー汚い!」

「悪いみちゃこ。つか何でそこで水鈴が出てくるんだ」

「アタシのココにはこっしーと水鈴さんの逢瀬の一部始終が入ってるからね」

「変な表現すんな。どうせ水鈴にムリヤリ家に連れ込まれてピー子ちゃんを愛でさせられたのを奈々ちゃんから聞いたとかそんなようなことだろ」

「えー、それは初耳ー!」


 しまった、罠にハマった。麻里の怖い点は本当に別件の情報を持ってるのかでっち上げてるのかわからないところだろう。これ以上自爆しないように気をつけないと。あと、後で奈々ちゃんの口止めをしておこう。


「えっこっしーに彼女!?」

「そーなのみちゃこ聞いてー」

「違う! みちゃこ、麻里の言うことは信じるな」

「水鈴さんてあの人だろ、最近出てきてるタレントの岡島さん」

「さすが広瀬、知ってるねー」

「あれからFMむかいじまの企画で何回か呼ばれてんだけど、何回か会ってるし。インターフェイスの人間だっつったら「私の雄平がお世話になってますー」って挨拶もらったから、てっきり彼女かと思ってたけど」

「アイツ外で何やってやがるんだ!」


 どうして水鈴本人のいない場所でも水鈴に疲れさせられなきゃいけないんだ。お麻里様は水を得た魚のようにイキイキしてるし。


「ところでこっしー、進路は?」

「地元の企業で義肢の研究開発、の予定だ」

「えー! 水鈴さんおいて帰っちゃうのー!? こっしーひどっ! 遠距離だねー」

「まー水鈴さんだったらオフをコシに全振りくらい余裕だろ」

「マー、お前は水鈴の心配より自分の卒業を心配しろ。ほらみちゃこ、応援だ応援」

「こっしー遠距離は辛いだろうけどがんばってね!」

「俺の応援じゃねーし辛くない! むしろ清々する!」


 こうなったらヤケ酒だ。る~び~持ってこーいってなヤツだな、ピッチャーで。


「なあ麻里、ところでお前コシの何を握ってんの」

「とりあえず、こっしーは見た物をそのまま圭斗さんに喋った朝霞を恨むべきだと思うの」

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