さとちゃんと里芋料理
「――というワケで後輩が里芋をくれたんだけど、これ、どうしよう」
目の前には、たくさんの里芋。宏樹さんが言うには、里芋は食べてもいい物だそうだからありがたくもらったとのこと。ただ、量が多すぎてどうすればいいかわからないし、ジャガイモなんかと比べて調理が難しそうだなあと。
「里芋は冷凍保存が出来るので、今日使わない分は冷凍庫に入れちゃいましょう。皮を剥いておくと後から使うときにも便利ですし」
「皮を剥けばいいの」
大きめのボウルを挟んで、2人で芋の皮むきを。あたしは包丁で、宏樹さんは後輩さんが用意してくれたっていう100均の皮むきスポンジで。へえ、今って手袋の他にこんなのもあるんだ。
「里芋は食べていいって言っても、どうやって食べればいいかはわからないんだよね」
「コロッケなんかには出来ないですし。やっぱり普通に煮物ですかね」
「煮物かー。美味しいけど、そればっかりだと飽きそうだね」
「ご飯にも、汁物にも出来るので安心してくださいね」
「さすがさとちゃん」
少々たどたどしい手つきで里芋の皮を剥いていく宏樹さんがとても可愛い。年上の男の人に言うことでもないかもしれないけど、可愛いって言うのが一番しっくりくる。
一緒に皮を剥きながら、どんなメニューにしましょうかと話し合うのがとても楽しい。あっ、そうだ。下茹でする準備もしとかなきゃ。えっと、昆布ってどうしたっけ。
「あっ。いたっ」
「さとちゃん、大丈夫?」
「すみません、滑っちゃって。手洗ってきますね」
いろいろ考えすぎちゃった。里芋は滑るってこと忘れてた。久々に包丁で手を切っちゃったなあ。あんまり深い傷じゃなさそうでよかった。でも、血が止まらないと食品は扱えないよね。
「血が出てるの」
「あっ、でもこれくらいならしばらくしたら止まりますし、大丈夫ですよ」
「ちゃんと消毒した方がいいよ。さとちゃん家でも料理するんでしょ。続きは俺がやるし、指示してくれる」
「わかりました」
まずは、今ある芋の皮を全部剥いてしまうこと。剥けたよ、と次の指示を待つ宏樹さんに、お鍋にお湯を沸かしてくださいとお願いする。お鍋にいっぱいのお湯を沸かす間に、塩と昆布を準備する。
私はその間に切ってしまった手を消毒して、絆創膏を貼る。これで一応作業に戻れるけど、今日は宏樹さんがやると言って聞かないので見ていることに。
「塩が大さじ2。それと昆布を一緒に入れて5分ほど茹でてください」
「それだけでいいの」
「下茹でなので」
「へー。あのさあ、今日はこのままご飯作っちゃうし、見ててくれる」
「いいですよ」
下茹でした里芋は今から使う分だけとっておいて、残りは粗熱を取って冷凍庫へ。ジップロックって本当に便利。今日はこれから宏樹さんが夕飯を作るのを見ることに。こうやって宏樹さんが料理をするのを見るのは新鮮。
いつもだったら宏樹さんの夕飯や保存食を私が作って帰ってたんだと思う。だけど、今日は手を切っちゃったし、宏樹さんはやっぱり自分でやるって言って聞かないし。
「寒いし、汁物かな」
「ああ、それだったら――」
「自分でやるから」
「ちょっと寂しいですね」
「よそ様のお嬢さんに怪我させちゃったでしょ。これ以上何かあっても困るし」
「そんな大層なお嬢さんじゃないですよ。それに、もう大丈夫ですよ。何かが起こらないように気を付けますし」
「でも、今日は見てて。俺もやれるようになってるのを見せたいし」
そう言って台所に立つ姿に、可愛いと言うのは少し違ってたかなと思い始めた。いざと言うときは頼れそうな、そんな雰囲気。料理はまだ得意とは言えないみたいだけど、それでも心配せずに見ていられるし。
「ふう。下拵えはこんな感じかな」
「宏樹さん、ちょっと具が大きすぎませんか?」
「ダメ?」
「ダメです。体に負担がかからないように、もう半分くらいの大きさにしましょうか」
「はーい」
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