里芋ついでと恋蒙昧
「――というワケで里芋なんだけど、よかったら使ってくれるか」
「わー、朝霞ありがとー」
「朝霞クンありがとう。皮が剥いてあるとか」
朝霞がうちに里芋を持ってきてくれた。何でも、世界のシゲトラが持ってきてくれたんだけど、その量が多すぎて自分一人では到底食べきれないと思ったらしい。丁寧に皮が剥かれたそれを受け取って、俺とあずさはどうしようかなあと考える。
朝霞とシゲトラが皮を剥いて、アニがそれを下茹でしてくれたらしい。そのまま使うもよし、冷凍保存をするもよし、とのこと。俺とあずさも結構もらってるし、確かにこの量は朝霞が一人で食べるにはツラいなあ。
「伏見、お前だったら何かしら出来るだろ」
「まあね。何にしようかなあ。里芋ご飯とかもおいしいよね」
「あー、美味そうだな」
「俺はやっぱりベタに煮物かな。イカあったっけ。明日バイト帰りに買い物してこ」
朝霞は、里芋の皮剥きが壮絶だったと語ってくれた。ご丁寧に準備された皮剥き手袋をハメて、ひたすら皮を剥いていたらしい。剥いても剥いても終わりが見えないし、何度も投げ出したくなったと。
「ったくよ、勢いで動くのはいいんだけどその後をどうにかしろって話で。アイツ、前にもイカを持ってきたことがあんだけど、俺に投げるだけ投げるからな。イカなんかどーやって捌けっつーんだ」
「え、出来るよ」
「大石、お前イカ捌けるのか」
「うん、あんまりキレイには出来ないけど、食べるのに問題ないくらいには」
「あー、お前に頼めば良かったんだな」
結局、前にもらったイカはアニに捌き方をマスターしてもらっておいしくいただいたらしい。朝霞はバイトで甘エビの殻剥きをしたことがあったそうだけど、イカは未知だったとか。
イカの話をしてたらやっぱりイカと里芋の煮物が食べたくなってくる。明日のバイトが終わったらイカを買いに行こう。煮物作ったら食べるかどうか兄さんに聞いてみようかなあ。
「朝霞は里芋をどう調理するつもり?」
「田楽かな。味噌つけて。そんで酒と一緒に」
「あー、さすが朝霞。おつまみかー」
「うんうん、朝霞クンらしいなあ」
「待てよお前ら、人を酒飲みみたいに」
「酒飲みだよね? 結構飲んでるイメージだもん」
「飲み屋さんに通ってる時点で酒飲みじゃないかなあ」
「ちげーよ、飲まないで飯だけ食ってる日の方が多いぞ。自分で飯作んのめんどくせーし夜遅くまでやってるからありがてーんだよ」
朝霞の言い分はわからないでもない。一人暮らしだと面倒だという理由で食べないという人も少なくないとは聞くから、店に通ってでも食べた方がいいとは思う。特に朝霞の場合、食べないときは食べないし。
それでも里芋を田楽にしてお酒と一緒に、というのが最初に出てくる時点で「やっぱりな」と、俺だけならともかくあずさにもそう言われてしまう朝霞の日常だ。飲んでる印象がやっぱり強いよなあ。
「でも面倒なのはわかるなー。兄さんも明日はお店でパーティーやってるだろうし、俺は1人でご飯でしょ。イカの煮物作りたいけどバイト終わりで作る気になればいいなあ」
「ちー、あたし何か作ろうか?」
「えっいいの?」
「朝霞クンも明日食べに来る?」
「悪い、明日は予定あるんだ」
「そっかー。えっ、もしかして……彼女とデート、とか…?」
「そんなんじゃねーよ」
クリスマスイブに煮物というのもどうかと思うけど、食べたいんだからしょうがない。それに、俺にとってのクリスマスはそこに至るまでに増える出荷を捌くという商業的行事になっちゃってるから。
「ちなみに、どんな予定で?」
「向島からの大脱走だ」
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