里芋、重いとさ

「たのもー!」


 ピンポンピンポンとインターホンがやかましい。この鳴らし方は何か前にもあった気がするけど、またイカか何かか?


「どうした」

「あっ朝霞いた! じゃーん! 見てくれこれ!」

「……里芋、だな」

「やる! お前一人暮らしだし食うだろ! うちにも置いてきたんだけどそれでも余った!」


 前にも鳴尾浜はイカ釣りに行って大漁だったからそれを俺におすそ分けしてきたんだけど、今回は里芋か。どうせなら同時にくれればイカと里芋の煮物になったんだろうけど(俺が自分で出来るかは怪しいから山口に頼むことにはなっただろうが)。


「どうしたんだこれ」

「ハマ坊と出かけた先で芋洗い祭りみたいなのやっててー、飛び入り参加してもらってきたんだ」

「楽しそうで何より」

「でだ。洗っちまったから泥がついてる状態よりも保存期間短いらしいけど、冷凍すりゃ全然イケるし皮剥こうぜ朝霞!」

「今からやるのか?」

「いや? 新鮮なうちにやるだろ」

「でも、芋の皮むきなんて。里芋なんかヌルヌルしそうだし難しくないか」

「へーきへーき。皮むき手袋買って来てるから。さ、やろーぜ」


 確かに、今は年末だから袋いっぱいの里芋を消費するにも厳しいものがある。冷凍保存が出来るからとそのやり方を調べて手袋まで買ってくる用意周到さだ。イカの時に学習したのか。

 鳴尾浜が読み上げる手順通りに、まずは芋をしっかり洗って皮を剥くところから始める。皮を剥きながら、祭りの思い出などをあれが楽しくてこれが美味しくて、と鳴尾浜は語ってくれる。

 特に美味かったのは芋田楽だそうだ。確かにそれは絶対に美味いヤツだし、焼酎のお湯割りなんかと一緒にいただきたいと思う。他には、里芋ご飯に煮物、汁物も体があったまって、冷たい水にまみれた後には沁みたらしい。

 そもそも、芋洗い祭りという奇祭だ。里芋をいかに早くきれいに洗えるかを競う祭りで、パフォーマンスも大事だとか。飛び入りだった鳴尾浜たちはネタを仕込む時間がなかったそうだけど健闘したそうだ。


「わ、結構スムーズに剥けるモンだな」

「剥いたら昆布とかで下味をつけて茹でるみたいなこと書いてあんだけど、朝霞、出来るか」

「昆布か。お前、昆布は持ってきてんのか」

「……。洋平様に救援要請をしよう!」

「そうだな、ダメ元で聞いてみるか」


 俺も鳴尾浜もそこまで料理が得意な方ではない。ここは普段からバイトで料理をしている山口に聞いた方が無難だろうと素直に救援要請を出すことに。そのままでも冷凍保存は出来るけど、鳴尾浜は聞いてきたやり方を試したいんだと言って聞かない。


「もしもし、山口お前今日これから大丈夫か」

『大丈夫だよ。どうかした?』

「鳴尾浜が里芋を大量に持ってきやがって、その冷凍保存をするのになんか昆布で下味をつけて茹でるみたいなことらしくって」

『ああ、朝霞クンとシゲトラじゃ昆布の扱い方がよくわかんないみたいなこと?』

「そういうことだから、頼む」

『わかった、ちょっと待っててね』


 とりあえず、山口が来るまでに俺たちがやるべきことはひとつ。大量に転がる里芋の皮をひとつ残らず剥き切ることだ。


「ついでだし、洋平なんか作ってくんねーかな」

「田楽とか」

「いいねー。俺は里芋コロッケなんかももう1回食べたいな」

「ああ、それもいいな。ベタに煮物も。イカと煮るのが最高だろ」

「それな。朝霞、ここにビールを置いてあったりは」

「するけど、俺のだぞ」

「そこをなんとか」

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