大きな力で鍋に浮かべたら
「年末恒例GREENs赤白対決ー!」
「どんどんどんどんぱふー!」
「さっちゃん、元気があってよろしい。赤に10点」
「やったー!」
尚サンが言うには、別にこの赤白対決というのが恒例行事というワケではなく、慧梨夏サンが単純に紅白歌合戦とかけて年末恒例と言いたかっただけなんじゃないか、とのこと。
紅白対決というのは男女に分かれてくじ引きで指定された勝負をしながら点数を競う対決らしい。一応バスケサークルだけに、バスケに関係ある勝負もあればない勝負もある、とのこと。
慧梨夏サンによれば、これが今年のGREENsのクリスマスパーティーになるという。何かしら理由を付けてイベントごとにしたいという慧梨夏サンの性格なんだろうけど、これに乗じて楽しむ性質のサークルなのがいい風に働いてるんじゃん?
「勝者には敗者がお代を出す魯山人風すき焼きが待ってます!」
「魯山人風のすき焼き?」
「すンごいよ。言うならば「肉!」って感じ」
「慧梨夏、例のすき焼きは先日テレビで見たぞ。あれをやるなら俺は降りる」
「サトシうちに負けるのがよっぽどイヤなんだねー」
「そうは言ってない」
サトシさんと慧梨夏サンが火花を飛ばし始めた裏で、三浦がこそっと耳打ちをしてくる。ロサンジンって何、と。そう言われてみれば名前くらいは聞いたことがあるけど、ちゃんとは知らない。
「野球でピッチャーがふーってやる粉」
「それはロジン」
「おーおきなつーばーさでー」
「それはロビンソン。あと歌詞違う」
「飯炊きさん」
「おさんどん。つか全然かすってないじゃん?」
三浦のボケに付き合っていても得る物はないだろうし、ちょうどスマホを持っていた尚サンに魯山人をググってもらう。肩書きがありすぎてよくわからないけど要はマルチクリエイターとかアーティストというようなことなのだろう。
サトシさんが言ってたように、最近テレビで魯山人風のすき焼きについてやっていたからか、それで検索した人が多いようだった。ついでに魯山人風のすき焼きをググってもらうと、何て言うか、なあ。
「肉、と言うよりネギじゃん?」
「GREENs風のすき焼きには違いない」
検索して出てきた画像は、鍋の中に肉とネギが敷き詰められているすき焼きだった。外を牛肉で囲み、内は輪切りにしたネギを立てて煮る。ページの説明文によれば、この並べ方をすることでネギの芯に味がしみやすいそうだ。
「ネギメインだからサトシさん赤白対決やんないんすか! 三浦と遊びましょうよサトシさーん! ネギがイヤなら肉だけ食べればいいんですよ!」
「三浦、引っ付くな」
「赤白対決を降りるって言うなら三浦を倒してからにしてください!」
そして、例によってサトシさんにここまでぐいぐい行ける三浦の凄さに圧倒されるのだ。余計なことを考えないからここまで行けるんだろうけど、なんかもうこの件が鉄板と化しているから継続って大事だと思う。
「いいだろう、何で勝負する」
「慧梨夏サンくじ引きください! かわいい女子の三浦が引きますよサトシさん!」
「はあっ……好きにしろ」
「前髪ぱっつん対決とかだったら不戦勝っすよ! そーれっ!」
三浦が箱から出した紙には、まさかの文字が。
「ネギの丸かじり対決っす! サトシさんなんかネギ嫌いを克服した三浦の敵じゃないっすよ! サトシさんの屍を踏んづけて、追い剥ぎした上で肉とネギを食らうのだー!」
「羅生門かよ」
「くっ」
「サトシ、大人しく赤白対決参加した方がいいんじゃない? すき焼きはお肉あるんだし」
「三浦に構うとどうも調子が狂う」
「サトシさん、ここは女子に金を出させることを優先しましょう」
「尚サンの言う通りっす。ネギはともかく牛肉をこんだけ用意させられるとかたまったモンじゃねーじゃん?」
こうして、魯山人風すき焼きの代金をかけたGREENsの赤白対決は決戦の火蓋を切った。牛肉は高いんだ。財布は守りたい。人の金で食う肉という幸せをめがけてひたすらに戦うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます