春は遠く空は暗い

「あっノサカ、今日ノサカの日やよ」

「ん、何がだ?」


 唐突にヒロからこう言われ、はて何の日だったかと考えてみる。俺の誕生日は3月だし、本日今年度の活動最終日を迎えるサークルで何かがあるとかでもない。……ナ、ナンダッテー!? 今日でサークルが終わりだなんて菜月先輩は! 圭斗先輩は! うわあああ!


「ちょっ、今日は俺どころじゃない、先輩方のお姿をしっかりこの目に焼き付けておかなくては! 忘れないように今からメガネをかけておこう」

「何やっとんのノサカ」

「うるさい!」

「はー、これやからノサカは。サークルの前にまず授業あるんやけど?」

「普通にやってりゃ何の問題があるって言うんだ意味が分からない」

「はー、これやからオールSはインケンやわ。さすが今日はノサカの日だけある」

「さっきから何なんだ? どうして今日が俺の日なんだ」

「半年前はボクの日やったやろ?」


 半年前――カレンダーアプリを開いて遡れば、6月21日はヒロの誕生日だとかでムチャクチャな理屈をつけられて祝わされた記憶が蘇る。夏至の日に生まれたボクが太陽であって奉られる、崇められる存在であってもいいはずとかナントカ。意味が分からない。

 さて、今日は何の日だ。12月21日。前述の通り俺の誕生日は3月だし、サークルともどうやら関係なさそうだ。ふたご座流星群はもう終わってるし、どうしたって言うんだ。

 ただ、自分で答えを出さないとヒロは「ノサカオールSなんにそんなこともわからんの」などと上から目線でバカにしてくるだろう。それはそれで腹が立つし意味が分からない。あ、もしかして太陽にちなむのか。


「今日は……冬至か」

「あっノサカ何カンニングしとんの!」

「冬至と俺がどう関係するって言うんだ」

「冬至って日ー短いやろ? 暗い時間長いからネクラのノサカにぴったりやと思って」

「ほー、どうやらお前は留年したいようだな」


 人を小馬鹿にしやがって。根暗を否定はしないがヒロに言われると無性に腹が立つ。今度という今度はどんなに縋っても絶対に助けてなんかやるもんか。留年するならしてしまえ。


「ボクがいつまでもノサカに頼ると思ったら大間違いなんやよ」

「おお、ようやく自分でやる気になったか」

「ノサカがこそこそゼミの先輩と仲良くなっとる間に、ボクも先輩と仲良くなっとんのやよ」

「ほー、いつの間に」

「先輩やったら去年やっとることやもんね! テストもレポートもどんなんやったか知っとるはずやしノサカなんかより断然アテになるわ残念でしたー」


 結局ヒロが他力本願なのはともかく、ゼミの先輩とコミュニケーションをとっていたのは驚いた。いや、ヒロはインターフェイスでもいつの間にか俺も知らないような奴とも仲良くなってたりするからコミュ力は素直に凄いんだ。

 ヒロが先輩を味方につけたとすればそれは非常に厄介だ。何より先輩方にご迷惑をかけないかどうかというところが一番心配なんだけども、そもそもどうして俺がヒロの面倒を見る体で脅しをかけていたのか。意味が分からない。


「前原先輩やったらボクに向いとるテスト対策知っとると思うんやよ」

「あ、うん、そうだな」


 何も言うまい。前原先輩は磐田先輩からノートやプリントを集っているとか出席はお世辞にも多い方ではないとかレポートはウィキペディアのコピペ上等だったりするということなんかは。

 どちらかと言えば前原先輩はテスト対策より履修の仕方を参考にした方が良かっただろう。ヒロの基準で物事を考えようとするならば、の話だ。尤も、無事に進級出来ればの話だけど。


「まあ、前原先輩のお世話になるなら俺の助けは要らないな。よかったよかった」

「でもボク残しとる課題やるんはノサカが付き合わんとアカンのやよ」

「意味が分からない」

「なんでわからんのオールSなんに」

「オールSだから分からないんじゃないのか?」

「はー、ホンマイヤミやわー」

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