mobile secret base
少し見ない間に、菜月さんがスマートフォンを持つようになっていた。菜月さんと言えば相棒の携帯電話だ。スタミナ面で結構優秀。音楽をSDカードに入れて聞くことも出来てなかなか悪くない携帯なんだぞ、という話は聞いていた。
現状スマホにする必要はないからなあ、と菜月さんは頑なに機種変更をしようとしていなかったけど、どうだ。最新のスマートフォンを、まだ少したどたどしいながらに扱うその様は。うん、かわいらしいね。
「菜月さん、どうしたんだいスマートフォンだなんて。携帯電話は」
「携帯はこないだ水場に落として水没したんだ」
「それはご愁傷様でした」
「で、昼放収録でノサカが一緒だったし機種変に付き合ってもらって現在に至る」
「ああ、土曜日に機種変したんだね」
「そういうことだ」
偏屈理系男はさながら携帯ショップの店員のように想定されるスマホの使い方から適した料金プランを割り出し、ポイントプログラムなどを見直させ、機種端末に関してもこれはこうだから菜月さんには合いそうだ、などと相談に乗っていたらしい。
と言うかあの偏屈はさすがすぎないか。そういう場に偶然とは言え居合わせて菜月さんの役に立つだなんて。しかも得意分野じゃないか。運と風は野坂に向いているようだね。あとはそれをアイツが上手く見られるかだけど。
「最初は使いそうなアプリを入れるのに通信料を食うだろうけど、動画なんかをあまり見ないなら心配することはないって言ってたし。とりあえず今は慣れる段階だ」
「スマホは個人の趣味で入ってるアプリなんかが大きく変わるからね。菜月さんはどんなアプリを入れたんだい?」
「野球の一球速報とか。今はシーズンオフだから、本格稼働は春になってからだな」
「あ、はい」
ノサカにやり方を教えてもらってホーム画面で試合の状況がわかるようにしたんだ、とウキウキしながら語る菜月さんだ。僕でさえも愛らしいと思ってしまうんだから、この件に関しては完全に頼られている野坂からすれば殺人級の可愛さだろう。
他にも、彼女が応援しているチームの公式アプリを入れたり、買い物で使うアプリなんかを入れたらしい。ブルーライト軽減フィルターなんていうのもしっかりと。女子の体調管理用のアプリも入ってるね。
「あとは無音カメラに」
「また物騒な物を入れてくれるね」
「ソリティア。あとはゲームがいくつか入ってるかな。ノサカがすごい頻繁にハートをくれるんだ」
野坂がハートを、と聞くと、相手が菜月さんだけに別の意味に聞こえる。
「ところで菜月さんはラインなんかは入れないのかい?」
「あー、なんか、めんどくさくて」
「入れてもらえれば僕からも連絡がしやすいんだけどな」
「入れたい人だけ入れるやり方があればやるんだけど、めんどくさい」
菜月さんの性格上、わかってはいたけどラインやなんかのコミュニケーションツールは二の次のようだった。確かに、電話帳にあるだけで連絡をしないような人から急に馴れ馴れしく連絡が入るのは面倒だけど。
だけど、ラインのアカウントが必要なゲームもある。菜月さんが先ほど見せてくれた画面にはそのアイコンもあった。となると、アカウント自体は取ってあって、現状では野坂とだけ繋がっていると考えるのが自然だろう。
「僕のIDを教えようか」
「それをもらってどうしろって言うんだ」
「ん、アカウントは持ってるんだろう? 僕を追加するのは菜月さんの気が向いたらでいいよ」
すると、菜月さんは観念したのかそのようにスマートフォンを動かした。まだ使い方はわかってないんだ、入れろって言うならやり方を教えろと。僕は手取り足取り彼女にレクチャーをする。
「はい、これで僕とは繋がったよ。菜月さんがアカウントを持ち始めたってことは黙っておけばいいんだね」
「ああ」
2人の秘密の場所に割り入ってしまったことに関しては野坂に少し悪いと思いつつも、僕は僕で菜月さんと連絡が取りやすい方がいい。まあ、僕が既読無視をしない可能性がないとは言い切れないけど。
「ところで菜月さん、既読をつけないままメッセージをチェックできるアプリというのがあってだね」
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